『カンマを伴う分詞句について』(野島明 著)
第七章 開かれた世界から

第4節 "Using ......"や"Referring to ......"


〔注7−44〕

   "based on ......"や"compared with/to ......"のように、「前置詞や副詞の特性を身に付け、もはや身を寄せるべき名詞という支柱を必要としなくなるという事態をもたらす変化」(Fowler, A Dictionary of Modern English Usage, "UNATTACHED PARTICIPLES"の項)が未だ進行中であると見なせるような-ed分詞句がある一方で、-ing分詞句はますますその使用領域を広げているように思える。次のような-ing分詞句の用法は珍しいものではない。

   Mr. McClain makes clear, however, his belief that Japan's 20th-century aggression was driven by the threat posed by Western imperialism in East Asia and complex feelings of inferiority and backwardness that drove Japan to hoist itself up to the first rank of world powers, copying, where the need arose, even the most repugnant behavior of its rivals.
〈しかしながら、マクレイン氏が明らかにしている氏自身の考えというのは、日本を20世紀の侵略行動へと駆り立てたのは東アジアにおける西洋帝国主義が突きつけた脅威であり、さらにはまた、日本をして自らを世界一級の強国の地位へと押し上げさせることになった劣等性と後進性とがない交ぜになった思いであり、そうした思いは、必要とあれば、その競争相手の厭わしさ極まる振る舞いさえ日本に模倣させることになった、というものである。〉
(注) James L. McClain著、"Japan: A Modern History"の書評。「これからの日本研究者にとっての基本となるはずのもの[which seems bound to become the standard for a generation of students of Japan]」とも述べられている。
(Book Review: Debunking Japan's Myths of Its Exceptional Self By HOWARD W. FRENCH, The New York Times ON THE WEB, January 15, 2002)

   カンマを伴う分詞句の用法は今現在、進行相以上に、拡張を続けていると言えるだろう。

進行相[the progressive]の諸制約[The constraints]は、全面的に意味という観点からは説明し得ないように思われる。進行相の用法は過去数百年に渡って文法的拡張を経てきているために、その用法は現在においても未だに変化を続けているという可能性があり、ある一時点におけるその記述は完全に体系的ではあり得ないという可能性がある。こうしたことが、意味論的一般化[semantic generalizations]という観点から進行形の用法の諸条件を全ての点に渡って説明しようとしている人たちが直面している諸困難の理由であるかもしれない。(CGEL, 4.28 Note)
   閑話休題。

   山田善郎(監修)『中級スペイン文法』に、現在分詞(斜体部)の次のような用法が示されている。

d.並列的つなぎ : "y"に相当する働きをする。あまり好ましくない表現とされる。
   Se salió de puntillas, cerrando la puerta sin hacer el menor ruido.
   彼は爪先立って出てゆき、少しも音を立てずに扉を閉めた。
   Osaka tiene tres millones, siendo la segunda ciudad de Japón en población.
   大阪は300万人で、人口では日本で2番目の都市である。
(山田善郎(監修)『中級スペイン文法』pp.364?365)
("y"は"and"。ほぼ逐語訳を示す。"He left on tiptoe, closing the door without making the smallest noise.", "Osaka has three million, being the second city in Japan in population.)
   英語の場合、「カンマを伴う分詞句」が最も頻出する位置は文末である([6−1]参照)。英語の世界共通語化が世界平準化[globalisation]の象徴であるとすれば、このような「あまり好ましくない表現とされる」現在分詞の用法がスペイン語においても早晩ありきたりになるのではないか、そんな感想を抱いた。

(〔注7−44〕 了)

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