国民生活審議会の中間報告から


経済企画庁の国民生活審議会で、消費者契約法(仮称)の研究においての中間報告がなされました。この報告においての論調は、ダイビング業界に対する以前からの私の見解、日本スポーツ法学会の見解と一致しています。
他でも指摘したように、ダイビング業界では、一般的に「免責同意書」をもってダイビングの講習を受ける人とファンダイブを申し込む人の全ての人権(請求権)を無効にして、責任を放棄した上で"自己責任"を要求してきます。しかし、相手に危険な事実の情報の(かなり)多くを与えずに、危険な事実があるゆえに起こりうる事故の時に、全ての責任を、"自己責任"という言葉をダイバーの側だけに使って責任回避に走るような、いわゆる消費者に不利益を与えることが現在の社会的な状況においてはたして許されるのか、について、この章では
国民生活審議会の中間報告での論調から関連部分を引用して、ダイビング業界の免責同意書のどこに該当しているのかについて研究してみます。
なお、文字の強調は作者に判断によっています。さらに罫線で囲まれている部分は作者のコメントです。

抜 粋 内 容


以下の内容は、それぞれこのホームページのテーマに沿ったものとして抜粋しており、順番が不自然になっております。全文をお読みになりたい場合には、こちらをご覧下さい。
無制限な免責を容認しない、各国消費者契約に関する法制度
については、こちらをご覧下さい。

 

第3 契約締結過程の適正化のためのルールの内容

1 契約締結過程をめぐる現状と課題

    (1) 契約締結過程における消費者問題の現状

    ア 事業者から消費者への情報の適切な提供の確保

    (ア) 個別業法における規制

1 取引条件についての説明義務

2 契約締結過程をめぐる問題を解決するための方策

  1. 情報提供義務,不実告知

   2 取引条件を記載した書面の交付義務

    3 取引条件の掲示・表示義務

    4 重要事項についての故意の事実不告知・不実告知の禁止

    5 広告における特定事項についての明示義務

    6 虚偽・誇大広告等の禁止

   (1) 情報提供義務,不実告知

     ア 情報提供義務違反・不実告知の場合の契約の取消

       (情報提供義務違反・不実告知の場合の契約の取消) 

     ウ 「情報提供」の意味

   (3) 不意打ち条項

        (不意打ち条項)

2 契約内容をめぐる問題を解決するための方策

   (1) 不当条項

     ア 不当条項の無効

      (不当条項の無効)

     イ 不当条項の定義

      (不当条項の定義)

      (個別的ケースにおける不当条項の評価方法)

      (不当条項リスト)

      (リストに掲げるべき不当条項)

     [事業者の責任を不相当に軽くする条項]

     [消費者の権利を不相当に制限する条項]


第3 契約締結過程の適正化のためのルールの内容

1 契約締結過程をめぐる現状と課題

(1) 契約締結過程における消費者問題の現状

消費者に契約を締結した結果としての自己責任を負わせるためには,消費者が十分な情報の下で自発的な意思決定をすることが必要である。

ダイビング業界ではこのことを意識的にしようとしていない。「十分な情報」とは、ダイビングというものに内包している危険な現状を、素人や初心者に如何に分かりやすく繰り返し提供することである。

しかしながら,消費者取引の複雑化・多様化が進展する中で,取引に関する情報が高度化・専門化していることとも相まって,消費者と事業者の間には情報の面で大きな格差が存在しており,現状では,消費者が事業者と取引をしようとする段階において,必要な情報が事業者から消費者へ迅速かつ適切に提供されているとは必ずしも言い難い状況にある。

ここでも素人や初心者に対して、正確に、分かりやすく情報を提供しようとしていないダイビング業界の現状への認識が、私一個人の見解でないことが分かる。
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ア 事業者から消費者への情報の適切な提供の確保

(ア) 個別業法における規制

個別分野ごとに制定されているいわゆる個別業法において,事業者に対する義務や禁止行為が定められ,当該義務又は禁止行為に違反した場合には,罰則を科したり,事業の許可等を取り消すことができることとされている例が見られる。

義務や禁止行為として規定されているものの具体例としては,以下のようなものがある。

1 取引条件についての説明義務

「免責同意書」の内容は、記入者に対して基本的人権の放棄をうたっていることを説明しなくてはならないのでは?以下、2〜4でも同じ。

2 取引条件を記載した書面の交付義務

3 取引条件の掲示・表示義務

4 重要事項についての故意の事実不告知・不実告知の禁止

5 広告における特定事項についての明示義務

ここでの「特定事項」とは、ダイビングには危険性が常に内包した中で行うものであることの明示ではないだろうか?

6 虚偽・誇大広告等の禁止

危険や事故が全く無いような印象を与える広告がほとんど全てに近い現状を考えて欲しい。
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(1) 情報提供義務,不実告知

ア 情報提供義務違反・不実告知の場合の契約の取消

現代社会のように,情報や交渉力の面で消費者と事業者の間に大きな格差のある状況では,契約の勧誘に当たって,事業者が消費者に対し,消費者が契約を締結するという意思決定をする上で重要な情報を提供しないまま契約が結ばれるケースがあり,トラブルが多発している。このような場合において,厳格な要件を課している民法の詐欺,錯誤という規定では,先に述べたように,消費者にとっては十分な救済にはならない。こうしたことから,また,個別事案における結論についての予見可能性を高めるという観点からも,事業者から消費者に対する情報の提供に関して,信義則,債務不履行,不法行為などといった民法の規定が適用されたケースから色々なものを類型化して消費者契約法の中で明確に位置づけることが望ましい。 

なお,この際には,先にあげたドイツの「契約締結上の過失」,フランスの「情報提供義務」,アメリカの「非良心性」及び「不実表示」の各法理を参考として,重要事項について事業者が消費者に対して情報を提供しなかった場合又は不実のことを告げた場合に,契約の効力に影響を与える又は消費者が何らかの措置をとることができるようにすることが考えられる。

これに対しては,事業者に新たな義務を課すことになるのではないかという意見があったが,従来,取引におけるメリットだけを表に大きく出して,消費者が自己決定を行う上でメリットと同様に必要なデメリットについては出さない悪質な事業者が往々にして見られるため,重要事項に関する情報の開示を義務付ける必要があるのであり,これまで適切な事業活動を行ってきており,消費者の満足が得られている事業者にとっては,新たな義務が課せられるということにはならないと考えられる。

消費者が自己決定を行う上でメリットと同様に必要なデメリットについては出さない悪質な事業者」が、消費者に対して"自己責任"を問う事が社会的に許されることなのだろうか

= 中 略 =

消費者側の事情(情報提供を受けない又は不実のことを知らされたために契約締結の意思決定を行った)も併せて着目してみる必要がある。具体的には,消費者に契約の取消権を与えることとするためには,当該情報提供があった又は当該不実の告知がなかったならば消費者が契約締結の意思決定を行わなかったことが必要である。

次に,情報提供義務違反や不実告知を行ったことについて,事業者の故意があることを要件とするか否かについて検討する必要があるが,事業者の故意の有無にかかわらず,情報の提供がなかったこと又は不実のことが告げられたことによって消費者が受ける影響は同じであるとともに,故意の立証は,消費者にとってきわめて困難であり,故意を要件としたのでは実質上現行の民法とほとんど変わらず,このルールを作る意味がなくなってしまうという問題が生じることとなると考えられる。

以上のことから,重要事項について,事業者が消費者に対して情報を提供しなかった場合又は不実のことを告げた場合について,次のようにすることが適切である。

(情報提供義務違反・不実告知の場合の契約の取消) 

消費者契約において,事業者が,契約の締結に際して,契約の基本的事項その他消費者の判断に必要な重要事項について,情報を提供しなかった場合又は不実のことを告げた場合であって,当該情報提供があった又は当該不実の告知がなかったならば消費者が契約締結の意思決定を行わなかった場合には,消費者は当該契約を取り消すことができる。

この場合において,消費者が損害賠償を請求することを妨げるものではない。

現在の「免責同意書」の内容は、一般的に消費者の全ての請求権の放棄を求めている。

なお,消費者に契約の取消権を与えるという構成をとる場合には,事業者本人ではなく,代理人でもない,独立の仲立事業者が情報提供義務違反又は不実告知を行った場合に,その行為をもって事業者と消費者の間の契約に影響を及ぼすことができるかどうかという点についても検討を行う必要がある。


ウ 「情報提供」の意味

事業者に義務付けられる「情報提供」については,単に消費者にとって認識可能な状態に情報を置いて,消費者がそれをどう受け止めるかはあまり考えないということでは不十分で,消費者の理解能力に応じて情報の内容を理解する機会が与えられることが必要である。

現在の「免責同意書」はプロを相手にしているのではないのに、一般の人々に分かりやすい文言ではなく、またその意味するところを消費者に説明しているところを作者は見たことが無い。

なお,取引が,日常的に不特定多数の顧客を相手としてなされていて,コスト面や取引の迅速性という点で,一々口頭で説明することや文書を送付することが実際的でないような場合には,消費者の理解能力に応じて情報の内容を理解する機会が与えられている限りにおいて,必ず口頭で説明しなければならない,あるいは必ず書面を交付しなければならないということにはならない。

一方,「情報提供」に代えて「説明」とする考えもあるが,少なくとも英米法を見る限りでは,両者の間に区別はなく,言葉のニュアンスや表現の問題として考えても,あまり意味はないと考えられる。


(3) 不意打ち条項

現代社会のように,情報や交渉力の面で消費者と事業者の間に大きな格差のある状況では,事業者が契約内容に関する情報を提供しないまま契約が結ばれるケースがあり,トラブルが多発している。このような場合において,厳格な要件を課している民法の錯誤という規定では,先に述べたように,消費者にとっては十分な救済にはならない。こうしたことから,また,個別事案における結論についての予見可能性を高めるという観点からも,事業者から消費者に知らされなかった契約条項に関して,信義則,債務不履行,不法行為などといった民法の規定が適用されたケースから色々なものを類型化して消費者契約法の中で明確に位置づけることが望ましい。

具体的には,交渉の経緯等からは消費者が予測することができないような契約条項(いわゆる不意打ち条項)については,消費者と事業者の間の合意内容を構成しないものとして当該条項は契約内容とならないとするべきである。諸外国においても,ドイツの普通取引約款規制法において,同様の規定が設けられているところである。

以上のことから,交渉の経緯等から消費者が予測することができないような契約条項については,次のようにすることが適切である。

(不意打ち条項)

交渉の経緯等からは消費者が予測することができないような契約条項(不意打ち条項)は,契約内容とならない。

例えばダイビング事業組合のモデル約款や、営利目的で世界最大かつ日本最大のダイビング会社PADIの「免責同意書」に署名した後に事故に遭ってしまったら(死亡した時)、そしてその文面が100%生かされたとしたら、インストラクターが故意にダイバーを事故に導いても、あるいはダイバーが危険に陥った時にそばにいたインストラクターが何もしないで無視していても、被害者には何一つ発言する権利が無くて、ただ死に損で、さらに遺族まで泣き寝入りしなくてはならない、ということになります。しかし実際の裁判では、この非常識な文書は法的な有効性はあまり認められていません。また、日本スポーツ法学会でも"公序良俗に反する"という共通認識があります。しかし、それでも「免責同意書」に頼りつづけて"無責任という甘い利益"を追求しているのがダイビング業界の現状です。

2 契約内容をめぐる問題を解決するための方策

(1) 不当条項

ア 不当条項の無効

現代社会のように,情報や交渉力の面で消費者と事業者の間に大きな格差のある状況では,事業者があらかじめ用意した定型化された契約条項に対し,その内容について消費者が自己責任に基づき交渉し納得して合意することがなされないまま契約が結ばれるケースが多くなっている。その結果,消費者に一方的に不利な条項が,契約中に挿入されていることもある。先に述べたように民法の信義則や公序良俗という規定では,個別事案における結論についての予見可能性が低く,必ずしも安定した法の適用ができないため,具体的な判断基準を明らかにして直接的に契約内容を適正化することが望ましい。

EU指令,フランス「消費法典」,ドイツ「普通取引約款規制法」,韓国「約款規制に関する法律」等においては,不当条項について消費者を拘束しないとしたり,無効とするとされている。

上記の、赤で表示した件は、ある意味で結論であり、重要な見解である。

= 中 略 =

(不当条項の無効)

消費者契約において,不当条項は,その全部又は一部について効力を生じない。


イ 不当条項の定義

次に,消費者契約における不当条項の定義をどのように規定すべきかという問題があるが,それに先立ち,「不当条項」という用語について適切であるか検討しておく必要がある。「不当条項」と類似のものとしては,「不公正条項」という用語がある。「不当」と「不公正」の用語については多分に訳語の問題があり,英語のunfairを訳すと「不公正」となり,ドイツ語のmissbrauchlichを訳すと「不当」に近づくが,日本語では,必ずしも「不当」と「不公正」に厳密な意味の違いがあるとは考えられない。ただし,日本における法律用語の伝統として,「不公正」という言葉は,競争法との関係で使われるのが一般的であり,民事ルールとして,民法の特例法と位置付けるのであれば,「不当」とするのが適切である。

= 中 略 =

(不当条項の定義)

不当条項とは,信義誠実の要請に反して,消費者に不当に不利益な契約条項をいう。

= 中 略 =

(個別的ケースにおける不当条項の評価方法)

不当条項の評価は,契約が締結された時点を基準としたすべての事情を考慮して判断する。

= 中 略 =

(不当条項リスト)

不当条項リストを作成し,当然に無効とされる条項をブラック・リストとして,不相当と評価された場合にのみ無効とされる条項をグレイ・リストとして,それぞれ列挙する。

= 中 略 =

リストに掲げるべき不当条項としては,1裁判上,無効とされた又は適用が制限された条項,2「全国消費生活情報ネットワーク・システム(PIO−NET)」に収集された消費者からの苦情・相談に見られる条項,3都道府県,政令指定都市において制定されている消費者保護条例等に規定されている条項,4諸外国の立法等において規定されている条項を参考に,以下のようなものとすることが考えられる。

これはまさしく「免責同意書」の内容があてはまる。

= 中 略 =

(リストに掲げるべき不当条項)

以下のブラックリストにあげるべき項目は、あまりにも「免責同意書」の内容にあてはまるのである。

[事業者の責任を不相当に軽くする条項]

人身損害についての事業者の責任を排除又は制限する条項(A,B,D)

事業者の故意又は重過失による損害についての責任を排除又は制限する条項(A,B,D) 

目的物に隠れた瑕疵がある場合の事業者の責任を不相当に排除又は制限する条項(A,B,D)

・事業者の債務不履行についての責任を排除又は制限する条項(B,D) 

・給付目的物の適合性についての事業者の責任を排除又は制限する条項(D) 

事業者の被用者及び代理人の行為による責任を排除又は制限する条項(D) 

代理人によりなされた約束を遵守すべき事業者の義務を制限する条項(D)

= 中 略 =

[消費者の権利を不相当に制限する条項]

事業者の不完全履行の場合の消費者の権利を排除又は制限する条項(A,B,D) 

消費者の損害賠償請求権を排除又は制限する条項(A,D) 

消費者が自己の財産に権利を設定することを制限する条項(A) 

・消費者が第三者と契約することを不相当に制限する条項(D) 

・消費者の同時履行の抗弁権(又は留置権)を排除又は制限する条項(D) 

・消費者の有する相殺権限を奪う条項(D) 

・消費者に与えられた期限の利益を相当な理由なしに剥奪する条項(D)

= 後 略 =


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