『カンマを伴う分詞句について』(野島明 著)
第五章 分詞句の解放に向かって

第3節 もう一つの「カンマ+-ed分詞句+ピリオド」


〔注5−11〕

   「Healthscape社」を「(Jim) Clarkがネットスケープ社を去った後、新たに設立した企業であるHealthscape社」と考えることは自由だ。ここではそう考えることを強いられる度合いが少ないのである。ただ、次の文例中の"the radiation"の次にカンマが置かれている理由に得心がいきにくいと感じたら、この名詞句の指示内容が「負傷した三人の作業員の内二人が危篤状態になる原因となった放射線」であることを考えてみることは無駄ではあるまい。

   Two of the three injured workers were in critical condition from the radiation, estimated at about 4,000 times the level considered safe for a person to receive in a year, said hospital official Yukio Kamakura.
〈負傷した三人の作業員の内二人は、一年間に被爆しても安全であると考えられている被爆量の約4000倍と見積もられる放射線が原因で危篤状態にある、と病院関係者Yukio Kamakura氏は語った。〉
(Japan nuclear reaction contained (AP), USA Today.com, 09/30/99- Updated 07:55 PM ET)

   代名詞"it"の指示内容を考える場合にも同様の事情を窺うことができる。

She made some soup and gave it to the children. [1]
The sack of Rome shook the whole of the Western World : in a sense, it was the end of the Roman Empire. [2](CGEL, 6.16)
   "it"の指示内容はそれぞれ、一応"some soup"と "The sack of Rome"であると判断し得る一方、[1]の"it"は缶詰のスープではなく「彼女が作ったスープ」であり、[2]の"it"は必ずしも「西洋世界全体を揺るがしたローマの略奪」である必要はないと判断し得る。 こうした場合、"it"は「文脈上既知である[contextually known']」(CGEL, 5.30)対象を指示するが、このことは、[1]の"it"が「[1]とは別の文脈中の"some soup"を指示するということであるわけもない。[1]の"it"の指示内容は「[1]中の"some soup"、即ち「彼女が作ったスープ」である。以上に見るような、代名詞の指示内容という問題については、更に[6−35]参照。

(〔注5−11〕 了)

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