≪物欲番長北海道旅行第4部≫
先ほどの霧は峠の上だけで、ちょっと下って峠を振り返ると雲がかぶっている。さっきまでは、低い位置に出来た、雲の中を走っていたのだ。そう考えて振り返ってみると、自然を体全体で受け止めているようで心地よく感じられた。
下りに入ってから、北海道に来て初めての晴天の下で走ることができた。東京に比べても、気温も空気も全然違う。体全体に向かって北海道のさわやかな空気が走り抜けてゆく。体全身が喜びを感じている。風景一つを取ってもすばらしい。
「すげー!しあわせだー!!」
「ジャーンジャン雨降ってねーぞー!!」
きっとポンチャンも感動していることだろう。
俺が初めて峠越えをしたのが9年前。家から日光を越え、いろは坂、金精峠を抜けた。初めてのツーリングにしては、凄い無謀だった。いろは坂は、休日だったこともあり、車が大渋滞していた。疲れて休もうとすると、車の窓から女の子から「頑張ってー!」と応援されて休めなくなり、彼女から見えなくなったら休むと決めて頑張って走る。もうだいぶ先まで行ったので大丈夫な頃休もうとすると、別な子から声援され、ずっと休めないのを繰り返した思い出がある。このときは、金精峠まで標高差2000メートルぐらいあり、たどり着いたときには、ほとんど意識を失っていた。でもたどり着いたと実感したときに、達成感で目に涙があふれてきたことを思い出す。下っているときには、自分が今世界で一番幸せだと感じたものだった。
言うまでもなく、その旅行のあと筋肉痛で一週間ぐらいまともに階段を登れなかった。
それほどには無いにせよ、満足していることには間違いないだろう。
ほとんどの反対車線ですれ違うバイクに乗っているライダー達が、挨拶で手を振ってくる。こういったコミュニケーションは、北海道以外ではほとんどない。他のところでは自転車同士ではあるけれど、ライダー達には一歩離れて見られている。話し掛けられることもほとんど無い。こういうところも北海道の良さだろう。あとでポンチャンも「苦しいときにライダー達に勇気付けられた」と言っていた。
坂道から、平地に変ってきた。もう少しで幾寅に着く。前を走っていたポンチャンの様子が疲れているように見えた。走り方が今までと違う。前に出て引っ張って走ることにする。あれだけ頑張ったので、緊張の糸が切れているかもしれない。まず、幾寅まで引っ張って休まず行こう。
幾寅の駅には、観光バスがきていた。ロケセットも残っていて、結構人もいる。駅名は幌舞駅になっているけど映画の中だけで、JRの駅としては、幾寅駅である。何か観光地だなー。色々な人から話し掛けられた。「日焼け止めは、3時間ごとに塗りなさいねー。」「どこどこがきれいだよー。」
ポンチャンも自転車皆に誉められ自慢げだった。
北海道の人たちは、本当に自転車の旅行者馴れしている。 みんな親切でとても優しい。
もうここは、南富良野である。ポンチャン期待のラベンダーの街。このあと道の駅にも寄ってから、富良野駅に向かうことにした。金山湖沿いに走る。車もほとんど走っていないし、景色も抜群だった。鳥の声を聞きながらのツーリングは気持ち良い。ここから富良野まで約50キロ。旭川まで行くことにしていたけど、プラスで50キロ。考えながら走っていた。
これから100キロは、10時過ぎなのでたいしたことは無い。しかしこのままゆっくりペースで旭川に向かうと、温泉入ったりラベンダー畑ゆっくり見れ無そうに感じる。旭川には、良さそうなキャンプ場も無い。ポンチャンのぺースも落ちてきている。稚内まで走破は今後雨が無ければ可能だろう。でもペースがこれ以上下がるとただ走るだけの旅行になってしまう。でも走破してみたい。頭の中で、いろいろ考え悩んでいた。
しばらくすると、湖の向こう側のトマムの山をバックにしているパーキングにたどり着いた。ラベンダー畑も広がっている。凄いきれいな場所だ。走って10キロぐらいだったけど、また景色を見るために止まった。「すげーなー。」しばらくするとポンチャンも来て一緒に写真をとり休んだ。「休んでばっかだなー。でもきれいな場所は見逃せないよなー。」
頭の中で考えがまとまった。「今夜は上富良野のキャンプ場にしよう。温泉あるしキャンプも出来るし、観光もゆっくり出来る。今回はせっかく休みを取ってきたからゆっくり行こう。」ポンチャンには異存は無かった。2人でただ走るだけにしてはもったいなさ過ぎる景色の数々なのだ。
そうと決まると、急にゆっくりになった。写真をとり景色を堪能する。ライダーも話し掛けてきた。静かですばらしい時間の使い方。今回はこれで良いのだ。
さあ、富良野駅まで40キロ弱。一気に行って観光するか。道も簡単だし、本気で今回は走るので、ポンチャンは自分のペースで走ってもらうことにした。いっしょにゆっくり行くと、多分ポンチャン気が抜けてしまうだろう。疲れているときは、待たせてはいけないという責任感で走らせたほうが速く走れると判断した。北海道来てから初めて早く走る。ギア跳びも、天気が良いので激しくないし、さっきの走行中にギアの跳ばない変速位置もわかってきていた。トップではないのでそこそこしか出ないけど、そろそろ引っ張って走ろう。
走り始めるとすぐ見えなくなった。見えなくなると、ますます一人でツーリングしているぐらいのスピードになる。風を切って走っているのも気持ちいい。そうかいだーーー!
やはり北海道は走りやすい。車も少ないし道も走りやすい景色も絶好調。まずは富良野駅だ。「ラベンダー畑は2人には似合わないだろうなー。」2人で畑の中で並んでいる姿を想像するたび吹き出してしまう。それも良い旅行の思い出になるだろう。
富良野駅まで後10キロちょっとのところまで来ていた。「一気に走ろう!」だんだん町並みがにぎやかになる。暑い!汗が肌から吹き出してくる。我慢しながらしばらく走っていると、横に「すいか・メロン直売」と看板が立っている。〔メロン・すいか〕
〔メロン〕
〔すいか〕
〔メロン〕
〔メロン〕
〔すいか〕
「くそー!我慢できない。何だこの道はー。はしんだよー。」
〔おいしいメロン食べられます。〕
転びそうになった。やっぱり我慢できない。食べよう!
自転車止めて、店員に話し掛ける。「メロンください!」店員ニコニコしながら、「うめーぞウチのメロン。」4分の1二カットされたメロンをホウバった。
ずげー!こんなうまいの食ったことねー!「このメロン何なんですか?うますぎる!」
店員自慢げに「ウチのメロンは、夕張よりうめーんだよ。北海道では、富良野の山部メロンといったら有名さ。」
さらにすいかも食べた。何か幸せだ!北海道といったら海産物しか頭に無かったけれど、こんなうまいものがあるとは知らなかった。それから店員としばらく話し込んで、メロン・すいかの談議と富良野についていろいろ聞いた。
ポンチャンにも食わしてー。しばらくするとゆっくり自転車で走るおっさん発見。「おーい!!」
彼もまた食べて感動していた。いいなーほっかいどーーー!
ポンチャンは自転車またまた誉められ、彼の喜びは頂点に達した。
富良野駅に行こう!!2人とも満足しながら富良野駅に向かった。近かったのですぐ着いた。スタンプは2人ともすぐ探し回り見つけて押す。ポンチャンも立派なスタンパーになったなー。〔へそ踊り・一度は踊ろう太鼓腹・富良野駅〕
「???」
ラベンダーの街じゃないのー?
1時過ぎていたので、昼飯食うことにした。駅で観光地図をもらい、すし屋に行った。当然なのだ。もう我慢できないのだ。うにいくら丼だ!!
やっぱりうまい!!うますぎる!!くいすぎだー!!ビールも飲むぜ!!
すべてを満たされたような喜びを感じた。