旧メーリングリストの 『「ひまわり」をめぐる解釈問題』
●a.kira ---ところでみなさん「ひまわり」がいい!とおっしゃるのですが 実は私は、ひまわりの歌詞を理解できていないのであります。 私の友だちの岩崎君も同様です。 つまり その人の女房はだれから絵はがきをもらったのか? その人の女房はどこに出かけようとしているのか? おそらくその人のお見舞いに行くのだと思うのではあるが 絵はがきをもらったことをきっかけに出かけていくように聞き取れるのだが・・・ 病室からその人がわざわざ絵はがきを出すとは思えないし・・・ 女房は恒に病室につきそってあげているのが自然だし・・・ なぜ、部屋を出るときも笑顔をくずさないのか? ん〜わからん。
●鈴木(重) ---改めて聞き直してみましたが、私もわかりませんでした。 雰囲気で感じていたのでしょう。 「ひまわり」の曲名は、同名映画からのものですよね。 その映画を見れば、何かがわかるかも知れませんね。
●a.kira ---やっと友だちの助言により解決しました? 「その人は粗末なベッドにただ黙って座ってる」 という歌詞から私は何を勘違いしたのか その人は病院に入院していると思い込んでしまっていたのでした。
この歌は別れの歌だったんですね? 奥さんはこの荒涼としてスモッグにおおわれた町にさよならをして出ていったのです よね? 残された夫は引き止めることもできない。 何ごともなかったように過ぎていく町の人々の暮らしの中 ただ黙って座っている夫。 はにかんだ笑顔の若い二人が写真の中で色褪せてゆくことが 二人の終わりを象徴している。 「丘の上のひまわりが微笑むように揺れる」はきっと垢抜けた都会の誘惑。 希望はスモッグの彼方今にも消えかかりそうな、この生活に耐えられなかった。 彼女は ひまわり=サンフラワー 太陽のもとへ彼女はこの町を出ていったのですよ ね? 続く『煙突のある街』がこの町をあらわしているのですよね? ちがうかなぁ・・・
●MIYAKE ---なるほど。別れの歌なんですね。「彼女は部屋を出る時も笑顔を崩さない」と いうのですからやっぱりそうなんでしょうねぇ。 このmailにもあったんですが、では絵はがきの差出人は誰なんでしょう?
●玉井 ---基本的には吉良さんに助言なさった方と同じシチュエーションです。
私も「ある人の女房」が別れを決意してこの家を出ていっている風景だと理解しま した。 絵葉書の差出人は、とくに意識するものではなく、ただ葉書にかかれていた 「ひまわり」が「未来のささやかな幸せ」を象徴するものであり、それに向かって 決意を固め、それを求めて出て行く感じがしています。 「ガソリンが水たまりに虹をつくる道」も、この工場労働者達の住宅で 懸命に生きている人たちにとっては、数少ない「美しいもの」なのかもしれません。
「その人は粗末なベッドにただ黙って座っている」は私の印象だとやはり 病気とは結びつきません。ただ、生活があまり裕福でないことを表現するために 座ったものが「いす」でなく「粗末なベッド」と言う言葉を使ったんじゃないでし ょうか。 そして「その人」は彼女を留まらせることの出来ない、すなわち小さな幸福感さえも 与えることの出来なかった無力感を強く感じて、なにもできずにただ座っている。
彼女は寡黙で慎ましい、いい奥さんだったと思います。 だけど言葉は悪いですが、状況に適応する能力が弱かったというか、 ずうずうしくなれなかったというか・・・。 「たまり場の女達」に加われるような人だったら、逆にこういうことには ならなかったかもしれません。 しかし毎日の生活に疲れ、思い悩んだ結果きっぱりと別れることを決断し、 凛として(「化粧をすませて」・「笑顔を崩さない」より) この町をあとにするのです。
吉良さんのお友達が指摘したように、夫婦の状況が冷めていることは、 「写真が色褪せている」ことで表現されています。 はでな野望があるわけではなく、「人並みのささやかな幸せ」さえもここでは 見つけられなかったんでしょう。 そして彼女は「ひまわり」を求めて歩きはじめた。そんな感じでいかがでしょうか。
●a.kira--- いやぁそれにしても玉井さんに全て代弁していただいたような気分で まさにこういうことだと私も思います。私の文章力のなさから伝えきれなかった 部分を完璧にフォローしていただいてありがとうございます。
>絵葉書の差出人は、とくに意識するものではなく、ただ葉書にかかれていた
>「ひまわり」が「未来のささやかな幸せ」を象徴するものであり、それに向かって
> 決意を固め、それを求めて出て行く感じがしています。
具体的な対象はなく「未来のささやかな幸せ」または 「かがやく都会の生活」(ネオンの光を反射してるだけなのだが)を象徴しているの だと私も思います。> MIYAKEさん
>そして「その人」は彼女を留まらせることの出来ない、すなわち小さな幸福感さえも
>与えることの出来なかった無力感を強く感じて、なにもできずにただ座っている。
なぜか彼の気持ちが痛いようにわかる今日このごろ・・・
>彼女は寡黙で慎ましい、いい奥さんだったと思います。
>だけど言葉は悪いですが、状況に適応する能力が弱かったというか、
−−−中略−−−
> 凛として(「化粧をすませて」・「笑顔を崩さない」より)
>この町をあとにするのです。
イメージとしては松坂慶子あたりに演じてもらおう???
ただしかし 今一つ納得いかないのであった。 それは3番の歌詞。 別離とは無縁の様に繰り広げられる町の生活 「工場にしがみつくように・・・同じブルーの作業着」 このあたりから考えるにもっと違った別のテーマが隠されているのではないかと。 単なる別離の曲ではないと。
つまり地方の、一企業に支配された町の 閉ざされた、退屈な生活。 鉄格子も手錠もない監獄(逃げ出せ)のような町では みな口癖のようにつぶやく いつか河を越えて と。 特に卓治が熊本出身なので水俣とか連想してしまうのです。私は。 Niftyの会議室で懐燕さんという方が言ってましたが 「彼の歌には“たどり着く”ことや“逃げ出す”こと等、今現在自分が 置かれてる立場や状況からの“脱出”をテーマにした曲が数多くあります」 その一つだと思うのです。 この歌をそう言うふうに見ると、浜田省吾さんの『Daddy's Town』を思い出します。
●玉井--- > イメージとしては松坂慶子あたりに演じてもらおう???
なるほど、私は吉永小百合でって感じかな(笑)
>
ただしかし、今一つ納得いかないのであった。
−−−中略−−−
>「工場にしがみつくように・・・同じブルーの作業着」
>このあたりから考えるにもっと違った別のテーマが隠されているのではないかと。
そうですね、確かに。ただ二人のことを歌ったのではなく、 こうなってしまったのはこの町、しいては高度経済化社会の もたらした闇の部分が原因だったんですよね。
> 特に卓治が熊本出身なので水俣とか連想してしまうのです。私は。
なるほど、それはあるかもしれませんね。
> この歌をそう言うふうに見ると、浜田省吾さんの歌を思い出します。
吉良さんにいただいたNiftyのログ拝見すると やたらと佐野元春と浜田省吾の名前が出て来てますよね。 私が結構知ってるといえるのは佐野元春と浜田省吾(はそれほど詳しくないか。) だけだったので、ああやっぱりここにたどり着くべくしてたどり着いたんだなあ と、妙に感心してしまいました。あと、ご多分にもれず、尾崎豊も結構好きです。 浜田省吾さんもこういう曲多いですよね〜〜。 今浮かんだのは「勝利への道」です。
♪おやじは16の時から町外れの工場で 背中いためながら働き続けて来た。 繰り返す口癖はいつも「俺のような、俺のような人生をお前は選ぶな」♪
●T.NOBATA ---ひまわりに対してにt・rieさんの解釈には脱帽です。さすが女性の目は鋭い。今までこんな具体的な解釈を読んだのは初めてです。またそれを引き出す吉良さんの問いかけとレスポンスは絶品。吉良さんのページへの投稿が 増える原因はこういうところですね。それぞれの解釈を読んでいろんなイメージが湧いてきました。
僕自身はひまわりに対しての答えはまだでてません。こ の曲とNGの1曲め(通称NY.NY)を例えると、卓治からそれぞれの歌の中にあるシーンの絵葉書や写真を何枚かもらって、その1枚1枚に対して僕自身が勝手にイマジネーションを広げていると言えばいいのかな。あえて答えをだすのがもったいないような気がするんです。この2曲に関しては。聞き手一人ひとりの頭の中にそれぞれの風景をイメージさせる曲達。いつか答えが出たときは僕なりの解釈を書かせて下さい。
ひまわりの解釈について、OFFの会報vol29に会員の増田さんという方が 以下のような事を書かれてました。「小山さん、ジャケットの写真に触発されて、ひまわりができたのではないでしょうか?1番の彼女は引っ越すのではなく、遠くにいる誰かに会いにいくのですか?うきうきしているというよりも 決めてしまっている気がします。1番の『その人』と2番の『その人』は別人でしょう?2番の『その人』は女の人ですか?…」この解釈もすごいと思いました。(増田さんすみません。無断で転用せていただきました。吉良さんのページには参加されてたけどMLには登録されてないみたいですね。ぜひいろいろなご意見を聞きたい方なのですが…)
今ふっと、ソフィア・ローレン主演の映画「ひまわり」を思いだしました。まだ見たことはないけど卓治の「ひまわり」の解釈のヒントがあるのでは。
●GANKO ---セピア色のフランス映画を連想させる曲 「ひまわり」 の”その人の女房”についての 俺のイメージは
@彼女がかぶっている帽子は:麦わら帽子
A彼女が身につけている洋服:淡いクリーム色のかすみ草プリントのワンピース
B彼女が荷物を入れたバッグ:使い込んだあまり大きくない褐色の皮のトランク型カバン
二人が出会ったのは9年前
彼が24歳、彼女が21歳の夏の終わり
丘の上にあるひまわり畑に
煙突のある街から粗末な自転車を輝かせながらひとりでかけた彼が偶然出会ったの
が彼女
彼女は萎れはじめたひまわりの洪水の中を泣き叫びながら走り回っていた
「どうしたの!」とおもわず声を掛けた彼に彼女は一瞬動きを止め
3秒後にはさっきまでの絶叫が嘘のような微笑とともにこう言った
「萎れかけたひまわりがとても悲しかったから・・・」
彼女の視線の先遠くにに若い男がいたのに彼は気づいていなかった
そしてそのとき彼女は@〜Bのものを身につけていた
3時間後には彼女は彼の腰に手をまわして自転車のうしろに乗り
その日から二人は”工場にしがみつくようにならんだ”アパートの一室で
暮らしはじめた 「ホントは今日が予定日だったの・・・」
彼女がお腹をさすりながらうつまいたままそう言ったのは
出会いから3ヶ月めの初氷が張った妙に寒い晩秋の朝
彼はそんな彼女の姿の背後に出会ったときと同じひまわりの洪水をダブラせていた
彼はただ黙って出勤前の朝食を黙々とすませ
彼女はいつまでもうつまいたままお腹をさすっていた
食卓には出会いの日に二人で撮った写真が飾られていた
それ以来二人は彼女の流産について話すことはなかった
彼は毎日ブルーの作業着を着て工場に向かい
彼女は彼の替えの作業着を洗いつづけた
工場で彼女との結婚を詮索される彼は「焦ってもしょうがないから・・・」
と笑顔ではぐらかし
溜まり場で女達から彼との結婚を詮索される彼女は「結婚してるのと同じよ」
と言葉少なにそれでも笑顔で答えつづけた
二人の写真はあいかわらず食卓に飾られていた
二人が結婚したのは出会って3年目の夏の終わり
その朝彼女はあの日と同じ微笑みで婚姻届を彼に渡した
保証人の欄には彼が知らない男の名が書かれていた
神経質そうにキッチリと書かれた見知らぬ男の文字をみつめる彼は
まったく気にしないふりで でもその文字にずっと目をやっていた
その日の夜いつもの粗末なベッドのカビくさいにおいを忘れ
真夜中の丘の上のひまわりの洪水の中で二人からだで愛を語り
そして婚姻届に判を押した
たくさんのひまわりが二人を護る壁の役割を果たしていた
彼女は溜まり場の女達のヒステリックな笑いの中で
一人異質な微笑をうかべつづけた 彼女の出自を詮索する女達に
「ひまわり畑であたしは産まれたの」と彼女は詮索をはぐらかしつづけた
彼はブルーの作業着を着てあいかわらず工場ではたらいていた
自分より年下の男がなかなか入ってこない工場の中では
あいかわらず彼は下から二番目のままだった
「お前のカミさんちょっと変わってるんだってな」
結婚から3年がたつ頃彼は工場でそう言われることが多くなった
そして彼にそう言うヤツらはみんな決まって女房のシリにひかれていた
でもささやかな日々の暮らしの中必死に家族を護ろうともしていた
次第に仲間の間でうきはじめた二人は
カビくさいベッドの上で愛を確認しつづけた
二人の写真はいつのまにか食卓から鏡のわきに移されていた
3年後二人は最後の夜をむかえた
彼が33歳、彼女が30歳の夏の終わりだった
ささやかな日々の暮らしの中で小さな声で励ましあう人々の輪の外に
はみだした二人にはベッドでからだを寄せ合う以外になすべきことがなくなってい
た
彼女との暮らしの中に逃げ込もうとする彼にひまわり畑で出会ったころの輝きは
すっかり失せていた
真夜中の丘の上のひまわりの洪水の中で彼は彼女の写真を撮っていた
稲光のように光るフラッシュに照らされた彼女の顔は
血の気が無く真っ白に見えたがそれでも微笑みは絶やしていなかった
最後の1枚を撮り終える瞬間彼は自分の目を疑った
彼女の背後に見知らぬ男が立っているように見えた
彼はじっくりと目を凝らした
彼女の背後には彼女を抱くように大きなひまわりが静かにゆれていた
彼女の微笑みに応えるようにひまわりは一晩中彼女を護りつづけた
そして最後の日 午後3時
彼女は微笑むように揺れるひまわりの元へと帰っていった・・・