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競技かるたとコンピュータ
8.ハンディキャップを持つ人への支援

 競技かるたは老若男女を問わず幅広く楽しまれているが、しかしこれは身体にハンディを持っていない場合であり、ハンディを持つ人が競技かるたを楽しむためには何らかの方策を考える必要がある。

 席に座ること、札を数えること、札を見ること、札を並べること、札を覚えること、読みを聞くこと、札を取ること、どちらの取りか判断すること、飛ばした札を探すこと、札を拾うこと、相手や審判と話すこと、その他いろいろなことが通常の競技かるたで行われ、ハンディを持たない人にとっては何でもないことであるが、なんらかのハンディを持ったためにそうしたなんでもないことができず、競技かるた(などのかるた競技)を行えないというのは非常に残念である。片手や片足がやや不自由という程度のハンディなら現在でも競技かるたは可能であるし、事実そういう競技者の姿を競技会で見かけることもある。しかし、目が見えないとか耳が聞こえないといったハンディは現在競技かるたをすることを不可能にしている。

 だが、それを初めから不可能だと決めてしまっていいのだろうか。ハンディを持たない人とまったく同じにはできないだろうが、目が見えないなら見えないなりのやり方、耳が聞こえないなら聞こえないなりのやり方を考えることは可能である。そのときもコンピュータ技術は活躍してくれる。ここでは目が見えない場合の試合のシミュレーションを例として挙げる。

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 AとBの対戦が決まり、向かい合って座って一礼した。AとBの間には他の競技者の組とは違い、新しく開発された競技線サイズのボードが固定されていた。これはBが目が見えないことから特別競技規定に沿って競技が実施されるためである。このボードは、競技者が所定の方法で指定して並べた取り札の表示を行い、競技者がボード上のどの位置をどのような方向でどれくらいの圧力でどういう時間経過でタッチしたかを記憶し、競技者の取りによる札の移動シミュレーションを行う。そして無線通信によって、試合を管理するコンピュータから今読まれた札が何だったかを受け取り、取りやお手付きの判断をして競技者に知らせる。

 AはBに札入手ボタンを押すことを告げてそのボタンを押した。どちらが押してもいいのだが、押すときに必ずその旨を告げるルールである。コンピュータからAとBのそれぞれのボードに25枚の取り札データが転送された。AとBはすでに札の定位置をコンピュータ登録しているので、取り札はそれにしたがって並べられボードに表示された。表示が完了するとシグナルが鳴って完了したことを知らせた。AとBはおたがい利き手に薄い手袋をはめた。これはどちらの競技者がボードにタッチしているかボードのセンサーが判断するためのものである。

 Aは表示を見て、右上段の「ながら」をタッチして自由移動ボタンを押し、左中段の左端から3枚目の位置をタッチした。すると「ながら」はそこへ移動した。さらに「ながら」にタッチして右移動ボタンを押すと、「ながら」は札横幅の半分だけ右移動した。同様にいくつかの札を移動し並び終えた。

 Bは補聴器のような物を取り出して耳につけた。これはボードと無線通信を行って音声によって札の情報などを知ることができる通信器である。Bは通信器のボタン操作を行い、どの段にどんな札があるか音声で聞きながら札の位置を知った。この通信器は、ボードに表示されている札にタッチして、それがなにかを音声で確認できる機能も持っている。Bはこうして音声で札を確認しながら、Aと同様に並べ替えを終えた。

 Aはボード上の表示を見ながら取り札の位置を暗記し、Bは音声を聞きながら取り札の位置を暗記した。そして暗記時間は終了し、試合開始となった。

 序歌が読まれ、1枚目の札「あらし」が読まれた。Aは自陣右上段を払いこれをとった。ボードはAの取りであることを表示し、Bは通信器のメッセージを聞いてとられたことを知った。Aは右上段の一番内側の札にタッチして、右移動ボタンを押して札を寄せ、「あらし」が抜けた隙間をふさいだ。Bは通信器のメッセージで札が寄せられたことを知り、通信器のボタンを押して相手陣右上段の並びを確認した。

 次の読みが始まり、2枚目の札「しら」が読まれた。Bは相手陣左下段を払い、またAも同じく払った。ボードはBの取りであることを知らせた。Bは「なにわが」をタッチし、送りボタンを押した。Aは点滅している送られた札にタッチし、自由移動ボタンを押して右下段の1番外側をタッチした。「なにわが」はそこへ移動した。Bは通信器のメッセージでそのことを聞いた。

 次の読みが始まり、3枚目の札「なにわえ」が読まれた。Bは相手陣の「なにわが」にさわってから、戻って「なにわえ」をとった。ボードはBの取りとお手付きを知らせた。

 そうして次々と札が読まれ、試合が進行していくのであった。
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 実際の製品化にはセンサーや耐衝撃性などの技術的課題や経済的側面など現状ではまだまだ困難なところも多く、また通常の競技規定とは別の規定を設けていく必要もあると思われる。しかし、これからますますの発展を期待される競技かるた界がそうしたハンディを持つ人の可能性を引き出す試みをいつか行う日が来ることを期待したい。