『カンマを伴う分詞句について』(野島明 著)
第七章 開かれた世界から

第2節 《分詞構文》と主辞補辞……形容詞句・名詞句の場合


〔注7−12〕

   学習用文法書で「同格(Apposition)」はどのように説明されているか。並置[apposition]について何ごとかが語られる場合、主辞補辞の場合と同様、その語りはカンマを伴う分詞句の理解に見合ったものになる。

同格(Apposition)とは、通常、名詞またはそれと同等の働きをするもの《代名詞・名詞句・名詞節》で、他の名詞または名詞相当語句に併置され、それを説明または限定する語句のことをいう。
(杉山忠一『英文法詳解』、p.660)

6.同格(Apposition)
名詞(または名詞相当語句)を他の名詞(または名詞相当語句)と並べて、その名詞(または名詞相当語句)について補足的な説明を加える関係を同格(Apposition)という。同格語句として用いられるものには、名詞・代名詞・不定詞・名詞節などがある。また、同格語句によって説明されるものが、文全体の場合もある。
(高梨健吉『総解英文法』pp.645)

名詞または名詞相当語句をほかの名詞または名詞相当語句と並べて補足的説明を加えることがある。この関係を同格と呼ぶ。同格とは後続の名詞の格が先行する名詞の格と同じという意味である。
(綿貫陽、宮川幸久、須貝猛敏、高松尚弘、マーク・ピーターセン 『ロイヤル英文法 改訂新版』p.130)

(1)名詞が二つ並んでおり、あとの名詞が前の名詞を説明しているときには、この二つの名詞を同格であるという。 元来、同格とは「同じ格を有する語」という意味であったが、現在では単に「同じ資格を持つ語」という程度に解されている。そして、あとにあって説明のために用いられるほうの名詞を同格語Appositiveといい、同格語はそれによって説明される名詞と同じ格、数を持つのが原則である。
(木村明著『英文法精解』、2-40. 同格Apposition, pp.74--75)

同格と同格的説明 [第180型]〜[第185型]
同格(Apposition)と言うと、名詞と名詞とが並列的に置かれている場合を思い浮べる人が多いと思われる。確かに、名詞・代名詞などを別の表現で補足的に説明する言葉を、それらの前後に対等の関係で並列的に置いたとき、同格の関係であると言う。
(山口俊治著『全解 英語構文』, p.521)

名詞(相当語句)を他の名詞(相当語句)と並べて説明を加えるとき、その2つの名詞が互いに同格(Apposition)の関係にあるという。
(江川泰一郎『改訂三版 英文法解説』§17.同格, p.23)

   並置[apposition]について何ごとかが語られる場合、その語りはカンマを伴う分詞句の理解に見合ったものになる以上、これらの記述が全く不十分なものであるのは自然な成り行きであるのかもしれない。しかし、せめて、次の簡潔な記述に示されている程度には、態度を鮮明に示し得なかったものか(以下に示されている判断がどの程度適切であるのかはまた別の問題ではあるが)。
G.同格と関係詞節
30.「制限的」(RESTRICTIVE)対「非制限的」(N0N-RESTRICTIVE)
次の例を参照:
   [27] Everything comes to the man who waits.(待てば海路の日よりあり)
   [28] Nothing could annoy my Uncle Tom, who was the most patient man alive.
       (どんなことでもトム叔父さんを怒らせることはできなかった、というのは叔父さんはこの上もなく忍耐強い人だったから)
   [29] I know your friend Tom Jackson very well.
       (私は君の友人トム・ジャクソンをたいへんよく知っています)
   [30] Christopher Columbus, the discoverer of America, died in 1506.
       (アメリカの発見者クリストファー・コロンブスは1506年に死んだ)
[27]では,関係詞節"who waits"は制限的または限定的(Defining)である。それは"What man?"という疑問に答える。
[28]では、関係詞節"who was the most patient man alive"は非制限的である。"Which Uncle Tom?" という疑問に答えるのではなく、彼について余分の情報を提供する。同様に、
[29]では、"Tom Jackson" は"your friend"に対して制限的同格関係にあり、「君」のどの友人かを聞き手に知らせてくれるが、
[30]では、"the discoverer of America"は"Christopher Columbus"に対して非制限的同格関係にある。このことは次のことを意味する。
[27]ではthatがwhoに取って代わることができるが、[28]ではそれができない。
また[28]と[30]ではコンマ(音調では切れ目を伴う)が義務的であるが、[27]と[29]では使われないであろう。
(R.A.クロース、齊藤俊雄訳『クロース 現代英語文法』、46-G)(太字体と下線は引用者)
   カンマを伴う並置要素に関する一般的解説を紹介しておく。
並置要素[Appositives](先行する語句の意味を展開する名詞ないし名詞相当語句)は、通常は非制限的修飾要素[nonrestrictive modifiers]であり、カンマによって区切られる。
(『現代英語ハンドブック』11.3)(下線は引用者)
   ここで「通常は[usually]」という条件が添えられているのは、次のような判断が行われているからである。
制限的並置要素[Restrictive appositives]や人の名前の一部として用いられる並置要素はカンマを要しない。(ibid)
   次にCGELの記述を見る。
   非制限的並置[nonrestrictive apposition]の場合、二つの並置要素[appositive units]は相対的に独立した情報を与える。最初の並置要素は限定される側の語句[DEFINED expression]として作用し、二番目の並置要素は限定する働き[DEFINING role]('the definer')を有している。限定する働きは、二番目の並置語句が句読点([2])あるいは抑揚([2a])によって挿入的要素[parenthetic]として表示されるという事実に反映されている。
     The President of the company, Mrs Louise Parsons, gave a press conference after the board meeting. [2]
     The PREsident of the company| Mrs Louise PARsons| gave a press conference after the BOARD meeting| [2a]
   文例[2]と文例[2a]では、The president of the companyは限定される側の語句であり、Mrs. Louise Parsonsは限定する側の語句である。他方、文例[2b]では、それらの働き[role]は逆になっている。
   Mrs Louise Parsons, the President of the company, gave a press conference after the board meeting. [2b]
   文例[2b]では、Mrs. Louise Parsonsが限定される側の語句であり、the president of the companyが限定する側の語句であり、後者は別個の情報単位を構成している。(CGEL, 17.68)
   ちなみに、上記の文例[2]及び[2b]中の並置は「完全並置」の三条件((i)並置要素のいずれも、文の認容性に影響を及ぼすことなしに、個々に省くことが可能である;(ii)並置要素のいずれも、(省略の)結果としてできた文において、同一の統語的機能を発揮している;(iii)元々の文は、(省略の)結果としてできた文のいずれとも、言語外的指示内容[extralinguistic reference]の点では、何の相違もない)のすべてを充たしており、完全並置である(三条件の内、一つでも充たしていない場合は「部分並置」とされる)。そして次のような記述もある。
   並置が完全並置である場合、並置要素のいずれが限定する側なのかは明確ではないことがある。(ibid, 17-69)
   次のような、カンマが介在しない並置の場合のことである。
   My friend Anna was here last night.(ibid)
   しかし、カンマが介在しない「完全並置」の場合、「並置要素のいずれが限定する側なのかは明確ではないことがある」という記述より、Zandvoortの次のような記述の方が適切であるように思える。
   "my brother Charles", "the Emperor Jones", "the river Thames"においてはいずれの名詞も残る部分をさらに特定すると見なされるかもしれない。二つのうちのいずれが並置要素[apposition]と見なされるかは、話者の意図にかかっている。"my brother (whose name is Charles)" あるいは"Charles (who is my brother)"のいずれかである。上記の例においては相互の間に明白な従属関係はない。
(Zandvoort, A HANDBOOK, 590)(下線は引用者)
   ただ、いずれが並置要素であるのかは「話者の意図にかかっている」としても、並置要素を「制限的名詞修飾要素」と「非制限的名詞修飾要素」のいずれであると判断するのか、話者と受け手ではその判断は必ずしも一致しないかもしれない。

The rhythm and blues star R. Kelly was indicted today in Chicago on charges of child pornography in connection with a videotape that authorities say shows the Grammy-winning singer having sex with a minor.
〈R&Bのスター、R・ケリーは今日、シカゴで起訴された。このグラミー賞受賞歌手が未成年者と性行為をしているところが映っていると当局者が語るビデオテープに関わる幼児ポルノの罪である。〉
(R&B Star R. Kelly Indicted on Child Pornography By CARLA BARANAUCKAS, The New York Times ON THE WEB, June 5, 2002)

   この例の場合、話者は"The rhythm and blues star"が誰のことであるか、"R. Kelly"が何ものか、当然のことながら承知しているはずであるが、おそらくは固有名詞の使用原則([1−18]参照)を遵守してこのように記述している。受け手たる私は、"R. Kelly"が人名であることくらいの検討はつくにしても、"The rhythm and blues star R. Kelly "と記述されることで始めて"R. Kelly"が何ものであるのかを知らされる。受け手たる私には、"R. Kelly"という名の人物に一人も心当たりがないゆえ、"The rhythm and blues star"は、"R. Kelly"がどの"R. Kelly"であるかを明らかにする制限的名詞修飾要素の働きをするわけではなく、"R. Kelly"について語り得る(と話者に判断されている)ことがらの一端が展開されている名詞句であり、"R. Kelly"を非制限的に修飾する要素である。

   CGELの記述で、日本の学校英文法の「同格」の理解に役立ちそうなものを紹介しておく。"I met Mr Smith, a friend of yours." (私はあなたの友人(の1人)のスミス氏に会いました)(杉山忠一『英文法詳解』、p.660)(「(1)もっとも純粋な形での同格」の例として挙げられている)という文例中の並置に相当にする並置を見出せる文例"Anna, my best friend, was here last night. [1]"(CGEL, 17.65) について、CGELは、次のような解説を残している。

並置[apposition]によって示される関係は繋辞関係[copular relationship]に類似している。 (CGEL, 17-65)

こうした並置の例は、非制限的後置修飾[nonrestrictive postmodification]、特に非制限的関係詞節[nonrestrictive relative clauses]と比較されることがある。
    Anna, who is my best friend, was here last night.(ibid)

   荒木一雄・安井稔編『現代英文法辞典』は、並置要素を「非制限的修飾要素」であると説明している。
[2]においては、キャンベルなる人物については、話し手と聞き手の間で、だれを指すか暗黙の了解があり、その独立した指示(REFERENCE)を持っているものに対して、新たな情報を与えているのが、非制限的修飾要素のthe lawyerである。
     [2] Mr Campbell, the lawyer, was here last night. (キャンベルさんは、弁護士で、昨夜はここにいた)
(『現代英文法辞典』、restrictive modification(制限的修飾)の項)(下線は引用者)
   ここでは、「キャンベルなる人物については、話し手と聞き手の間で、だれを指すか暗黙の了解があり」という記述には素直に頷けない。「話し手と聞き手の間で、だれを指すか暗黙の了解があり」ということなら、「キャンベルさんは、昨夜はここにいた」で足りる。話者は"Mr Campbell"について、話者と受け手の間で共通の了解を成立させることを意図して"Mr Campbell, the lawyer, was here last night."と発話している、と考える方が適切であろう。ここでも固有名詞の使用原則が遵守されているのである。

(〔注7−12〕 了)

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