先行する豪州の医療・介護制度からわれわれは何を学ぶか・・・
日医ニュース 1092号 『視点』より
 先日、ある視察団の団長として豪州(面積は日本の20倍で、人口は6分の1)の医療・福祉と関連サービス施設を見学し、多くの危機感を抱いた。その感想を述べさせてもらう。

 ご存知のように、英国では家庭医(GP)が限定されるが、豪州では患者がGPを選び、初診はまず、GPを受診する(救急は別)。レントゲン・超音波検査には紹介状が必要である。

公的保険である「メディケア(徴収は国税庁が行う)」は、米国(無保険者15%)とは対照的に全国民をカバー。その恩恵で患者が公立病院に集中、手術には何カ月も待たされる。そのため、私立病院の活動が活発で、民間保険会社が増加し、いわゆる混合診療が行われている(参考までに、消費税は10%、食品と医療は非課税)。

 高齢者福祉では、施設と在宅介護サービスがあるが、1950〜60年に施設を中心とした介護整備(高度な介護は「ナーシングホーム」、軽度は「ホステル」)が進んだ。

そして、80年代はノーマライゼーション思想に感化され、在宅中心へと方針が変更され、90年代は24時間体制の在宅サービスが導入された。しかし、近年、後期高齢者人口の増加で、重度の要介護高齢者比率が高まり、「ナーシングホーム」が不足

そこで、97年に軽度の要介護高齢者のみを受け入れる「ホステル」を「ナーシングホーム」に転換する方針が出され、軽度の要介護高齢者を「在宅サービス」に移行させる流れとなった。

 日本では、今日まで、豪州の進んだ医療・介護システムは良い手本とされ、多くの専門家が豪州を訪れ、研究をしてきた。しかし、わが国で財政主導のもとに断行された「療養型病床」の削減は、豪州のノーマライゼーションの二の舞となり、介護難民の発生を警告するものである。

 2008年度から創設される75歳以上を対象とした「後期高齢者医療制度」には、医療と介護の良好な連携が不可欠であり、フリーアクセスを阻害する「人頭払い制」などの導入を、認めることはできない。さらに、日本では、ケア付介護施設の全高齢者数に占める定員割合が、英国、デンマーク、スウェーデン、米国より低いことにも、注目すべきである。

 これらの現実を直視した時、各国が進めてきた医療・介護制度の現状が、われわに警鐘を鳴らしていること無視してはならない。
国民医療費(人口1人あたり)日本24.7万円、豪州31.3万円


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