こぼれ話

 イ ンターネットと子供のこころ ('04.6.6)

■人とインターネット・コミュニケーション

 なぜ多くの人はWebページを作成したり、掲示板やチャットでコミュニケーションするのでしょう?

 これは「自分を見て欲しい!知って欲しい!」という欲求から来るものだと思います。それがイラストであれ、音楽であれ、論文であれ、日記であれ、自分自 身の表現であるわけです。言ってみれば、自分自身の一部です。掲示板やチャットは、自分の心の内に一番近い部分でのコミュニケーションであるといえます。
 インターネット空間は、現実にはなかなか注目してもらえない自分を認めてもらえる、心地よい空間であるわけです。このため、自分自身を現実空間にお かずに、より心地よいインターネット空間に置いてしまいかねない危険性もあります。現実空間で問題を抱えているほどインターネット空間にのめり込みやすい とも言えます。
 一方、メールのマナーでも書いたように、インターネットでのやりとりは相手を見ているようで見てい ない、自分を見せているようで見せていない都合のいい やりとりです。見も知 らぬ他人に心を開きやすく、一方で見も知らぬ他人同士故により攻撃的になって傷つけ合ったりもします。

 ここで自分に対しての攻撃を受ければ、守っておきたい自分自身の一番大切な部分を攻撃されたに等しく、深刻なダメージを負うこともあ り得ます。何よりも 文字として残っ てしまう故に、その場で消えてしまう言葉よりも、よりダメージを大きくしてしまうといえます。
 掲示板等で起きたトラブルで、当事者が必要以上に大ごとととらえてしまいうろたえることがよく見られるのも、このためと思います。

   インターネットで作られた関係は、心理の深いところに結びつくものでありながら、現実からは遊離した、きわめて仮想現実的(バーチャル)で特殊な関係で あるわけです。ここではたとえ意図しなくても、誰しもが現実世界より高い確率で加害者とも被害者ともなり得るのです。

 こうした関係を上手に使いこなして行くには、現実感のないコミュニケーション故に見えない部分をさまざまに推し量る高い洞察力が必要で、さまざまな人間 関係の経験を経ないとならないと考えられます。

■こどもたちとインターネット

 ところが、最近では学校でも家庭でもコンピューターを使うことが強く推奨され、携帯電話も普及し、まだ幼い子供が複雑な人間関係を経 験する以前にバーチャルな関係を結ぶことが普通になってきています。未熟なまま自分に都合のい い関係、あるいは現実離れした関係を結びつつ、 それを現実にあわせて修正する機会が少ないのが、今の子供たちの置かれた環境と言えるかもしれません。
 さらにインターネット空間では、匿名性故にモラルと無縁な他人への攻撃なども当たり前です。自分の精神を守るすべを知らない幼い子供たちが自分の中をイ ン ターネット空間にさらけ出し、他人から攻撃を受けダメージを受けるリスクは大変高いと言えます。
 また、現実世界ではまずしないような身勝手な言動や恐ろしく汚いののしり表現がありふれています。暴力、ポルノ、それらが複合したゆがんだ情報も多く 見られます。現実世界の法・モラルを踏みにじるものがそこかしこに散在しています。そうしたものと接しながら成長することで、現実世界に合わない、自己中 心 的自我が知らず知らずのうちに形成されてしまうおそれがあると感じています。特に何らかの理由で現実の世界よりインターネットやアニメなどの仮想性の強い 世界にのめり込む傾向の強い子ほど影響は強いと言えるでしょう。

 実際、最近の子供たちと接していると、イラストや文章などの表現物にはインターネット特有の表現の影響を強く受けているものがよく見られます。インター ネットの浸透ぶりが伺 えます。
 さらにその態度にも特有の攻撃性が感じられることがあります。テレビ世代の受け身な『傍観』と独り言的な言動から、自分だけが守られた都合のよい双方向 性のインターネット世代では、より攻撃的な言 動へ移り変わっているように感じられることがあります。

 私は「べからず集」を立ち上げたときから、無批判に子供たちにインターネットを使わせようとする大人たちに批判的でした。インターネットの空間は、『ヒ トの脳の能力』の拡張という今までにない強力なツールである代わりに、『ヒトの脳の能力』を育てる大切な機会を失わせるものと感じていたからです。加え て、いまで は現実には表出し得ない人間の内面がむき出しになり膨張していく様と、それに未熟な子供が接することにおそれを抱いています。

■さいごに

 子供たちにコンピューター,インターネットなどのバーチャルな世界へのツールを無批判に使わせていませんか?
 人間は現実の世界で生きていくのです。厳しい現実の世界に対応して行くために、身につけなければならないことが沢山あります。
 一方で、生身の温かいふれあいも大切です。
 まだ幼い子供が、非現実あるいは人間のエゴむき出しな世界と慣れ親しむことで、その人格形成・能力形成にどんな影響を与えうるか、もしあなたが大人の立場で あるならば、是非考えてみて欲しいと思います。 私たちは何を優先して子供を育てていくべきでしょうか。どんな能力を身につけさせるべきでしょうか。


 あなたがもっとも安 心して安らげる、現実世界の脅威から守られたあなたの家。その安全なはずのあなたの家の子供部屋に、一本のLANケーブルを通してあらゆるものが入り込ん でくるので す。実に便利な情報とコミュニケーションの世界につながっていると同時に、法もモラルも無視した狂気の世界との接点にもなっているのを忘れずに。

 

こぼれ話の目次のページへ戻る   目次のページへ戻る