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Red Mars

  • 著者:キム・スタンレイ・ロビンスン
        (Kim Stanley Robinson)
  • 発行:1993 / BANTAM BOOKS  →Amazonで見る
  • 672ページ / US $6.99
  • 邦訳: →創元SF文庫
  • ボキャブラ度:★★★★☆
     ※個人的に感じた英単語の難しさです。

Green Mars

Blue Mars

  • 発行:1996 / BANTAM BOOKS
  • 784ページ / US $6.99
  • 本邦未訳  →Amazonで見る

 200年にわたる火星のテラフォーミングを、リアルに描いた3部作の傑作です。全巻、ネビュラ賞・ローカス賞を受賞しました。その後のアメリカの火星有人探査計画にも、大きな影響を与えたともいわれています。


 第1作のレッド・マーズは、原著が1993年に刊行、邦訳が1998年に創元SF文庫から上下巻で出版され、夢中で読みました。ところが、創元さん、どうしたことか、待てど暮らせど続編を翻訳してくれません。そのため私が「やむを得ず」ペーパーバックを読み始めた、記念すべき作品です。(^ ^;)>

 「グリーン・マーズ」は2001年12月に翻訳がでましたが、最後のBlue Marsはいつになることやら。2007年1月現在も音沙汰無し・・・

 ということで、「グリーン」が624ページ、「ブルー」が764ページという大物ですが、翻訳が待ちきれないハードSF読みなら、もはや、電子辞書首っ引きで読むしかないでしょう!

 

 このシリーズが日本人にとってうれしいのは、ストーリー上、日本が大きな役割を果たしていることです。

 ヒロコという、卑弥呼をイメージさせる地下運動の精神的リーダーは全巻を通じて狂言回し的な役割を果たします。また、最初の植民者のわずか7年後(2033年)に入植した日本人たちは、殖民都市「サビシイ」を作り「土着して」、地下運動を支援するのです。「シカタガナイ」、「イッセイ、ニセイ」が火星語化し、火星の砂漠に、石を刻んだ道祖神や神社が並んでいるというのは、もの凄いインパクトがあると思いませんか?

 敵役として 「ミツビシ」や「スバラシイ(?)」なとという超国籍企業も活躍?します。大不況の今こそ読んで、百年後の日本人に思いを馳せましょう。

 

 ボキャブラリは気象用語、地学用語、植物学用語が山盛りで、ジーニアスにもプログレッシブにも載っていません。この辺はSF読みの勘で乗り切ろう!

 困ったのが、登場人物が多国籍なため人名や地名の発音がよく分からないことで、じれったいです。オンラインの世界人名地名辞典でもありませんかね?

 

Gallery

 それにつけてもこの傑作に対してペーパーバックの表紙の絵のヘタくそなこと。代わりぜひ、下記のサイトのグラフィックアートをご覧ください。

    Masa Pavilion

 まさに火星三部作にぴったりの素晴らしい火星・宇宙の画像が公開されています。お勧めの一品は、こちらの水を湛えたマリネリス峡谷上空を飛ぶ宇宙船。ぜひ読む前にイメージを膨らませてください。

●ストーリー●

 

 【レッド・マーズ】

 

 2026年、人類初の火星殖民者として、厳選された100人の科学者(「最初の百人」)が火星に着陸し、未踏の火星環境改造・テラフォーミングが開始された。

 しかし、移民が増加するにつれ火星の資源の利権をめぐって、地球の超国籍企業群が火星の支配権をにぎりはじめる。一方、これに対して植民者の中に「レッズ」と呼ばれる火星環境保護派が台頭し、地下活動を始めた。

 両者の軋轢がピークに達した2061年、植民者の反乱が勃発、誰も予想しえなかった破局へとなだれ込んでいく。しかし、それは火星の新しいステージへの一歩でもあったのだ。 

 

【グリーン・マーズ】

 

 破局から数十年後、難を逃れた植民者たちは、当局から隠れて火星各地にサンクチュアリを築き、独自のテラフォーミングを進め、力を蓄えていた。最初の百人たちの生き残りは、「長命化治療」を受けすでに百歳を超えていたが、火星生まれの新たな世代も成長しつつあった。

 一方、地球の環境破壊と政治社会情勢は悪化の一途をたどり、世界を支配する超国籍企業は火星に活路を求め、再び軋轢が高まってきた。

 そして2115年、地球に起こった大異変をきっかけに、地下組織は「フリーマーズ」を合言葉に、革命を決行する。しかし、2061年の破局の悪夢が再び彼らを襲おうとしていた。

 

【Blue Mars:ブルー・マーズ】  ※ネタバレがあります。ご注意ください。

 

 2127年、火星は第2次独立戦争に勝利した。しかし、レッズ急進派はこの期に乗じて、再建された軌道エレベーターを再び破壊しようと武力攻撃を開始し、火星は内戦の危機に陥った。
 サックスは、自らのテラフォーミング計画に大幅な遅れを出すことことを覚悟のうえで、あるひとつの条件を示し、レッズの精神的リーダーであるアンにレッズの説得を依頼した。

 やがてアートたちの努力で、火星全土の各都市・各グループの代表が参集し、新たな憲法策定が進められる。そして、全火星人の投票を経て、2128年2月27日、ついに火星政府が誕生した。

 だが、地球は火星政府を完全に認めたわけではなかった。交渉のため、ニルガル、マヤ、サックス、ミッシェルは大洪水の被害が残る地球へ向かった。彼らは軌道エレベータで地球に降り立ち、スイスで国連と条約締結の交渉に臨むが、ニルガルは、そこで思いもかけない人物の名を聞き、驚愕する。

 ニルガルが地球から生還したとき、フリーマーズ運動はジャッキー一派が支配する政党化していた。彼は街を離れ、気球グライダーで火星の変貌した北半球を放浪するうち、クレーターの窪地を緑化するプロジェクトに出会う。自らひとつのクレーターの緑化に取り組む。長い時間と苦闘の末、彼の窪地はすばらしい成功を収めたかに思えたのだが…。

 

 遺伝子改良された生物により北半球には生態系ができはじめ、ついに人間もマスクなしで火星の大気を呼吸することが可能になった。さらに画期的な核融合エンジンが開発される。地球―火星間の旅が、わずか数日に短縮され、人類は太陽系の全域に殖民を開始した。しかし、長命治療が普及した地球の人口圧力を軽減するにはいまだ至らず、火星政府は急激な移民増大を抑えようと、殖民が始まった水星や天王星の衛星に使節を送り、地球に対抗しようとしていた。

 

 ジャッキーが率いるフリーマーズは、地球からの殖民禁止キャンペーンを繰り広げ、勢力を拡大していた。マヤはその急進的な政策に危険を感じ、反対勢力を支援しながらジャッキーを追って船旅を続けていた。勝利を続けるジャッキーに、ある日大きな衝撃を与える出来事が起きる。

 2206年、「最初の百人」の生き残り達に深刻な記憶障害が起こっていた。200歳を超えた「最初の百人」は、一人また一人、原因不明の急死を遂げていく…。この難問に対し、ついにサックスは最後の挑戦を開始する。

 一方、人口圧力と火星の閉鎖政策に業を煮やした地球は、火星の軌道エレベーターに三たび急襲をかけようとしていた… 

 

 最初の百人、火星、そして人類の運命は? 

 

●シリーズ三作の最終章を読み終えたとき、あなたの心に、静かな感動が広が  ることでしょう。そして、おそらく、作者すら予想していなかったであろう、多くの思索を読者に与えてくれるはずです。



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