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1992年(平成4年)10月5日月曜日 朝日新聞(夕刊)

夫妻で工業英語辞書

翻訳家の二人 始めて3年 完成間近

夫は電気や電子部門を得意とする。妻はコンピュータ関係に知識が深い。ともに工業英語の翻訳家として独立している。ところが、和英辞書ではカバーし切れない技術用語や用法が多い。 「これまで、 お互いに蓄積した知識を活用できないか」。この三年間、 翻訳の仕事もほとんど引き受けず、 夫妻で取り組んだ工業英語の表現辞典作りが完成に近づいている。
東京都品川区大崎に住む海野文男さん(四四)と和子さん(三四)夫妻。文男さんは電気工学を学び、 米国の自動車会社の電気部門や、 貿易会社の製品の説明書などを書いていたが、一九八三年に工業英語の翻訳家として独立した。
和子さんは大手電機会社に勤め、 コンピューター関係などの翻訳をしていたが、 やはり数年前独立した。
仕事場は共に自宅。だが、 依頼主は別々で、 翻訳も共同作業ではなかった。ところが二人とも、 既存の辞書では役に立たない表現が余りに多いと感じていた。
「たとえ専門用語がわかっても、 文章の中でどのように使ったら良いのか、 それを示す用例がいまの辞書では圧倒的に少ない」と文男さん。
これまで、 日本の辞書には載っていない表現を、 折りにふれノートに書きためてきた。三年前、 文男さんの分だけで三十冊を超え、 出版を思い立った。さらに、 外国からパンフレットなどを取り寄せ、 用例を増やした。
現在約千八百ページ分ができている。この三年間は翻訳の仕事をほとんど受けず、 蓄えてあった千数百万円を食いつぶし、 さらに親類からも約五百万円を借りた。あとわずかで完成で、 出版のためのスポンサーを探している。
日本工業英語協会(東京都港区)によると、 一流といわれる技術翻訳家は全国で百人単位しかいないのではという。誤訳やあやふやな翻訳で、 入札での失敗や、 製品の操作を誤る事故、 訴訟なども起きているという。
月刊誌『工業英語』を出版し、 各種の技術辞典も出しているアイピーシー(東京都豊島区)の藤岡啓介社長は「大手の出版社の大半は工業英語の辞書に手をつけていない。今後ますます需要は増える。一線の人が作った辞書類は一冊でも多いほうがいい」と話す。

写真: 工業英語の表現辞典を作る海野夫妻 =東京都品川区大崎3丁目の自宅で

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