餓鬼岳登頂記念のカードには、恐ろしい餓鬼の姿がある。餓鬼が薄く笑いながら言う。「よくきた」
2004,08,20〜22
上下二段の雲の間からオレンジ色の朝日が昇ってくる。長丁場に備えて5時の朝食を終えたら早々に出発する。
燕岳を過ぎ北燕へと辿ると、砂礫の道にしおれかけたコマクサが揺れる。山はもう夏から秋へ。
チングルマや一面のトリカブトを眺めながら、滑りやすい道を大きく下る。ここから東沢乗越まで一気に400m近くを下りる事になる。
花の頃も紅葉の時期にもこの辺りはきっと美しいだろう。しかし歩く人は少なく、登山道は荒れている。東沢乗越から樹林帯の中、胸を突く厳しい登りが続く。
東沢岳稜線に出てビックリ、数々の岩峰の遙か彼方に餓鬼岳小屋の赤い屋根がかすかに小さく見える。あの場所まであと何時間か。
ガレ場をぬけ、岩陵を登下降する。中沢岳辺りには数々のハシゴやハシゴを水平に置いただけの桟道がかかる。
巨岩の側面の枯れた桟道の間からは、スッパリと深く切れ落ちる谷が恐怖心を煽る。バランスをくずさないように緊張する。悪天候には通りたくない所の一つだ。
いくつもの岩峰を越えると 高瀬のダム湖が美しい。ここで昼食にしよう。この先、食べる所がないかも知れない。大岩を越えながら考える。確か明日はこの道を戻る予定だったような・・・。
緊張の連続で疲労感も増す。やっと山小屋に到着する。歩行時間約8時間。久しぶりの長時間歩行だった。餓鬼岳まではすぐだがもうガスの中。翌朝登ることに決めた。
昔ながらの小さな餓鬼岳小屋は、食事も寝る場所も同じ。トイレは外、飲料水は天水を沸かして使う。夕食は名物のちらし寿司。只今、冷凍庫設置工事中。
食事が終わると、小屋の人が一斉に布団を敷いてくれる。人数分18枚の布団を敷き詰めたら小屋はいっぱいになった。
翌朝、予定を変更して白沢へ下りる事にする。それでも、沢山のハシゴと鎖に緊張しながらの下山道。
魚止の滝、もみじの滝のみごとな眺めに癒されながら歩き、タクシーの待つ白沢へ。いつもなら下山でコースタイムを縮めるが、このコースではそれもなかった。
無事に下りてこられてホッと一息。今度はもっとゆっくりした山行がしたくなった。