第4回 潜水医学講座を聞いて


 以下で紹介する感想などはあくまでも個人の感想に過ぎず、調査についても個人でできるレベルにすぎない。よって至らない点についてご指導などをいただければ幸いである。


 平成15年年3月29日、私は神奈川県小田原市で行われた第4回潜水医学講座を聞きに行きました。その感想を述べてみます。
 こういった啓蒙活動は大変意味のあるものだと思います。

 講座は四部に分かれ、その一部では、潜水医学に関する著作や論文も多数ある、潜水医学の高名な専門家である防衛医科大学教授の池田知純氏(医学博士)から教育講演が行われました。
 題名は「浮上後に異常を認めたら〜減圧障害への初期対応のための基礎知識」でした。
 この内容は、減圧症について一般の人でも分かりやすく解説されたものでした。
 この時の内容は、学会での専門的発表や、ここ数年11月に行われている安全潜水を考える会で発表される内容よりも、より一般の人に理解しやすい内容だと思いました。その意味で私を含めた一般の人々には大変役に立つもので、一緒に行った別のダイバーたちもその点を評価していたようです。

◆会場と講演の模様

一部の池田知純氏による教育講演
(勉強と参考になりました)

小田原市保険センター
平成15年3月29日

 二部では特別講演として、「スクーバダイビングを始める際に受けるメディカルチェックの問題点とRSTC医学声明書について」と題して、東京医科歯科大学の山見信夫医師による講演が行われました。
 ここでは、現在ダイビングの際に求められている医学声明書の内容の実態調査の結果と、今後の声明書の内容の有り方について講演がなされました。
 ただこれはその研究成果をどうダイバーの安全確保に結び付けていくかについての具体策についての提言ではなく、あくまでも医学声明書に関する調査報告と新しい医学声明書についての内容を述べる講演でした。

 三部では「ダイビング事故とリスクマネジメント」と題して、静岡県警の元潜水隊隊長の名倉克己氏の特別講演がありました。
 これは、ダイビング事故の問題点を語る、真摯で熱心な講演でした。名倉氏の人柄がうかがえ、また安全を願う気持ちがよく伝わってくる講演でした。
 ただ事故の実態については、警察が知っているだけのデータからの紹介でしたので、昨年の静岡県での事故件数も、その実態の3分の1以下しか把握されていませんでした。警察のデータとは、警察に届けられたものをカウントするだけなので、自ら積極的に実態調査を行わないという現実から来ているもので、名倉氏の責任ではありません。
 ただ、ここに参加した業者の方々が、事故がこんなに少ないのだと感じたら、これはまずいなと感じました。
 また事故があっても、事故者がCカードを持っていれば、その人はそれで一人前と考えられるから、事故の際の業者の責任は問われないだろうという間違った認識がされるような質疑応答があったのでびっくりしました。これは拙著で紹介しているような判例に反する内容だったからです。

 四部の後に直接この疑問を名倉氏に確認したところ、事故者がCカードを持っていても責任を問われることもあるという認識を示してくれたので、質疑応答のときのやりとりがうまくいかなかっただけだろうと思いました。一応このやり取りについてはビデオに納めておきました。問題はこの質疑応答で、私の本すら参考にしていない業者の方が(当日、私の本を参考にしてくれるプロダイバーの方もいたので、全てではなりません)、事故者がCカードさえ持っていれば、決して刑事責任も民事責任も問われないという誤解をするかもしれないことでした。あの場の雰囲気では、質問者はそう受け取ったように見られましたが。

 四部は討論及び総括でした。
 さまざまな質問が出ました。ここでは減圧症の発生に関する質疑応答が面白かったです。医学声明書に関しては抽象論に終始し、それをどう生かすかという具体的な回答は意図的に避けられていたかのようにも受け取れました。もっとも、山見氏が、そうせざるを得ない立場にあることも理解できるので、やむを得ないかなと思いました。
 ダイビング業者の方から、事故の時の責任についての質問がありましたが、事業の経営者としてあまりに不勉強なその状況に、一緒に行った一般のダイバーたちとも顔を見合わせてしまいました。しかも事例を挙げての質問で、それには刑事責任は問われないだろうという回答を得たことを、民事責任も問われない(質問で挙げた事例は、民事責任は問われるであろう、あるいは少なくとも訴訟にはなるであろうという問題を含んでいた)と勘違いしたような表情が見られ、この経営者がいるショップではダイビングは避けたほうがいいのだろうかと考えざるを得ませんでした。もっとも、ここに勉強に来たという姿勢は評価できます。しかしこの勘違いのまま事業を行っていたら、いざ、事故が起きたときに正しい対応ができず、事故者(やその遺族)との間で苦労する(事故者や遺族にとっては悲惨)だろうと危惧してしまいました。(拙著「ダイビング事故とリスクマネジメント」大修館書店 参照)

 私は、この講座に来なかった人でも、事業者としてその法的責任や、客となる消費者の保護のためにがんばっているショップオーナーを知っています。彼らの姿勢が業界の「基準」となる日はいつのことなのでしょうか。


平成15年4月14日

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