『カンマを伴う分詞句について』(野島明 著)
第一章 「カンマを伴う分詞句」をめぐる一般的形勢、及び基礎的作業

第2節 《分詞構文》という了解


〔注1−17〕

   先行詞に後続する関係詞節は、その在り方に「制限的」と「非制限的」の区別はあれ、その文法的機能はいずれにせよ「名詞修飾」である。関係詞節(形容詞節)は先行詞を主要部とする名詞句の構成部である。先行詞と関係詞節との関係について述べれば、

先行詞は、関係詞節が後置修飾要素として機能している名詞句中の先立つ[preceding]部分である。(CGEL、6.32)(「名詞句に先立つ部分」ではないことに注意。「先行詞+関係詞節」全体がここでの名詞句である)
   ということになる。

   例えば

The book which you ordered last month has arrived. [1] (CGEL 6.32)
   においては、「名詞句」とは"The book which you ordered last month"であり、「名詞句中の先立つ部分[先行詞]」とは"The book"である。更に、CGEL、17.9以降参照。

   時に、非制限的関係詞節に副詞的働きを感じ取れることがある。

Ann thanked her teacher, who had been very helpful. (CGEL, 17.4)
   この非制限的関係詞節(下線部)が、「理由(’because he had been very helpful’, or ‘for being very helpful’)」といった「副詞的機能[function]を含意する[imply]こともある」(ibid, 17.4)にせよ、こうした「含意されている副詞的機能」は意味内容の水準における解読に依拠して語られている(ただし、「そもそも文法が関わるのは、明示的な[explicit]もの、即ち、形態的に表現されているものである。」(KRUISINGA & ERADES, An English Grammar. Vol. I. Accidence and Syntax, 90-6))。母節と関係詞節、それぞれの意味内容の間に解読可能な関係の在り方が、関係詞節の文法的機能であるとして記述されることはない(ただし、Kruisinga & Eradesは非制限的関係詞節の一部を「関係詞節と副詞節の間にも明瞭な境界がないことを証明する第三の種類の節」であるとして「準副詞節[semi-adverbial clauses]」と呼称している(ibid, 137-1))。「解読可能な関係の在り方」と「機能」との関係については、[1−8]参照。

   「制限的名詞修飾」の場合の、修飾要素と被修飾要素の一体性を山田善郎(監修)『中級スペイン文法』は実に要領よくまとめている。

形容詞が名詞の指示する対象の幅を狭め,限定・制限するのが制限用法である。また制限用法ではある対象を形容詞と名詞の2つで表わしている。(p.62)(下線は引用者)
   「形容詞と名詞の2つ」とはもちろん修飾要素と被修飾要素という二つの部分ということである。

   名詞を後置修飾する形容詞要素が、被修飾語句とともに一つの名詞句を構成するという事態は、時には次のような微妙な記述を吟味する中で体験できる。

文末の位置[final position]にあって、それより前には位置し得ない形容詞句[Adjective phrases]は、普通、その前に位置する名詞句の非制限的後置修飾要素[nonrestrictive postmodifiers]である。そうした形容詞句は文の他の部分から抑揚によって切り離されているとしても[even though]、である。(CGEL, 15.62 Supplementive clauses in final positions[文末に位置する補足節])(下線は引用者)
   例えば次のような場合である。
The cows contentedly chewed the grass, green and succulent after the rain. ['which was green and succulent ….' ]〈雌牛たちは満足げに草を食んでおり、草は雨の後、緑鮮やかで瑞々しかった。〉(ibid) (下線は引用者)
   「従って」という接続語句が選択されてもよい以下の注参照])箇所で「としても」が選択されているのは、副詞的要素[adverbials]が「節の要素の外で機能している(即ち、文法的に節の要素とは別個である)」(ibid, 8.1)のとは対照的に、ここで取り上げられるような形容詞要素は「文の他の部分から抑揚によって切り離されているとしても」(ibid, 15-62)、「節の要素内で機能している(即ち、文法的に節の要素(この文の目的辞the grass)の一部である)」(ibid, 8.1)ということを含意しているからであるように読める。

   [注]
   「従って」という接続語句がなぜ選択されてもよいかと言えば、次のような事情を指摘し得るからである。

   文末にあって、それより前には位置し得ない形容詞句は、普通、それに先行する名詞句の非制限的後置修飾要素である。従って、文末に位置するこうした形容詞句は、文の他の部分から抑揚(あるいは句読点)によって切り離されるのである。

(〔注1−17〕 了)


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