『カンマを伴う分詞句について』(野島明 著)
第一章 「カンマを伴う分詞句」をめぐる一般的形勢、及び基礎的作業

第4節 「特定」の諸相


〔注1−27〕

   ある集合の中の「特定の一個体(あるいは特定の複数の個体)、それゆえ、特別な一個体(あるいは特別な複数の個体)」であることを「特別な個別性」と呼ぶ。「単なる個別性(不特定な一個体、あるいは不特定な複数の個体であること)」とは対照的な概念である。そこに「特別な個別性」という在り方の「特定」が実現されている「a(n)+単数名詞」は、複数の個体の内の任意の一個体で間に合うわけではなく、特別な一個体なのだが、その個体が一定の脈絡の中で「どの個体」に照応するのかという「脈絡内照応性」という在り方の「特定」は必ずしもそこに実現されているわけではない(「脈絡内照応性」という在り方の「特定」が実現されている事例については[1−26]の冒頭の部分参照)。また、「a(n)+単数名詞」によって特別な一個体が指示される場合、その一個体が、発話の外部世界内で「どの個体」に照応するのかという「発話外照応性」を、本稿は直接的記述対象とはしていない。

   不定冠詞{indefinite article}の「不定」については次のようにでも述べておくしかない。

文法的意味での「不定の[indefinite]」が意味するのは実際には「(未だ)名指しされぬであろうもの」でしかない。(Jespersen, The Philosophy of Grammar, pp.113--114)。

(〔注1−27〕 了)

目次頁に戻る
 
© Nojima Akira.
All Rights Reserved.