第2節 《分詞構文》という了解
〔注1−10〕
本稿では「カンマを伴う分詞の暗黙の主辞が導く節」を「主節」とは呼称せず、このような節をその一部とする「カンマを伴う分詞の暗黙の主辞を含む節」を「母節」と呼称し、これを用いることは[1−9]で示したとおりである。「母節」という用語を用いざるを得ない事情を簡単に述べておく。
新語を造ることは極力避けたい。しかし、「カンマを伴う分詞句」について語る場合、「分詞句の暗黙の主辞を含む節」(これは必ずしも、「分詞句の暗黙の主辞が導く節〔分詞の暗黙の主辞をその主辞とする節〕」であるとは限らない。この点、及び「暗黙の主辞」については[1−9]参照)のことを簡潔に示す用語が日本語には見当たらない。英語の用語の訳語として「上位節[superordinate clause]」(上位節と従位節との関係について言えば、上位節の一部が従位節である…CGEL、14.3)とか「母型節[matrix clause]」という用語はあるが、他の様々な用語と相互に規定し合っている用語であり、本稿が目的としている分詞句に関する記述にとって決して適切な用語とはならない。ここで「母型節[matrix clause]」とは「上位節からその従位節を除いた部分」(CGEL、14.4)である。例えば、
造語せざるを得ない事情は確かにある。例えば
"BMW"以下の節(太字部)を「主節」と呼ぶことが適切であるとは思えないし、「文」や「主文」も適切な呼称であるという気はしない。些かなりとも記述の厳密さを図ろうとすれば、「母節」という造語は止むを得ないものでもある。
本稿では、「カンマを伴う分詞句」の「暗黙の主辞」を含む節を「母節」と呼んで記述の簡潔を図る(ことのついでに、関係詞の先行詞を含む節も「母節」と呼称する。この点については[1−18]参照)。この呼称は上記のような英文をしばしば目にすることを考えれば、決して無用な造語ではないと判断する。ただ、この用語の直接の生みの親は《分詞構文》という特殊事情であると言わねばならないかもしれない。
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