『カンマを伴う分詞句について』(野島明 著)
第一章 「カンマを伴う分詞句」をめぐる一般的形勢、及び基礎的作業

第3節 カンマの有無を契機とする「制限的修飾」と「非制限的修飾」


〔注1−20〕

   名詞修飾要素を含む名詞句の指示内容が受け手に伝わるのは、その名詞句を構成要素とする発話が与えられた場合、あるいはそのような発話が一定の脈絡の中に置かれた場合である。例えば、"a tall girl standing in the corner who became angry because you knocked over her glass after you waved to her when you entered"〈あなたが入ってきたとき手を振ってその眼鏡をはじき飛ばしてしまったので腹を立てた隅に立っている長身の女性〉(CGEL, 17.1)という名詞句が、「どの女性なのか[which girl?]という問いに応じるような情報であり得るためには、つまり、この長々しい名詞句は「どの女性」を指示するのかが受け手に伝わるためには、この名詞句を構成要素とする発話が与えられるか、そのような発話が一定の脈絡の中に置かれることが必要である。この長々しい名詞句自体には「意味自体」を認め得るに過ぎない。

   こうした事情は、"A flat shape which has three straight sides and three angles whose sum is equal to two right angles."〈三つの辺とその和が2直角になる三つの角を有する平面図形〉という発話についてなおいっそう鮮やかに当てはまる。こうした発話は付随する脈絡に応じて、"which one?"という問いに応じるような情報とも、"what one?" という問いに応じるような情報ともなり得る(更に[1−18]末尾の『クロース 現代英語文法』からの引用参照)。この名詞句の指示内容は、例えば、黒板に描かれているいくつかの図形の内の右から三番目のものに照応することもあれば、三角形の観念に照応することもあろう。

   名詞句それ自体については次のような記述が当てはまる。

実際、記号というものを問題にする場合には、記号の個別的生起、すなわち、それが特定の人によって時問および空間内の特定の一点において使用されたという一回かぎりの出来事(これを英語では記号生起sign-tokenという)が問題であるのか、それとも、利用されたかされないかという事実とは無関係に考察された記号それ自体(記号型、英sign-type)が問題であるのか、常に明確にしなければならない。ところで、それ自体として理解された記号は、多くの場合、それと指定できるような指向対象をもたない。(《私》、《おまえ》、《その少年》《街路をさかのぼってゆく車》などが、何を指向するというのだろう?)例外を別にすれば、記号の生起、特定の話し手による特定状況下における使用のみが、指向的価値をもつ。記号それ自体に関していえば、それには《意味》を認めることができるにすぎないのである。
(O・デュクロ/T・トドロフ『言語理論小事典』【指向】の項, p.391)
   制限的修飾要素は名詞句に前置される場合も勿論ある([1−18]参照)し、後置される場合でも、必ずしも被修飾語句の直後に位置するわけではない。
名詞句が節構造内の他の語句によって分断されるのは稀ではない。例えば、以下の名詞句においては、(名詞句中の)主要語と後置修飾要素の間に時間に関する付加詞(this morning…引用者)が置かれていることに注意。

I met a man this morning carrying a heavy parcel.

この構造については何の不都合な点もないが、不連続を避けるために、副詞的要素を文頭の位置に移すことは可能である。即ち、 This morning I met a man carrying a heavy parcel.〈今朝、重い荷物を運んでいる人に出会った。〉
(CGEL、17.122)(下線部と太字は引用者)

   文例をもう一つ。
A rumour circulated widely that he was secretly engaged to the Marchioness. (Cf: ‘A rumour that he was secretly engaged to the Marchioness circulated widely.’)
〈彼はあの女侯爵と密かに婚約したという噂が広く流布した。〉
(ibid, 18.39)(下線と太字体は引用者)

(〔注1−20〕 了)

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