『カンマを伴う分詞句について』(野島明 著)
第六章 開かれた世界へ

第1節 異邦人の孤立


〔注6−3〕

   別の参考書PEUの分詞句に関わる箇所から、発話という視点から記述が行われていることを見て取れる記述と文例を挙げておく(細かな点について多少の記述があるのだが、省く)。

@ I like the girl sitting on the right. (Or: . . . who is sitting . . . )(PEU, 454)
〈ぼくは右側に座っている女の子が気に入った。〉(もしくは、who is sitting ….)
(下線は引用者。[1−1]でも挙げた文例)
   この文例に、次のような記述が続く。「非進行的[non-progressive]意味を表すには、関係詞節を用いよ。」(ibid)つまり、@中の分詞句は「進行的意味」を表しているということだ。そして次の例を挙げている。
The boy who brings the milk has been ill.
〈ミルクをいつも運んでくる男の子はこのところ体の具合が悪い。〉
The man who threw the bomb was arrested. (Not: *……the man throwing ……)(ibid)
〈爆弾を投げつけた男は逮捕された。〉(下線は引用者)
   英語で書かれた学習用文法書に見られるこうした記述に特徴的なのは、分詞句についての記述は、分詞句の読解についての記述というよりむしろ、分詞句をどう用いるかについての記述であるということである。従って、分詞句についての記述の中に、分詞句を用いるのが適切ではない場合は形容詞節(関係詞節)を用いるようにとの指示が見られることは、話者の視点から記述が行われていることを考えれば、不自然でも余計でもない。分詞句と関係詞節の使い分け、これも分詞句の用い方の一部である。

   日本の学習参考書の中では決して見かけることのない書き換えも目にする。PEGは「324 間接話法[Indirect speech : mixed types]」の中で、「C 二番目の導入動詞が分詞であることがある。」として直接話法の文を《分詞構文》を含む間接話法の文に置き換えている。

'Please, please, don't drink too much! Remember that you'll have to drive home,' she said
= She begged him not to drink too much, reminding him that he'd have to drive home.

'Let's shop on Friday. The supermarket will be very crowded on Saturday,' she said
= She suggested shopping on Friday, pointing out that the supermarket would be very crowded on Saturday.(下線は引用者)

   以下にCollins COBUILD on CD-ROMから引用する記述もまた、話者の視点からのものである。
文字表現[writing]においては、一つあるいはそれ以上の形容詞を含む句を文に付加することができる。これは一文の中で二つの陳述を述べるもう一つの方法である。
例えば、`We were tired and hungry. We reached the farm'と書く代わりに、`Tired and hungry, we reached the farm'と書くことも可能である。
(Collins COBUILD on CD-ROM, 8.135) (下線は引用者)

文字表現[writing]の場合、受動的意味をもった非定動詞節を導くために過去分詞を用いることがある。
例えば、`She was saddened by their betrayal and resigned'と書く代わりに、`Saddened by their betrayal, she resigned'と書くことも可能である。主節は、過去分詞節の中で言及されている事態の結果を述べていることもあり、そのような事態の後に生じた関連する出来事を述べているに過ぎないこともある。(ibid, "Past participles")(下線は引用者)

(〔注6−3〕 了)

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