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守・破・離(しゅはり)

規矩(きく)作法 守りつくして 破るとも 離るるとても 本(もと)を忘るな

この歌は千利休の歌で「守・破・離」の言葉の原典といわれて、茶道ばかりでなく、
剣道など武道でもよく用いられる言葉です。
解釈
規矩作法 師匠から手本となる形や尺度、規則、作法といった基本を習う(聞く)。
[備考]
・規矩作法は「規矩術(規矩法)」のもじり。
・規矩は「聞く」を掛けている。
・規は円でぶんまわし(コンパス)、矩は直角で指矩(さしがね)の意で、規矩(きく)は転じて、形や寸法を意味する。
・指矩(さしがね)は聖徳太子を連想させ、素直に聞くことを暗示する。
[備考の備考]
・規矩術(規矩法)は、縦・横・斜めに複雑に組み合う木造建築の接合部分を幾何学的に指矩で作図する手法で、
 その習得にはかなりの修行と経験が必要である。
・聖徳太子は四天王寺や法隆寺などを創建し、百済より番匠を招いて新たな建築技術を導入した。
 法隆寺にある史料で指矩を持った聖徳太子像(鎌倉時代作)があり、現在でも大工の神様として
 崇拝されている。
・聖徳太子は10人が我先にと発した言葉を理解して的確に返答した故事より「豊聡耳」と呼ばれた。
 (人の話をよく聞きわけて理解した)
・聖徳太子は十七条憲法を604年に制定した。
 (一に曰く、和を以って貴しと為し、さからうこと無きを宗とせよ)
守りつくして 師匠から習った教えを忠実に守って基本を身に付け、その基本の持つ本質を理解する。
破るとも 体得した基本が自然にできた上で、自分の工夫や努力によって師匠の教えを破って成長する。
離るるとても 自分の努力と創造によって師匠の教えを離れて精進することで、自らの境地を築く。
本を忘るな どの成長過程においても本質を忘れてはいけない。


競技かるたもまたこの利休の歌のように成長過程があると感じます。
日本文化における道の根底には「守・破・離」があるのでしょう。
段位と対応づけると次のような感じになると思います。
【規矩作法】無段はまだ競技かるたの規矩作法を習い、基本を体得している段階。
【守】初段から参段はかるた技への理解を一層深めて体得していく段階。
【破】A級選手になって一人前といわれ、四段から五段はかるた技の著しく成長した姿が見える段階。
【離】六段以上はかるた道を究めて、自らの境地を築く段階。
段位免許/允許/推挙の文面は以下の通りですが、とても教養に優れた方が作成されたと思われる
素晴らしい文です。

■競技かるたの段位免許/允許/推挙の文面
段位 段位免許/允許/推挙の文面
無段  
初段 かるた技の習得に熱心し其技堂奥に入る 依而初段を授く
弐段 かるた技の習熟に勉励し其妙諦に達す 依而弐段を授く
参段 かるた技の研究に励精し其真髄を会得せり 依而参段を授く
四段 かるた技の真髄に通暁して研鑚の功愈著し 依而四段を授く
五段 かるた技の精妙を極めて殆ど完璧の域に達す 依而五段を授く
六段 貴下かるた道を究めて芸術の秘奥を闡明す 依而六段を授く
七段 貴下かるた道を究めて余蘊なし加ふるに勲功顕著也 依而七段を授く
八段 貴下かるた道を究めて玄を悟り幽を啓き勲功斯界に輝く 依而八段を授く
九段 貴下かるた道を究めて遂に神仙の域に迫る 依而九段を允許する
十段 貴下かるた道を啓いて一世の儀表たり且つ勲功現代に絶す 依而十段の極位に推す


私の仕事柄で言えば、ソフトウェア開発組織&プロジェクトの成熟度を測り、また改善を推進
するためのモデルとして米国カーネギーメロン大学ソフトウェア工学研究所が作成したCMMI
がありますが、この段階表現にも「守・破・離」があるように見えます。
「カイゼンKAIZEN」は日本文化の「守・破・離」という土壌の中で生まれ、それが世界に広がった
のだと感じました。

■能力成熟度モデル統合 CMMI V1.2 (Capability Maturity Model Integration) 段階表現
成熟度レベル プロセス管理 プロジェクト管理 エンジニアリング 支援
レベル1. 初期 (場当たり的で無秩序)
レベル2. 管理された   プロジェクト計画策定【PP】
プロジェクトの監視と制御【PMC】
供給者合意管理【SAM】
要件管理【REQM】 測定と分析【MA】
プロセスと成果物の品質保証【PPQA】
構成管理【CM】
レベル3. 定義された 組織プロセス重視【OPF】
組織プロセス定義+IPPD【OPD+IPPD】
組織トレーニング【OT】
[備考]
IPPD (Integrated Products and Process Development) ; 統合成果物プロセス開発
統合プロジェクト管理+IPPD【IPM+IPPD】
リスク管理【RSKM】
要件開発【RD】
技術解【TS】
成果物統合【PI】
検証【VER】
妥当性確認【VAL】
決定分析と解決【DAR】
レベル4. 定量的に管理された 組織プロセス実績【OPP】 定量的プロジェクト管理【QPM】    
レベル5. 最適化している 組織改革と展開【OID】     原因分析と解決【CAR】


規矩(きく)作法 守りつくして 破るとも 離るるとても 本(もと)を忘るな

この三十一文字の歌は、日本の歴史と文化がぎゅっとつまっているとともに、明日の成長を
期待し信じているのだと思いました。


■参考URL
Wikipedia 規矩術
Wikipedia 金剛組
Wikipedia 聖徳太子
Wikipedia 十七条憲法
monotsukuri.net 大工規矩術技能
大工道具に生きる 指金(さしがね)の話(1)
大工道具に生きる 指金(さしがね)の話(2)
規矩尺術 さしがねの技法
さしがね 聖徳太子と永六輔
和宗総本山 四天王寺 番匠堂曲尺太子 奉賛法要
うえまち漫遊 四天王寺の巻 〜其の弐 大工の信仰を集める番匠堂〜
聖徳太子の憲法十七条
十七条の憲法 −現代語訳付き−
CMMI V1.2モデル - 開発のための - 公式日本語翻訳版


この文章は下記掲載の原稿を大幅に見直して、ホームページ用に書き改めたものです。
・大阪暁会機関誌「あかつき」第25号(2007年1月発行) 『守・破・離(しゅはり)』

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