皆さんの中で、生死にかかわるダイビングの事故に遭った方はどれくらいいますでしょうか?ここでは、ダイビングショップと旅行業者が主催するダイビングツアー中の事故の後に、また、その業務に携わっているインストラクターやガイドが、自らの責任でもないのに責任を背負わされて泣き寝入りさせられないためにはどうすればいいかについて、私が考えることを述べたいと思います。ただしこれはあくまで理想形ですので、現実には難しいことがあると思います。
また、ダイビングをやる前に、ダイビングの事故の障害を補償してもらえる保険に入っていることを前提とします。
A:ファンダイバー、あるいは講習生の場合
B:インストラクターあるいはガイド、ショップのオーナーの場合
C:トラブルになったら相談するところ
A:ファンダイバー、あるいは講習生の場合
(1)自分のグループの誰かが事故に遭ったとき
(船上、または海岸において)
- 自分が救助に関わらない状況の場合(救助法に習熟したインストラクターやガイドが救助行為をしている場合)には、事故が発生したの時の状況を、救助された人といっしょにいて見ていた目撃者を探してその話を聞いて、できればメモを取り、またその人の連絡先を聞いておくことが必要です。また、本人に意識があるときは、事故の時の模様をしっかり聞いてメモをとっておくことです。
- 聞いたことはその時案内していたインストラクターやガイドに話して確認を取っておくこと。その時にはそばでいっしょに話を聞いてくれる人を確保しておくこと。ただし、嘘を言っているようだったらそのこともそばにいる人と確認していくことです。
- そして、難しいこととは思いますが、もし可能であれば、その聞き取りのことを一部始終ビデオに録画しておく(してもらう)ことです。(最低でもあらゆる状況の写真に撮っておくこと)
- 事故の時の器材や、その他関連したものは必ず確保して、捨てられたり、ショップやインストラクターやガイドに持っていかれないようにすることです。それもだめなら(たとえばショップ側のレンタル器材)、事故の原因となったもののビデオや写真を、何箇所もくまなく撮っておくこと。
- 可能であるなら、その時に聞いたことをログブックに記載し、インストラクターやガイドの署名をもらい(ダイビング状況の記録と確認は慣習になっています)、さらに別の連絡先がわかる人に確認の書名をもらっておくと後で有利です。
→記載されてあることが事実であっても相手が署名を拒否する場合は、ほぼ間違いなく責任回避に走りますので、証言してくれる人と一緒にその旨確認しておくこと。
- 海上保安部や警察の事情調査の時は、主催者、インストラクター、ガイドが話しているときにそれをそばで聞いておき、事実と異なる、あるいは先ほど聞いたことと異なることを言っていないか確認する。異なっていたらその場で訂正する。自分が事故者の付き添いでその場を離れなくてはならないときは、別の人にその確認を依頼する。
以上のことは、“証拠”と“証言”の確保の説明であり、大きい事故の時に、裁判になったりした場合、あるとないとでは大きくその立場が変わってしまいます。また、完全に自分のミスで起こした事故のときにも、保険の補償を受けるために必要となる場合がありますので重要です。
(2)自分が事故に遭った場合
- 同行者がいる場合なら、上記のことをその人に依頼してやってもらう。一番いいのは、ダイビングをやる前に、こういった事故が起こることを前提として事故に遭わなかった人は何をすべきか話し合っておくことです。
- 自分一人でツアーに参加した場合には、自力でできうる限り証拠を集めておくこと。したがって、ダイビングの時には、事故の時の証拠という観点でカメラを常時携帯しておくことは重要です。
(3)自分が致命的な事故、あるいは重大な事故に遭った場合
- 意識がなかったり、あってもできない状況にあった場合には、よっぽどいい(賠償責任がしっかり取れる)主催者、インストラクター、ガイドでない限り、責任回避に走られ、十分な補償が受けられない可能性が高いと言えます。後の苦労と、交渉の時の悔しさは覚悟しておいてください。海には陸上のように“証拠”が残ることは極めてまれですので、多くは期待できません。特にツアーに一人で参加した場合、同行した他のツアー客の支援も期待薄です。また、レンタル器材に欠陥や整備不良があった場合にも、後日、その“証拠品”が出てくることはまれでしょう。ただし、明らかにレンタル器材の欠陥によるものだった場合には、ダイビングツアーを主催したショップ側や旅行社側が、それをもって、PL法に基づく責任をメーカーに問う場合がありますので、その際はショップなどと協力してください。自分の器材の欠陥であったなら、PL法に基づき、メーカーに責任を問うことができます。詳しくは、PL法の項目を参考にしてください。
(4)自分が死亡した場合
- たいていの場合関係者の証言で「本人のパニック」「原因不明」で片付けられてしまいます。
(5)家族が事故に遭った場合と死亡した場合
- 事後であっても、できうる限り前述の証拠や証言を集めてください。しかし、事後の場合、相手側から「本人のパニック」「原因不明」と言われた場合に、十分な補償を受けられるまで、多くの時間と労力がかかることを覚悟しておいてください。
以上から、「ダイビングの事故の当事者になった場合」には、自分が事故の当事者となることを前提として対策を練っておいたことを実行してください。
B:インストラクターあるいはガイド、ショップのオーナーの場合
*事故に遭ったダイバーを救助することを最優先にしたのちのことです。
(1)ボートダイビングの場合
- ボートの船長に落ち度がなかったか、周りのダイビングボートに落ち度がなかったか冷静に確認しておく。
→錨(アンカー)をきちんと打っていたか。
→船の整備(エンジン故障による漂流の場合、小さいボートなら、エンジンは2基用意してあったかなど)について問題はなかったか。
(2)以下はボート、浜(ビーチ)共通
- 予想できかねる自然環境の激変があったか否か。あった場合、その目撃証言の確保とその証人の連絡先の確認。
- ダイバーが、その場の誰もが認めるほど自分勝手な行動をとっていて、それが事故の原因と思われる場合に、その場の参加者の証言を取っておくこと。
- 事故者本人の器材、または、レンタルした器材の製品そのものの欠陥が、直接・間接の事故原因であったかどうかの確認と、その製品がなくならないように確保すること。
以上の事柄を、本人、あるいは同僚・周りのダイバーに確認してもらっておいて下さい。
以上は、インストラクターやガイドが必要以上の責任をなすりつけられたり、雇用者にから不必要な責任をかぶせられないようにするために必要なことです。良心的で誠実なインストラクターやガイドほど、事故に遭った人への気遣いばかりになって、自分に有利な証拠・証言の確保がしにくくなることが考えられますので、これもできれば、毎回ダイビングを行う前に参加者全員で確認しておくとよいと思います。
C:
事故が起きて、それぞれの当事者間で紛争が起きた場合には、法律の専門化に相談するのがもっともいい方法だと思います。
東京なら、法務局に東京弁護士会の弁護士に相談するシステムがあり、1回30分、5000円程度でできます。この相談のシステムは、各県にもあると思うので、各自治体の相談窓口に聞いてみてください。
また、事故のやトラブルで納得がいかない場合には、国民相談センター・消費者センターに苦情の相談をしてみるのもいいかと思います。これは基本的に無料です。連絡先は各自治体の相談窓口に聞いてください。
プロダイバーの方が業務中に事故に遭った場合には、自分に労災が適応されるのかどうかなどを、自分の雇用者や労働基準局に聞いてみるのもいいでしょう。適応されるべき内容なのに、労災の保険料が雇用者から支払われていなかったりした場合には、これは大きな問題です。