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讀賣新聞 1994年(平成6年)5月3日

地域ニュース(読売新聞都民版)
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生活費も充て英語辞書製作
品川の翻訳家夫妻が4年かがりで

実用的に用例満載

 品川区大崎の翻訳家の夫妻が、「実用的な英語の辞典がほしい」と思い立ち、四年かがりで「最新ビジネス・技術実用英語辞典」(日外アソシエーツ刊)を完成させた。本業を休み、生活費にも事欠きながらの作業だったが、今年一月に出版した初版は好評で、一万部を完売する勢いだ。
 辞典を完成させたのは海野文男さん(四六)、和子(三六)。
 二人ともフリーの翻訳家という仕事柄、英語圏で作られたマニュアルなど英文資料を集めるのに熱心で、文男さんが用例を書きためたノートは約十年で三十冊余りにもなった。しかし、せっかくの資料も必要な時に探し出すのがひと苦労。
既存の辞書や用語集には、動詞や前置詞の言い回しを集めたものがほとんどない。
そこで、「用例・表現集を作ろう。できれば、個人で使うだけでなく出版も」となった。 平成二年一月、まず和子さんが翻訳を休業。得意のコンピューターでデータ整理のプログラムを作り、入力を始めた。当初は半年でできると考えたが、出版に耐える厳密さを追求すると、用例をすべて再検討しなければならない。このため、翌二月から文男さんも休業し、辞典作りに没頭することになった。
 収入はなくなり、マイホーム資金をつぎ込んだ。親類から生活費や物資の援助も受けた。二人は生活不安のストレスから腕がしびれたり、息苦しくなったり。とうとう文男さんは仕事を再開した。
 それでも一昨年秋になって、複数の出版社から誘いが来た。「上下巻、五万円で」との話しもあったが、「高価な専門書よりも、買いやすい価格で広く使ってほしい」と考え、「六千〜一万円で」という出版社を選んだ。
 一昨年十月から十か月間、同社に印税の一部を前倒しで貸してもらい、再び夫婦で辞典作りに専念した。B6判、千四百七十ページの労作が完成し、今年一月に発売の運びとなった。価格も五千八百円に決まった。
 この辞典では、例えば「import」という単語に「輸入する」「表す」など従来の訳語に加え、コンピューター用語では「(情報を)読み込む」と訳すことを用例をまじえて説明してある。返送されてきた愛読者カードには「真に『実用的』」「このような生きた辞書が学生時代にあったら、もっと勉強したかも」などという言葉が並んでいた。
 早くも増補・改訂版を望む声も寄せられており、「時間的に見送った改善点がいっぱいある」という夫妻は、用例集めやデータの手直しを続けている。

写真 できあがった辞典を手に、さらに完全なものにしようと作業を続ける海野文男さん(左)、和子さん夫妻

 

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