削除された文言の背景にある「格段の配慮」の考察


以下はあくまでも個人的な意見です。


 平成16年2月17日読売新聞大阪本社版夕刊の記事「スキューバダイビング インストラクター同行 事故急増」で、昨年、海上保安庁から25の養成団体(いわゆる「指導団体」)へ出された文書について大きく取り上げられました。

 この全文とされる重要文書が、ネット上で公開されています。
 私はこのウェブページでは、これを原文のままという位置付けで公開しているような印象を受けました。
 私はこの文書のことを、海上保安庁より主要指導団体などに送付された重要文書のページで消費者の立場の視点で紹介しました。この文書は消費者の保護となる重要な文書だったからです。
 世の中にはさまざまな立場があるので、レクリエーションダイビングを消費者の側の立場と視点で見ることを不当、不愉快、あるいは怒りをもって見る方々も多いと思いますが、私は言論の自由という権利に基づいて感じたことを論じますのでご容赦を願います。

 私はこの、海上保安庁の出した原文そのままに公開したという印象を受けるウェブページの中の次の文章にが非常に気になりました。
 その気になる部分のみ引用します。

『つきましては、次のとおり「スキューバダイビング中の事故防止にかかる安全対策の基本事項例」について列挙しましたので、ご活用していただければ幸いです。』
 ※他の部分での些細な言い換えについては、全体の「意味」においては影響がないと私は考えますのでそれは取り上げません。

 では次に、本来の原文にあったのにもかかわらず、この『つきましては』から『次のとおり・・・』の間から削除された、私が一般ダイバーにとって極めて重要と考えている文言を紹介します。
 いずれもダイビング業界の事業を支える消費者である、講習生・体験ダイバー・一般ダイバーの安全確保にかかわるものだと私は思います。

@「スキュ一バダイビングを提供する側のインストラクターまたはガイドの方々にあっては、安全なダイビングの提供が究極のサービスである」
 
A「貴会員であるインストラクター等スキューバダイビング提供者に対して、直接又は会誌メール等を通じて、事故防止に係る安全対策の再徹底等について、周知・指導していただく」
※ここでの「貴会員」とは、この文書が送られた「指導団体」のこと。
 
B「本年の事故事例を踏まえ、スキューバダイビング中の事故防止にかかる安全対策の基本事項例について、以下のとおり列挙」

削除された文言が意味することの考察

@について:「安全なダイビングの提供が究極のサービス」という文言が何故削除されたのでしょうか。これは非常に重要な問題と考えられます。
 これはつまり、「安全でなかった場合(事故)は、業者側に過失があったとしても客の自己責任だ」(免責同意書などの、業界のみの免責を一方的に要求する文書に現れている根本理念)という「業界理念」に反するからではないでしょうか。
 この「業界理念」は、消費者の権利と利益(いわゆる基本的人権の一部)の保護と真っ向から対応するものだと考えられます。
 したがって、この極めて重要な文言の削除の背景には、このような「業界理念に反する」ことを消費者に「知らせる」ことはあってはならないという強い意志があるかのように感じてしまいます。

Aについて:ここで削除された「事故防止に係る安全対策の再徹底等について、周知・指導」と書かれている部分の削除は、@につながることを業界内に「周知・徹底」する、少なくとも道義的義務があると消費者に思われることを不都合と感じる立場があるだろうと感じさせます。
 ちなみに平成16年2月17日付け読売新聞大阪本社版夕刊の記事では、これを25団体に送付したと報道しています。
 なお昨年、私が知り得た限りにおいては、この内容がこれらの団体のインストラクターやガイドに「徹底」されている状況は見受けられませんでした。
 ここにも、海上保安庁から依頼されたことを、その依頼された対象に対して敢えて行なわない、つまり「知らせず」という行為に出た強い意思(この場合は、上部への送金主体となる業界位置にいるインストラクターなども、消費者と同じように扱っているのであろうか)が背景にあるかのように感じてしまいます。

Bについて:これは、「本年の事故事例を踏まえ」たことで「事故防止にかかる安全対策の基本事項例」が出た、つまり本来自然に行なわれるべき「基本事項」が実行されていないことで事故が起きていることが前提となっていることから、これが知られることを不都合だと考えたのでしょうか。
 これは消費者の権利(基本的人権)の保護を最上位としていれば削除する必要のない事実だと思いますが。

総括:今回の海上保安庁の文書が、明らかに消費者の保護を求める立場(つまり業者よりも圧倒的多数の、しかも業界が利益の源泉としている一般国民)にあることから、必ずしも海上保安庁の立場と完全に一致しない立場や利害関係がある方々が、この文書を外部に公開する(あるいは「せざるを得ない」)場合、それぞれに「立場」や「事情」を反映して「調整」を行なうことは、ある意味当然にありえることと感じます。
 しかしそれには、それらの「事情」や「調整」への理解を得るために、その寄って立つ立場を明確に説明することが必要なのではないでしょうか。
 昨今の社会の趨勢は、例えば、病気の伝染や工業製品の設計ミスによって発生した人的・社会的損害に関する情報を隠蔽したことで手遅れ(たった一人でも生命・身体の損害が発生したり、また他人の財産への損害を与えることになった場合は普通、そう評価するのが社会の常識)になった場合には、その通告や情報開示遅れを許容しないという方向で確定しています。
 レクリエーションダイビングにおいて、平成だけでも数百人の死亡者が出ているという事実は、しかも平成元年から、この人命にかかわる重大な問題とその根本問題を一般に積極的に公開せずにいたことと、それを現在まで実に15年以上続けてきていることは、私は現在のビジネススタイルに、人命にかかわる致死的かつ致命的な、恐るべき欠陥があることを示しているのではと考えます。
 極端な感想となるかもしれませんが、現在の業界システムは、「手遅れになったビジネススタイル」とでも言うべきなのでしょうか。
 「手遅れ」とは、現在ほぼ全ての業界構成者が、このビジネススタイル以外の事業理念によって事業が行なえないという「業界秩序」と利益確保システムが確立してしまっていることから感じたものです。
 もちろん、少数の優良事業者が、個人的な非常な努力によって、「業界秩序」から外れた、つまりリスク情報の隠蔽や加工をしないで消費者に提供し、こうして消費者保護を第一とした事業(安全なダイビングの提供という究極のサービスの提供)を行なっている方々もいます。しかし彼らは基本的に業界の全体に影響を与えるような影響力はありません。したがってダイバーやダイバーになりたい消費者が、自らの安全確保のために、彼らのような事業者を希望しても、そのような事業者に当たる可能性は高いとは言えません。(大繁盛しているところがいいかと言えば必ずしもそうとは言えず、このようなショップが私が思い描く理想に当てはまる事例を私はまだ知らない)
 そしてビジネススタイルの欠陥の中で生まれてきた一般ダイバーの中には、当然ながらその欠陥のDNAを受け継いでしまった人々が多数出てきてしまったのではと恐れています。

 あくまでも個人的感想ですが、今回問題にしているウェブページにおける重要な文言の削除(長文をほとんど全部公開している以上、わずか数行のこの部分のみを削除することに、何ら作為的なものはないという合理的な理由は、私の低級な頭では到底思いつかない)に、私は恐怖すら感じます。

 ちなみに私個人の立場は、以前から明確にしているように消費者の側です。そして消費者の利益(人権)を最上位に重視して事業を行なっている業者の発展を願う立場です。
 私は、素晴らしい体験が得られるダイビングを、ビジネスとして危険なものだと決め付けて全面禁止とすべきではないと考えます。ただしその事業は、消費者の人権を第一に考え、また危険を軽視すること(例えば「ダイビング事故なんて怖くない」というようなプロパガンダ)で同じ消費者にかえって危険を及ぼす同業者と客を野放しにしないという理念でビジネスを行なう者が主体となっ運営して欲しいと願っています。
 そして私は、一般国民のスポーツやリクリエーションを行なう権利を、営利目的で任意に作った資格商品によって制限することには巨大な企業責任を逃れられないことを自覚し、かつその責任をまっとうできる企業によって業界の運営がなされるべきであると願っています。
 私は、不透明な金銭の流れを伴う現在の資格商品システムに依存するビジネスシステムは、人権の保護という課題に関係して極めて大きな問題ではないかと感じています。


平成16年3月15日

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