アニサキスを5回もとった懲りない男の話
日医ニュース 第1117号 208.3.20 『南から北から』より
大学病院でまだ外科研修医のころ、遅い帰宅後、母が作ってくれた、大好物のしめ鯖の姿寿司を一気に食べた。明け方の四時ごろに、胃の痛みで目が覚めた。痛みは5分から10分ごとに、波状的に襲ってくるが、それほど強くもない。その日は手術日で、手術中も、痛みは変わらず続いたが、昼ごろには手術が終わり、ほっと一息、でもまだ痛い。これはストレス性、それとも胃アニサキスかな……。

 このまま様子を見て、小腸に入ったら、腸閉塞も有り得るし、腸管を破ったという報告もあり。名優・森繁久弥さんが名古屋で公演中にアニサキス症で開腹手術をしたという記憶も、脳裏をかすめ、とても不安。自己診断で内視鏡を先輩にお顔いした。やっぱりいた、胃体上部に頭を突っ込んで。いざ、鉗子でとろうと触ると、激しく動き出した。甜子で虫体をつかんで抜く時、ちぎれて頭が残らないか心配したが、無事摘出。波状的な痛みはすぐに消失し、何となく痛いという程度の痛みが二〜三日続いて、一件落着。医局でもかなりの内視鏡のベテランの先生だったが、アニサキスは初めてとのことだった。

 その後も、鎌倉の病院の夕食のアジの刺身で一匹。次の時は、沼津港の有名なすし屋で食べた、鰹のたたき風の鯖のにぎり一貫で一匹。四回目はゴマ鯖の生食後。攻撃は連続的で、今までの波状攻撃とは痛み方が違っていて何匹かいると確信した。やはり、内視鏡の結果は三匹で、今までの最多記録となった。3年前の時は、近医に行って「アニサキスが、たぶん前庭部に1匹いるのでとってもらえますか」。先生は、半信半疑のようだったが、すぐに内視鏡検査をしてくれ、前庭部から一匹掃出した。アニサキス症のプロ患者になってしまったようだ。
 加熱調理、冷凍(マイナス20度14時間)で予防可能だが、釣り好き、刺身大好きな私としては、今後もアニサキスからは逃れられそうもない。五人の先生に、七匹のアニサキス摘出の機会を提供した私だが、まだ、自分では摘出経験がなく残念だ。

 次の時は、経鼻内視鏡で自己摘出に挑戦するつもりだが……。(一部省略)笑ってしまう本当の話 


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