『カンマを伴う分詞句について』(野島明 著)
第一章 「カンマを伴う分詞句」をめぐる一般的形勢、及び基礎的作業

第4節 「特定」の諸相


〔注1−37〕

   ということは裏を返せば、どんな在り方の「特定」も実現されておらず、「特定」を実現するような「制限」が行われているとは感じられない「a+名詞」もあるということである。"A lion and two tigers are sleeping in the cage."中の"A lion"は発話全体によって「檻の中で寝ているライオン」(このような日本語表現については[1−31]参照)という「制限」を受けているように感じられるが、"A tiger can be dangerous." (CGEL, 5.26)中の"A tiger"は発話全体によって「危害を与えることもあるトラ(という動物種)」という「制限」を受けているようには感じられない。「三つの辺のある三角形」という表現に「制限」を感じ取ることができないのと同じである。ただ、いずれの場合も、その属性が語られていることに注意を向けておけば足りる。上記の"A tiger"について語られた属性はその集合にとっては「通有の[恒常的]属性」であり、上記の"A lion"について語られた属性はその個体にとっては「一時的属性」であるという違いがあるだけである。「檻の中で寝ている」というのは「個別のライオン」の「一時的[偶有的]属性」ではあり得ても、「ライオン(という種)」に「通有の属性」ではありえない。ところが、「危害を与えることもある」というのは「トラ(という種)」に通有の属性であると判断し得る。

(〔注1−37〕 了)

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