涸沢小屋前テラス
南陵下部このころは晴れていた
やっと見えた槍の穂先
奥穂山頂に雲がかかる
涸沢が見えてきた、穂高の連なりも

いつの日も目標であり続けた山、常念から、蝶ヶ岳から絶世の美女のように仰ぎ続けてきた山、穂高は私の中で最も気高く近寄りがたい存在でした。2005,9,16〜18

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 久しぶりに休暇を取って3連休の混雑を一日前だおし、新宿から夜行バスで上高地に入りました。上高地バスターミナル2階にある食堂で腹ごしらえを済ますとまばらな登山者に混じって徳沢・横尾と辿って行きます。ことさらゆっくりとペースを落として、しかし休憩を少な目にして歩きます。

 今回は2泊3日で北穂・涸沢岳・奥穂・前穂と辿る穂高縦走です。紅葉シーズンには混雑で苦しい思いをするに違いないと予想し、紅葉前で最も花も少ない時期をねらって行けば山小屋も空いているに違いないと判断した私の予感は半ば当たっていました。

 昨年も涸沢までは上がっているので1日目の行程はゆったりしたもの、涸沢手前のガレ場も昨年はルートファインディングに苦労したのですが今年は楽々です。そうここは横幅の広い登山道ですが最も左端を辿るのが正解なのです。

 朝、バスの運転手が乗客達に説明していた「霞沢岳の三本槍がくっきり見えたら山は快晴」と言う話とは裏腹に徳沢に着く頃にはうっすらとガスが出てきました。この調子だと涸沢から穂高を見ることは出来ないかなと心配しながら歩いて行きます。

 その心配通り涸沢に着いた頃にはあたりはすっかりガス、前穂や奥穂の山頂もお預けです。仕方がないのでいつもの通り涸沢小屋前のテラスでビールを始めます。

 穂高連峰の小屋はどこもテラスがありこの雰囲気がすばらしい。あたりが見えなくともいろんな登山者の期待が心を暖かく軽いものにしてくれます。

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 2日目、今日はいよいよ山頂だ。昨日のガスはだいぶ払われているが前穂も奥穂も山頂はガスに隠れている。この調子だと上に登れば何も見えなくなってしまいそうだ。6時になるのを待ちきれない気分で北穂南陵に取り付く、これまでの登山道と違い大きな岩ゴロの厳しい登りが続く。

 南陵を上り詰めたあたりから周囲はすっかりガスの中だ。約2時間半、北穂山頂に着く、広場のような山頂の片隅に北穂高小屋の赤い屋根が寄り添っている。自慢のテラスからの眺めも真っ白な壁の中。すぐそこに近づいているはずの槍ヶ岳も全く姿を見せてくれない。仕方がないのでのどを潤したら早速今日の核心部を目指してスタート。

 北穂から涸沢岳そして白出のコルまでの稜線は、滝谷側からかけ登ってくる冷たい風にさらされ続け、恐ろしいほどの岩稜帯が続きます。途中足がかりも手かがりも少ない岩をよじり、しがみつきながら辿って行き、最低コルを過ぎ涸沢岳の登りにかかる頃には疲労がどっしりと身体を支配してきます。

 慎重に・慎重にと言い聞かせながらの登りはさすがに片時も休みを与えてくれない。ピークをひとつひとつ越えるたびに着実に距離を稼いでいるのだと信じ、涸沢岳に着く頃にはガスの中の登山は「もう、結構!!」と独り言を言い始める始末です。

 やっと穂高岳山荘に着いて一杯千円のラーメンとビールで心も身体もほぐすのにたっぷり30分はかかりました。それでもまだ昼過ぎと早いので小屋前に立ち、眼前の奥穂岩壁を見上げ、たまに姿を見せる常念岳を楽しみながら疲労の余韻に浸ります。
 

前を行く登山者がいないとルートが判らない

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 最終日残念ながら日の出の頃、昨日のガスが小屋前の大展望をすっかり隠して常念山脈の山々はうっすらとしたシルエットだけしか見えない。それでもあきらめきれない登山者でテラスは一杯です。
 
 今日は奥穂から吊り尾根・前穂と辿り岳沢経由で上高地に下山するルート、厳しいロングコースだ。続々と出かけて行く登山者で小屋前の奥穂岩壁はすっかり人間渋滞。そんな渋滞を避けるようにゆっくりと出発します。

 嬉しい!!気がつくとさっきまであたりに立ちこめていたガスが吹き払われて奥穂の上部までよく見えるようになってきた。ウキウキと登って行く有名なハシゴ、さらに上がるとジャンダルム・ロバの耳、右を向くと姿の美しい笠ヶ岳、見とれていたら後にまたまた渋滞を作ってしまった。

 奥穂山頂、多くの登山者が狭い山頂にひしめき合っている。記念撮影の瞬間を待つのが大変だ。ちょっと振り向くと白出のコルに雲が流れ槍がその上に穂先を見せている。それでも前穂は薄い雲の中でベールを被ったようだ。

 山頂の喧噪を抜けて吊り尾根を行く、昨日とは違い険しい岩稜帯も明るい日差しの中、さわやかな気分だ。しかしここもゆっくり休めるところはない。すれ違いもやっとだ。

 辿り着いた紀美子平は少しだけ気を抜ける所だがここも登山者で一杯。ちょっと間休憩したら早速前穂をピストンする。いつも徳沢から見上げていたピークが今目の前にある。多くの登山者に混じって山頂を極める。振り向くとガスの笠を被った奥穂山頂。雲が綺麗だ。本当に綺麗だ

 やっと晴れた一日を惜しみながら重太郎新道を降りて行く。はじめの内は厳しい岩だらけの道だが次第に伸びやかな下山道となる。所々に鎖やハシゴが現れるが厳しかった山道が懐かしいほどだ。岳沢ヒュッテの赤い屋根が見えると明るい沢の中に飛び込んで行くようだ。今日もヒュッテでラーメンにしよう。

 岳沢から下の道はそれまでの登山道とはうってかわった公園の中の道のようだ。上高地までを飛ぶように降りる。

奥穂山頂にて





穂高縦走