オピニオン 解説

子どもたち数人が集まり、段ボールで基地を作っている。「ここに屋根を作ろう」「入り口の穴を開けるのはどうする?」「ここにイスを置いて・・・。」だんだんと作業は難しくなるが、段ボールをカッターで切ったり、ガムテープでつなげたり・・・。黙々と取り組む姿に圧倒される。
大人が見守るなかで、子どもたちは自分の責任で自由に遊ぶ。週末、地域の子どもたちと一緒に楽しんでいる プレーパークの光景だ。自分でやろうと決めて取り組むことに子どもたちは驚くほどの力を発揮し、少々の困難は 乗り越えてしまう。そんな遊びの中からも、どの子にも潜んでいる「自然学習力」を感じている。

自然学習力に気がつくようになったのは、「治さない医療・教えない教育」という平井雷太氏(セルフラーニング研究所所長)の講演会がきっかけだった。
「人間にはもともと治ろうとする自然治癒力が備わっているように、誰にでも『できるようになりたい』という自然学習力が備わっている。それにどう働きかけるかが医者の役目であり、教育にかかわる人の役目」
そんな話は、私の中にあった「できるようにしてあげる」「できないことはかわいそうなこと」という教育観を大きく覆した。
自然学習力に働きかけるツールとして平井氏が開発した教材を使い、五年前から教室を始めた。三人のわが子も学び始め、それとともに、生活の場面でもいろいろと変化が訪れた。
三男が三歳の時のこと。「今日はお母さんは勉強会があってどうしても行きたいんだけれど、託児所で遊ぶのと、お母さんと一緒にいて静かに遊ぶのとどっちがいい?」「お母さんと一緒に行く」「静かにしていられる?」「うーん、それじゃあ折り紙と、本と、おもちゃを持っていくよ。それから八百屋さんでお菓子を一つ買っていってもいい?」・・・。
子どもは自分のやりたいことを実現するにはどうすればいいか、相手との折り合いをつけながら自分で考えて決めることが多くなっていった。「静かにして!」と怒鳴ってもなかなかきかなかった息子も、自分で考えて決めたことは、自分で守ることができるんだなあ、と驚いた。
その三男も今は小学三年生。自分のできる仕事として、風呂掃除を毎日やると決めている。できない日もあるが、 そのときもしかる必要はなく、「今日はできなかったんだね。お風呂に入れなくて困ったんだけど・・・明日はどうする?」と聞いてみる。

今できていないことを否定しないこと。「本当はどうしたいと思っているの?」と相手に問いかけながら、「やらせる」のではなく、相手がやりたいと思うことのお手伝いをすること。それが自然学習力を信頼する教育という営みなのかもしれないと思っている。
自然学習力は言い換えれば、その人の持つ「命の輝き」のようなもの。そんなことを、子どもたちとのやりとりを通して感じている。学力も生活力も「自分で決めてやり続ける」というプロセスを通して確実に身についていく、ということも。
だれにでもある自然学習力。ちょっと意識してみることで、今まで見えなかった子どもの一面が見えてくるのではないだろうか。


こにし・としこ
1962年名古屋市生まれ。奈良教育大卒。小学校教師、塾講師を経て、学習塾「すくーるふたば」を主宰。気楽にまじめに 教育を考える会「INAHOアイネット」代表。「子どもの居場所ネットワークB'apおかやま」スタッフ。岡山市在住。





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