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みかきもりの気ままに小倉百人一首

2016/9/04 歴史的仮名遣

仮名遣いは日本語の仮名文字を使う時の表記方法です。
多くの百人一首札は歴史的仮名遣で表記されています。
ふだんは現代仮名遣いで日常生活を送っていますが、古典である小倉百人一首を使う競技かるたを
長年していると歴史的仮名遣も少し身近に感じられます。

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1天智天皇秋の田のかりほの庵のとまをあらみ
わがころもでは露にぬれつつ
[みかきもり]
秋の田の かりほの庵の とまをあらみ わがころもでは 露にぬれつつ
現代仮名遣いで仮名表記すると以下になります。
あきのたの かりおのいおの とまをあらみ わがころもでは つゆにぬれつつ
「かりほ」が「かりお」では苅穂と仮庵と掛けているのが台無しです。

かくとだに えやは伊吹の さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを
現代仮名遣いで仮名表記すると以下になります。
かくとだに えやはいぶきの さしもぐさ さしもしらじな もゆるおもいを
「えやは言ふ(いふ)」「伊吹」「息吹き」と掛けていたり、「さしも草」(よもぎのことで、灸に用いるもぐさの
原料)、「燃ゆる」「ひ(火)」の縁語のある技巧をこらした歌ですが、「おもひ」が「おもい」になることで
肝心の火が消えてしまったような歌になります。

古典の小倉百人一首は、現代仮名遣いでなく、歴史的仮名遣で表記されていることでその歌を深く
理解できると感じます。

13世紀前半に小倉百人一首を編纂した藤原定家は多くの古典を書写しました。定家はその書写した
古典が後世に伝わることで後の人がその古典を知ることができるということでも大きな功績があります。
それらの古典が様々な仮名遣いで表記されていたのを、原典に対する忠実さよりも読みやすさを重視
して仮名遣いの表現に一貫性があるようにしたのがいわゆる定家仮名遣です。
ソフトウェアのプログラミングにおけるコーディングルールのようなもので、表現に一貫性がないと理解
しづらい・誤りのもとになる等の認識があったのではないでしょうか。
定家は下官集にその書写ルールをまとめ、その中の「嫌文字事」で「を・お」、「え・ゑ・へ」、「い・ゐ・ひ」に
ついてどのように仮名遣いするかを言っています。

競技かるたをする者として興味深いのが、「を」「お」の仮名はアクセントの高低によって、高音を「を」、
低音を「お」とするルールです。現代仮名遣いでは助詞「を」以外は「お」で表記します。現代仮名遣いの
仮名にとらわれて素直に音が聞けていない人に音の違いを説明するための表記法が日頃必要だと
感じていますが、こうしたことも説明のきっかけによいかもしれません。

14世紀後半に行阿は「仮名文字遣」を著し、「を・お・ほ」、「わ・は」、「む・う・ふ」の諸例を増補しました。
この増補したものが定家仮名遣ということで、歌人や知識人を中心に広く普及し、仮名遣いの規範と
なります。日本語のアクセント等も歴史とともに変化しますので批判もありますが、定家の権威やすでに
普及して慣習になっていることもあって定家仮名遣が用いられます。
江戸時代中期の元禄時代に契沖が万葉集や日本書紀などの古い文献を研究して古代の日本語には
1つの言葉に対して1通りの仮名表記しかないと発見し、『和字正濫抄』で契沖仮名遣を説きます。
この契沖仮名遣を修正・発展させたものが、明治時代に入って公文書や学校教育で用いられます。
公に仮名遣いが日本の社会の中で統一的になったのは明治時代に入ってからといえます。
第二次大戦後の昭和21年(1946年)に現代かなづかいの実施が内閣告示され、それまでの仮名遣いを
歴史的仮名遣または旧仮名遣いとして区別するようになりました。

1950年代前半、競技かるた界は東日本かるた連盟が現代仮名遣いによる新制かるたの使用を主張し、
西日本かるた連盟は古典としての小倉百人一首尊重の立場からその主張を否定するという混乱期が
ありました。
新しい社会がつくられていく中で、何を受け入れて、何を捨てるのかは大きな問題です。
競技かるたをただ取るだけなら歴史的仮名遣か現代仮名遣いかは慣れの問題でしかありませんが、
競技かるたの札に使われている小倉百人一首そのものは茶道、能、書道など日本の文化に大きな
影響を与えています。世の中の変化を機に新しい事をやろうというのもまた一つの理ですが、
小倉百人一首を使う競技かるたを脈々と続く日本文化の中に位置づけて発展させていくために、古典や
歴史の縮図である小倉百人一首を通じて古典を知り歴史を知って温故知新で新しい未来を築いていく
ために、小倉百人一首を尊重することが大切であり、歴史的仮名遣を用いることは自然に感じます。

BE LOVE 17号(2016 9/1) ちはやふる第171首、18号(2016 9/15) ちはやふる第172首では高校選手権
個人戦決勝を行っており、読手の読んだ1枚1枚における臨場感や緊迫感が描かれています。ここでは
読手の読みを現代仮名遣いで表記しています。
和歌と関係なく、現代を舞台にした競技かるたの読みの音声を表記しているだけですから、慣れからくる
若干の違和感はありますが表現として間違ってはいないように思います。
ちはやふる第171首:「やすらわで」「あらざらん」「あいみての」「こいすちょー」「おーことの」
ちはやふる第172首:「いまこんと」「めぐりあいて」

次の「ちはやふる」はBE LOVE 20号になりますが、A級、B級の決勝に決着がつき、今度はC級決勝の
かなちゃんがメインになるのかな?(2016 11/1古典の日で21号?) とても楽しみです(^^)
51藤原実方かくとだにえやは伊吹のさしも草
さしも知らじな燃ゆる思ひを

■参考文献
・古語と現代語のあいだ~ミッシングリンクを紐解く~  白石 良夫     (NHK出版新書)
・百人一首 全訳注                  有吉 保      (講談社学術文庫)
・全訳古語辞典(第二版)               宮腰 賢、桜井 満  (旺文社)


■参考URL
・Octopus's Page 日本競技かるた史(2) 4.競技かるたの復興Wikipedia 仮名 (文字)Wikipedia 定家仮名遣Wikipedia 下官集Wikipedia 歴史的仮名遣Wikipedia 字音仮名遣Wikipedia 現代仮名遣い詞の玉垣歴史的仮名遣ひ教室

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