『カンマを伴う分詞句について』(野島明 著)
第七章 開かれた世界から

第6節 何が曖昧なのか

その七 「相[aspect]」の曖昧さ


〔注7−91〕

   (7―43)の日本語訳「マイケルは歌を歌ったり口笛を吹きながら、田舎道をドライブしていた」(堀口・吉田『英語表現文法』p.209)(下線は引用者)を英文和訳の解答として見た場合、重大な誤読と判断し得るような要素は見出せないが、読み方の癖としては好ましいものではない。やはり反復的動作活動を表す-ing分詞句を含む次の文例の日本語訳についても同じだ。

She walked in the quiet garden, breathing the smell of the flowers, or watching the clouds floating on before the light wind.
〔訳〕→『彼女は静かな庭園の中を、花の香りを吸いこんだり、雲がそよ風に乗って流れて行くのを眺めたりしながら歩いた』
(山口俊治著『全解 英語構文』p.150) (下線は引用者)
   こうした-ing分詞句を「〜しながら」と訳出するのは、カンマを伴う-ing分詞句に副詞要素を先見的に見出すことをその要諦とする《分詞構文》という了解に基いた場合の常套的訳出形式であるのかもしれない。しかし、こうした-ing分詞句を「〜しながら」という日本語に対応させるという癖をつけたら英文を読む効率は極めて低下する。これは決して無駄な指摘ではないはずだ(本稿の和訳の心構えは第四章第1節に示した)。

(〔注7−91〕 了)

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