『カンマを伴う分詞句について』(野島明 著)
第六章 開かれた世界へ

第4節 「カンマを伴う分詞句」の「暗黙の主辞」の在り方について

その五 文形式Bの場合


〔注6−35〕

   例えば、@Used like this, they are similar to adverb clauses. は孤立した発話の危さを良く教えてくれる。"they"の指示内容について"Used like this"と語り得るかどうかなど、この発話だけに依拠したのでは到底判断はつかない。通常このような分詞句は、「このように用いられるとそれらは副詞節に似ている。」といった日本語表現に置き換えられることになる。分詞句の暗黙の主辞は、吟味されているようでいて、実は殆ど吟味されてはいない。暗黙の主辞の吟味とは、果たして"they"の指示内容はこの発話に関わる文脈の中で何に照応するのか、"they"の指示内容について常に"Used like this"と語り得るのか、ということだけではない。暗黙の主辞の吟味とは"Used like this"という属性の主体たりうる暗黙の主辞の在り方の吟味のことである。

   文例@は以下に示すような言語的脈絡の一部である(以下は、PEU, 455 participle clauses: adverbial (details)の冒頭部)。

1 Participle clauses are not only used like adjectives, to give more information about nouns. They can also be used to say more about the action of the verb, or about the idea expressed by the sentence as a whole. Used like this, they are similar to adverb clauses.
〈分詞節は形容詞と同じように、名詞について更に多くの情報を与えるために用いられるだけではなく、動詞の活動作用について、あるいはまた、文全体によって表現されている内容について更に多くのことを述べるためにも用いられる。このように用いられた分詞節は副詞節に似ている。〉(下線は引用者)
   "Used like this, they are similar to adverb clauses."の"they"は、その直前の一文(They can also ......)の主辞"they"(これは更に遡って"Participle clauses"と判断することも可能だ)であると《一応》判断し得る。しかし、既に[1−39]で述べておいたように、発話の構成要素である名詞句は、発話それ自体によって「特定」が実現されることになる。"A lion is sleeping in the cage."中の"A lion"はこの発話がピリオドにまで至った時点では既に「檻の中で眠っているライオン」である。同様にして、文例@中の"they"の指示内容は、発話の流れによって「特定」が実現されており、「動詞の活動作用について、あるいはまた、文全体によって表現されている内容について更に多くのことを述べるために用いられたそれら[分詞節]」に照応する。つまり、"they"の指示内容は「分詞節全体」ではなく「分詞節の一部」に照応する。かくして、"used like this"は「分詞節の一部[they]」について語り得ることがらの一端である。「分詞節の一部はこのように用いられ、副詞節に似ている」ということになる。カンマを伴う分詞句にはその暗黙の主辞について語り得る(と話者に判断されている)ことがらの一端が展開されている。

   代名詞の指示内容について、安井稔『改訂版 英文法総覧』は次のように記述している。

   (1)John had lunch at eleven. It was excellent.〈ジョンは11時に昼食をとった。それはとてもおいしかった。〉
   (2)John received a postcard from Mary yesterday. It was very beautiful. 〈ジョンは昨日メアリーから一通の絵葉書をもらった。それはとてもきれいだった。〉
   これらの場合、itはそれぞれ先行する太字体で示した名詞句を受けると言われる。が、これは便宜的な言い方であって、正確にいうと正しくない。先行する文におけるlunchとa postcardとは、いずれも新情報を担っているものであるが、後続する文におけるitは、先行する文における新情報を受け継ぎ、今度は、それを旧情報としてとらえているものであるからである。この点をふまえて言い換えを行うとすれば、itは、それぞれ、lunch,a postcardを受けるものではなく、the lunch he hadおよびthe postcard he received from Mary yesterdayとすべきものである。(36.5. 人称代名詞と情報構造)(下線は引用者)
   更に、[1−52]参照。

(〔注6−35〕 了)

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