自己紹介

私の自己紹介代わりに、私を被験者として記録した1980年代の論文を掲載します。


~~~~~   C4レベルの完全損傷患者への電動車椅子   ~~~~~
(ハンド・コントロール・タイプ)の試み
関東労災病院  PT ○金 沢 成 志   小 高 啓 正   白 川 守
          宮 原 卓 志   村 西 義 雄




近年、当院に於いては、全脊髄損傷患者に占める頸髄損傷(以下頸損)患者の割合が増加傾向にあり、過半数を占める状態が続いている。頸損患者のリハビリテーションにおいて、その限られた残存能力を最大限に利用し、実用的な移動能力を獲得させることは、PTに課せられた最も重要な課題の一つであると考える。

今回、我々は、ハンド・コントロール・タイプの電動車椅子が可能となった、C4レベル完全損傷の症例を経験したので報告する。



症例は21才の男性、職業は学生で、S58年6月4日、トランポリンで宙返りに失敗して受傷、診断名はC3-4脱臼である。

6月23日当院に転院、7月21日PT開始、9月5日OT開始となっている。

PT開始時、ROMは正常、知覚はC5以下脱失、深部反射消失、膝屈筋郡と下腿三頭筋に痙性が認められ、ADL全介助であった。MMTは僧帽筋3、三角筋1だったが、10月では右上腕二頭筋、回外筋が1となった。S59年1月には左上腕二頭筋1、右円回内筋2となり、4月には左回外筋、円回内筋に収縮が現われている。現在の筋力は表の通りである。また深部反射は下肢で亢進、股内転内旋筋群、膝屈筋群、下腿三頭筋に特に強い痙性が出現している。



本症例の電動車椅子訓練はS59年1月下旬に開始した。訓練は、体幹をベルトでバックレストに固定し、右手をセラバンドでコントロール・レバーに固定して行なった。開始当初はレバー操作能力が低く、かろうじで前方への走行のみが可能で、他はPTの介助を要した。

1週後より、熱可塑性プラスチックで、手掌部に穴をあけ、レバーにはめこむようにしたdeviceを作製し訓練を行なった。

約1ヵ月後、若干の不安感の訴えがあったが、前方へのレバー操作が可能となり、3ヵ月後の4月下旬には後方への操作を含め、院内走行が実用的となった。

その後、屋外での訓練を行ない、約1ヶ月で屋外走行が実用的なレベルに達した。

5月下旬、レバー操作をより確実にするため、スライドのdeviceを作製し、訓練を行なった。

これに並行して、OT、車椅子メーカー、症例を交えて検討した結果、スライドの電動車椅子を処方した。




頸損患者のリハビリテーションに於いて、移動の自立が重要であることは先に述べたが、高位頸損患者では残された少ない機能から、電動車椅子は移動手段として不可欠なものと考えられる。

本症例は移動が自立することにより、生活空間の拡大、自分の意志で行動できる喜び、介護者の介護量の軽減などで、大きな効果があった。

症例は家庭復帰した際、昼間、家で一人ですごすことになるため、電動車椅子操作は家庭復帰への重要な条件であった。電動車椅子訓練以前は、症例も家族も、家庭復帰や将来の生活について具体的イメージを全く持てない状態だった。しかし移動の自立により、家庭復帰が現実的になり、その他訓練等への意欲にも、よい影響があった。

通常、C4レベルの頸損患者ではチン・コントロールの電動車椅子が適応とされている。症例はC4レベルであったが、チン・コントロールに対して、拒否的であり、ハンド・コントロールへの強い意欲があったこと、三角筋に2レベルの筋力回復があり、操作が実用となる可能性を考えたことから、当初よりハンド・コントロールによる訓練を試みた。

症例がレバー操作能力を獲得していく過程で、両上肢筋力の増強があった。また、電動車椅子を使用し続けている現在も、受傷後1年数ヶ月経過しているにもかかわらず、若干の筋力増強が認められている。

レバー操作は、回内外筋が殆ど働かない場合でもある程度可能である。しかし、左右への操作には回内外の動きが重要であり、症例の場合も回内外筋の回復が、レバー操作の熟練へのキーとなったと考えられる。

本症例への電動車椅子処方に際しては、症例が屋外でも使用すること、家屋が狭いこと、昼間一人で家にいること、レバー操作は可能だがスイッチ操作は不可能なこと、等が問題となった。

屋外での使用では、段差乗り越えや悪路走行に有利な前輪駆動方式が考えられるが、狭い家屋内での使用には回転半径の小さい後輪駆動方式が有利である。結局、症例の希望もあり、前輪駆動方式を採用した。

長時間の使用に対しては電動リクライニング装置を採用し、それに伴う前腕の移動に対してはスライド式アームレストを取りつけることとした。

メイン・スイッチ、リクライニング操作、ブレーキ操作をマイコン制御で行なうスキャナーの操作は呼気によって行なわれる。しかし、呼気のセンサーが顔の直前に位置するため、症例が拒否した。そこで、カメラのレンズのほこりを払うために使うブロアーを利用することとした。ブロアーをヘッドレストのすき間に置き、これを頭部で押して空気を送り、スキャナーを操作する方式を採用した。

処方した電動車椅子は9月中旬に完成したが、アームレストのスライディング機構が不良のため、改善の必要があった。現在はアームレストを外した状態で使用している。



(1) C4レベルの完全損傷患者に対し、ハンド・コントロール・タイプの電動車椅子訓練を行なった。
(2) 約3ヶ月の訓練により屋内走行が実用的なものとなり、さらに約1ヶ月で屋外走行が実用レベルに達した。
(3) この症例に対し、前輪駆動、電動リクライニング、スライド式アームレスト、ブロアーによるマイコンスイッチ操作方式の電動車椅子を処方した。
(4) 本症例は電動車椅子操作の獲得により、家庭復帰が可能となり、現在その準備中である。

最後に、この報告を終えるにあたり、御協力いただいた、当院OT坪田氏、今仙技術研究所山内氏、症例の○山氏に感謝します。

また、タイトル、内容と抄録の間に、一部違いがあったことをお詫びします。


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