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【 インタビュアーの憂鬱 】


「どうしましょうハボック少尉。うちの兄さんってバカなんです」
「どうしたもんかねえ。オレの上官もバカなんだよ」
 ひねもすのたりな昼下がり、果敢に大小の怪物に挑んだインタビュアーたちの苦悩は深かった。木陰のベンチに並んで座り、2人同時にため息をつく。
「ぶっちゃけ、あの2人って仲が良いんですか? 悪いんですか?」
「うーん。……悪…くはないと思うんだがなあ」
「どちらかと言うと、じゃなくて、あからさまに仲良しさんですよね?」
「だよな?」
 同じ結論に達して仲間意識が芽生えた2人は、真剣な表情で見つめ合いがっしりと手を組んだ。が、すぐに肩を落とし、やはり2人同時に大きな息を吐いてしまう。
「でも、本人たちは全然気づいていないんですよねえ」
「そうなんだよなあ。お互い相手を 『 気に入らない 』 って思い込んでいるみたいだし」
「バカですよねえ」
「バカだよなあ」
 何で彼らのためにこちらが落ち込む必要があるのだろうと一抹の疑問を抱きつつ、2人は口を噤んで空を見上げた。ぬけるような青空には、白い雲がゆっくりと流れている。厚みがあるように見えていた雲が、風に散らされ蒼天に溶けるように消えていくのを眺めながら、不意にアルが口を開いた。
「でもあの2人の仲の良さって、世間一般からちょっとズレていると思いませんか?」
「ん?」
「何て言ったらいいのかなあ。 ─ 本人たちがお互いを気に入らないと思っているのは本当で、でもそれとはまったく別の、兄さんたちがどうしようもないくらい何処か遠い所で繋がっている感じっていうか…」
 どう説明したらいいか分からないなと、首を捻って懸命に言葉を探す様子を眺めていたハボック少尉は、にやにやと口の端に笑みを浮かべた。
「兄貴を取られたようで悔しいか?」
「え? んーと、どうだろう? そんな風には思わないけれど。………やっぱりちょっと悔しいかな」
「…お前はいい子だなあ、アル」
 照れ笑いをしながらの子供らしい率直な思いに、しみじみとハボック少尉は呟いて、大きな鎧の肩をポンポンと叩いた。嬉しそうな様子を見せるのを、微笑ましく思って眺める。
「まあ、今の大将には弟より大事なモンはないだろうから、実際問題として悔しがる必要はないな」
「そ、そうかな?」
「マスタング大佐なんかお前に比べりゃカスだよ、カス」
 いつもこき使ってくれる上官を、後ろめたい思いを抱かずに、むしろ自分を正当化しながらこき下ろす事が出来て、ハボック少尉は少しばかり幸せだった。こんな事を口に出来る機会は滅多にないぞと感動してみたりする。感動しながらぼんやりと思っていた。あの人は、そんな事は先刻承知なんだろうという事を。
 自分たちはもちろん、兄弟たち当人ですら気がついていない無意識な思いを、あの腹黒くて自分の出世の事しか考えていない顔の裏で、きっちりと把握しているような気がする。まあ、そんな事を本人に訊いても、鼻で笑われて黙殺されるのがオチだと分かっているので無駄な問答はしないが。
「 ─ マスタング大佐は、お前ん所の兄貴と張り合うくらい意地っ張りなんだよなあ」
「兄さんって、大佐に負けず劣らず頑固なんですよねえ」
「こういうのを類友って言うんだろうな」
「言うんでしょうね」
 もう何度目になるか分からないとどちらも自嘲しつつ、アルとハボック少尉は、2人仲良くやれやれとため息をついた。



了 (2004.11.23)