寄りみち(VOL.82, 2000年5月号)

爽やかな季節はやっぱり日本酒がおいしい!

 立夏も過ぎ、暦の上では夏がやってきているんですね。
 まだ、夏という気分はないけれど、5月は若葉もグッと濃くなって、すがすがしさを感じる気持ちのいい季節です。

 ほんの少し窓を開けて、少しひんやりとした心地いい夜風を感じながら日本酒を飲むのがこのところの楽しみです。
 この、すがすがしいい中のほろ酔いの気持ちはなんとも言えません。

 もう少し飲みたいけれど、ちょっと、その前で今日は止め。
 このぐらいが今の気分。こんなお酒の飲み方も、爽やかな5月の季節がさせてくれるのでしょう。酔いかげんも季節によって変わるのかな。

 3月4日〜6日で北陸・松任の銘醸蔵3場を探訪してまいりました。4日の天狗舞に続き5日は鶴来の「菊姫」、日曜日にもかかわらず我々一行をこころよく受け入れて下さいました。
 菊姫は加賀菊酒の伝統を受け継ぎ、また、当時にかわる「酒マイスター」を育て、さらに未来に向けて「真の酒とは」と語り続けています。
 「印象深い酒、一度味わうと忘れられなくなる味わい菊姫」

 吟醸造りは、さらりとした味わい、淡麗さを目標としてきたと言っても過言ではないでしょう。しかし、この流れに逆らうかの様に山廃酒母を持ち込み、ふくらみのある、そして酒が「どうだ」と語りかけてくる様な味わい深い酒を世に問うたのが菊姫です。
 強烈な個性で熱烈なのんべいファンを生み出し魅了しました。

 さて、今回の菊姫リポートを担当して下さった、犬飼義典さんの力作、探訪記じっくり読んで下さいねっ。

吟醸王国 石川県・松任・鶴来 主の住む里へ<2> 菊姫

 3月に粋人盃のメンバー11人で行った酒蔵見学のレポートの第二弾は、犬飼義典さんが書いて下さった「菊姫」の車多酒造の見学をご紹介します。

【初春の加賀国。霊峰白山に抱かれた旨酒の御蔵を尋ねて】 犬飼義典

 昨日の曇天が嘘のようにさわやかな快晴の朝。
 仕事で一日遅れた池田氏と途中の駅で合流した。
 列車で揺られること10分程度、目指す「菊姫合資会社」は北鉄石川線の中鶴来駅にある。ところでこの路線の車両は我々にとって大変なじみ深い。東横線の払い下げ車両である。

 駅前から徒歩で万歳楽さんを横目に、大通りから一歩露地に入ったところで・・・
 見えた!ドーンと八階建ての平成蔵。うむ、「酒道入門」の写真の通りだ。想像以上にでかい。屋上には見慣れた「菊酒・菊姫」の書体。菊姫に来たことを実感。

 蔵の敷地の外れにある昔ながらの木造の旧家の入り口で、出迎えて下さった初代マイスターの村本さんにご挨拶を済ませた後、「平成蔵」に案内していただく。
 一階には、噂の吉川町産の山田錦の稲わらで作った菊姫特製の注連縄がでーん。これが見られただけでも、来た甲斐があったというものだ。
 エレベーターでテイスティングルームのある七階へ向かう。まず、ベランダから敷地内の立地を説明していただいた。明治蔵・平成蔵は吟醸以上。昭和蔵はそれ以外を仕込んでいる。
 今年の出来高は五千石だそうだが、規模から考えると贅沢な造りと考えざるを得ない。後に、もっともっと驚くのだが。

 さて、一行は白衣を着て帽子をかぶり、にわか博士か危ない教授という雰囲気になったところで、菊姫製造部長の永田さんと村本さんに蔵の案内をしていただいた。

 七階は洗米所である。洗米はすべて手洗いでおこなう。仕込みの時期にはここに蔵人さんたちが並んで人海戦術で洗米するそうである。今は仕込みも終わってしまい、がらんとしているのだが、そのシーンを想像するだけでドキドキする。菊姫特注のステンレスざるを持たせていただいたが、想像以上に重かった。これに水を含んだ米が入るのだから、重労働である。

 六階は、麹室。室の前に大量の麹蓋発見。一枚一枚が傷一つなく綺麗である。麹蓋を修理していた蔵人さんに何造りくらい保つものか訊ねたところ、常に部分的修理をしており、すべての部品が入れ替わってしまうことがあるので、期間は解らないとの答え。良い酒造りのためには、道具をも大切にする気持ちが伝わってきた。
 麹室に入れていただいた。 広い!四部屋に分かれていて、必要に応じて各部屋を繋げたりすることが出来る設計。
照明も蛍光灯と殺菌灯があり人がいないと自動的に殺菌灯が点灯する仕組みになっている。

 五階は、酒母室と仕込み室がある。酒母は三分の二が山廃だそうである。菊姫の仕込みタンクはこれまた特注品で普通のものより径が短い3重ジャケット構造。なるべく空気に触れない様にする為と、醗酵温度の変化に早く対応するための工夫である。
 暖気樽発見。この中にお湯を入れて温度調整に用いるのだが、大きさから想像するとこれもまた力仕事であろう。

 四階から一階は、貯蔵用タンクが並んでおり、三階と四階、一階と二階と吹き抜け構造となっている。

 そして、一階には菊姫特製の舟が四隻。どこが特製かというと舟の内側両面に穴が開いておりそこからも絞った酒が出るようになっているのである。絞りたての山廃吟醸のあらばしりを試飲させていただいた。
「おりが入っている。絞りたての薫り。」蔵見学ならではでの経験である。
 洗った酒袋が並べて干されていた。残念ながらこの袋屋さんはもう廃業してしまったそうだ。「最後の一枚まで買いました。」それでストックには十分というお話しだった。

 平成蔵の一階は明治蔵へと繋がっている。ここで、明治蔵の仕込みタンクを見せていただく。ここも平成蔵と同じ菊姫特注の1tタンクがある。
 もろみは、それぞれのタンクで泡の状態が違い本当に見ていて飽きることはない。そして、もろみの薫り。この薫りだけはお蔵にお伺いしなければ経験できない。
 この場はいつも離れたくない衝動にかられる。海山の栄治さんが、「お蔵に行くと、そのお蔵の酒が入ったグラスの向こうに蔵の情景が見えるだろ」と格好いいことをいう。確かにそうである、菊姫から帰ってから、菊姫を飲む度にグラスの向こうにこの仕込みタンクが見えるのである。タンクの横には、泡の状態を記録した黒板が掛かっていた。「ボコボコ」「まさしく高泡」などである。後で、平成蔵の松本杜氏にお伺いしたところ蔵頭さんが書かれたものとのこと。その場にはいなくても、後でこういった黒板を拝見出来るだけでも臨場感が想像できる。

 瓶詰めラインを拝見させていただく。残念ながら稼働はしていなかったものの、凄まじい規模である。税務署の方がみえたときに、過剰設備だといわれるそうであるが、素人の私が見てもなるほどとうなずける。
 瓶詰めラインだけではない。菊姫の酒造り全ての行程において、共通した「余裕」を感じる。村本さんによると、菊姫はどの酒においても常に安定した造り、変わらない造りを追求しているそうである。その為の努力、投資は全くいとわない。これこそが菊姫だ。例えばすべてのお米を兵庫吉川町の特AAA山田にしているのも、この為だそうである。

 一通り見学を終えて、七階のテイスティングルームでお昼ご飯をごちそうになった。
 カレーライスである。造りに入ると、曜日の感覚が無くなってしまうため日曜日はカレーライスと決めてあるそうだ。我々がお伺いしたのが日曜日に当たったわけである。旨かった。(前日の深酒で疲れている胃には大変ありがたい昼食でした。)
おかわりするもの続出であった。ごちそうさまでした。
 菊姫のマイスターは完全週休二日だそうであるが、つくりの時期は、週に一日しか休めないそうである。その分夏にまとめて一ヵ月位の休みを取るのだそうだ。長期のお休みであるので海外旅行等にいったりする方もいるらしい。造りのことを忘れ英気を養う時期でもあるそうだ。
 また、地元用のワンカップの話題も出た。一人でも欲する人がいれば、造り続けるのが菊姫の方針だそうである。

 昼食の後、精米場と貯酒場を見学させて頂いた。
 霊峰白山の裾野にあり、お蔵から車で数分の距離である。外観デザインは倉庫というより巨大なお倉である。延床面積は、1700坪だそうである。今ひとつ数字だとピンとこないが、とにかく大きいのである。一階は精米場とタンク貯酒場、二階は瓶貯酒場となっている。このうち貯酒スペースに1400坪を使っているそうである。熟成を大切にする菊姫さんならではである。村本さんに中を案内していただいて、またまたびっくり。そこいらの体育館より高い天井。精米機が八基! その横にはお米を精米機に送るための巨大な機械。50%磨くのに一昼夜、35%では四昼夜100時間近くかかるというが、ひと冬分の精米は二カ月しかかからないそうである。この設備も、十分に余裕を持った造りのためだと言う。精米所には中央コントロールルームがあり、ここで一括して管理が出来ている。メンバーの誰かが、「精米で商売できますね。」と冗談を言っていたが、これを見れば誰もがそう思うはずですよ。

 二階の瓶貯酒場は六室に区切られていて各部屋ごとに、温度管理をしているそうである。三号室には「菊理媛」が熟成時期を待って眠っている。厳重に鍵がかかっているぶ厚そうステンレス製扉の写真を思わず撮ってしまった。

 この敷地内には実験田があり、お米の研究をおこなっているそうである。お酒にかける飽くなき追求。本当に頭が下がる思いです。

 この後、金沢の割烹「まつ野」で村本さんと平成蔵の松本杜氏と囲んで会食をさせていただいた。今日しぼった荒走りと中垂れをいただいた。
 常に背筋を伸ばしてでんと座られる松本杜氏。松本杜氏は若くして(36歳!)存在感と威厳を併せ持つ杜氏さんである。
松本杜氏は、我々が質問をする度に姿勢を正して答えてくれた。終わり頃に気がついたのだが、その為に食事には余り箸をつけられなかった様子だった。申し訳ありませんでした。
 美味しいお酒と、お食事、そして楽しいお話をお伺いして本当に良い時間を得ることが出来ました。

 最後に、菊姫の方々、松本杜氏、村本さん、永田さん本当にありがとうございました。

今月の酒・味だより

涼の季節です。

 早いですね〜
 今年の満寿泉の「涼」は真に「涼」という名前がピッタリの酒質です。やわらかな口当たりと、キリッとした後味。夕方の水をうった上を抜けてくる気持の良い風を想わせます。
 300ml・・・510円、720ml・・・1750円

七代目 特別純米生貯蔵

 軽やかにそしてソフトに口中に味が広がります。強いオシ味ではありませんが後味はスッキリと消えてゆきます。これからの季節、食虫にピッタリくるお酒、清泉の7代目、久須美賢和さんが一生懸命造ったお酒です。ぜひ味わってみて下さい。
 720mlのみ・・・1429円

旨吟の「生」!天狗舞

 ないしょで出荷してもらいました(書いてるんだからないしょじゃないか?)。
 県内での販売(石川県内優先)の販売という事です。
 蔵見学の時に飲ませていただいた、そう旨吟の生酒です。さくらんぼを思わせるやさしい含み香とともに新酒の持つ、力強さと躍動感が口中に広がります。適度な酸でビシッとしめた後、軽い酒の余韻がここちいいです。
 思いのほか盃がすすみます。
 定番の火入れの旨吟と飲みくらべも楽しいと思います。
 720mlのみ・・・1800円

富久長 雫大吟醸斗ビン囲い

 富久長さんの蔵の冷蔵庫の中で極少しだけねかせてあった大吟醸をゆずってもらいました。
 1年熟成で旨みと香りがぴしっと1本にまとまってきた感じです。華やかで爽やかな吟香味が口中を満たしてくれます。
 また、米の旨みもやわらかく表現されていますヨ。
 力強いお酒なのでロックにして爽やかさをプラスしても楽しめます。
 1800mlのみ・・・4800円

☆限定54本、当店は半分いただきました。お早めにどうぞ。

諏訪泉 大吟醸雄町原酒熟成

 この雄町大吟は1997年に醸された大吟醸をお蔵の冷蔵庫で瓶熟されたものです。無理を言って少し分けていただきました。
 雄町は”2夏以上ねかせると旨くなる”と言われますが、3年、旨みも乗ってやわらかな口当たりの旨酒です。19度というアルコールを感じさせません。
 1800mlのみ・・・4000円

日高見の”天竺”雄町 純米吟醸

 曇り空が、いっきに青空に変わる様な晴々とした感じのお酒。
 かっちりとした新酒ならではの若さにあふれた感じで、後半のややニガ味ばしったスルドイキレ味がいいです。
 できれば、今と秋と2度飲んでみたい酒です。
 1800mlのみ・・・4000円

山鶴あらばしりシリーズ入荷してます!

 残り少しです。お早めに・・・

府中誉 太平海 純米吟醸 40日もろみ

 濾過前取り生詰め18000mlのみ・・・3200円

米しずく 純米「生」原酒

 花垣さんの新酒の新酒の限定品です。お米のしずく(エキス)をギュッと集めた様な米の旨みのたっぷりとあるお酒です。
 クリーミィでふくらみのある味わいと新酒のもつ力強さが印象的。キレのある旨酒。おすすめです。
 1800mlのみ・・・2800円

定番です・・・梵のお酒

 年末からの生酒ラッシュで少々お疲れの方々へ。(超吟の入荷は6月です)

寒椿 純米大吟醸

 旨いです!やわらかな口当たり、しっとりとして落ちつきがあり、奥深さを感じる酒。ゆっくりと、じっくり楽しんで下さい。
 720ml・・・3500円

ときしらず 純米吟醸

 長期氷温貯蔵。やわらかく、ふくらんで落ちつきのある旨酒。どの温度でもおいしく飲めるし、量もいく。
 食事がおいしくなる1本です。
 720ml・・・1300円、1800ml・・・2700円

萬寿鏡 甕覗き

 甕よりひしゃくでお酒を汲んで楽しみます。おいしいお酒に楽しみとゆったりとした時間の流れが加わります。楽しめる1本です。ゆっくりと一献。
 1800ml・・・4760円


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