AIzheimer病のAβワクチン療法
原  英夫
日内会誌 95:1122〜1128.20061
要 旨
 AIzheimer病の発症機序として,従来のアミロイドカスケード仮説に加え新たにシナプスAβ仮説が提唱されている.アルツハイマー病のAβワクチン療法は,免疫学的手法(抗体)を用いて自己蛋白である蓄積したアミロイドベータ蛋白を除去しようとする治療法であり,新しい治療法の1つとして注目されている.ワクチン療法は,能動免疫,受動免疫および粘膜免疫を用いたワクチンの3種類が報告されており,それぞれの方法と作用機序,欧米での臨床治験結果について解説し,今後のワクチン療法の展望を概説する
はじめに
 AIzheimer病の病理学的所見として,神経細胞の萎縮・脱落,アミロイドβ(amyloid−β,Aβ)蛋白の凝集・沈着による老人斑の形成,異常タウ蛋白からなる神経原線維変化(neurofibrillary tangles:NFT)の3つが大きな特徴である.アミロイドβ蛋白は,21番染色体上にあるアミロイド前駆蛋白(amyloid precursor protein:APP)から,βおよびYセクレターゼにより切断されてできた40〜42(43)個のアミノ酸からなる蛋白である.老人斑は,細胞外に蓄積された集合体で,アミロイドβ蛋白(Aβ40,42)を核として,その周囲を取り囲むようにミクログリア,線維型アストログリア,異栄養神経突起で構成されている.AIzheimer病の病態仮説として,現在ではアミロイドカスケード仮説が有力である.すなわち細胞外に分泌されたAβペプチドが不溶化し凝集・蓄積することが,AIzheimer病の病態の本質であるという仮説である。

 Selkoe等のグループのWalshは,Aβoligomerが海馬のlong term potentiation(LTP)を抑制しているという報告をしている。最近では,21番染色体上のAPP遺伝子座が重複した家系が報告され.上記仮説を支持している.またシナプスAβ仮説が新しく提唱された3).シナプス(前)でAPPからAβ42が産生され,シナプス後膜のα−7nicotinic receptorに結合し,CalcineurinやSTEP46などの蛋白を介してNMDAreceptorのendocytosisを促進し,シナプスでのNMDAreceptor数が減少するため,グルタミン酸を介する神経伝達が障害されるという説も報告されている。
表l.AJzheimer病の治療法
T.アミロイドカスケード仮説に基づくAβ産生・凝集抑臥 Aβの除去
 1)アミロイド前駆蛋白からAβの産生阻害
    a.セクレターゼ阻害薬
    b.非ステロイド性消炎鎮痛薬
    C.スタチン,ACAT阻害薬
 2)Aβの分解:Aβ分解酵素(インスリン分解酵素,ネプリライシン)
 3)Aβワクチン療法(lmmunotherapeuticapproach)
   a.合成Aβペプチドをアジュバントと伴に筋肉注射(active immunization).
   b.抗Aβ抗体の投与(passiveimmunization)
    C.粘膜免疫を用いた治療法.
       経口ワクチン;AAV
       経鼻ワクチン:センタイウイルスベクター
 4)抗chapepone療法;apoEとAβの結合阻害しAβfibriIsの形成抑制
 5)ミクログリア非特異的活性化によるAβの貪食・除去の可能性
U.神経伝達物質の改善
 AChE阻害薬,NMDA受容体括抗薬
V.生活習慣の改善;
  ビタミン,魚油,カテキン,糖尿病,カロリー制限,環境改善.
表2.AIzheimer病の治療法と問題点
治療法作用問題点
1.非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)Aβ42産生抑制セクレターゼ調節作用投与時期,投与量の設定.消化管粘膜障害.
2.セクレターゼ阻害薬β,γセクレターゼ阻害作用 Notch,糖転移酵素等他の基質切断に影響
Notch切断阻害による副作用:Tリンパ球分化障害,消化管粘膜障害.
3.Aβ分解酵素(インスリン分解酵素ネプリライシン)Aβを分解insulin,enkephalinsなど内因性物質も分解.投与量(法)の設定.
4.Aβワクチン療法凝集Aβを分解,除去.老人斑の減少高次脳機能改善(マウス)アジュハントを用いると髄膜脳炎を起こす可能性.抗イデイオタイプ抗体出現.タウ蛋白(後期)やCAAは改善しない.
1.Alzheimer病の治療法(表1,2)
 アミロイドカスケード仮説を基盤としたAIzheimer病の治療法としては,非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs),セクレターゼ阻害薬(BACEinhibitor,Y−SeCretaSeinhibitor),Aβ分解酵素(インスリン分解酵素,ネプリライシン)等が考案されているが,それぞれに改良すべき点が残されている.NSAIDsとセクレターゼ阻害薬は,主としてセクレターゼのAPP切断によるAβ産生を抑制する.
NSAIDsは,Rho活性を阻害してAβ42産生を抑制しているという報告がある.全ての種類のNSAIDsがAβ42を低下させるのではない.aspirinは殆ど効果無く,indomethacin,Sulindac,flurbiprofenがAβ42を選択的に低下させる.セクレターゼ阻害薬の問題点は,Notch,CD44など他の基質の切断にも関与しており,γsecretase阻害薬によるNotch切断阻害によりTリンパ球分化障害や消化管粘膜障害が報告されている.Aβ分解酵素(インスリン分解酵素,ネプリライシン)は,Aβモノマー・オリゴマーを分解する.

2.AIzheimer病に対するAβワクチン療法
 本来ワクチンの意義は,生体にとって外来異物であるウイルスや細菌等に対し,有毒株の死菌または弱毒株を接種し,抗体産生を誘導する免疫学的予防を意味するが,AIzheimer病のAβワクチン療法は,アミロイドカスケード仮説を基盤とし,脳のアミロイドβ蛋白を免疫学的手法(主として抗体)により除去しようとする治療法であり,新しい治療ストラテジーの1つとしてAIzheimer病のみならず他の神経変性疾患へも応用されようとしており注目されている.

 AIzheimer病の免疫療法(Aβワクチン療法)には,Aβペプチドをアジュバントと供に免疫する能動免疫(active immunization)とAβに対する抗体を直接授与する受動免疫(passive immunization),および粘膜免疫の特性を用いた免疫療法の3つに大きく分けられる,

3.ワクチンの作用機序
 ワクチンによるAβ除去の機序として,現在3つの説がある.第一の説は,Aβペプチドを投与LAβに対する抗体を体内で産生させ,老人斑の中の凝集したAβに抗体が結合し,Fcレセプターを介してミクログリアが貪食することにより,老人斑が除去され,分泌されたAβにも抗体が結合してミクログリアが貪食し,Aβの神経細胞への毒性を抑え,痴呆の改善などの治療に結びつくと考えられている.第二の説は,Aβペプチドを投与LAβに対して産生された抗体は,AβのN末のアミノ酸を主として認識・結合し,凝集・不溶化したAβを可溶化し,アミロイド沈着を減少させるという説である.第三の説は,Aβに対する抗体は,血液脳関門を越えず,末梢血・末梢組織においてAβを減少させることにより,脳組織から髄液を経由してAβを末梢血中に引き出すというperipheralsink仮説である.

4.T細胞とワクチン
 B細胞での抗体の産生・誘導にはTh2型CD4T細胞の働きが必要である.T細胞レセプターが認識する部位(Tcell epitope)は,Aβペプチドの後半部位が主である.後述の欧米でのAN1792臨床試験で問題となった髄膜脳炎を惹起するT細胞は,Thl型CD4T細胞が主因である.Monsonego等は,一部の健常高齢者やAIzheimer病患者血中においてAβタンパクに反応するT細胞が増加していることを報告している.

Aβ反応性T細胞は,主としてAβペプチドの16〜33アミノ酸を認識しており(HLA−DR拘束性において),特に22,23番アミノ酸のAla置換によりT細胞の増殖が著明に減少するので,この部位がT細胞の反応に重要であると考えられている.さらにAPペプチドの28〜42番アミノ酸に反応するT細胞もあり,このT細胞は,Aβ1−40ペプチドに反応しないことから,AβペプチドのC末の41〜42アミノ酸がT細胞の認識に重要である、これらAβ反応性T細胞が分泌するサイトカインは,IL-5,IL−13(33%),IFN−γ(4.5%),IL−10(3%),IL−12(0.77%)と,ThO,Thl,Th2サイトカインが混在していた.

5.ワクチンの種類
1)能動免疫(activeimmunization)
 AIzheimer病に対するワクチン療法は,Elan社のSchenkらが,前凝集Aβ42をアジュバントと共にPDAPP−トランスジェニックマウスに筋肉内投与し,脳アミロイド沈着が減少したという報告が最初である.

PDAPPトランスジェニックマウスは,PDGFプロモーターに変異型アミロイド前駆タンパク(amyloid precursor protein,APP)を組み合わせたもので,アミロイドβ蛋白を大量に産生し,脳内に多くの老人斑を認めAIzheimer病の病理学的特徴を示し,AIzheimer病の動物モデルとして用いられている.Schenkらは,最初6週齢のPDAPPマウスに前凝集Aβ42100匹gを計11回免疫し,13カ月齢になったマウスの脳を解析した.マウス血清中の抗Aβ抗体価は,10,000倍以上に上昇した.前凝集Aβ42で免疫したマウスでは脳アミロイド沈着が消失し,変性軸索やアストログリオーシスも有意に減少していた.さらに11カ月齢のマウスに同様のプロトコールで免疫したところ,Aβ蓄積が15カ月齢では96%,18カ月齢では99%以上,コントロールに比べ減少した.

 Elan社およびWyeth社によるAIzheimer病患者への臨床治験(AN1792)が開始された.AN1792は,合成Aβ42ペプチドをアジュバント(QS21)とともに筋肉注射するもので,投与された患者の血清中にAβに対する抗体も確認された.この抗体は,主としてAβペプチドのN末の3〜10番アミノ酸を認識し結合している(B cell epitope).一方この血清抗体は,ニューロンやグリア細胞を染色せず,APPや細胞内Aβとは反応しなかった.

 2001年に始まったAN1792phaseIItrialで,6%(300名中18名)の患者に髄膜脳炎の副作用が起こり,2名の死亡例も報告され,治験は2002年1月に中止された.一方,プラセボ投与群では,一例も髄膜脳炎の発症は無かった.髄膜脳炎は,初回ワクチン投与後3カ月以内に起こっており,大部分の患者は数週間で改善を示したが,4名の患者では再発があった.髄膜脳炎を起こした患者例では,中等度の抗体価の増加があり,メチルプレドニゾロンによる治療後に脳炎の症状は改善したが,髄液中の抗体価は治療前と同程度であった.

1名の死亡例は,72歳の女性で,5年の経過の緩徐進行性の記憶障害があった.この女性は,2000年7月からAN1792(preaggregated Aβ42;50μg)を5回投与され,42週後の2001年5月に脳炎を発症している.治験は直ちに中断され脳炎の治療が行われたが,最初の治療より20カ月後の2002年2月に肺塞栓のため死亡した.この患者の脳組織を病理学的に詳細に検索したところ,新皮質では老人斑が消失し,それに伴うアストロサイトの増殖や変性軸索も消えていたが,神経原線推変化,neuropil thread,血管壁にAβが沈着したアミロイドアンギオパチーは残存していた.老人斑が消失している部位の中では,Aβ分解産物を会食したミクログリアの像も認められた.この所見は,Aβに結合した抗体をFcレセプターを介してミクログリアが食食していることを示している.大脳白質では,髄鞘線経の減少とマクロファージの浸潤している部位が認められ,この部位は,MRI画像上の高信号領域と一致していた.

脳炎の所見としては,髄膜,髄膜血管周囲および大脳皮質へのT細胞の浸潤が認められた.このT細胞は,CD3CD4+CD45ROT細胞であった.CD8+T細胞とB細胞の浸潤は認められなかった. 前述したごとく,患者血清中の抗Aβ抗体は,ニューロンやグリア細胞とは反応しなかったことより,抗体による脳の炎症が起きたとは考えにくい

Elan社によるAN1792ワクチンも後述する鼻粘膜に投与するワクチンも,アジュバントを必要とする.アジュバントは,強い免疫活性化作用があり,Tリンパ球などの組織障害性細胞性免疫も惹起する.このため,一部の患者ではAβまたはAPPに反応するTh1型CD4T細胞が脳に浸潤し,多発性硬化症の様なアレルギー性実験的脳脊髄炎様の髄膜脳炎を引き起こしたのではないかと推察される.

 果たしてこのAN1792ワクチンにより,AIzheimer病患者の高次脳機能が改善されたかどうかが問題となる.その答えとしてHockらは次のように報告している.彼らは,先述したAPPSWxPSIM146Lマウス(18カ月齢)の脳切片を患者血清で染色し,老人斑の染色の程度で血清中の抗体価を測定した(tissue amyloid plaque immuno reactivity assay,TAPIRassay).AN−1792投与された患者24名,プラセボ投与群6名の計30名中20名に抗Aβ抗体が陽性であった.AIzheimer病患者の高次脳機能は,mini mental state examination(MMSE),disability assessment for dementia(DAD),Visual paired associates test of delayed recall from the Wechsler memory scaleという3つの試験で評価した.MMSEについて経過を追って測定したところ,抗Aβ抗体陽性群では,1年後のMMSEで-1.4±3.5点の減少であったが,未治療のコントロール群では,-6.3±4.0点と著明に減少し痴呆が進行したと報告している.

 OrgogozoらAN1792(QS−21)−201 Study Teamは最終報告を行い,AN1792ワクチン投与300名中59名に抗体陽性であり,抗体陽性群では各種高次脳機能試験のうちneuropsychological test battery(NTB)でのみ改善の有意差があったとしている.AN1792ワクチンにより,血清中に抗Aβ抗体ができ,大脳皮質の老人斑も消失したことより,病理学的には老人斑を除去するというワクチンの効果は認められた.しかし能動免疫により抗Aβ抗体が誘導できた症例は20%であること,神経原線推変化やアミロイドアンギオパテーが残存したことは,この能動免疫療法の今後の課題となる.

 2)受動免疫(passiveimmunization)
 Bardらは,Aβに対するモノクローナル抗体をAIzheimer病動物モデルマウスの腹腔に週2回,6カ月間直接投与した(passive transfer).脳アミロイド斑は80%以上減少したと報告している.その機序としてミクログリア細胞のFc−receptor mediated phagocytosisによるアミロイド除去が考えられた.

 その後,多くの研究所・大学からAβに対するモノクローナル抗体を直接投与するpassive transferの有効性が報告されており,欧米では治験が行われている.

 passive transferに用いられるモノクローナル抗体のAβ認識部位は,じつに様々である.第一に老人斑では凝集AβのN末が突出しており,N末の3〜10番アミノ酸を認識し結合する抗体は老人斑を除去する効果が大きい.第二にAβの中間部位を認識する抗体は,老人斑には結合できないが,可溶性Aβの凝集・沈着を抑制する効果がある.F(ab’)2やsingle chain variable region fragment(scFv)はFcportionを持たないため,ミクログリアの貪食を介さずにperipheral sinkによりAβを除去していると考えられる.上記のいずれの抗体も可溶性Aβの除去には有効である.

さらにシナプス仮説に基づいたAβ01igomerに対する抗体を開発し,記憶に関与する海馬シナプスでのlongterm potentiationを改善する試みも行われている.

 受動免疫の利点は,能動免疫で抗体が誘導できなかった患者にも使用可能なことや各個人に合わせた投与量を設定できる事などが挙げられる.一方問題点として,投与したモノクローナル抗Aβ抗体に対する抗体(抗イデイオタイプ抗体)が,体内で容易に産生されることである.

そのため複数回の投与が困難となる可能性がある.ヒト型化抗体も開発されているが,関節リウマチ疾患においては,頻回の投与によりヒト型化抗体に対する抗体産生も報告され問題となっている.

 3)粘膜免疫を用いたAβワクチン療法の開発
 ヒトの免疫防御機構には,全身性免疫機構(脾臓・リンパ節中心)と腸管関連リンパ組織(gut associated lymphoid tissue;GALT)・鼻咽頭関連リンパ組織(nasopharyngeal associated lymphoid tissue;NALT)などに代表される粘膜関連リンパ組織から成る.粘膜免疫では,全身性免疫に比べて特徴的な機能を有している.腸管のPeyer板の上にある濾胞関連上皮には抗原を取り込むM細胞が存在する.多発性硬化症の治療として経口免疫寛容の導入実験が行われてきたが,腸管免疫では,Thl型T細胞が抑えられTh2型T細胞が優勢になることが報告されている.

 Weinerらは,Aβペプチドをアジュバントとともにスプレーにてマウスの鼻粘膜に投与し,抗体産生が誘導され,PDAPPmiceの脳内の老人斑が減少した事を報告している.この方法で授与されたマウスの脳には,単核球(リンパ球)が浸潤しており,TL4,IL−10,TGF−βを分泌していた.

 我々は,副作用の少ないワクチン療法として,アデノ随伴ウイルスベクターを用いたAIzheimer病に対する経口内服治療法の開発を行った.腸管粘膜免疫系は,Th2型T細胞が誘導されやすい点に着目した.アデノ随伴ウイルスベクターにAβcDNAを組み込み,このリコンビナントアデノ随伴ウイルスを経口投与し,腸管上皮細胞に感染させる.そしてAβ抗原を腸管細胞に発現させ,M細胞を介して腸管粘膜免疫系に抗原提示し,Aβに対する抗体産生を誘導するのが目的である.

AIzheimer病の動物モデル(Tg2576)マウスにウイルス粒子を1回のみ経口投与した12〜13カ月齢のAPP−トランスジェニックマウス脳組織を免疫染色で詳細に検索した結果,治療したマウス脳において明らかにアミロイド沈着・老人斑形成がコントロールに比べ減少していた.他の臓器に炎症反応が起こっていないか,各臓器の組織を検索したが,最も炎症が起こりやすいと考えられる脳および腎臓を含め,諸臓器にT細胞の浸潤や炎症所見は認められなかった.

 さらに我々は,センダイウイルスベクターを用いた経鼻ワクチンを開発し,24〜25カ月齢というかなり高齢のAIzheimer病動物モデルマウス(Tg2576)に投与したところ,著明な効果が得られた.

6.Parkinson病に対するワクチン療法
 Parkinson病やLewy小体型痴呆などの変性疾患では,神経細胞内のLewy小体の出現を特徴とする.Lewy小体は,家族性Parkinson病の原因遺伝子として発見されたα−シヌクレイン(α−synuclein)蛋白がリン酸化,エビキチン化され,細胞内に沈着し蓄積した神経細胞内封入体である.

 Lewy小体型痴呆のモデルマウスとして,PDGFプロモーター下にヒトα−シヌクレインを発現するトランスジェニックマウス(hα−Syn Tg mice)が作製された.このマウスの神経細胞内にはα−シヌクレインが蓄積し,細胞内封入体が形成され神経細胞の変性が起こる.Elan社のSchenk等は,リコンビナントα-シヌクレインをアジュバントCFAと伴にhα−SynTgマウスに免疫したところ,α−シヌクレインに対する抗体が誘導され,神経細胞体やシナプスに異常凝集したα−シヌクレインが減少したと報告している.一般には抗体は細胞内に入る事ができず,細胞内のウイルスや異常蛋白の除去には効果がないと考えられていたため,このデータは驚きを持って迎えられた.

Schenk等は,抗体が細胞内のα−シヌクレインを除去する機序として,第一に神経細胞膜上のα−シヌクレインに抗体が結合し,その複合体がendocytosisによって細胞内に取り込まれlysosome系で分解されるという仮説と,第二に神経細胞膜上のThy1.1レセプターやLRPを介して抗体が取り込まれ,細胞内のα−シヌクレインと結合した後,lysosome系で分解されるという仮説を提唱している.
おわりに
 今後のAIzheimer病の治療の取り組みについて図に示す.予防として,NSAIDs,セクレターゼ阻害薬,Aβ分解酵素およびAβワクチン療法が有効と考えられる.既に沈着した老人斑の除去には,Aβワクチン療法が現在考えられる唯一の手段である.いずれの治療法においてもAIzheimer病の早期診断が重要であり,アミロイド沈着を特異的に検出できるアミロイドイメージングの臨床応用が早急に望まれる.

 ワクチン療法が,AIzheimer病のみならずα−synucleinを標的として,Parkinson病にも応用される可能性が広がり,今後は副作用の少ないより安全なワクチンの開発が期待される.

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