――「俺は用心棒」とその周辺――

5.音楽 渡辺岳夫

 結束信二の作品を考えるのに、音楽の 渡辺岳夫 を切り離すことはできません。映画は、言うまでもなく総合芸術であり、その立場で捕えなければならないにもかかわらず、音楽が不当に、たとえば撮影等と比較しても、低く見られて来たことは、映画が正当に評価されていなかった点で不幸なことでしょう。

 渡辺岳夫を他の作曲家に抜きん出て位置づけるものは、一つは彼の勤勉さとバイタリティーでしょう。「俺は用心棒」の口笛とソロギターのウエスタン調のテーマ曲は、後のマカロニ・ウエスタン・ブームを見るに、時代を先取りした感がありました。これは眠狂四郎シリーズに受け継がれました。当時のバロック音楽ブームを先取りして、彼はハープシコードを「大奥」のテーマ音楽に採用しています。その後映画音楽にハープシコードを使うのは流行になってしまいました。

 もう一つは、彼の音楽には必ず美しいメロディーがあることです。「大奥」が「太陽がいっぱい」のアレンジであり「検事霧島三郎」が「コーヒー・ルンバ」のアレンジであることも、ニーノ・ロータの「道・ジェルソミーナ」がドボルザークの弦楽セレナードのアレンジであることとかわりがありません。美しいメロディーを求めての、それは彼等の芸術的止揚だったのでしょう。

 彼の音楽が独自の芸術として、そのメロディーが結束のシナリオ、時としていささかレトリックに過ぎるように思われるそれからにじみ出る詩情と織りなす綾によって、その哀愁は感極まるものになったのです。

付録.YouTube 動画もご覧ください

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