【課題】 「 "Tom, horrified at what he had done, could at first say nothing."中の-ed分詞句は非制限的名詞修飾要素(「名詞句を叙述的に修飾する」要素)であると判定されるとしたら、「カンマを伴う分詞句」はどのような場合に《分詞構文》(副詞要素)であり、どのような場合に非制限的名詞修飾要素であるのか。また、《分詞構文》とは何か。」 以下、課題の現れ方、時に課題はどのように素通りされ、時に課題はどのように自覚されるか、等に関わる具体的記述を列挙する。
0.《分詞構文》という了解
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(以下の引用文献については、「引用文献」の頁参照)
課題は語られながらも課題として気付かれないことがある。以下、その実例をいくつか挙げてみる。
0.《分詞構文》という了解
《分詞構文》という了解によれば、カンマの有無を指標として、機械的に、副詞要素であるか名詞修飾要素であるかの判断が下される。例えば、
この筆者はそもそも「非制限的用法」をどのように理解しているのか、あるいは理解していないのか。私には分からない、と言う他はない。ここでは課題は未だ自覚されていない。
1.「分詞句による非制限的名詞修飾」に関する記述及び文例
例その一.CGEL [A COMPREHENSIVE GRAMMAR OF ENGLISH LANGUAGE] CGELは「分詞節の場合、その暗黙の主辞は文の主辞以外のものである可能性もある。」(CGEL, 7.27)として以下の例を挙げている。 She glanced with disgust at the cat, stretched out on the rug. 更に次のような記述と文例。 非制限的後置修飾は非定動詞節を用いても実現可能である。例えば、 (e)名詞句修飾。例その三.Collins COBUILD on CD-ROMより まず解説。 この項で吟味される非定動詞節[non-finite clauses]は「関係詞節」と同じように機能する。そして、関係詞節と同様、限定的[defining]ないし非限定的機能[non-defining function]を果たす。(Collins COBUILD on CD-ROM, 8.118 kinds of non-finite clause)次のような具体例が示されている。 例えば、`Give it to the man who is wearing the bowler hat'と言う代わりに、`Give it to the man wearing the bowler hat'と言える。同様にして、`The bride, who was smiling happily, chatted to the guests'と言う代わりに、`The bride, smiling happily, chatted to the guests'.と言える。(ibid, 8.88 non-finite clauses)(下線は引用者)例その四.『現代英語ハンドブック』より Slowly weaving its way from twig to twig, the spider built its nest.〈小枝から小枝へゆっくり糸を張り渡していった蜘蛛は自分の巣を作り上げた。〉(『現代英語ハンドブック』4.1)(下線は引用者)この文例に付された注には、 "the entire participle phrase modifies spider, the subject of the sentence"〈分詞句全体はこの文の主辞"spider"を修飾する〉とある。 もう一例。 Finding no one at home, he scribbled a note and left it under the front door. [participle phrase modifying he] (ibid, 1.2) (下線は引用者) 別の記述と文例。 制限的修飾要素と非制限的修飾要素を区別する際、書き手は、修飾を受ける語句の特質とその語句が出現する文脈を慎重に検討せねばならない。その語句がそれ自身で十分に制限されており、従って別のものと混同されることがない場合、その語句に後続する修飾要素は非制限的である。しかし、その語句が漠然としていたり、修飾要素なしでは曖昧である場合、(その語句に後続する)修飾要素は制限的である。(ibid, 11.3)これら二種類の修飾要素の違いを見て取るための例として、関係詞節の文例二組と-ed分詞句の文例一組が挙げられている。まず、関係詞節の文例一組。 Last month I read a novel and a biography. The novel, which especially appealed to me, was written by Hawthorne. (ibid, 11.3) (下線は引用者)次に-ed分詞句の文例一組。 While in Rome. I took photographs in the vicinity of St. Peter's. The square, designed by Michelangelo, is perfectly symmetrical.)(ibid)(下線は引用者)例その五.UNDERSTANDING AND USING ENGLISH GRAMMARより 以下の文例は、Betty Schrampfer Azar, UNDERSTANDING AND USING ENGLISH GRAMMAR中の「形容詞句を形容詞節に変えよ」という練習問題中の9番にある課題文。 St. Louis, Missouri, known as "The Gateway to the West," traces its history to 1793, when Pierre Laclede, a French fur trader, selected this site on the Mississippi River as a fur-trading post.〈「西部への入り口」として知られているセントルイス(ミズーリ州)の歴史は1793年にまで遡る。その年、フランス人毛皮商ピエール・ルクレドがミシシッピ川沿いのこの場所を毛皮取引基地に選んだのである。〉(p.228)(下線は引用者) この文法教科書の趣旨に添えば、下線部二箇所が形容詞句である。 例その六.PEG [A PRACTICAL ENGLISH GRAMMAR]より PEGは、非制限的関係詞節(同書では、"non-defining clause")は-ing分詞句に書き換えられるとして、以下のような例を挙げている。 Peter, who thought the journey would take two days, said ….例その七.Kruisinga & Erades, An English Grammarより Kruisinga & Eradesは the rest, forming the bulk of the flock (An English Grammar, 33-1)に見られるような「付加詞」(下線部)を「完全に名詞修飾的な付加詞[purely attributive adjuncts]」(ibid, 34-1)と呼んでいる。なお、カンマを挟んで実現されているこのような修飾の在り方を見れば、この"attributive"を「限定的」という日本語に置き換えることの不適切は容易に了解できる。"a pretty girl"や"a dirty face"中の形容詞も"attributive adjuncts"である(ibid, 127-2)。 この断片を同書巻末の"Text"によって補えば次のようになる。 the rest, forming the bulk of the flock, were nowhere. This book, written in simple English, is suitable for beginners.(この本はやさしい英語で書いてあるから、初歩の人にむいている)で、斜体の部分はas it is written …とパラフレイズできる分詞構文とも、which is written... とパラフレイズできる形容詞的修飾句とも考えられる。ここの区別は分明ではない。類似の文について、CURME, Parts of Speechには次のような書き換えが示されている。 His last novel, written (= which was written) in 1925, is his best.〈彼の最後の小説は1925年に書かれたもので、彼の最良の作品である。〉(CURME, Parts of Speech, 43-5) 「予感」だけでは、次のように語られる他はない。 Here are my letters announcing my intention to start.(ここにあるのが私が始めたいという意向を記した手紙です)において、斜体の部分はmy lettersを形容詞的に修飾する。この場合はmy lettersは文の主語でもあるが、announcing以下は分詞構文とは見なさない。同様に、I pursued my walk to an arched door, opening to the interior of the abbey. (私は、僧院の内部へ通じている弓形の戸口へ向かって歩を進めた)で、斜体の部分はdoorを形容詞的に修飾し、(異例の)分詞構文ではない。カンマの有無という違いのある二箇所の-ing句(斜体部)は、等しく直前の名詞句を「形容詞的に修飾する」と記述され、修飾の在り方が区別されることはない。カンマは紙魚に近い扱いを受けているかに見える。 困難の自覚は次のように語られる。 先行詞の直後の位置は分析にとって最も多くの難題を突きつける。主辞のない補足節[subjectless supplementive clauses]がその位置に生じると、後置修飾分詞節[postmodifying participle clauses]との識別が、あるいは、((主辞のない補足節が…引用者)無動詞節[verbless clauses]の場合)並置関係にある名詞句との識別が不可能なこともある。 かくして、この二つの構造(主辞のない補足節と後置修飾分詞節…引用者)は、文例[1]中の分詞節が文例[1a]中の非制限的関係詞節と機能的に[functionally]等価であると見なされるべきかどうかを決することは不可能である(それに意味の上では[semantically]重要ではない)という点で、融合することもある。上記の文例[1]について、CGELは次のような表白を残している。 非制限的非定動詞節は意味[meaning]を変えずに文頭に移すことが可能である。例えば、そして、CGEL, 17.34のNoteには(密かに)次のような「告白」が記されている。 非制限的非定動詞節[nonrestrictive nonfinite clauses]の意味上の可能性の幅[The range of semantic possibilities]及び文頭の位置[主辞である名詞句の前…引用者]への可動性によって、こうした節は名詞修飾的要素であるのか副詞的要素であるのか曖昧になる。(ibid, 17.34, Note[a])(下線は引用者)何故に「(密かに)」であるかと言えば、Noteの活字は一段小さなものだからだ。 「カンマを伴う分詞句」はどのような場合に副詞要素であり、どのような場合に非制限的名詞修飾要素であるのか。『カンマを伴う分詞句について』が取り組んだのはこの課題である。 十六世紀の自然学[physics]の知識をもってして万有引力の存在を証明することほどは、或いは言語の起源を語ることほどは、或いは人類の言語がかくも多様であることの原因を究明することほどは、困難ではないかもしれない。とは言え、このような呟きがかろうじて成立する程度には厄介である。
(注) 《分詞構文》 『現代英文法辞典』は《分詞構文》を次のように説明している。 定義。分詞(PARTICIPLE)を主要素とする語群で、主節に対し副詞的修飾機能を持つもの。節(CLAUSE)に相当する内容を表現する。一般に文章体に限られ、慣用的な表現を除くと日常の話しことばではほとんど用いられない。分詞構文と主節との間には休止(pause)が置かれる。(participial construction[分詞構文]の項)(下線は引用者) |