ダイビング事故とリスクマネジメント

の序文の紹介

★ダイビング事故防止のためには、消費者の立場で事故を見る研究こそが必要である★


 拙著「ダイビング事故とリスクマネジメント」の序文を以下に紹介する。これは消費者の立場での研究を社会が求められていることを示すものである。そして社会にとっては、安全こそが何より尊いものであるという価値観であることも合わせて示している。


序文

 レジャー・スポーツは、よく自己責任の世界だと言われる。しかし、そのスポーツがかなり特異性を帯び、人間の自然体に比すと、相当難しい条件、負荷の下で行われていると評価されるならば、そのスポーツの安全性は厳しく見定めなければならない。ところが、レジャー・スポーツの世界では商業主義がはびこり、そのスポーツが持つ危険性を厳しく詮議されないまま、安全と嘯かれることがままある。人々がそれをたやすく信ずるようでは恐ろしいことが起こりかねない。ここで、著者が取り上げたのは「スターバダイビング」の世界である。この世界で商業的利益をひたすら求める者は、「スターバダイビング」の安全性を唱え、快適なレジャーであることを宣伝する。しかしながら、著者は、本書において統計的数字を明らかにし、このスポーツで如何に多くの事故が発生し、貴重な人命が失われているか、また多くの負傷者を出しているかを示し、更に実例をつぶさに検証して決して安易に見過ごして良いような安全なスポーツでないことを明らかにしている。ただ、著者の視点は、この世界をひたすら糾弾することだけでなく、書名が示すように「リスクマネジメント」の視野も含んでいる。即ち、本書は、事故の発生原因を明らかにし、今後それを防ぐ手だてを子細に検討しているのであって、一般ダイバーもダイビング業者も、本書によって、このスポーツがどのような事態の時に事故を起こしたかを知り、そめ上で、安全を確保するための具体的な対策を十分に講じてもらいたいのである。それが「リスクマネジメント」に直結するのである。
 さて、この種の事故については、陸上の交通事故のように類型化することは難しく、又事故の様相を客観的に究明すること自体容易なことではない。それにも拘わらず、多くの事例を集めて分析された著者の苦心は並大抵なことではなかったと思われるが、著者自らがスターバダイビング中事故に遭い危うく一命を取り留められた経験から、このスポーツの危険性を明らかにし、万全の安全対策を考えたいという熱意が、この労作を生み出したと言える。
 私は、是非多くの人が、本書を通じて、いかに安全にスポーツを楽しむかについて、業者側もスポーツをする側も真剣に学んでもらいたいと思う。そして、本書で示された事例と事故原因の分析、防止対策等は、著者の永年の経験と熱意に基づく真筆な研究の成果であるだけに、スポーツ事故を民事、刑事両面の法律問題で扱う法曹にとっても、本書は大変有益なものであると思うのである。

弁護士(元検事総長)土肥孝治


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 平成17年3月1日