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Manifold:Time

  • 著者:スティーヴン・バクスター (Stephen Baxter)
  • 発行:1999/Voyager books UK £6.99
  • 2002年8月読了時、本邦未訳
  • ボキャブラ度:★★★★☆
     ※個人的に感じた英単語の難しさです。

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 "Time"は、「マニフォールド(多様性)」三部作の第1巻です。バクスターは前作「タイムシップ」で時間の果てを見せてくれましたが、本シリーズでは多元宇宙をネタに宇宙の謎に迫ります。

 

 三部作の中でも、この"Time"は事前に入念なリサーチを行ったようで、バクスターとしても力の入った作品であることがうかがえます。ネタバレになりますが、本書で使われたアイディアは、人類絶滅の統計的予測、フェルミのパラドックス、知性化イカ、未来からの通信、等々、長編が何本分ものてんこ盛りです。しかし、勢い余ってというべきか、あまりにも多くのアイディアとガジェットを詰め込んだため、一言で説明するのが不可能な作品になっています。傑作というより怪作というべきかもしれません。

 SF賞には無縁でしたが、欧米の一部SFファンの間では、カルト的に語り継がれる作品となっているようです。翻訳されなかったことが悔やまれます。

 

 冒頭では、NASAを騙して個人で宇宙船を打ち上げようとする主人公の苦闘がリアルに描かれますが、中盤以降はアイディアをこれでもかとぶち込んだ、驚天動地の展開が待っています。バクスターの無茶振りに付いていければ、他では味わえないハードSFの醍醐味に出会えるはずです。

 

 なお、このシリーズの主人公は、全て退役宇宙飛行士のマレンファントなのですが、三作は時系列的に連続した物語ではなく、それぞれ世界背景や置かれた状況が違う、別の多元宇宙の地球が描かれます。

 

 シリーズ第2巻の SPACEはこちら。  

●ストーリー●

 

 2010年、地球の環境悪化が進行し、世界は終末的な様相につつまれつつあった。

 NASAを退職した宇宙飛行士マレンファントは、元妻のエマとともに、ベンチャー企業「ブートストラップ社」を立ち上げ、大企業に成長させていた。しかし彼はいまだに宇宙への夢を捨てきれず、スペースシャトルの廃物を利用したごみ焼却施設を建設するという名目で、密かに小惑星への探査ロケット打ち上げを目論んでいた。

 

 彼の前に、出資企業の一つ「終末論社(Eschatrogy,Inc.)」の代表を名乗り、不気味な数学者コーネリアスが現れる。コーネリアスは、原始時代から現代までの人口のほとんどが現代に生きているという事実をベイズの定理に当てはめると、人類は200年後に絶滅するという計算結果を示す。そして、絶滅が回避できるなら、未来からそれに関する情報が来ているはずだと告げる。彼らは、予言を確認するため量子受信機を作り、未来から何者かが送信したと思われる8ケタのメッセージを受信し、その数字が地球近傍を回る小惑星クルイシンを示していることを発見する。

 

 マレンファントは、クルイシンに向け探査機を打ち上げる。探査機には、ブートストラップ社が秘密裏に開発していた、遺伝子改良で知能を強化したヤリイカ"シーナ5"が、パイロットとして乗り込んでいた。シーナ5は、クルイシンへの着陸を果すものの寿命が尽きる。しかし、シーナ5は船内で卵を生んでおり、生まれた"シーナ6"たちはより高い知能を持ち、さらにクルイシンを調査して未来へ通じる通路"ポータル"が置かれているの発見する。

 

 マレンファントは、シーナ6から届いた映像でポータルのかなたに千兆年の未来の銀河を垣間見て、自らクルイシンへ飛び立つことを決意する。

 



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