≪物欲番長北海道旅行第2部≫
俺の自転車旅行の歴史は、9年目。以前パラグライダーしていて墜落、そして片足骨折。2ヶ月入院した。その後しばらくしてから前の奥さんと、結婚するときに、自分周りのほとんどの人たちにパラグライダーを続けることを反対された。3年ちょっと夢中になってしていたパラグライダーと別れ、これ以上墜落しない自転車に転向。そして現在にいたる。
自転車は、2台目。両方あわせて走行距離は、1万キロは軽く越えている。今の自転車のメーターも5000キロを越えたところだ。愛車は、ゲーリーフィッシャー(アメリカで初めてマウンテンバイクを作ったメーカー。アトランタオリンピックでも優勝しているメーカーなのだ)のMt.TAM。価格は20万円を越えるのだ。購入当時は、皆に高いといわれつづけたが、ここまで乗っていれば、高くないと思う。1万のものでも全然使わないものなら高い。そういう意味では、安いと思う。
ポンチャンもゲーリーフィッシャーの自転車を購入。定価や装備は俺の以上。さすが物欲番長だ!今回は、彼の期待にも応えるためにも楽しい旅行がしたい。当然苦しいところもあるだろうが、取り返しのつかない程の事をして巻き込むつもりは無い。是非経験して欲しいのは、峠越えとキャンプだ。そして満天の星空の下でビールが飲みたい。全部走りきれば、約600キロ。5日間なので、無理な数字ではない。ポンチャンは、どこまで頑張れるのだろうか?彼の心意気に期待したい。
機内アナウンスが流れる。「帯広の天候は、雨。気温は16℃でございます。」「なにー!」不安がよぎったが、考えてもしょうがないので、とりあえず俺も今後の旅行に備えて、仮眠をとることにした。
帯広到着。不安をよそに、外は曇り。気温も涼しいし、絶好のコンディションだ。自転車の組み立ても終わり、気合が入った。
ちょっとおかしい。ペダルが進まない。無理に走ろうとするとペダルが止まる。「しまったー、やってしまった。」
チェーンがねじれたままこいでしまったため、チェーンが曲がってしまった。スタートからのハプニング。まずい。チェーンカッターが無いと直せない。バックを探るとチェーンカッターが入っていた。良かったー。何とか事なきをえて、20分ほどで曲がったチェーンを抜いて、他のチェーンをつなぎ合わせた。
帯広まで、30キロちょっと。今10時過ぎなので、ゆっくり行って昼にはつく。最高のコンディションの中を走り始めた。交通量の少ない畑が広がる緑の中を走るのは、快適だ。しばらく走っていると、〔幸福駅3キロ〕の看板。幸福駅って、北海道だったんだー。知らなかった。それほど遠周りになりそうも無かったので、まずは行ってみることにした。
幸福駅は、すでに廃線になっている駅だった。線路はもちろん無く、駅と電車だけがありお土産屋が並んでいた。知り合いに受験生が居れば、切符買っても良かったが、いなかったので写真だけ取った。木のそばにリスが居て、チョコチョコ走っている。そういった小動物を見ながら、北海道に来たなーと実感した。
ここで、一つポンチャンに説明しなければならなかった。駅には必ずスタンプがあり、ここ数年来、主要な駅につくたびにスタンプを押している。別にスタンプ帳があるわけではなくて、地図に直接押しているのだ。スタンプが無いときには、わざわざ駅員に出してもらったり、改札の中にあるときには、押すために中に入れてもらっていた。その土地で何も買わなくても、それが自分にとっての記念となる。文面もその土地土地を表す内容で、興味深い。例えば広島駅などは、〔思わず舌鼓かきの駅・広島駅〕とスタンプには刻まれている。こういった文面からもその土地をどう表現するかがとても楽しみなのだ。多少地図が読めなくなっても関係ない。この考え方をポンチャンに理解してもらわねば。もちろん幸福駅と名がつく限りは、スタンプが必ずある。前は無かったけど最近は、道の駅にもスタンプを置くようになってきていた。
ポンチャンは、「よく分からないけど、今回の旅行はお前に従うよー。」と言って、自分でも同じように押していた。
さて、帯広駅に向かうか。快適なルートを走りながら快調に帯広駅に一直線だー。たのしー!!平坦な道では、ポンチャンもナカナカ良いペースで走っている。頑張ってるなー。予定では狩勝峠を越えて、富良野まで。越えるまで130キロはある。峠がポイントとなるだろう。
帯広駅につくと、三鷹のNから電話がかかってきた。「クソー。うらやましー」がほとんど全文と言えよう。うらやましーだろー仕事しろよー!
早速、駅でスタンプを押して昼食。文面は〔澄んだ空、大平原のひろがる街・帯広駅〕
駅前に食べるところ見当たらなかったので、適当に入る。なんとホテルのレストランだった。しかし値段は、庶民の値段だったので、そのまま入ることにする。チェーンいじっていたので、手が油で汚れていた。きれいなテーブルクロスが敷いてあるのに、こんなんでよいのだろうか。地ビール飲むことにすると、「おつぎいたします。」といってつがれてしまう。汚い格好には似つかわしくないサービスだ。それにしても俺は、汚すぎる。とりあえず、手だけは洗おう。きっと店員嫌がっているだろう。
二人で居ると、ついビール飲んでしまう。本当はこの時間に飲むと走りが鈍くなり良くないんだけどなーと思いながら食事をとった。俺も地ビールのみたかったし・・・。
地図を見て打ち合わせをする。よし、峠の前まで頑張って走ろう。走り始め信号待ちしていると、キャンプ道具満載の自転車がこっちに向かってきた。一ヶ月ほど旅しているそうだ。「今日は、峠前の新得が良いよー。」と言っていた。新得には、無料のライダーハウス(北海道だけにしかないが、バイク旅行者向けの安宿)があるらしい。俺としては、峠の向こう側の湖沿いでキャンプしたいなー。
走り始めて5分もしないうちに雨が激しく降ってきた。カッパを着て荷物にカバーをかける。ポンチャンは、荷物につけるカバーが無かったので、このまましばらく走りつづけると、荷物がみんな濡れてしまう。心配だなー。
しばらく走ると、オートバックスがあった。ここでポンチャンの荷物用のカバーを買おう。あと荷物を止めるゴムも不安定なので、強力なものがあれば、それも購入したい。オートバックスには無かったけど、隣のバイク屋に全部あった。
やっと本格的にスタート。雨はどんどん激しくなってくる。何キロか走ると、チェーンがギヤにかみ合わなくてチェーンが跳びながら走る状態になってきた。先ほどのつなぎ方が悪かったのかもしれないし、リアのギアの歯が短くなっていることが原因かもしれない。いずれにせよ、激しい雨でチェーンの油が切れてきてうまくかみ合わなくなっているのだろう。さらに、カッパも駄目になってきた。今までは、雨でも全然問題なかったゴアテックスの自慢の優れものだったのだが、ここに来てその性能をなくしてきた。もう10年着てるものなー。カッパが体に張り付いてこぐのが大変。着ていてもかえって体力を失う原因になるので、カッパの下は脱いでこぐ事にした。途中で雨宿りする。ポンチャンのは、全部新品で快適らしい。もしかしたら、この時点では俺のほうがへばっていたかもしれない。
全体的にペースが遅すぎる。このまま峠越えしたら、夜中になってしまう。荷物も全部ずぶ濡れ状態。もう夕方になってきた。自分一人ではないし、ポンチャンの顔も疲れが出ている。判断を早くしなくては、「新得に泊まろう。今日はゆっくりして、明日朝早く出た方がいい。」
新得に泊まることに決定。さっき会ったツーリストの言葉を頼りに、駅で無料のライダーハウスを聞いた。「そこの建物だよ。」近くに行ってみると、トイレがあった。そのとなりのプレハブに、ライダーハウスと書いてある。
「ただのプレハブじゃねーか?」ドアを開けた。
中には、スキンヘッドのジャージ姿の人が一人倒れていた(寝てたのかもしれないがそう見えた)。
「快適ですか?」話し掛けてみた。
急に上半身が起き上がり、「ウゴウゴウゴー!!」と、言ってきた。「えー?」
ガムかんでいたらしい。ガムを捨てて、話してきた「見たとおりだよー」といってまた寝てしまった。
正直怖かった。彼は地球人なのか?ポンチャンには、「ここは止めよう」と一言だけ言って、別を探した。もう、旅館しかない。雨は激しくなってきた。もう何でもいい。
〔新得旅館〕と書いてある駅前の旅館の扉を開けて、声をかけた。「今日二人泊まれますかー?」
親切そうなおばさんが出てきて、「大変だねー。いいですよー。」
ひとり3980円。安いじゃねーか、十分、十分。
「汚いけどいいですか?」と聞くと、「袋に全部入れなさい。洗濯してあげる。ボイラー室もあるので、全部干しなさい。明日までには、全部乾くよ。」
なんてイー人なんだー!二人で感動した。風呂入れれば十分と思っていたのに、荷物が全部乾いてしまう。信じられないほどの優しさに触れて、感動しながらも、遠慮なく洗濯してもらった。
今考えてもあの時は、あの旅館以外は考えられない宿泊先だった。今まで、防水を誇っていた俺のすべての持ち物が駄目になっていて、着替えから地図までずぶ濡れだった。ここで体制を整えることがベストなのだ!!
「洗濯終わったら、勝手に干していいよ。」
二人で風呂に入りながら感動した。「すげーいいひとだなー。」
あとで洗濯機を見ると、サングラスまで洗濯機で洗濯されていた。
「・・・・・・」
「いいひとだよなー」
「????????」
もう7時を過ぎていた。近くの居酒屋で酒盛りをして、部屋に戻った。今となったら結構楽しかった。あのまま宇宙人とライダーハウスに泊まることと比べたらずっと運がよい。今日の走行距離は、82キロ。雨とスタートの遅さやトラブルを加味すれば、上等だ。ポンチャンも疲れたみたいだけど、想像以上の大健闘だ。ビールがうまかった。
しばらくすると、Hからメールが入ってきていた。「今週の土曜の野球の練習は、何人参加ですか?他の参加者の連絡は、ありますか?」
「・・・・・・」
「とりあえず俺たちは、参加できねーな。北海道だから。」
「うん」
「連絡もねーな北海道だから。」
「うん」
こうして北海道の第一日目を終了したのだった。「明日は走るぞーーーー!!」