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「カンマを伴う分詞句」の課題  (野島明)

【課題】
"Tom, horrified at what he had done, could at first say nothing."中の-ed分詞句は非制限的名詞修飾要素(「名詞句を叙述的に修飾する」要素)であると判定されるとしたら、「カンマを伴う分詞句」はどのような場合に《分詞構文》(副詞要素)であり、どのような場合に非制限的名詞修飾要素であるのか。また、《分詞構文》とは何か。」

   以下、課題の現れ方、時に課題はどのように素通りされ、時に課題はどのように自覚されるか、等に関わる具体的記述を列挙する。

0.《分詞構文》という了解
1.「分詞句による非制限的名詞修飾」に関する記述及び文例
2.困難の予感
3.困難の自覚
4.この課題の難度


(以下の引用文献については、「引用文献」の頁参照)

   課題は語られながらも課題として気付かれないことがある。以下、その実例をいくつか挙げてみる。

0.《分詞構文》という了解

   《分詞構文》という了解によれば、カンマの有無を指標として、機械的に、副詞要素であるか名詞修飾要素であるかの判断が下される。例えば、

(a) The boys knowing him well didn't believe him.(形容詞用法)
(b) The boys, knowing him well, didn't believe him.
(分詞構文)
(a)「彼を良く知っている少年たちは彼の言うことを信じなかった。」
(b)「少年たちは、彼を良く知っていたので、彼の言うことを信じなかった。」
(中原道喜『マスター 英文法』p.392)(下線は引用者)
   同書の関係詞に関する一節(§78. 制限的用法と非制限的用法)には次のような記述もある。
制限・非制限の関係は、関係詞節以外の修飾語句についても区別される。
   (a)The girls sitting in the back row chatted noisily. 〔制限的〕
   (b)The girls, sitting in the back row, chatted noisily. 〔非制限的〕
   (a)は「うしろの席に座っていた少女たちは、にぎやかにおしゃべりした」の意で、分詞句はgirlsを制限的に修飾する形容詞句でgirlsに続けて読み、(b)は「その少女たちは、うしろ席に座って、にぎやかにおしゃべりした」の意で、いわゆる分詞構文と呼ばれる副詞句で、前後を区切って読む。(ibid, p.185)(下線は引用者)

   この筆者はそもそも「非制限的用法」をどのように理解しているのか、あるいは理解していないのか。私には分からない、と言う他はない。ここでは課題は未だ自覚されていない。

1.「分詞句による非制限的名詞修飾」に関する記述及び文例

例その一.CGEL [A COMPREHENSIVE GRAMMAR OF ENGLISH LANGUAGE]より

 CGELは「分詞節の場合、その暗黙の主辞は文の主辞以外のものである可能性もある。」(CGEL, 7.27)として以下の例を挙げている。

She glanced with disgust at the cat, stretched out on the rug.
〈彼女は胸糞悪そうにその猫を見やった。猫は敷物の上に長々と寝そべっていた。〉

She glanced with disgust at the cat, mewing plaintively.
〈彼女は胸糞悪そうにその猫を見やった。猫は悲しげに鳴いていた。〉(下線は引用者)(以上2例、CGEL, 7.27

(注)《分詞構文》という了解を共有する自動翻訳ソフトが例えば上記の二番目の文例をどのように解読するかについては、自動翻訳ソフト開発関係者の皆さんの頁参照。「《分詞構文》という了解」については文末の注を参照。

   更に次のような記述と文例。

非制限的後置修飾は非定動詞節を用いても実現可能である。例えば、

The apple tree, swaying gently in the breeze, was a reminder of old times. (' which was swaying gently in the breeze….') [1]
〈そのリンゴの木はわずかな風に穏やかに揺れており、昔を思い出させた。〉

The substance, discovered almost by accident, has revolutionized medicine. (' which was discovered almost by accident….') [2]
〈その物質は殆んど偶然に発見され、医学の世界を革新した。〉

This scholar, to be found daily in the British Museum, has devoted his life to the history of science. (' who can be found daily in the British Museum ….') [3]
〈この学者は大英博物館にいるのを毎日見受けられる人物であるが、その一生を科学史に捧げてきた。〉(CGEL, 17.34)(下線は引用者)

例その二.『現代英文法辞典』より

(e)名詞句修飾。
分詞構文が表現する多様な意味関係は、すでに述べたように、節が等位接続された場合や、さらに非制限的関係詞節(NON-RESTRICTIVE RELATIVE CLAUSE)とも平行的であるが、分詞構文が時間的・論理的関係を明瞭には引き出すことができず,ただ主節の名詞句を叙述的に修飾するだけであると見なすのがよい場合がある。修飾する名詞句の直後に置かれるのが普通で、特に主節主語の後ろに来ることが多い。この場合、非制限的関係詞節の縮約形との区別は困難である。また、文頭にも現れる

Tom, horrified at what he had done, could at first say nothing.
(自分のしたことに恐ろしくなってトムは初め口がきけなかった)

Scheduled to open formally this coming September, it will be the main stadium of the Seoul 0lympic Games and hold the opening and closing ceremonies, and track and field, football and other events. ---The Japan Times
(競技場は公式にはこの9月にオープンするがソウルオリンピックのメイン会場になり開会式と閉会式そして陸上競技、サッカーなどが行われることになっている)。
(荒木一雄・安井稔編『現代英文法辞典』participial construction[分詞構文]の項)(下線は引用者)

例その三.Collins COBUILD on CD-ROMより

   まず解説。

この項で吟味される非定動詞節[non-finite clauses]は「関係詞節」と同じように機能する。そして、関係詞節と同様、限定的[defining]ないし非限定的機能[non-defining function]を果たす。(Collins COBUILD on CD-ROM, 8.118 kinds of non-finite clause)
   次のような具体例が示されている。
例えば、`Give it to the man who is wearing the bowler hat'と言う代わりに、`Give it to the man wearing the bowler hat'と言える。同様にして、`The bride, who was smiling happily, chatted to the guests'と言う代わりに、`The bride, smiling happily, chatted to the guests'.と言える。(ibid, 8.88 non-finite clauses)(下線は引用者)
例その四.『現代英語ハンドブック』より
Slowly weaving its way from twig to twig, the spider built its nest.〈小枝から小枝へゆっくり糸を張り渡していった蜘蛛は自分の巣を作り上げた。〉(『現代英語ハンドブック』4.1)(下線は引用者)
 この文例に付された注には、 "the entire participle phrase modifies spider, the subject of the sentence"〈分詞句全体はこの文の主辞"spider"を修飾する〉とある。

   もう一例。

Finding no one at home, he scribbled a note and left it under the front door. [participle phrase modifying he] (ibid, 1.2) (下線は引用者)

   別の記述と文例。

制限的修飾要素と非制限的修飾要素を区別する際、書き手は、修飾を受ける語句の特質とその語句が出現する文脈を慎重に検討せねばならない。その語句がそれ自身で十分に制限されており、従って別のものと混同されることがない場合、その語句に後続する修飾要素は非制限的である。しかし、その語句が漠然としていたり、修飾要素なしでは曖昧である場合、(その語句に後続する)修飾要素は制限的である。(ibid, 11.3)
   これら二種類の修飾要素の違いを見て取るための例として、関係詞節の文例二組と-ed分詞句の文例一組が挙げられている。まず、関係詞節の文例一組。
Last month I read a novel and a biography. The novel, which especially appealed to me, was written by Hawthorne. (ibid, 11.3) (下線は引用者)
〈先月私は小説を一冊と伝記を一冊読んだ。この小説に私は殊のほかひかれたが、ホーソンの作であった。〉

Last month I read several novels and a biography. The novel which especially appealed to me was written by Hawthorne. (ibid) (下線は引用者)
〈先月私は小説を数冊と伝記を一冊読んだ。私が殊のほかひかれた小説はホーソンの作であった。〉

   次に-ed分詞句の文例一組。
While in Rome. I took photographs in the vicinity of St. Peter's. The square, designed by Michelangelo, is perfectly symmetrical.)(ibid)(下線は引用者)
〈ローマに滞在中,私はサン・ピエトロ広場近くで何枚も写真をとった。この広場はミケランジェロによって設計されたもので、完全に左右対称である。〉

While in Rome, I took photographs of squares designed by Michelangelo, Bernini, and Borromini. The square designed by Michelangelo is perfectly symmetrical. (ibid)(下線は引用者)
〈ローマに滞在中,私はミケランジェロやベルニーニやボロミーニに設計された広場の写真を何枚もとった。ミケランジェロによって設計された広場は、完全に左右対称である。〉

例その五.UNDERSTANDING AND USING ENGLISH GRAMMARより

   以下の文例は、Betty Schrampfer Azar, UNDERSTANDING AND USING ENGLISH GRAMMAR中の「形容詞句を形容詞節に変えよ」という練習問題中の9番にある課題文。

St. Louis, Missouri, known as "The Gateway to the West," traces its history to 1793, when Pierre Laclede, a French fur trader, selected this site on the Mississippi River as a fur-trading post.〈「西部への入り口」として知られているセントルイス(ミズーリ州)の歴史は1793年にまで遡る。その年、フランス人毛皮商ピエール・ルクレドがミシシッピ川沿いのこの場所を毛皮取引基地に選んだのである。〉(p.228)(下線は引用者)

   この文法教科書の趣旨に添えば、下線部二箇所が形容詞句である。

例その六.PEG [A PRACTICAL ENGLISH GRAMMAR]より

   PEGは、非制限的関係詞節(同書では、"non-defining clause")は-ing分詞句に書き換えられるとして、以下のような例を挙げている。

Peter, who thought the journey would take two days, said ….
= Peter, thinking the journey would take two days, said ….
Tom, who expected to be paid the following week, offered ….
= Tom, expecting to be paid the following week, offered ….
Bill, who wanted to make an impression on Ann, took her to ….
= Bill, vwanting to make an impression on Ann, took her to ….
(77)
(下線は引用者)
例その七.Kruisinga & Erades, An English Grammarより

   Kruisinga & Erades

the rest, forming the bulk of the flock (An English Grammar, 33-1)
に見られるような「付加詞」(下線部)を「完全に名詞修飾的な付加詞[purely attributive adjuncts]」(ibid, 34-1)と呼んでいる。なお、カンマを挟んで実現されているこのような修飾の在り方を見れば、この"attributive"を「限定的」という日本語に置き換えることの不適切は容易に了解できる。"a pretty girl""a dirty face"中の形容詞も"attributive adjuncts"である(ibid, 127-2)。

   この断片を同書巻末の"Text"によって補えば次のようになる。

the rest, forming the bulk of the flock, were nowhere.
〈大半を占めている残りのものはどこにもいないのだった。〉
(訳文はトマス・ハーディ『遥か群集を離れて』高畠文夫訳より)

2.困難の予感

This book, written in simple English, is suitable for beginners.(この本はやさしい英語で書いてあるから、初歩の人にむいている)で、斜体の部分はas it is written …とパラフレイズできる分詞構文とも、which is written... とパラフレイズできる形容詞的修飾句とも考えられる。ここの区別は分明ではない。
(清水護 編『英文法辞典』Participial Construction(分詞構文)の項)(下線は引用者)
   類似の文について、CURME, Parts of Speechには次のような書き換えが示されている。
His last novel, written (= which was written) in 1925, is his best.〈彼の最後の小説は1925年に書かれたもので、彼の最良の作品である。〉(CURME, Parts of Speech, 43-5)

   「予感」だけでは、次のように語られる他はない。

Here are my letters announcing my intention to start.(ここにあるのが私が始めたいという意向を記した手紙です)において、斜体の部分はmy lettersを形容詞的に修飾する。この場合はmy lettersは文の主語でもあるが、announcing以下は分詞構文とは見なさない。同様に、I pursued my walk to an arched door, opening to the interior of the abbey. (私は、僧院の内部へ通じている弓形の戸口へ向かって歩を進めた)で、斜体の部分はdoorを形容詞的に修飾し、(異例の)分詞構文ではない
(清水護編『英文法辞典』Participial Construction (分詞構文)の項)(下線は引用者)
   カンマの有無という違いのある二箇所の-ing句(斜体部)は、等しく直前の名詞句を「形容詞的に修飾する」と記述され、修飾の在り方が区別されることはない。カンマは紙魚に近い扱いを受けているかに見える。

3.困難の自覚

   困難の自覚は次のように語られる。

先行詞の直後の位置は分析にとって最も多くの難題を突きつける。主辞のない補足節[subjectless supplementive clauses]がその位置に生じると、後置修飾分詞節[postmodifying participle clauses]との識別が、あるいは、((主辞のない補足節が…引用者)無動詞節[verbless clauses]の場合)並置関係にある名詞句との識別が不可能なこともある。 かくして、この二つの構造(主辞のない補足節と後置修飾分詞節…引用者)は、文例[1]中の分詞節が文例[1a]中の非制限的関係詞節と機能的に[functionally]等価であると見なされるべきかどうかを決することは不可能である(それに意味の上では[semantically]重要ではない)という点で、融合することもある。

This substance, discovered almost by accident, has revolutionized medicine. [1]

This substance, which was discovered almost by accident, has revolutionized medicine. [1a] 〈この物質は殆んど偶然に発見され、医学の世界を革新した。〉
(CGEL, 15.61)(下線は引用者)

   上記の文例[1]について、CGELは次のような表白を残している。
非制限的非定動詞節は意味[meaning]を変えずに文頭に移すことが可能である。例えば、

Discovered almost by accident, the substance has revolutionized medicine. [2a]

しかし、こうした可動性[mobility]は実は、非制限的非定動詞節が名詞修飾的[adnominal]働き[role]をするものなのか副詞的[adverbial]働きをするものなのか曖昧であるということを含意している。それゆえ、以下の文例[4]の非定動詞節は、関係詞節[4a]の縮約形であるという可能性もあろうが、同様に、原因を表わす節[4b]や時を表わす節[4c]の縮約形であるという可能性もあろう。
The man, wearing such dark glasses, obviously could not see clearly. [4]
The man, who was wearing ……. [4a]
The man, because he was wearing ………. [4b]
The man, whenever he was wearing ………. [4c] 」(ibid, 17.34)
(下線は引用者)

   そして、CGEL, 17.34Noteには(密かに)次のような「告白」が記されている。
非制限的非定動詞節[nonrestrictive nonfinite clauses]の意味上の可能性の幅[The range of semantic possibilities]及び文頭の位置[主辞である名詞句の前…引用者]への可動性によって、こうした節は名詞修飾的要素であるのか副詞的要素であるのか曖昧になる。(ibid, 17.34, Note[a])(下線は引用者)
   何故に「(密かに)」であるかと言えば、Noteの活字は一段小さなものだからだ。

   「カンマを伴う分詞句」はどのような場合に副詞要素であり、どのような場合に非制限的名詞修飾要素であるのか。『カンマを伴う分詞句について』が取り組んだのはこの課題である。

4.この課題の難度

   十六世紀の自然学[physics]の知識をもってして万有引力の存在を証明することほどは、或いは言語の起源を語ることほどは、或いは人類の言語がかくも多様であることの原因を究明することほどは、困難ではないかもしれない。とは言え、このような呟きがかろうじて成立する程度には厄介である。

(「カンマを伴う分詞句」に関わる課題の確認及び課題解決の手掛かり  了)


(注)

《分詞構文》

『現代英文法辞典』は《分詞構文》を次のように説明している。

定義。分詞(PARTICIPLE)を主要素とする語群で、主節に対し副詞的修飾機能を持つもの。節(CLAUSE)に相当する内容を表現する。一般に文章体に限られ、慣用的な表現を除くと日常の話しことばではほとんど用いられない。分詞構文と主節との間には休止(pause)が置かれる。(participial construction[分詞構文]の項)(下線は引用者)

分詞は…、主節動詞の主語を間接的に修飾し、主節動詞と同格的に、主節動詞の表す動作・状態における主語の様態を叙述する働きを持つが、この緊密な結び付きが緩み、主飾動詞を含む節全体と副詞的な関係を結ぶようになる。 この用法は分詞構文(PARTICIPIAL CONSTRUCTI0N)と呼ばれるもので、主節に対して、付帯状況、原因・理由、時、条件・譲歩などの意味を表す。(participle(分詞)の項)(下線は引用者)


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