放射線医学の進歩で患者に優しい医療に<日本医学放射線学会>
(日本医学放射線学会理事・群馬大学教授 遠藤啓吾)
日医ニュース2007.1.5
 昭和47年にエックス線CT装置が英国で開発されたのを契機に、画像診断は革命的に進歩した。CTで撮影すると、これまでのエックス線写真では見つけられなかった病気が見つかる。CTをきっかけとして、断層像(輪切り像)の有用性が認められてきた。その後、MRI、SPECT(スペクト)、PET(ペット)、超音波検査など、画期的な画像診断装置が次々と開発され、現代医療には不可欠なものとなっている。これらの画像はいずれもデジタル化されているので、データの保存、画像処理、転送が容易となった。ほとんどのカメラがデジタルカメラ(デジカメ)となったのと同じように、医学で使われる画像もデジタル画像に変わっているのである。

 画像診断が進んだことにより、患者に優しい、患者に苦痛を与えない医療が可能となってきた。

 CT装置の進歩は特に目覚ましく、平成十年に初めて検出器を多列化したマルチスライス℃T装置が発売された。マルチスライスCTは進化し、最新の装置を使うと、検出器が患者の周囲を0.4秒で一回転し、全身のCT画像を撮影できる。

文字通りあっ≠ニいき間に検査できるほど高速で撮影が終わってしまう。時間分解能、空間分解能ともに向上し、画像処理技術の進歩と相まって、CT画像が美しくなり、心臓の冠動脈まで撮影できるようになってきた。

 診断のためのカテーテルを用いた血管撮影検査は減少し、造影CTに代わりつつある。マルチスライスCTを用いて行う心臓の冠動脈狭窄の評価は、カテーテルを用いたこれまでの心血管撮影像とほぼ同じレベルにまで向上している。しかも心臓カテーテル検査では分からない、脂肪や石灰化があるかどうかといった、プラークの性状まで評価できる特徴を有する。まもなく心臓カテーテル検査も専ら治療を目的としたものとなり、治療後の冠動脈の状態はCTで検査する時代になるだろう。

 画像診断のみならず放射線治療の分野も急速に発展し、放射線治療を受ける患者数も、最近どんどん増えている。画像診断の進歩でがんの範囲が正確に診断され、それぞれの患者に最適の放射線治療ができるようになった。多くのがんで、手術と同じ治療成績が得られるようになったことに加えて、放射線治療は患者に優しく、臓器の機能を温存できるため、今後、さらに放射線治療を受ける患者数が増加すると予測されている。

 このような放射線診療の急速な進歩の半面、CTによる患者の放射線被曝、低い診療報酬、装置の台数に比べてあまりに少ない放射線診断専門医、放射線治療専門医など、解決すべき課題も多く残されている


    もとに戻る