『カンマを伴う分詞句について』(野島明 著)
第一章 「カンマを伴う分詞句」をめぐる一般的形勢、及び基礎的作業

第2節 《分詞構文》という了解


〔注1−9〕

   「暗黙の主辞」は日本の学校英文法では概ね「意味上の主語」と呼ばれている。《分詞構文》を導く分詞に先立つ位置に「分詞の明示的な主辞」が置かれている場合、その分詞句は《独立分詞構文》と呼ばれている。

   本稿では「カンマを伴う分詞の暗黙の主辞が導く節」を「主節」とは呼称せず、このような節をその一部とする「カンマを伴う分詞の暗黙の主辞を含む節」を「母節」(更に[1−10]参照)と呼称し、これを用いる。荒木一雄・安井稔編『現代英文法辞典』は《分詞構文》の暗黙の主辞について実に慎重に、「主節の名詞句[主として主語]と同じ」(participial construction[分詞構文]の項)(下線は引用者)と記述している。類書との比較の上では慎重であると評価し得るこのような記述でさえ決定的に不適切であることがやがて明らかになるはずである。

   こうした点を考える上で参考となる文例を挙げておく。CGELに、「暗黙の主辞は母型節[matrix phrase]全体である」(15.59)文例が挙げられている(「母型節」については[1−10]参照)。

The siren sounded, indicating that the air raid was over. [‘…which indicated that …’] 〈サイレンが鳴り響き、空襲の終わったことを告げた。〉(15.59)(下線は引用者)
   この文例の場合、「分詞の暗黙の主辞」がたとえ"The siren"であろうと"The siren sounded"であろうと、母節に暗黙の主辞が含まれていることに変わりはない。

   以下の二例は『現代英文法辞典』より。

Jizake is not subject to ministry testing and thus falls in the second class, meaning less tax and a saving for the consumer.
(地酒は大蔵省の級別審査を受けずしたがって2級酒に分類され、これは消費者にとって税金が少なくてすみ節約ができることを意味する)

The games were completed without any incidents, proving most convincingly the ludicrousness of the Soviet rationale for not participating in the Los Angeles Games. ---The Japan Times
(オリンピックはなんの事件も起きず終了し、ロサンゼルスオリンピックに参加しないソ連の根拠がばかげたことであったことを証明した)。
(participial construction[分詞構文]の項)(下線は引用者)

   後に具体的文例を挙げて示すことになるが、「カンマを伴う分詞の暗黙の主辞」が母節の主辞と一致するという事例は、暗黙の主辞の在り方の一例に過ぎない。暗黙の主辞の在り方は、実際には、さほど単純ではない。

(〔注1−9〕 了)

目次頁に戻る
 
© Nojima Akira.
All Rights Reserved.