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10/4
15章完了。この作品の山場を書き終えた。阿倍媛と道鏡との出会い。患者と看病禅師という立場で出会うのだし、悪魔祓いの儀式が中心になるので、ロミオとジュリエットみたいな感じになるわけではないが、ここに至るまでに充分にストーリーを展開してきたので、感動的な出会いになるはずだ。こういうところは文章で無理に盛り上げようとするとかえっとシラケるので、ごくシンプルに書いてみた。プリントして読み返し、必要ならばもっとコテコテにする。
悪魔祓いのあとはストーリーがどんどん進んでいく。登場人物のキャラクターはすでに確立されているので、簡潔にストーリーを進行させるだけでいい。描写が少なく書き手としては物足りない感じもするのだが、大詰めに向けてストーリーが雪崩打っているところで余計な描写は、読者にとって煩わしいだけだろう。
この章は4日かかったが、この作品の最も重要な部分だったので、相当のハイペースで書いたことになる。大学の講義にも出たし、学生の宿題も見た。ちょうど1年生の最初の宿題で、何しろ1年生だからろくな作品はないのだが、とにかくていねいに読んで添削指導している。われながらよく働いている。
親族にまつわる問題が8/10以来続いていて、実は悩み事が多い日々なのだが、ベルギーにいる長男が、いまローマにいる、などとノーテンキな電話をかけてきたりする。
小説を書いている時は神様のような気分でいるのだが、ワープロから離れると悩みの多い一個に人間にすぎない。
さて、この作品は全体で何章になるのか、皆目見当がつかなかったのだが、ここまで来ると、必要なことはほとんど書いてしまった感じがする。
阿倍媛と道鏡が出会うまでが、この作品のサスペンスを形成するのであって、出会ってしまったあとは、緊張が一気にゆるんでしまう。
これまでの通説では、道鏡は巨根であって、これから愛欲の日々が続くことになるはずだが、そういうところを書くつもりはない。
アラスジだけで一気にエンディングになだれこむなら1章だけでいいが、女帝が死ぬ場面をややクサク書くならば2章になる。
ということは、いまのペースだとあと1週間で完成してしまうのか。まあ、プリントしてじっくり書き直す時間が必要だから、とにかく草稿のエンディングまでは何も考えずに一気に突っ走りたい。
10/6
阿倍媛と道鏡の出会いという作品の山場を書いてしまうと、ちょっと安心してしまったようなところがある。
この作品では敵役である藤原仲麻呂の反乱も、コンパクトに書いて、これでもう大団円という感じだ。
必要なことはほぼ書き尽くしてしまったので、あとは手短に歴史的事実だけを語って、終わりにしてしまってもいい。
そうするとあと一週間で完成か、と一瞬思ったのだが、それではいけない、と思い直した。
最大の山を超えたところで、あと一つか二つ、山を設定しないと、読者はエンディングに向けての心の準備ができないだろう。
山場で突然終わるのではなく、勾配が下り坂になって、そろそろ終わりそうだという気配が伝わってくる、という部分が必要だろう。
そこで当初は書くつもりのなかった、阿倍媛と道鏡の「愛欲」生活を書くことにする。
またこの作品の本当の悪人は吉備真備なので、最後のそのあたりを少し書いておく必要があるだろう。
ということは、完成までにまだ時間がかかる。少し気がゆるんでからのラストスパートは、かなり厳しい。
しかしこの作品を書き上げても休めるわけではなく、次の仕事が待っているので、とにかく一定のペースでゴールに向かおうと思う。
10/9
辻原登氏より寄贈の『翔べ麒麟』をパラパラと読む。これは阿倍仲麻呂の物語。
阿倍仲麻呂は吉備真備とともに遣唐留学生となったのだが、玄宗皇帝に評価されて唐の役人として出世しすぎたため出国の許可が下りず、帰朝できなくなった人。
真備が二度目に唐に渡った時は、一緒に帰国するはずだったのだが、仲麻呂が乗り込んだ第一船は嵐にあって唐へ戻ってしまった。
鑑真の乗った第二船と真備の乗った第三船は無事日本へ着いているので、仲麻呂は何とも運の悪い人物。
しかしその悲劇性が印象的で、「天の原ふりさきみれば春日なる三笠の山にいでし月かも」という名歌を残している。
『女帝』の最重要の登場人物、真備と深くかかわった人物だけに、少しは触れたいと考えていたのだが、これまでのところまったく言及しなかった。
理由は、名前のせいだ。女帝「阿倍」媛と藤原「仲麻呂」の対立が物語の核になっているのに、「阿倍仲麻呂」などという人物が出てきのでは、読者は混乱するだろう。
オリジナルな小説を書く場合には、混乱が起きないようにネーミングするので、問題は生じない。歴史小説の場合には、こういうややこして名前の人が出てくると書く方も困ってしまう。
しかし辻原氏の作品を読んでみると、やはり阿倍仲麻呂は吉備真備に強い影響を与えているはずだという気がした。
そこで現在書いている16章で、真備に少し長いセリフをしゃべらせ、その中で阿倍仲麻呂について語らせることにした。
ずっと以前から気になっていたことなので、うまく解決できてよかった。
辻原氏の作品は、こちらが読売新聞の夕刊に『恋する家族』を連載している時に、朝刊に連載されていた作品で、とびとびには読んでいたので、真備が出てくることも知っていたのだが、この時期に単行本が送られてきたのも何かの縁だだろう。
作品というものはこういう偶然によっても左右されるわけだが、いいタイミングだったと思う。
さてその16章はもうすぐ完了する。今週は雑用があったので少しペースが遅い。最後の山を書いているので意識的にペースを落としたところもある。
いよいよ阿倍媛が死にそうになっている。この長い物語もようやく終わる。
16章の次の章は「終章」ということにして、少し短めで終わってもいいだろうと思っている。
10/11
ようやく16章完了。この1章に1週間かかったが、この間、雑用、雑文、学生の宿題などがあったので仕方がない。しかも作品の中で最も難しい部分だった。最大の山場は前章だが、エンディングに向けて緊張感を持続させる必要があり、山また山という感じにしないといけない。よく気分の高揚が持続したと思う。
この章のラストまででストーリーがほぼ完了し、あとは宇佐八幡の神託からエンディングまで一気に進めばいい。かなりいい出来に仕上がっているはずだが、プリントして読み返してみるまではわからない。
これまでに書いたもので、連作短篇の『鹿の王』は別として、長篇では『地に火を放つ者』が最高の作品と考えてきたが、たぶん同じくらいのレベルに達しているし、日本の話だから読書にとっては親しみやすい世界が展開されていると思う。
エンターテインメントとしては少し仏教に深入りしすぎたが、哲学がなければ書いている意味がない。
とにかくラストシーンが大切なので、あと数日、フルパワーで取り組みたい。
ところで、ここまで書いてページが満杯になった。満杯になったというのは、エラー表示が出たのだ。
このホームページはウィンドウズの「メモ帳」で書いている。インターネットエクスプローラーでホームページを出して「表示」「ソース」をクリックすると「メモ帳」が起動してHTMLを読むことができる。その逆に、「メモ帳」で作ったファイルをアップロードすると、修正するのが簡単だから、ホームページ作成のソフトなどは使っていない。
ただ「メモ帳」にはキャパシティーがあるようで、ある程度、文字情報を打ち込むと、悲鳴を上げる。そうなると、別の文書で保存しないといけない。
というわけで、ページをめくる、という作業が必要になる。この創作ノートは今年の1月から始め、4月までで1ページ目が埋まった。5月から2ページ目になって、ここで満杯になった。そこで9月末までを2ページ目として、10月からは3ページ目とする。
ふつうのノートなら、ページをめくるのは簡単だが、インターネットの作業はやや複雑。ふだんはHTMLのことなど忘れているので、どうやったらいいのか、すぐには思い出せない。
ということで、30分くらい時間をとられた。作品のゴールが見えているのに、貴重な時間が空費してしまった。
10/13
わずか2日で17章が終わった。終章のつもりで書いていたのに、この章が満杯になってしまった。18章に突入。これが本当の終章になるし、かなり短い章になりそうだ。明日、1日で完成するかもしれない。
10/15
終章完成。ついに『女帝……阿倍媛と道鏡』が完成した。
この創作ノートは今年の1/4から始まっているけれども、実際に作品を書き始めたのは2月になってからだ。5月まで4カ月かかって7章まで200枚弱を書いただけだった。
まあ、その間、『恋する家族』『大鼎談』『遮那王伝説』『ぼくのリビングルーム』と4冊の本の校正があったので時間をとられたし、大学の始まりのシーズンは学生の宿題の添削指導でけっこう大変なのだ。
しかし文体が定まらず何度も書き直した。このペースだといつ完成するのか先が見えなかったが、とりあえず担当の谷口くんに7章まで渡した。
それから『大学は誰のためのものか』の原稿を200枚くらい書いていた。
8月は『般若心経の謎を解く』を1カ月で書いた。本1冊を1カ月で書くのは初めての体験ではないか。
途中8/10に兄の会社が倒産するという思いがけない出来事があり、雑念が入りそうになったので仕事に集中した。
その集中力のままで『女帝』に取り組んだせいか、9月に入ってからスタートした『女帝』の8章から18章までの約300枚を、1カ月半で書き上げた。このペースで書ければ流行作家になれる。
この『女帝』という作品は、実質的には道鏡が主人公で、宗教小説、哲学小説としても読めるようになっているが、なるべく深入りしないようにした。ストーリーと幻想的なイメージだけで読みかれるように書いた。だからある程度ポップな作品になっていると思う。
ただいままで純文学ひとすじに書いてきたので、読者の幅を急に広げるのは難しい。そこでこの『女帝』を3部作として、来年末までには3冊揃えて本屋に並ぶようにしたいと思っている。
従って今回の作品は『女帝1』ということになる。次は『女帝2……讃良姫と大海王子』すなわち持統天皇と天武天皇の物語になる。3作目は聖徳太子が主人公になる。
時代の順番からいえば、逆をたどることになるが、この順番で読んでもらった方が作品の意図が見えると思う。
とりあえずプリントした草稿をチェックして今月末には谷口くんに渡せるだろう。
11月は、今年の1月に「ジャンプノベル」に書いた『少女エクレール』の続きを書く。せっかく100枚の原稿があるので、あと140枚書けば本になる。1カ月あれば十分だろう。
ということは、12月の頭から『女帝2』をスタートすることができる。この創作ノートは、草稿のチェックから校正の仕上げまであるので、あとしばらくこのまま続けることにする。
並行して『少女エクレール』についても書くことになるだろう。とにかく、まずは草稿の完成を喜びたい。
10/21
三ヶ日の仕事場に5日間ほどいた。この間にプリントした草稿を読み返した。
校正の要領で赤字を入れていく。ルビを振る作業もある。
赤字の訂正だけでは直らなかった部分は3カ所。ここはパソコンからその部分をコピーしたものを作り、全面的に書き換えたり、あらたな文章を書いたりした。
こういう文書が3つできたわけで、これを訂正を入力する時に貼り付けることになる。
巻末の年表も作ってみた。本に入れるかどうかは編集者と相談して決める。系図も必要かもしれないが、これは手で書いた方が速そうだ。
新たな文書を作った3カ所というのは次のごとし。
気になっていたのは、道鏡の治療で快復したあとの女帝にインパクトが不足していたことで、まず治療のシーンとそれに続く仲麻呂の乱までのくだりを全面的に改稿した。
また快復後の女帝は、少し頭がおかしくなっているので、その感じを出すために、セリフはすべて文語でしゃべることにした。
この時代の人間がどんな言葉をしゃべっていたのかは、まったくわからない。だからセリフは現代の少しもっともらしい感じで押し通しているのだが、女帝のセリフだけ文語でやると、少しおかしい、という感じが出ると思う。これは赤字で訂正した。文書で改稿したのは、快復後の女帝がわがままになって、仲麻呂一族を皆殺しにしろ、などと言うところ。
もとの草稿ではもう少し穏やかな感じにしていたのだが、強めにした方が女帝の悲劇性がよく見えると思う。
訂正の第二点は、阿倍媛が狂うところ。草稿よりも迫力をアップした。それと和気清麻呂が出てくるところも少し変えた。
この作品はややオカルト的なところがある。狂うということを、ものが憑く、というふうに解釈しているので、映画の「エクソシスト」みたいなイメージを用いている。
つまり道鏡がエクソシストなわけだが、あの映画では、憑いている「もの」が、エクソシストの内面を読んで語りかける。
つまり「魔」というものは、見ているものの幻影だから、見ている人間の心理が投影されることになる。そういう意味で、「魔」は道鏡の心理を読んで道鏡自身に語りかけることになる。
そこに行く過程として、阿倍媛の狂うシーンに「もの」が憑く感じを入れないといけない。
この作品は十二神将のバサラ神将が最初に出てくるのだが、女帝が病で死に近づくシーンでは、死の象徴としてバサラが出てくることになる。
狂うシーンでも当然、バサラを出さないといけないのに草稿では忘れていた。
訂正の第三点は、吉備真備と女帝が双六をやるシーン。
これはラストシーンで女帝と、女官となった真備の娘の由利が、双六の話をするシーンが必要ですでに書いてしまった。
そのため伏線として、初めの方に、真備と阿倍媛が双六をやるシーンを追加した。
ここに出てくる双六は、いまでいうバックギャモンのこと。かなり頭を使うゲームなので、何度やっても阿倍媛は勝てない。そのあたりをユーモラスに書こうと思ったが、あんまり枚数が増えてもいけないので、コンパクトに必要なことだけを挿入することにした。
全体を読み返した感想。最高傑作である。
これまで自分のベストは『地に火を放つ者』だと思っていたが、明らかに凌いでいる。
他人の作品では、井上靖の『風林火山』とか山本周五郎の『樅の木は残った』とかと同じくらい面白いと思う。
ただしかなれ幻想的な作品なのでリアリズムに慣れた読者は、あれ、と思うかもしれない。
行基、菩提僊那、鑑真、良弁ら、僧侶がたくさん出てくるので、宗教小説としてもレベルの高いものになっている。
とはいえ難しい議論はなく、イメージ豊かでユーモラスな会話の中から、奥深い真理が語られることになる。
などと自画自賛しているけれども、まあ、当初思っていたよりもうまく行ったし、書くスピードも速かった。このペースで次の作品に取り組みたい。
次の作品は『女帝……讃良(サララ)媛と大海人(オオアマノ)皇子』ということになるが、作品を編集者に渡し、校正刷りが出来上がるまでは、このノートを続けることにする。
まだプリントに赤字を入れた段階なので、これをパソコンで入力し、新たな文書3つを貼りつけ、年表を加え、最終的にプリントする作業が残っている。
その後、「少女エクレール」という短い作品を仕上げることにするので、その作品ノートもここに書くことにする。
というわけでしばらくは『女帝』のノートと『エクレール』のノートが混在することになる。
10/27
プリントチェックの入力完了。フリガナをつけるのに手間取り疲れた。完成稿をプリント。編集者に渡すフロッピーも作る。これで完全に手が離れる。
あ、系図がまだ出来ていない。年表と系図をつける予定だったが、年表を読者が先に見てしまうとストーリーの先が読めてしまうので出さないことにした。系図は必要だろう。うまく一つの表にまとめるのが難しいのだが。
あとは校正ゲラを見る作業が残っているが、大きな直しはないはず。
自分にとっては本格的な歴史小説の第一弾なので、作品が完成したことに感慨はあるが、すぐ次を書かないといけないので、とりあえず資料を読んでいる。「持統天皇」は長生きしたし、その中に数々のドラマがある。さらに大化改新の年に生まれているので、645年のクーデターの場面から書き始めることになる。
ストーリーを追うだけで本一冊になる。さらに額田女王という魅力的な脇役を描かないわけにはいかない。どれだけコンパクトに描けるかが勝負になる。
だが、「持統天皇」は割合うまく書けそうな気がしている。その次の「聖徳太子」が問題で、山岸涼子の『日出る処の天子』という名作があるので、しっかりと準備をして取り組みたい。
とにかく一つの作品が手を離れた。本日は祝杯をあげたい。
11/18
『女帝』の校正、印刷所から廻ってきたゲラに抜けページがあったのだが、本日チェックが終わる。これで完全に手が離れた。
11/20
ゲラを廣済堂出版の谷口くんに渡す。これですべての作業が終わる。
タイトルは『天翔ける女帝』とする。
当初は『女帝』ということで書き始めたのだが、途中から女帝三部作を書くことにしたので、「阿倍媛と道鏡」というサブタイトルをつけていた。
しかし「阿倍媛」は誰も知らないだろうし、「道鏡」はイメージがわるい。ということで、何のことかわからないタイトルにした。
次に書く「持統天皇」の場合も「……女帝」というタイトルにする。仮題として『火焔の女帝』というようなものを考えているが、とりあえずは『女帝U・持統天皇』と呼んでおく。
一年近く書いてきたこのノートも、ここで終わりにする。
ここから先は『女帝U』ノートを新たに書き始めることにする。
