久保内医院
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おしりの話(2)


 5.痔の成因

  • 痔核は静脈瘤ですから、主に血流の鬱滞が原因です。妊娠により子宮が腫大し静脈還流を阻害してできるもの、長時間の座位を続ける職業の人にできるもの等があります。また、明らかな静脈瘤を形成せずに、粘膜の脱出(いわゆる脱肛)のみを生じるものもあり、これは粘膜、血管の支持組織の脆弱化が原因です。いきみ等の排便習慣が脱出を招くと考えられます。殆どのいぼ痔はこの二つの原因を含んでおり、その割合により出血を生じるタイプ、脱肛を生じるタイプ、両方生じるタイプに分けられると思います。
  • 裂肛は硬い便の排出によって粘膜が切れて生じるものが殆どです(下痢で切れることもあります)。慢性化する事により、より深部の筋肉の損傷、硬化を招き、筋肉の拘縮が起こるため肛門狭窄という状況になります。
  • 痔瘻の成因は明らかではありませんが、肛門陰窩(肛門皮膚と直腸粘膜の境目の窪み)から細菌が圧力により押し出され、筋肉の間や腸と骨の間の柔らかい組織に膿瘍を作る肛門周囲膿瘍がその原因と考えられます。裂肛の表面が治り、深部がトンネルとして残ることによってできる粘膜下痔瘻というものもあります。クローン病(粘血便を伴う難治性疾患)等の初発症状であることもあります。

 
6.痔の治療

 
痔瘻(肛囲膿瘍)を除き、痔核裂肛は軽症であれば薬物療法を主体に排便習慣の改善により治ることもあります(但し、基本的にどの薬も症状の緩和を謳っているだけで治るとはいっていません)。肛囲膿瘍も切開排膿だけで治癒し、痔瘻に進展しないことも結構有ります。 
 図1の様に大腸の中でも一番太い直腸にためた便を、伸縮性があるとはいえあの細い肛門管から排出するのですから、楽に排便できるような硬度を心がけるべきでしょう(練り歯磨きの固さが理想の固さだそうです)。大腸に停滞する時間が長ければそれだけ水分の吸収を受けるので変形しにくい硬い便になります。1日にとる水分量を500ml増やすことで約半数の人の便秘が解消されるという話もあります。食物繊維は消化吸収が悪いのと腸内細菌の働きを良くすることで大腸の通過時間を短くすると言われています。

  

①痔核の治療

  • 薬物療法:軟膏、坐薬を肛門に局所投与することにより症状を改善します。症状の強い場合にはステロイド含有のもの、軽症の場合は含有しないものを使う傾向にあります。経口薬(VIT Eや下剤成分を含むもの)を併用することも有ります。
  • 注射療法:①痔核とその周囲に硬化剤を注入し、血管とその周囲に炎症を起こすことにより固めます②痔核とその周囲の組織を腐食させ脱落させます。
  • ゴム輪結紮:内痔核の根本に極小の輪ゴムをかけて、腐らせます。
  • 凍結療法:液体窒素(-200度)を用い、痔核を凍結壊死させます。
  • PPH:痔核を直接触れずに自動吻合器(切除と縫合を一度に行う機械)を用い、脱出する余剰粘膜と痔核に流入する血管を環状に切ることにより痔核を消退させます。
  • 手術:結紮切除術という痔核への流入血管を結紮し、痔核を切除する方法が広く行われています。切除した後の粘膜は縫合しますが、一緒に切除した皮膚の部分は縫合せずに傷を解放したままにします。この解放した傷が肛門の腫れや大腸菌が傷の中に留まることを防ぐ逃げ道になります。数週間で傷は判らないくらいにきれいに治ります。
坐薬注射

②裂肛の治療

肛門ポリ-プ見張り疣はいわば裂肛の随伴症状で、薬により治ることはなく(見張り疣や皮垂(余剰皮膚)自体に一生懸命に薬を塗る方をよく見受けますが)、あまり大きくなるようなら外科的に切除します。軽度の裂肛は自然に治癒しますが、難治のものは括約筋の痙攣を伴い痛みも持続します。最終的には肛門狭窄になってきます。

  • 薬物療法:軟膏、坐薬を肛門に局所投与することにより症状を改善します。
  • 薬物的内括約筋緊張緩和:ボツリヌス毒素注射やニトログリセリン軟膏により一時的な括約筋麻痺を起こし治療します。
  • 肛門拡張術:手指により肛門括約筋のストレッチをします
  • 内括約筋側方切開:括約筋を部分的に切開することにより筋肉の緊張を取ります。
  • スライディングスキングラフト:慢性的な潰瘍部分を肛門ポリープや皮垂とともに切除し、皮膚をずらして、その欠損部分を覆います。(代わりに皮膚が欠損しますが、肛門周囲の皮膚は上皮化が早いので治癒します。
軟膏手術