二つの大深度潜水事故に見るバディシステムの意味


 本年、日本某所にて、水深55mで窒素酔いを起こして意識を失った女性ダイバーがバディの助けによって緊急浮上し、また海面で適切なレスキューが行われたために一命をとりとめた事故がありました。
 このページではこの事故の一部を紹介して、このホームページの「大深度潜水の危険の認識について考える(4月21日の事故から)」のページの内容との比較をしてみます。
(※事故詳細については現在わかっているものからですが、事故が新聞報道されていないことともあり、また事故者のプライバシー保護のために、それが重要な情報であっても、ここのテーマにとって必ずしも重要ではないことはここでは言及致しません)

 事故者は若い女性(年齢は非公開にします)で、経験は2年、100本でした。この事故は、本年某日某所にて、5人のチームがインストラクターをつけずにファンダイビングの中で行った中で発生しました。
 彼らは大深度ダイビングを行うために水深約55mに15分から20分程度で達しましたが、この時点で事故者の女性は直ちに窒素酔いになりました。このとき、彼女のバディが、彼女がレギュレーターを外して呼吸をしなくなって意識を失った状況に気がつき、すぐに彼女を伴って急浮上を行いました。バディは海面でこの女性に対してマウスツーマウスの人工呼吸を実施したところ、約5回で彼女の意識が回復しました。救急隊が到着した時、この女性は顔面蒼白で呼吸が苦しそうでありましたが意識はしっかりとしており、救急隊員は減圧症の疑いがあると見て病院に搬送しました。彼女はこの後に専門的な治療ができる病院にただちに転送され入院となりました。
 結果的に、この女性は減圧症になっておらず、また大深度からの急浮上にも関わらず肺破裂も起こしていませんでした。しかし窒素酔いを起こして溺水した(肺に海水が入っていた)ということもあり入院加療となりました。
 この女性が大深度からの急浮上で重大な結果にならなかったことについて、当時治療にあたった医師は、第4回安全潜水を考える会において以下の様に発表しました。

 @のけぞって顔面を上にした状態で海面に向かった
 A海水が肺の中に入り、肺胞内空気が少なかった
 B海面上で適切な人工呼吸が行われた
 C比較的早い潜行、急浮上のため、窒素がたまる時間が短かった

 以上の状況が事故の概要ですが、「大深度潜水の危険の認識について考える(4月21日の事故から)」の事例と比較してみると、この時の男性の事故者も、その後の関係者からの情報によると、水深約60mで窒素酔いを起こした疑いが強く持たれますが、今回紹介した事例と一つ異なったことは、バディシステムが機能していたかどうかでした。
 現在、単独ダイビングを推する方々も多くいますが、この事例をよく考えて行ってください。特に、商売でガイドを行ったり講習を行う方々は、この重大性をよく考えてください。ちなみに、ダイバーのための保険を用意しているDAN JAPANのダイバー保険でも、バディと万が一水中ではぐれて起きた事故については保険を適用するが、初めから単独でのダイビングの場合は保険を適用しないとしています。つまり、危険過ぎて、保険の対象とならないからです。

 人生に潤いと安らぎを求めて、また知的好奇心のためにダイビングを行う方にとって、それがリクリエーション(レジャー)であるためには、バディをただ組んでいればいいというのではなく、それをどれだけきちんと機能させるかどうかを考えてください。有効なバディシステムによって自分が助かったり、あるいはバディの命を助けることがあるということを忘れないで下さい。ダイビングにおいて模擬的冒険は楽しくはありますが、真の冒険は生命を担保にすることを考えてください。


 今回は、大深度ダイビングでの急浮上で助かった稀有な事例ですが、これは事故者が特に若かったことも理由の一つとしてあげられます。そして特に幸運な事例であったことを付け加えさせていただきます。私はレクリエーションダイビングにおいて大深度ダイビングを勧めるものではありません。


 私は、この事故によって助かった方が遭遇した苦しい体験が、ただの幸運で終わらせるのではなく、この幸運の要因を多くのダイバーの方々のために分かち合えることがあれば、その苦しい体験が意味を持つと考え、そして本年4月21日の事故に遭われて残念にも尊い命を失われたダイバーの方の死を無駄にしないという意味もあると考え、あえて今回ここで比較のために再度紹介しました。私の言葉に中に、もし不適切なものがありましたらお詫びいたします。

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平成13年10月30日

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