第2章 ダイビングの安全のための知識

著者 中田 誠
編集 村上 清
発行人 落合美紗
発行所 株式会社太田出版
代表 Tel.03-3359-6262 
http://www.ohtabooks.com/

ISBN978-4-7783-1115-5
(c)Nakada Makoto,2008
本書の無断転載・複製を禁じます。

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水中世界と安全

本当のプラス思考とは
 これまでのダイビングでは、何でも前向きに考えることが良いことだという教えが広められてきました。しかし、ダイビングの事故によるリスクは、行き着くところは死であり、死ななくても植物状態となるまでを含むつらい後遺障害です。また心に消されぬ深い傷を負う場合もあります。某警察関係者がある公の所で語ったところでは、自分の子をダイビングで失った遺族が、悲しみのあまり自殺する事態にまでなった事例もあったそうです。
 ということであれば、これを避けるために事故の実態を直視することをマイナス思考として退けるべきでしょうか。重大なリスクだからこそ、積極的に、目をそらさずにしっかりと見て考えるべきことではないでしょうか。
 重大なリスクがありながら、それを熟慮しないまま、あるいはさせないままプラス思考しか認めないという価値観は、ダイバ走幸福をもたらすとは考えられません。
 リスクを避けるには、時に徹底して「マイナス思考で」「後ろ向きに」「最悪の状況を自分のものとして考え」「それを避けられなかったときを想定し」「できるだけその影響を小さくするための準備をする」気愛と実行力が不可欠です。さらにダイバーである自分がダイビング中に死んだ後に、残された遺族が途方にくれないように、死んだ後の準備をしておくことも必要です。私の知り合いの中にはこれを実践している方もいます、私もかつて自分がダイビングを行う前に、自分の保険の状況を何度も確認していました。少なくとも遺族となる家族に不便をかけないようにと。
 細心の用心深さで準備をし、それでも運悪く不幸に出会ったときにこそ、「準備はやるだけやってきたのだから、きっとなんとかなるだろう」という根拠のあるプラス思考で、大胆さと慎重さに余裕を加えて対応するのが真の意味で前向きなダイバーと言えるのではないでしょうか。
 ダイビングでのパニックは些細なことから始まります。それは水中でのちっとした出来事を起点とするばかりでなく天候状況や準備不足、体調管理の失敗を軽く見ていたことなどからも起こります。
 事前の徹底したマイナス思考こそが、本当のプラス思考へ至るのだと認識しましょう。
本物の安全を追及する企業
 今回特に、潜水作業にかけては日本屈指の実績を誇る株式会社東京久栄様(以降、社名への敬称略)に、潜水のプロの現場からの教えをいただけるようお願いしたところ、快く応じてくださいました。そしてメンテナンス事業部の部長、長谷山吉史さんが、貴重な時間を割いて「潜水作業にかかわる安全への考え方が、レジャーダイビングの中で少しでも役に立てば」と、いくつもの貴重なご教示を下さいました。深い感謝と共に、その内容を紹介します。

(株式会社東京久栄:海洋環境コンサルタントおよび海洋構造物の企画・設計・施工.コンサルタント。メンテナンスを行っている会社。特に水中メンテナンスに関する総合力では屈指の実力を持つ。年忙期には水中環境の整備、ダムや発電所などの大規模施設の水中施設部分工事やメンテナンス、メンテナンスを行っている会社。特に水中メンテナンスに関する総合力では屈指の実力を持つ。年間の繁忙期には100人以上の潜水士を抱え、各所・各種の潜水作業を通じて日本のインフラを支えている。その事業には水中環境の整備、ダムや発電所など大規模施設の水中施設部分の工事やメンテナンス、各種調査などの業務がある。また閉暗所における潜水作業に精通し潜水作業全般に関する安全について実績を積んでいる。

東京久栄の見識
 ダイバーの安全にかかる労務管理について同社は、何より潜水士の健康管理を第一にしていました。潜水士の健康診断ですが、一般従業員が年に1回行う通常の健康診断とは別に、きちんと法律の定めにそって半年に1回の健康診断が行われ、それを法に基づいて記録・保管しているとのことです。このような法令遵守を行うのは基本的なことで、その他始業前のミーティング等での健康状態の確認や日々の健康管理についても指導を怠らないそうです。こうした状況でこれまで水中で起こった健康上の問題というのは、心臓麻痺と自然気胸があったくらいで、あとは軽い減圧症くらいだったということです。これは通常の陸上の仕事でも起こり得る程度のリスクだと考えられます。
 事故を防止するための日々の活動については、TBMという作業毎の打ち合わせを行い、同じくKY活動を行っているということでした。このKY活動とは、作業前にその作業にどんな危険があるか予測し対策を立てるということだそうです。また作業の前には器材の始業前点検を書面で行いますが、ただそれをあまりに精級に大量の書面で行ってしまうと、現場でそれを行う人が面倒が過ぎると感じてしまうおそれがあると危惧、それは時に安全対策を形骸化させてしまう危険の可能性があるということでした。それを避けるために始業前点検の検査項目は、致命的な影響のある部分を中心に最大で10項目程度に絞ることで検査に費やすための時間を少なくし、そのかわり間違いなく確実に行うようにしているそうです。KY活動では危険の予見に基づく対処を考えるのですが、これもマンネリ化しないように注意を払っているそうです。
  こうして危険を予見する訓練を続けていると、実際の潜水作業にあたっている際に、作業者が自然にリスク(危険)について考えるようになり、KYの習慣化が達成できるということです。
 潜水計画立案の際には、こういった活動を通して、水温の問題、潮の流れの問題、波の高さの問題、標高の問題(山地にある淡水の水域、ダム湖などVから生じるリスクをいかに適切に評価するかを前提としているそうです。そして、安全を軽視して利益追求するよ
うなことはしないと語っていました。
 また、「安全は人である。そのためにリスクを適切に評価して安全を意識するダイバーを養成する」として、プロのダイバーには「プロとしてリスクを適切に評価し、安全を考えながら仕事をする意識をしっかりとつけさせる」そうです。
 私はさらにいくつかの質問をさせていただきましたので紹介します。

Q.ダイバーの体力について。
A.体力がある、ないというよりも、自分は何ができるかできないかを的確に評価できることが先決。
Q.ダイバーとしての体質に関して。
A.潜水条件には環境の影響が強い。例えば水温の低いところでは痩せている人は長時間潜っていると体温を失いやすいので太っている人の方がいいとも言える。他には体温を失っていくと、やせている人は胃が下がっていく。これが体力を奪う。太っている人は胃が下りていくところがない(内臓の周りにある脂肪が障害物となる‥著者注)ためそれが起きにくい。この条件で見ると、一般に太っている人の方が長時間潜水ができる。しかし脂肪は窒素を蓄積しやすいので痩せている人より減圧症を発症する可能性が高まる。こういったリスクのバランスを考えて、自分(およびバディや、インストラクターにとっては講習生やファンダイバー)にとって適した潜水計画を考える必要がある。
Q.ダイバーにとって不適切な資質、意識とは。
A.危険に対して意識が薄く適切にリスク評価ができないダイバーは、本人が事故を起こした時に1人の問題に留まらず、他のダイバーを巻き込む恐れがある。
Q.ダイバーにとって不適切な資質、潜水技量とは。
A.考えながら潜水ができるダイバーにはおのずと技量はついてくる。早いか遅いかの違いだけである。
Q.レクリエーション(レジャー)ダイバーやインストラクターから潜水士となった方々を見て不安に覚えることは。
A.(一般論として)リスクに対する意識が薄い。例えばスポーツとしてのダイビングの世界では深いところに潜ることが技量が高いことを示すものだと思っている人がいるが、それは違う。潜水を行うには知識が必要で、技量はその知識量に大きく影響される。浅い水域では浅い水域で必要な知識量があって、その知識があって初めて適切な技量につながる。深いところに潜るにはそこで求められる膨大な知識が必要で、それがあって技量につながる。深く潜れること自体が技量ではなく、その深さに合わせた知識と判断力をあわせ持って初めて技量である。(レクリエーションダイビングでは)これと同様な勘違いが多々見受けられる。
Q.レクリエーションと作業潜水で、両者に共通する安全対策やその意識とは。
A.それは「退く勇気」である。つまり「ダイビングをやめる勇気」である。そしてそれは適切なリスクの評価ができるかどうかにかかっている。商業潜水の場合は特に利益に直結するが、退く、退かない、の見極めも重要な技量である。ここでの猪突猛進は安全を保てず、適切にリスクを評価できなければ利益は出ないこととなる。潜水の環境はその場その場で違う。100回の潜水を行えば、100回の異なる環境での潜水となる。自分(あるいはバディや客)の手に負えない状況が何であるかについての評価を間違えず、またそれを忘れないことである。
Q.「指導団体」のダイバーやインストラクターの養成プログラムと、東京久栄におけるプログラムで、安全に関して何が違うと思うか。
A.(一般論として)「指導団体」のプログラムについては直接の比較は控えるが、会社組織として社会的に安全が評価されているかどうかは重要である。潜水業者としての安全は必須のものであり、安全な作業を続けることが高い評価を得る。それにコスト・迅速な対応・技量等を加味して潜水業者は総合的な評価を受ける。ある意味安全に作業を終わらせることは潜水業者にとって当たり前のことであり、それを続けることはステータスであり、それが会社の利益につながる。それができない業者は社会的に信頼を失う。「指導団体」のプログラムも安全を最優先に考えた、それがユーザーに開示され評価されるプログラムであることが望まれる。

 長谷山さんはリスクの考え方や捉え方について次のように語ってくださいました。
「潜水は、もともと商業ベースでは海外で発展してきました。海外では特に海底油田などに関わる生産の現場でリスクへの考え方が出来てきました。生産の現場ではダイバーの事故が多かったので、事故が起きるたびに生産を止めなければならず、それは大きな損害となって事業に支障を来すまでになっていました。しかも事故で1回作業を止めると莫大な損害が発生したのです。この損害を予防するために、そこに医学的な面を加味して、ダイバーのリスク回避に対する考え方が出来ていきました。
 対して日本では、港湾建設などの建設業において潜水作業が行われてきました。1日あたりのコストと利益が大きい生産業が主ではなかったのです。港湾事業は通常は国の予算などで行われるため、多少進行が遅れてもそれは重視されませんでした。急がなくても著しい損害は発生しないということから、リスクに対する考え方が後回しにされてきた傾向があります。
 このように、海外とはタイムスケールが違っていたのです。海外ではリスクが生産現場のコストに大きく反映されていました。つまりリスクを減らすことと利益の確保が同じ次元に存在したのです。日本では、対リスクのコストはタイムスケールを長くとることで削減できるという事情がありました。現在の潜水作業に関する規制自体も、本当に労働者の立場に立っているのか疑問のあるところもあります。早急に労働者の立場に立った規制が必要と思います。現在厚生労働省における減圧表に関する検討も進んでいるようで期待しています」
さらに、こう付け加えてくださいました。
「ある国ではダンピング防止のために、安い価格を表示するにはそのコストで品質を維持することが可能であることの証明が必要です」
 これは、日本での講習時やガイドのときの人数比の問題について、その人数比で安全が保証できるとする基準やその科学的証明がなされていないという問題について私が話した時に伺ったお話です。思わず膝を打つ思いでした。

今そこにある問題

統計と分析
 国民生活センターに寄せられた商品スポーツに関する相談の中で、講習やスクールなどという項目で分類したものを紹介します。
※平成19年8月開示資料。キーワード:「スポーツ・健康教室」の「価格・料金」または「販売方法」または「デート商法」に関するPIO-NETの全国の消費生活相談情報(期間97年4月〜07年6月)から。

※各種資料は本を参照してください。

独立行政法人 国民生活センターに対する相膜例の一部の紹介
「スポーツ・健康教室」の「価格・料金」または「販売方法」または「デート商法」に関するPIO-NETの全国の消費生活相談情報から 期間1997年4月〜2007年6月
@キャッチセールス
[受付年月]1998年4月
 娘がキャッチセールスでダイビングスクールを契約。解約を申出たら「法的手段に訴える」との書面が来た。
A長時間勧誘
[受付年月]2005年6月
 友人に誘われてダイビングスクールの体験に行き、真夜中にプールに入った。明け方睡眠不足のまま急かされて契約。解約したい。
[受付年月]2003年1月
 女友達のボーイフレンドが働いている店へ遊びに来てと誘われ長時間勧誘の末欲しくもない高額ダイビング契約をした。解約希望。
[受付年月]2002年4月
 友人から遊びに来ないかと誘われ、8時間説得されて契約しないと帰れないと思い、スキユーバダイビング講習を契約。解約したい。
[受付年月]2001年6月
 ダイビングの説明をしたいと電話で呼び出され断っているのに深夜まで執拗に説得されてダイビング教室(教材付)を契約。解約希望。
B高額契約
[受付年月]2004年3月
 格安でダイビングの講習ができると誘われたのがきっかけで次々4件契約させられ総額300万円になった。
[受付年月]2003年8月
 ダイビング教室で次々と勧められるままに250万円の契約をしたがクーリングオフしたい。
[受付年月]2003年7月
 娘がダイビング道具等を500万以上契約。信販も3社以上。若い娘にあのような勧誘をした業者名を提供する。
C債務不履行
 [受付年月]2004年2月
息子がダイビングスクールの契約をした。機材はもらっていず講習も受けていないのに
ローンは払っている。
[受付年月]2002年11月
知人が勧めるダイブショップに呼び出され、受講契約をさせられた。11ヶ月経つが教科
等(教科書のことと思われる……著者注)一切くれない。信用できない。解約したい。
Dデート商法
[受付年月]2004年1月
 息子がお見合いパーティで知り合った人に誘われダイビングスクール受講申し込みをした。高いのでやめることはできるか。
[受付年月]2003年1月
 3ヶ月前に町で知り合った男性にダイビング店に連れて行かれ、スクールと器材の契約をし、次のコースも契約。支払えない。
[受付年月]2002年11月
 半年前、携帯のメールで知り合った女性と会い、食事の後ダイビングの店へ行き高額な契約をした。解約したい。
[受付年月]2002年9月
 携帯で知ったパーティに行きその中の出席者に勧められてスキューバダイビングスクールを娘が契約したがやめたいと言っている。
[受付年月]1999年3月
 アルバイト先で知り合った男性にデートを申し込まれ、出かけたらスキューバダイビング教室等の契約をさせられた。
Eおとり求人例
[受付年月]2003年4月
 大学に来た求人情報を見て就職したダイビングスクール。入社してーヶ月後、インストラクター講座を契約させられた。やめたい。
[受付年月]2000年12月
 雑誌を見てダイビング教室のアルバイトに応募した。仕事はほとんどないのにダイビング講習を勧められ、契約した。
[受付年月]2000年3月
 求人雑誌を見て店に行き、バイト見習中に執拗に言われダイビングスクールを契約。2回しか実習を受けていない。
F虚偽契約
[受付年月]2003年4月
 職場の部下がダイビング受講に関し契約をし、その担当者が消費者金融に連れて行き4社から借金させ現金とカードを持ち去ったと言う。
[受付年月]1999年1月
 クレジット契約はしないことを条件にダイビングスクールの契約をしたがクレジット契約になっていた。
G友人関係商法
[受付年月]2003年1月
 3日前、知人にケーキを焼いたから遊びに来ないかと言われ、知人の勤め先に行ったらダイビングスクールを勧められ契約。
[受付年月]2002年4月
 知人からダイビング教室のボーリング大会に誘われ、終了後に店で2次会をしている最中に強引に契約させられた。解約希望。
G当選商法の問い合わせ例
[受付年月]2002年4月
 雑誌のダイビングのモニターに応募して当選。出向いたところスクールの契約をしたことになっており、断りたい。
[受付年月]1998年9月
 イベント会場の抽選でダイビング講座(初級)に当選。手続きのため店に行ったところ、上級クラスや高額な機材を契約してしまった。

ダイビングビジネスの法的根拠
 レジャーダイビングのインストラクター資格は民間資格です。したがってこれを公的な免許や資格のように扱うことは適切ではありません。潜水を仕事で行う者に求められる本当の資格は、国家資格である潜水士免許です。
 「指導団体」の資格は、弁護士免許、医師免許、運転免許などのような公的免許制度のように、公の監視があったり、法的な罰則が用意されている制度によるものとは異なります。誰もが自由に製造・販売できる、営利を目的とした商品としての民間資格です。
 ダイビングのインストラクターの資格は国民の命に関わる行為を伴うので、その求められる品質レベルはきわめて重要で、そのすべてを現状のように営利収受当事者に任せきりというのは問題です。この品質問題については、業界外部から常時監視しながら、その低下を防止すべきことは当たり前です。しかし残念ながら現在は、その品質を監視するための第三者機関はありません。一見第三者機関のように見える団体もいくつかありますが、それらは事実上の天下りポストを用意しているものを含めて業界内団体と言えるかもしれません。これらを中立的な第三者機関とするには無理があります。


国民生活センターへの連絡
 サービス商品(役務)としてのダイビングの事故が深刻な状況にあって、それがダイバーの自己責任というより、業者が刑事責任や民事責任を問われる事態となって多発している事実は社会に知られていません。この状況の改善のために今消費者ができることはどんなことでしょうか。そのーつが、トラブルに遭遇したりそれを目撃したときに国民生活センターに通報ないしは相談することです。その相談内容は10年間は記録に残ります。
 トラブルが多数存在することが記録されると、その事実を基礎に、ダイビングビジネスに対し消費者保護と救済のための法的規制ができるかもしれません。自分の報告や相談が、将来、自分や他のダイバーの安全のための制度となって、良心的業者がより発展するようになるかもしれないのです。これは一般ダイバーに対して、安全率の向上という利益をもたらすことになるでしょう。
 ※国民生活センターのホームページにある、全国の消費生活センターの連絡先がわかるぺージ

知識としての「危険」
 皆さんがダイバーとして活動すると、時にはトラブルを見たり聞いたり、さらに皆さん自身がヒヤリとする経験をするかもしれません。あるいは皆さんがなんとも思っていなくても周りが「大変だったね」とか「危なかったね」と心配してくれたり、数年後に皆さんが経験を積んで振り返ったときに昔の自分のあの時の行為や体験は、実は相当に危なかったなと気づくこともあるでしょう。
 ハインリッヒの法則というものをご存じでしょうか。これは、「1件の重大災害の陰には29件のかすり傷程度の軽災害があり、その陰には、300件の、ケガはないがヒヤリとした体験がある」という、労働災害における発生確率のことであり、1:29:300の法則とも言われています。
 現在、これはあらゆる事故に適用されるものとして広く知られて受け入れられている法則です。つまり皆さんのヒヤリとした体験は、実は大事故の予兆とも言えるものなのです。その予兆が現実となった時が、ケガであり、減圧症であり、脳脊髄障害であり、重度の後遺障害であり、死亡であるのです。
 ダイビングの事故(作業・漁業・軍事潜水などは除く)の件数は、平成元年から19年までで、記録に残っているだけでも、死亡・行方不明、生存事故を合わせて1000件に迫ろうかという数字になっています。
 水中では何かとストレスにさらされます。マスククリア関連の問題をーつ挙げましょう。
 ダイビング中、タイミングが悪い時にマスクに水が入ってくるケースがあります。髭を生やしている男性なら、髭とマスクの間から水が浸入します。無精髭程度でも入ってくることがあります。髪の毛が挟まっても同じです。これは髪の長い人、特に女性に、より多いのではとも思います。さらに水中で誰かのフィンで顔を蹴られたり、強めの潮の流れでマスクがズレたり、自分の水中姿勢によってマスクにズレが生じたりなど、いくらでもあります。上から別のダイバーが“落ちてきて”ズレることもあるでしょう。
 以前、新潟県のあるポイントで、魚が女性ダイバーのマスクをつついたことがありました。そのダイバーはそれでパニックになって事故になりました。いつでもマスクに水は入ってくるものだということを心に含んでおく必要があります。これがマスククリアに関してのパニックを防ぐ心構えのーつです。

ビジュアル版「注意しよう、こんなこと」(女優さんと俳優さんがモデルになっているため画像非掲載。各種資料は本を参照してください。)
キャッチセールス編
手抜き講習編

プラチナダイビングのすすめ
 
安全の作り方、手に入れ方
 ダイバーになってみると、「日本のダイバーは自分で十分な自己管理ができない、いつもショップやインストラクター、あるいはガイドにばかり頼っているダメダイバーだ」という陰口を聞く時があるかもしれません。
 しかしこの背景には、現在のダイビングビジネスの行きすぎた利益追求の結果、低レペルというウィルスがダイバーに感染してしまったからという理由も考えられます。
 しかしそうであれば、かえってこの状況を逆手にとってプラスに転化させることでダイビングライフを充実させていくというのはいかがでしょうか。
 実はこの方法は、今後若い人からシニアダイバーまで、より安全で楽しいダイビングをする方法として普及してもらいたい形態のーつとして私が提案する形態でもあるのです。 一般のダイバーが、しっかりとした講習を受けて適切に技量を習得した後でなら、その意味と目的を理解したうえで、最高の目的であるダイビングそのものをより安全に楽しむために、その他の作業を上級プロダイバーに手伝ってもらえるダイビングを行うことはーつの選択肢だと思います。
 この手伝ってもらう部分とは、器材のセッティング、水中でバディとしてのサポートを受けること、あるいは自分のバディグルーブに対するボディガードとしての同伴、そしてエキジットの支援と器材の取り外しの手伝い、それに加えて減圧症にならないためのインターバル時間の管理から水分補給の管理などです。つまり体験ダイビングの時に受けるサービスと同じようなものです。そしてこれらはすべてダイバーの安全のために必要なことです。
 体力的に余裕のない人や、肉体的に少し疲れている人、またシニアダイバーなどは、ダイビングでの楽しみと安全に集中するために適切なサポートを受けるダイビングをしてみてはいかがでしょうか。
 自分でもできるけれども、もう訓練ではないので、何を何のためにと知ったうえでこれを誰かにやってもらい、自分はダイビング自体に体力と知力を集中しようとすることは、恥ずべき行為ではありません。かえって、ダイビングそのものでの安全率を向上させるのではないでしょうか。ただしこの選択肢は、まずは自分でこれらが十分にできてからの話です。とにかくまずは自分でできるようになるまで正しい訓練を受けてください。
 さて、必要な作業ができるようになった方は、このプラチナダイビングを堂々と行ってください。誰かがそれを見て陰口をたたいても気にする必要はありません。このようなサポートを他のプロダイバーに依頼するためには、その代金を払うためにがんばって働く必要があるからです。その結果、ダイビングを楽しむためにそのがんばった分を遊びのダイビングの場で使うことは何ら恥ずべきことではありません。それは自由であり権利です。十分なサポートを受けて楽しみに集中できる環境は人生を充実させてくれます。
 このように、安全のために至れり尽くせりのダイビングサービスを受けて行うダイビングのことを、本書では「プラチナダイビング」と呼びます。正しく訓練を受けてそれを習得し、そのうえで積極的にプラチナダイビングを行うことは、ダイビングの持つリスクを軽減する立派なリスクマネジメントとなります。
 ただ注意してください。繰り返しになりますが、技量不足や無知のままでプラチナダイビングを行うことは、別の意味での危険を呼び込む可能性があります。それは自ら「正常化の偏見」にとらわれてしまう可能性で、そこからリスクが生まれることもあるからです。それが、サポートの受け方(サポートする側に最大の効果を発揮させるための対応)を間違うことになりかねないのです。したがってそれはリスクを減らすことにつながりません。また自分が何をラクしているのかを知らないとしたら、そのラクを楽しむ感動を半減させてしまうことにもなります。
 私は、皆さんが自分とバディ、そして「緒に潜る仲間たちの安全のためという理由と目的をもってプラチナダイビングを行ってほしいと願っています。

プラチナダイビングにトッピングする「安全のオーダー」とは
 命はお金では買えませんが、お金で命の安全率を増すための手段と環境を買うことはできます。当然若干のお金はかかりますが、事故に遭ってからの費用とその後の人生の苦難を考えればささいな出費です。
 特にシニア層や若くても体力がない方は、充実した体力と復元力を持つダイバーたちと違い、同じリスクでも、より致命傷になりやすいと言えます。そこでそういったリスクの低減にお金をかけるという選択肢の意味を考えましょう。リスクを防御する若さや体力がない分は、それを周辺の安全対策を充実させることによって補うのです。
 このための方法とは、安全対策の充実を、例えば食べ物のトッピングを注文するように、通常の講習やツアーにオプションとして追加するのです。
 例えば数人でツアーに参加するのなら、そのダイビングの"プラチナ化"の費用を皆で分担すると負担が軽くなります。またこのようなオーダーを受けないショップは避けるということも、自分たちの安全対策のーつともなります。

安全のオーダーメニュー
@予備タンクの追加
 ガイドロープ(アンカーローブ)の安全停止の水深(5mや3m)に、レギュレーターとオクトパスをつけたタンクを予備として吊り下げておいてもらう。
Aレーダー反射フロートの装備(本来は自分用のものを持つことが必要)
 各自にレーダーが感知できるフロートをレンタルで持たせることができるよう、取り寄せてもらって装備する。あるいは自分で購入できるように在庫を置いてもらう。
Bサポートメンバーの追加(a)
 本来のガイドやそのアシスタントの他に、可能であれば2000本程度のプロ経験と体力のあるインストラクターなどを追加でつけてもらう。それが無理ならプロとして最低500本程度以上の経験のあるインストラクターをつけてもらう。そしてその人(ツアーが大きければ複数人)に対しては、パーティの最後尾から全体の監視にあたってもらう人を必ず用意する。こういったリクエストをショップ側が受けない場合には、自分で、あるいは共同してフリーのプロダイバーを雇ってそのツアーに客として参加させ、自分たちのフォローを専門にしてもらうようにする(本数はあくまで目安)。
Cサポートメンバーの追加(b)
 無理な運動によるケガや減圧症のリスクの低減のために、器材のセッティングの手伝いや器材の持ち運び、ポートやビーチでのエントリーやエキジットの手伝いを役務としてやってもらう人を手配してもらう。これは特に人件費の安い地域でダイビングをする場合には、複数の人を雇っても大した金額にはならないでしょう。
 こういった安全のためのオーダーをすることは決して悪いことではありません。特にシニア層や女性のダイバーは、体力や注意の持続力が頑健な男性より弱いのが一般的ですから、安全のオーダーによって、サポートしてくれる方々の収入アップに貢献しながら、自分の弱い部分を補ってもらうことは結構なことではないでしょうか。
 今後のダイビングの楽しみ方の流れとして、このよヶな選択肢の定着を願います。
海外でのプラチナダイビングについて
 先進国などでは、事故の際にも救助体制や治療体制がある程度整っているポイントでダイビングが行えるケースもありますが、人件費が安い地域ではそういった社会資本の充実はなかなか望めません。お金持ちなら医師と看護師を同行させるという手もありますが、普通は救助体制も治療体制も、また緊急時の移動手段も限られてくるのが一般的です。
 そうなれば、個人では自力でそのような社会資本に代わるものを用意することはできないので、そもそもそのような事態にならないように予防することが必要となります。
 そのために「プラチナダイビング」と名づけた安全のオーダーが意味を持ってくるのです。
 プラチナダイビングでは、これを請け負ってくれるダイバーの収入が増えます。そしてこれをオーダーする人は気分的にもリッチになるでしょう。このような安全対策は、リスクマネジメントあるいは危険のコントロールのための選択肢です。
 例えばエベレストの登山などでは、超一流の登山家で、その人が普通の人から見て頑健であっても、やはり現地のシェルパを雇って荷物運びをしてもらっています。これは恥ずべきことではありません。ダイビングでも同じことです。もっともこれで得意がって傲慢になりすぎると、それがかえって事故の要因ともなりますから注意を要しますが。
 日本人ダイバーは手取り足取りしてもらわねばダメだという悪口を言う方々もいます。しかし遠慮することはありません。事故になるよりはずっといいことです。しかも海外の場合には、現地の雇用確保にもなることですから遠慮することはありません。また、東南アジアや太平洋、インド洋などに存在する島喚国家・地域などでは、その雇用を通じて地元の住人が雇われると、いざという時にその家族などが雇用者の力になってくれる可能性があります。こういった地域では、1人の働きで大家族が生活していることが少なくあり
ません。また国家の法よりも、現地の住人の慣習などの方が力を持つ場合も少なくありません。そのためにも、雇った現地の人に対して決して横柄な態度をとらず、また可能ならちょっとした心づけなどを行っておけば、いざというときに警察以上に助けてくれる可能性もあります。特にそのダイビングポイントが気に入って、今後も繰り返して行きたいと思う地域なら、地元の人を自腹で雇って手伝ってもらい、そして自分を気に入ってもらうことは、掛け捨ての保険よりずっと頼りになるケースがあることも十分に考えられます。 特にこれからゆったりとした人生を送りたいシニア層は楽をしましょう。そのために
延々と働いてきたのです。プラチナダイビングはそのご褒美なのです。そしてこれが安全への道なのです。安全はまた、幸せと楽しみをもたらしてくれます。少なくともダイビングにおいては、冒険と体力勝負の楽しみは屈強な若者に任せましょう。そしてシニア層の穏やかな楽しみを無意味に馬鹿にする者へは、心の中で哀れみを与えましょう。
ダイビングをやめる勇気
 体調や海況などが悪い時は、ダイビングを中止する勇気を持ちましょう。その時、楽しかったはずのダイビングの機会や、せっかく貯金して払ったお金を失っても、命と健康を失わなければ次の機会はまた訪れるはずです。意気地なしなどというような罵声を浴びせられても、死んでしまったり、一生続く後遺障害に苦しむよりはずっと上策です。
 こういった考え方は、普段から危機的状況がもたらす結果を見聞きしていれば、若くて経験が少ないダイバーや体験ダイバーでも持っている人たちがいます。例えば看護師の方々です。
 ある女性看護師の方が、ボートファンダイビングでダイビングポイントに着いたときのことを話してくれました。彼女はその時、いまひとつ体調が良くないなと感じたので、「惜しいな」とは思いながらも、その場でダイビングを中止する決断をして、他のダイバーたちが潜っている間ボート上で待機していたそうです。
 また別のある若い男性体験ダイバーは、船酔いをしたということで、無理をせずに、2万円以上の損となることを知りながら、ダイビングをせずに戻ってきたということです。 これと対照的な事例があります。ある女性ダイバーが、海に入ってから体調が悪いということで潜水はしなかったのですが、すぐにボートに上がることもせず(本当はガイドが手伝ってボートに上げるべきだったのですが)、ガイドが潜ってしまった後、1人で海面に残っていました。水に浸っていることで、少しでもモトを取りたかったのでしょうか。
やがてガイドがファンダイビングを終えて戻ってみると、その方は溺死していたのです。 普通に海面で泳いでいられる体調のレベルなのか、もったいないからとりあえず装備をつけて海に入ってみたいレベルなのかなど、いろいろな事情や考え方があると思います。しかし、自分が何か不安を感じたら、自分のカンを大切にして、安全な方にシフトして危険を回避する勇気と決断こそが必要なのではないでしょうか。

手抜き講習の検証と自己防衛策

 ここでは皆さんが受けた講習で手抜きがなかったかどうかを検証するための話をします。

講習中に起きた事故の原因
 次ページの表は、平成11年〜平成18年に発生した事故から、講習中の事故(体験ダイビング3件含む)から、死亡事故のみ25件を取り上げてその原因を表にしたものです。
「見失い」とはインストラクターが講習生や体験ダイバーを見失った(異常発生時にすぐに気づかない場合も含む)ケースで、「対応」とはトラブル発生時に適切な対応ができなかったケース、「体調」とは講習生が体調を崩したケースです。
 このデータからは、人数比が1対1の時点でもインストラクターが講習生を救えずに死なせてしまうほどの能力の欠陥を持っていることを示しています。人数比1対1でも見失っている者が、インストラクターでありプロであると商業的に認定されているのです。
 この事実からは、現在販売されているインストラクター資格が示す商品の品質ーインストラクターとしての技量と資質1は、宣伝されているようなものと必ずしも一致しないことがわかります。そして、インストラクター1人で××人まで相手にできる、などという人命に関わる商業基準が、科学的に安全を証明する検証によってできたものではない可能性を強く感じさせます。つまりインストラクターの品質は、そこに自助努力による向上のための研鎖が継続して行われないかぎり、時に低劣である可能性があるのです。
 現在の優秀なインストラクターは、まさしく個人的努力によってそうなっているのです。
 現在のビジネスシステムによって自動的に生まれてきているのではありません。そんな彼らは、当然何かを犠牲にして自己研鎖を積んでいます。遊ぶ時間を削って勉強したり、1回1回の潜水を考えながら行って教訓と経験を積み重ねていく、などというように。
 だからこそ、優秀なインストラクターを見つけたら、彼らを尊敬して応援する必要があるのです。彼らにはそれだけの価値があるのです。

学科講習とその検証
 学科講習では、潜水理論の他に安全に関することを学びます。自動車の免許の講習の時もしっかりやりますね。そのときのことを思い出してください。
本来、初級の学科講習でも次の項目は教えられるべき項目です。
●事故事例の見方と対策の考え方
●忘れてはならない器材の点検の大切な部分
●潜水計画の見方とそこにあるリスクの見方
●半年以上潜水していなかったら、チェックダイブを行うこと

水の中での実習の注意
 限定水域の中での講習で、耳抜きやスノーケルの扱い、そして特にマスククリアがうまくできていないのに、10回に数回できただけで、「OK」と、それがあたかも習得できたかのように笑顔で合格にするインストラクターには注意してください。彼らは講習契約にある、「潜水技術の習得」という約束を破っている、つまり契約違反しているからです。
 一般人の常識で、「習得」というレベルが、10回に数回の成功の割合であると考えるのには無理があります。何度も言いますが、マスククリアは最低限の潜水技術であり、これはできて当たり前で、それがうまくできないことで死亡事故につながっていくことが本当にあるからです。これに耳抜きとスノーケリングの技術が怪しいとなると、本当に大変なことになるのです。
 マスククリアができないことは焦りを生み、さらに何らかの事情が重なってパニックにまでエスカレートしていくことにもつながります。マスククリアがうまくできずにドキドキして血圧が上がって心不全や脳梗塞となる可能性や、水を誤飲して溺水したり、また溺水で焦って息こらえをして急浮上して減圧症になったり肺の破裂などの結果を招くこともあるのです。これは耳抜きの失敗やスノーケリングの失敗のときでも同様に起こり得ます。
 本当に多くの事故が、これら3つを最初の起点としてエスカレートしているのです。
 皆さんは手抜きされていると気づいたら、これらの技量が習得できるまで教えてくれるように強く要求しましょう。それが相手と貴方が結んだ契約なのです。
 これに不満を示す業者や、そんなことを言うと次に進めないとか他の人に迷惑がかかるなどと言って皆さんを脅す業者は、客の命に関わる安全より目先の小利益にしがみつく業者だと判断してください。そもそも、個人によって異なる習得までの時間を一緒くたにして、1度に何人も講習を行うというビジネスの姿勢が、すでに安全より利益を求めるというビジネス文化を示しているのではないでしょうか。
 そうは言っても、この時の相手の生活事情をわかって、また相手のその小利益を求める気持ちが、自分の人生に照らすと身に詰まってしまって許そうと思った人は、自分の方で、手抜きの悪しき結果を予防できるように、より一層努力をしてください。
 相手の苦しい事情がわかってしまうシニアの方々は、それが優しさとなって、必ずしも厳しく対応できないかもしれませんね。でも、最近はシニア層の事故が多くなっていることと、事故が発生したときに命を落とす確率や、事故の重大化によってその後の人生に支障をきたす確率も相当に高くなっているのです。だから、優しさを与える時は、自分も命がけであるという自覚を持って行ってください。

保険について
 海外で事故に遭った場合には、旅行保険があれば理想的ですが、一般に、帰国後に社会保険から、その医療費が国内で医療行為を受けたのと同じように、一部の負担分を除くと返金される制度になっています。
 ダイビングでかかりやすい減圧症は、旅行傷害保険だけに入っていると、減圧症あるいは潜水病は疾病だから、とされて十分に支払われない場合もあります。特に海外での減圧症の治療のための高気圧治療は、日本よりはるかに高額であることが普通です。そこで帰国後の社会保険の制度もありますが、万が一のためには入っておくべきだと思います。
 旅行保険をかける際には、このリスクを避けるために、疾病補償も必ずつけましょう。また漂流などの場合にヘリなどで捜索してもらうことも考えて、これへの対応ができるよう、最初の保険についていなければ特約でつけましょう。
 海外での医療費に健康保険を適用してもらうための詳細は関係する行政機関に聞いてください。インターネットでも検索できるはずです。制度が変わる可能性があるので、最新情報は別途皆さんで入手してください。

用心した方がいいプロダイバー10例
 実はダイビングの世界には、用心したほうがいいプロダイバーがいます。
@客から目を離す
 例えば一般客を率いてダイビングをしている時、客から目を離して、自分の趣味やショップの宣伝のための写真を撮っているようなインストラクターやガイドが時折います。客がベテランのレベルであっても、その安全に関わる監視義務はインストラクターやガイド側にあります。その自覚すらないプロは、個人的にダイビング技術が一流であっても、プロとしての能力の重要な一部は貧相であると言えます。
A潜水計画をしっかり立てていない
 ダイビングでのプロの最低限の役目は、たとえ客が水中でまったく楽しくなかったとしても、彼らを安全に陸上に戻す義務をしっかり履行するという基本が実施できるということです。そのためには、安全を優先とした潜水計画の立案と実行ができる能力が不可欠です。
 そして予想される(発生しうる)トラブルをきちんと予想し、それらに遭遇したときに安全確保を最優先できるバックアップのための潜水計画を複数準備し、さらにその説明をきちんと客にできるレベルがプロにとっての不可欠の管理能力です。これができていない、あるいは「関係ない」「大丈夫」と言うようなプロはパチモノと思ってください。
Bダイバーに水をあまり飲ませない
 ダイバーには水分補給が不可欠です。
 ダイバーが吸うタンク内の空気は、湿度がほぼゼロです。これを水中で吸うと、人間の肺の中で、空気の中の酸素を体内に取り入れるガス交換という行為を行うために、体内から水分を放出して空気の湿度を100%にします。そしてガス交換が済んで吐く空気には、一緒にこの水分が混じって出て行きます。さらに、ウェットスーツを着ていると、自分でわからなくても水分が汗として出て行きます。夏ならなおさらです。
 こうして体内の水分がなくなっていくことでリスクの増大を招くのです。
 ダイビングでの水分補給は、真夏の炎天下で求められる水分補給と同じと考えて、たくさんしてください。もしそれでダイビング中におしっこをしたくなったら、どうぞしてください。ただしこっそりと。
 このような水分補給を、「大丈夫」とか「忘れていた」などと言ってさせなかったり、その機会を与えないプロは、とんでもないヤツだと思ってください。
Cタバコを吸う
 特に客の前で吸う者はどうしようもないダメダメさんです。これは副流煙にさらされるダイバーの血管を収縮させます。水中では血管の収縮に加えて水圧が加わります。つまり
タバコの煙は、直接吸っていない人に対しても、そのリスクを増大させます。
 こういったプロは、客の安全よりも、自分のニコチン依存症を優先させていると考えてもいいでしょう。おっかないです。彼らは自分だけならいいじゃないか、という言い訳をするかもしれません。そして客に煙を浴びせないように吸っているんだからなどとも。しかしそういうプロでも、少なくとも自分のリスクは増大させています。このプロが水中で指導やガイドを行っている時に、自分が血管系の疾患で意識を失ったり死亡したら、いったい客への監督義務、あるいはいざという時の客に対する救助義務はどう果たそうというのでしょうか。経験のない、あるいは未熟なダイバーに、そのプロを救助させうというのでしょうか。二重遭難のリスクまで負わせて。いけません。
D大深度潜水や「ガンガン」ダイビングを崇拝している
 どちらも減圧症や窒素酔いのリスクを高めます。減圧症は「潜水病」あるいは「潜函症」という言葉で語られることも多いですが、大変なリスクです。それは治療の苦しみと経済的負担、重大な後遺障害に苦しむ状況とそれを抱えた人生、そして植物状態になって家族に負担をかけることにもなり、あるいは死にます。
 減圧症は、まだ医学的に完全に解明されていない課題です。さらに体質的な理由で罹患しやすい方としにくい方がいるようなのです。
 長年大深度ダイビングや「ガンガン」ダイビングをやっていて問題がない人は、生物的適性の淘汰の網を潜り抜けてきた、つまりそれを行って減圧症になってダイビングをあきらめていく人たちを除いて残った人たちです。それを、適性があるかどうか(やってみなければ)わからないと、減圧症のリスクを一生の問題として覚悟のうえで負うという決意のない一般ダイバーに対して無責任に(こういう時も「自己責任」という言葉で逃げを打つ)勧めるプロは、結局は自分のために勧めていると考えていいでしょう。
 皆さんがどうしても大深度潜水やガンガンダイビングをやりたいと思った時、まず思いとどまらせて、これは一生の問題だとアドバイスをし、事故事例を紹介し、万が一の時は家族にも迷惑をかけるということを含めて、十分な時間をかけて説明を行って覚悟させてから、それでもこれらをしたいという人に、順を追ってその道を開くというスタイルをとるプロこそ、信頼できるプロの部類に入るでしょう。
E初めての客や久しぶりの客に対して、チェックダイビングを行わない
 当たり前のレベルのプロであれば、指導や案内する客のレベルを知ることで潜水計画を立案し、監視義務をどう履行しようかと方法を考えます。場合によっては、その客を受け入れないという選択を行います。それはプロの側の権利です。受け入れたなら、一般にインストラクターやガイドには、客のダイバーに対する監視義務が重くのしかかってきます。しかし、その義務を請け負わないという選択はできます。客の弱みにつけこんで、勝手に契約したダイビングスタイルや条件の変更を要求するということはインチキの部類に入るのですが、普通に見れば、これが正しい権利の行使なのか、目の前の利益を手にするためのインチキなのかはわかるでしょう。インチキをするところには、国民生活センターに相談や報告をしてから、あとはそのショップに行かなければいいのです。
Fひどい客を排除しない
 客のレベルや適性、品性などによって、ダイビングパーティそのものや、少なくともバディなどを危険にさらす可能性のある客を判断して、丁寧にかつ断固としてそのダイビングへの参加を辞退してもらうことで他の客の安全確保を優先しないプロは困ります。なお、その客に別途1対1で講習を行ったりガイドをすることは問題ないと思います。
Gバディシステムを徹底できない
 バディシステムの厳格な履行は、ダイバーの生死に関わる問題です。それを、「バディシステムを守るように言った」ということをもって守ったなどとするようなプロは勘弁です。客に嫌われても(これを嫌う客は、客そのもののレベルが低い)厳格に守らせて、お互いにバディの義務を果たすようにするプロこそが、プロのプロたる理由のーつではないでしょうか。
H体力がない
 男女を問わず、1人でトラブルダイバーを海岸まで曳航したり、ボートに引き上げるだけの体力がない人はあてにできません。このような人のために、何人もの講習生や一般のダイバーがみすみす死んでいるのです。
 実際にトラブルが発生した時、自分でトラブルダイバーをコントロールできないので、そのダイバーがおとなしくなるまで待っていて(11死ぬか気絶するまで待つ)、それでもまだ手伝ってくれる誰かが来るまでまた待っている(11客の放置)ようなプロが実際に複数いました。彼らは本当に客を"殺す"(不作為によって死に至らしめるという意味で)のです。
I事故を軽視する
 詳しく書く必要はありませんね。どうしようもないと思います。

水中活動のリスク―首への衝撃
※各種資料は本を参照してください。

ダイビングと脳脊髄液減少症
 脳脊髄液減少症という症状をご存じでしょうか。以下はあくまで私見です。
 これは髄液が体内のどこかから漏れることで脳脊髄液量が減少し、頭蓋内の圧が低下するために起こると言われている症状です。また脳脊髄液減少症は、スポーツ障害、その他頭頸部などへの強い衝撃だけでなく、軽微な外傷の後にも、時には外傷がまったくない人にも起こると言われています。
 この症状は、頭痛や腰痛、めまいや吐き気、視力や思考力の低下、うつの症状、睡眠がうまく取れなくなる、耳鳴り、集中力の低下、記憶力の低下、顔や四肢の痺れ、知覚の低下、息切れや動悸、発汗、食欲不振、後頭部から首や背中の強い痛み、極端なほどの全身の倦怠感などが合わせて起こると言われています。
 立っていたり座っていたりすると本症状は悪化し、横になることで軽減すると言われています。しかし症状が長期化するとこういった姿勢をとってもなかなか効果が出ないとも言われています。
 これまではこのような症状で医師に相談しても、原因が特定できない場合が多く、「怠け病」だとか「精神的なものだ」とされたりし、その無理解によって、患者の肉体的精神的な苦痛を増すことすらあったということです。
 私が以前知っていたダイバーは、いいかげんな講習によって首の後ろにタンクのネックがゴツゴツと当たって衝撃を受けたと語っていました。病院の検査でもそこを強く打った形跡があったということです。ただし当時は私も脳脊髄液減少症という名称を知りませんでしたし、このダイバーも医師からこのようなことは言われていませんでした。しかし今にして思うと、この方はまさしく脳脊髄液減少症の症状を見せていたのです。その時のことを思い出すと、今でもかわいそうで胸が痛みます。
 私は当時、この症状はあくまで減圧症(この方は講習の結果、重度の減圧症となっていました)の後遺症だけだと思っていました。そのとき今程度の知識があれば、少なくと何らかのアドバイスができたのではと思うと残念でたまりません。
 タンクのネック部分が首の脊髄のあたりにゴツゴツとぶつかる方のだれもが脳脊髄液減少症になるわけではないと思いますが、用心してください。

安全性向上のための新しい器材-救助されるために必要なこと
 ここでは、漂流事故のときに助かる可能性を高めるダイビンググッズである、レーダーで感知できるシグナルフロートを紹介します。
 漂流事故は、いかに早く発見されるかに生死がかかっています。
 一般に、海上で目視以上に発見できる可能性があるのはレーダーでの捜索です。
@漂流者救助訓練の教訓
 伊東市ダイバーズ協議会は、平成19年2月19日(月)に、静岡県伊東市の富戸港地先で、事故時の緊急対処訓練を主催しました。
 同訓練後の報告書によりますと、訓練1の洋上捜索・救助には海上保安庁巡視船「いずなみ」が、また下田海上保安部伊東MPS(マリンパトロールステーション)「ポラリス」が参加していました。そして訓練2の水中捜索・事故者応急処置では静岡県警本部機動隊潜水隊員と伊東市消防本部対島支署救急隊が参加して実施されたということです。
 これは大変有意義な、すばらしい訓練であったことが同報告書からも想像できます。
 今日は特にその訓練1について紹介します。
 この訓練はダイバーが単独で漂流しているところを「巡視船」が捜索と救助を行うというシミユレーションでした。
 訓練では、信号弾「RS14」の目視可能性についてと、シグナルフロート「レーダー波反射タイプ(KRF110)」の有効性の確認、そして事故者が音を出すことで発見できるかどうかについて検証されました。
 まず「照明弾」ですが、天気の良い日中でも「照明弾」としてわかる赤い光が確認されたということです。その結果、これは夕闇や夜間にも効果が高いだろうと評価されました。
 レーダー反射シグナルフロートは、海上保安部巡視船「いずなみ」のレーダーが、洋上約500mの距離で感知できることが確認・実証されたということです。
 また音響信号も洋上の船舶からも聞き取ることができ、その効果が確認できたということです(ただし、ダイブホーンをボートから10〜20m程度の距離で鳴らしても、別の方向を向いていたボートスタッフには聞こえず、結局漂流した事例がありました。このことから、音響の効果は、風向きや周りの音などの条件によって変化すると考えられます) 同報告書はこれらの機材を〈潮流のある海域でのダイビング、ボートダイビングを行うダイバーは、「漂流」等の不測の事態を考え、これらの「緊急用器材」の装備をすることを、推奨したい〉と結んでいます。今後のフロートにはレーダー反応機能が不可欠の機能として標準装備されることを願います。
 次に、レーダー反射シグナルフロートが救助隊からどのように見えたのかを知ることができる資料を紹介します。これは非常に重要な資料です。海保の捜索時のレーダi画面について公開が許可されたことは私の知るかぎり、初めてです。この資料は、この訓練に参加したMPS/事務室が平成19年2月に作成した「救難信号等の視認状況について 海難救助展示訓練実施結果(2月19日実施静岡県ダイバーズ協議会緊急対処訓練内)」からのものです(この資料はMPS/事務室に許可を得て公開しています)。
 この「レーダーシグナル確認位置図」を見ると、「目視確認位置」より遠方に「レーダー確認位置」があります。位置図上の距離はわずかに見えるかもしれませんが、それでも緊急事態にはこの距離が漂流者の生死を分ける重要な意味を持つことになる可能性が考えられます。しかもこれは光の海面反射や夕暮れ・夜間などの条件下でも同じになると考えると、大きな意味を持つデータだと思います。
 ここでは漂流者が岸の近くに位置していますが、これは安全のためこのような位置取りをしていると考えられます。本当に漂流して湾の中央部や外洋に流された時などには、レーダー上ではより一層目立つのではと考えられます(例えば「レーダーシグナル確認位置図」では左側にある漂流者が同じ距離で右側に位置していた場合、実際の場合にはその危機の度合いは格段に異なっています。このように両側を一度にスキャンできるのはレーダーの特徴です)。
 なおこのレポートではダイブアラートの音響信号は同じ距離で確認できていないとありますが、海洋の場合は風の向きなどもあり、常に最高性能を発揮できないことはやむをえないと思いますし、その逆に、特定の気象条件では性能限界を越えて音響信号が届く可能性もあるのではと思います。この機材の性能について別のぺージで次のような記述がありましたのでそれを紹介します。
「海上用緊急警笛です。ダイブアラートは空気ボンベの圧力を利用し、仲間やバディと離れてしまったり、遠くのボートを呼び寄せる時などに水上で最高約聡q先まで汽笛音を発生させることができます。※汽笛音の到達距離は周囲の環境や気象状況によって変わります。」「記載内容は、器材販売会社広告文による」
 これは、条件によっては非常に遠方まで効果があることを示しています。
A漂流者救助訓練(大阪編)
 平成18年5月25日、関西潜水連盟が三浜の海掃除を行った際に、京都府救難救済会所属
船によってこのフロートの実証試験が行われたと聞きました。このテストでは、このフロートがレーダーに強く映りこんだことで、参加者の方々が驚いていたということです。
B航空自衛隊の装備品としての調達
 平成18年3月、航空自衛隊がレーダー反射シグナルフロートを100本以上調達しました(調達した事実は、当時防衛庁の広報を通じて確認しました)。
 自衛隊の装備品は要求品質や要求機能のレベルが相当に高いと考えられますので、このフロートの品質が高く評価された結果だと考えて間違いないと思います。なお調達の足かけ2年前からすでにこのレーダー反射シグナルフロートのサンプル調査が行われていたそうです。
C商船三井の調達
 日本有数の海運会社である株式会社商船三井が、船員の安全のために、このフロートを装備したジャケットを全面的に採用したことを平成19年10月26日に発表しました。
 このフロートを採用した理由を、ニュースレターでは以下のように発表しています。
「【新型救命胴衣特長】
1.個人携帯型レーダー反射器を膨脹式救命胴衣に一体化
外洋での転落漂流者の救助用で小型軽量かつ長期使用可能な「個人携帯型レーダー反射器」を、膨脹式救命胴衣へ収納し、一体化を図った。
 これにより、万一落水した場合の迅速な発見が可能になる。」

 さらに、私からの個別の質問に、株式会社商船三井海上安全部安全グループが次のような回答を寄せてくださいました。漂流時の安全率向上のために何が必要かということを考える参考となりますので、紹介します。

Q.なぜ、「個人携帯型レーダー反射器」を装備した胴衣を導入したのか。
A.万一海中転落した場合、迅速な発見を可能にし、本船乗組員の安全をより一層確保するため。
Q.「個人携帯型レーダー反射器」を装備した胴衣に、どのような効果を期待しているのか。
A.海上において目視のみによる捜索は極めて困難であり、レーダー捜索によって転落者を早期および確実に発見できること。
Q. 「個人携帯型レーダー反射器」を装備した胴衣を何体導入したのか。
A.各船に15体ずつ導入致します。現時点でおよそ10500体あまりの計算となりますが、弊社の経営計画において今後も運航船が増えていきますので、これらにも順次導入していきます。
 この調達は、リスクを予見し、その際の影響を最小限にとどめようとするもので、人命尊重の意識があるからこそと思われます。一般ダイバーもダイビングショップも、そしてダイビングボートの運航者も、この商船三井の取り組みを見習ってほしいと思います。

ダイバーの側から生まれる危険
過剰な自慢ダイバーに注意(※少しは許しましょうね) 
 一緒にダイビングをするパーティに、自分の器材を過剰なまでに自慢するダイバーがいたら注意した方がいいかもしれません。
 このようなダイバーと一緒にダイビングを行うと、一般に事故に巻き込まれる可能性が比較的高くなると考えられています。また時にダイビングの健全な楽しさを損なってしまうかもしれません。
 まず、自分が他で受けた講習のランクを誇って、自分は何とかランクのダイバーだなどと盛んに自慢する人にはご注意ください。
 これまで書いたように、手抜きの指導をされていた場合、それで合格とされてしまうと、何とかランクの"ライセンス"を持っていると言っても、それは安全の向上にあまり関係がないばかりか、時には過信による危険(リスク)すら招くことにもなり、過信自体が高
いリスクとなっている可能性もあるからです。
 過信かどうかを見破る方法のーつとして、器材のセッティング状況を見てみると良いかもしれません。自慢しているわりには動作が手間取っていたり、ぎこちなかったなら、本人が悪くなかったとしても、やはり手抜きをされていたのだなと考えるほうが無難かと思います。
 また自分の器材を、わざわざ他の人に聞こえるように、自分はこれほどの良い器材(値段だけで良い器材と言っていることも少なくない)を安く買ったからエライんだ的な自慢をする人にも注意してください。
 器材の知識が十分にある人は、そのような自慢はあまりしません。器材の機能やリスク防止のための備えについて自慢することはあるかもしれませんが。
 特に、そういった器材を販売しているショップのスタッフの前でこのように自慢することなどは、普通はしないでしょう。そこにはおのずと礼儀という意識があってしかるべきです。その人が、参加したショップの器材が量販店などより高いというのであっても、そこが良いショップなら普通はそこにはアドバイス料などのノウハウ料金(タダで上質な情報を得ようとは考えない方が良いです)が入っていると考えるべきでしょう。ただし、もし器材を販売するショップ側が、ウソや適当な話だけで商売をしているのであれば、そのショップの商品ダイビング全般の信頼性もチェックし直すべきです。
 ダイバーの側も、自分に十分な器材に関する知識(自分の安全をいかにより確実にしていくか)がない場合は、ショップのスタッフからよくアドバイスを得て、そのショップで器材を買いましょう。これは、良いアドバイスとは良い情報のことであり、この場合の良いこととは、自分の安全に不可欠なことを意味します。安全はタダではありません。
 自分ががんばって勉強して、器材のよしあしを自分の適性に照らして選択でき、またそれを使いこなせるようになるまでは、重要な安全関係の器材ほど、高い専門知識による情報込みで買ったほうがいいのではと思います。いかがでしょうか?
 自分を守る情報は、皆さん、ちゃんと対価を支払って買いましょう。それがいやなら、時間と費用をかけてしっかりと勉強しましょう。どちらでも自分の安全のためです。
 器材自慢を行うダイバーの自慢が多少過剰でも実際にそのとおりであれば、あまり問題はないですし、時には参考にもなることもあるでしょうが、例えば確かに器材自体はすごいものであっても、実際はその人の体質や体格に合っていない、あるいは本人は良くても周りに迷惑をかけたり自然を破壊するような特殊な器材や、使用時に本人が持て余してしまうような器材を過剰に自慢している人には注意が必要です。
 優秀な器材でも、そのものを持っているだけで偉いわけではなく、使いこなしてその性能を生かすかどうかが結果として求められているものです。
 例えば水中写真を撮るために、数十万円もするカメラのハウジングに水中ストロボをつけると、空中での重さは時に15キロやそれ以上にもなり、またその扱いに習熟していないと、いろいろな出っ張りにホース類が引っかかってしまう危険すらあります。これはやっかいです。
 もしこのような人がダイビングの前中後のどこかで、転んでケガをしたり溺れたり、あるいは何かに引っかかったりしてトラブルの発生源となった場合には、周りの人はこれを助けなければならない状況になることがあります。それは時に二重遭難のリスクを生じさせることになります。
 エキジットするときも、どうやって波打つ海面から重量物であるこの器材を持って上がるのかを想像してみてください。こういったトラブル防止のための手段が確立されていない場合は、この時の難儀が事故に結びつく可能性がありますから注意が必要です。
リスクダイビングを自慢するダイバー
 ひたすらにガンガンダイビングをしたといって自慢する人、また大深度ダイビング(深く潜ること。普通は30〜Smより深いダイビング)を自慢するダイバーには、少なくとも注意を払い、用心した方が良いようです。
 さらに自分はどんな危険なことをやったのかということを過剰に自慢して、危険と言われていることなんて実は大したことはないなどと、リスクを軽視することで自分を大きく見せようとしているダイバーにも注意しなくてはなりません。こういった人たちは、ダイビングにある本質的な危険に無頓着な場合もあるので、そのような考えや行動に巻きこまれないようにする必要があります。
 ガンガンダイビングや大深度ダイビングは、確かにその人にはそのようなダイビングを行う適性があって問題なくても、すべてのダイバーにとっての正しい価値ではありません。ダイバーそれぞれの適性や体質によっては、水深数mでさえ減圧症になったり、浅い水中で意識を失ったり、各種梗塞に陥ったりして死亡する危険があります。このような危険の存在を無視して、大深度ダイビングを、あたかも普遍的に価値が高いかのように語る人には距離を置いたほうがいいでしょう。
 リスクを軽視する方が偉い、あるいはかっこいいと思わせようとするダイバーには困りものです。

だまされないためのチェック
 チラシに書いてあったダイビングツアーに申し込んで行ってみると、チラシの内容や契約時に確認した内容と実際が違う場合があります。時に危険な方向にシフトした(水深、時間、現場の状況、潜水本数、緊急用酸素の装備の有無、漂流時のリスクを踏まえてレーダーに反応するフロートを装備していなかったなど)相違はリスクそのものですので用心しなくてはなりません。ダイビングのリスクは最悪、死、ですから。
 こういったことを少しでも避けるためにも、旅行会社でツアーを購入する前に、安全対策の充実ぶりはどうなのかと根掘り葉掘り聞いて、店頭で現地に電話してもらって内容の確認をすることも、ダイバーの自己防御のためのーつの方法だと思います。
 この際、リスクに関係する事柄を聞いた時にはぐらかしたり、「しようがない」という逃げを打ったり、明らかにはぐらかしを行う業者と取り引きすることは避けることも考えましょう。良いショップやインストラクターを判断するときと同じですね。また聞いたことはーつーつ、誰がいつどのように言っていたかを目の前で日付を書いてメモしておきましょう。そのメモに、相手の名詞を貼ったり、何か注意書きを書きこんでもらうと、何かあったときの証拠能力が上がるのではと思います。
 ネット経由で講習やツアーを申し込むなら、事前にメールやファックスなどで重要なことを聞きましょう。またスタッフの経歴チェックも大切です。例えばアメリカでダイビングを行うなら、正規の労働ビザを持っているのかを聞くことは大切ではないかと思います。
 さらに実際にダイビングを行うまでに時間的余裕があれば、リスクの高そうなダイビングポイントに行く時は、現地の警察に電話して、利用しようと思っているショップで事故が起きていないか、何かダイバーの安全に関わるトラブルが起きていないかなどを聞いてみることもいいかもしれません。
 ただそれでも現地には他にショップがなく、あるいはまだそこが良い方だとしたら、そのときは、慎重に、細心に、用心して、安全に注意して楽しんでください。

良い器材の選び方

安全のために器材に求められる機能や性能
 ダイビングの器材を選ぶ基準はどこにあるのでしょうか。
 ここで、器材の知識に関してのエキスパートの、東京アクアラングサービスの島田誠一さんのアドバイスをもとに、その選び方を紹介します。
 以下の内容は、いわゆる「絶対」ではありませんが、重要な参考になる情報だと思います(なお島田さんは、ダイビングの器材の安全性について、平成18年に東京大学で行われたシンポジウムで講演を行っています)。
 器材の選択は、ダイビングを行う方のダイビングライフ(どのようなダイビングを行うのか)に大きく左右されます。
 現在、実際の器材販売の現場では、自分のダイビングスタイルにあった器材を選定できる情報はなかなか開示されていません。
 販売店のスタッフがその器材を実際に使用して、特性を理解し、それを使う側の特徴まで配慮して準備を進めていることは少ないように感じます。
 ダイバーにとって良い器材とはどのようなものでしょうか。確かに性能が良くてデザインも良いものが最高ですが、長い目で見ると、「使いやすく」「自分の技量が上達した時でも不満が出ず」「初期性能が長く持続する」器材が一番良いのではないでしょうか。

@マスク

 内容積(マスク内の空間の体積)が少なく、顔のサイズに合っている、質の良いシリコンを使ったマスクがお勧めです。一般に外国製のマスクは、顔の小さい人や細い人には合わないこともあるようです。デザインを優先するあまりに、マスククリアの時に、ガラス(プラスチックもある)のふちや鼻の先に水が残りやすいマスクも一部にあるので注意をしなければなりません。なぜなら、マスクの使用感は、直接、水中でのストレスの度合いに関係するからです。水中でのストレスの発生は、事故の原因のーつとなり得ます。

Aスノーケル(シュノーケル)

 排水弁付きのタイプが主流ですが、弁が付いていればどんなスノーケルでも使いやすいかといえばそうでもなく、それぞれに製品の良し悪しがあるようです。実際に私は、それまでも排水弁のあるものを使っていましたが、島田さんのアドバイスで買ったスノーケルでは、びっくりするほど呼吸が楽になったという実体験があります。これは相当にストレス軽減になります。
 スノーケルの形状はいろいろあります。そしてそれは硬かったり、あるいは自由に変形できるところが多いフレキシブルなタイプだったりします。これは好みの影響が強いと思いますが、形状はフレキシブルではない方が使いやすいように感じます。あえてまっすぐなシンプルなタイプを好む人もいますので、やはり使う人の好みの影響が強い器材だと思います。

Bレギュレーターとオクトパス
 基礎設計の良いものを、毎年オーバーホールして使うのが、最も良い使い方だと言われています。構造的特徴や、一部のパーツのみを、それを売るための宣伝文句としているものは避けるという選択肢が良いように思われます。トータルにバランスのとれた国産のレギュレーターも優秀と言われています。

Cゲージ
 小型・軽量のタイプが人気ですが、コンパスはある程度の大きさがあった方が使いやすいと言われています。ゲージは、そのホースが痛んだり、接合部から空気が漏れていたらすぐに専門業者にメンテナンスに出しましょう。残圧計内部に一度でも水が入ると修理できなくなります。気づきにくいのですが、ナイトダイビング中の視認性は重要です。

DBC

 これは耐久性とバランスで選びましょう。デザイン的に凝ったものより、胸、腹の周りがすっきりしている方が使用感が良いと言われています。シンプルなジャケットがオールマイティに使用できます。身長、胸囲、ドライスーツの所有の有無でサイズが変わるので、経験豊富なプロの意見を慎重に聞きましょう。一般に、排気弁は右肩側にあると便利だと言われています。

Eフィン

 スタンダードなゴムフィンがお勧めです。ブレードが縦に割れているフィンは少ない脚力でもよく進むので人気ですが、足に力のある人にはあまりお勧めできません。普通のフィンが靴だとしたら、縦に割れているフィンはサンダル、といった感じでしょうか。

Fスーツ

 素材は、細かい部分の改良が進んできているので、その結果スーツは毎年良くなってきています。薄くても保温性が良い生地はウェイトを減らすこともできるので、ダイビングが楽になります。長く使うものなので、値段よりもデザインや素材を吟味してオーダーするようにしましょう。スーツは年々縮むので、最初少し大きめにオーダーするのがコツです。ただし長く使うには、体型が変化しないという条件があります。

Gコンピューター
 あまり複雑な機能より、視認性と操作性を重視して選びましょう。これは器材全般に言えることですが、水中で考えなくては理解できない、あるいは操作できない器材は、基本的に良くない器材と考えて良いようです。
 良い器材を正しく使用することで、ダイビングに余裕と幅が出てきます。
 実際に使用してみないとわからないことが多いので、器材の選択は信頼できるプロに相談してアドバイスを受けましょう。

ダイビング用タンクと空気についての大切な話
 水中でダイビングをする時の最大のポイントは、安全な空気を水中で使用できるかどうです。スクーバ方式で、安全な空気がないダイビングは考えられません。
 これから紹介することは、ダイバーの命とも言える、空気とタンクのプロフェッショナル、株式会社熊野酸素串本営業所の所長、榎本広志さんからのご教示と監修をいただいたうえで、私が編集.構成をしたものです。なお榎本さんはインストラクターの資格も持っ
ていると伺っています。
 ダイビングポイントの串本は、このようなタンク業者の方がいるので、全国的にも恵まれた空気環境にあるのではないでしょうか。
※株式会社熊野酸素 串本営業所:和歌山県東牟婁郡串本町617-15
電話07356-2-5695(代)

レジャーダイバーにとって良いタンクとは
(A)良いタンクとは
 法に定められた検査を正しく受けて合格したものです。検査ではタンク内部と外部のサビの有無を調べ、その重さが減っていないか、そして熱の影響を受けていないかなどを判定します。
 またタンクをゆすってみて、中から何かの音が聞こえるようでしたら、その使用をやめて・他のタンクに交換してもらいましょう。後述しますが、これは健康被害を招く音です。
(B)タンクを自分で購入する場合
タンクのサビを防ぐためのメッキ(メタリコン=低温での亜鉛メッキ)が何らかの理由でサビているタンクの使用はお勧めできません。タンクは、製造後すぐにメッキした、メッキ処理にばらつきのない製品がより安全と言われています。タンクにいろいろなステッカーを貼っている人もいますが、ステッカーとタンクの間の水切れが悪いとそこからサビが発生することがあります。そして一度貼ったものを無理にはがすと、メタリコンごと剥がれてしまうことがあるので注意をしましょう。
(C)レンタルのタンクの場合
 耐圧の再検査を法定内にきっちり受けているかどうかを見ましょう。検査を受けていないタンクは使用しない方が自分のためです。たとえタンク内部を見ることができなくても、外部がひどくサビているタンクは避けるべきでしょう。
 検査済みのタンクには、検査所のマーク(アルファベットでAAなどというもの)に月と年の打刻(例えば、AA検査所の2008年10月の検査は、"AA10-08"などとなる)が合格印として記されています。しかし、検査所のごく一部に、水圧テストをせずに合格の打刻をするだけの所もあるのではという情報も一部で語られています。そのような所はまず内部点検をしないでしょうから、内部にサビや腐蝕があって、その結果肉厚が薄くなっていても平気で合格印を打刻している可能性があります。

ダイビング業者が選ぶタンク業者が良い業者かどうかを見分ける方法
 一般に、過充填(空気の入れすぎ)しているタンクを販売している業者は、他にも安全面に気を配っていない可能性があります。またタンクへの空気充填時の空気清浄システムですが、ある種の粉塵が空気と共にタンクに充填されてしまう時があるようです。こうして入った粉塵は、それを使用したダイバーの肺に入ってしまう可能性が高いと言えます。
そうなると、そのタンクの空気を吸ったダイバーの健康被害を心配しなくてはならなくなります。
 タンク内に粉塵が入らないような空気清浄システムを使っている充填業者なのかどうかは、ダイビングショップに聞くしかないというのが現在の状況です。このことは、なおさらに信頼できるダイビングショップを選ぶ必要があるということを示しています。この点からも、楽しさだけを基準とするショップ選びは、リスクを抱える可能性を排除できない行為であることがわかります。
 タンクに空気を充填するには、2年に1度(静岡県は1年に1度)の、都道府県が実施する保安検査を受検しなければなりません。これをきちんとしていれば、そのタンクと空気の質も優良であると思われます。しかしこの検査逃れをしている業者があった場合は、そこに良質を期待することは危険と言えるでしょう。例えば、届出が受理された後で、もう1台もしくは2台のコンプレッサーを連結(許可や保安検査が必要)して充填しているような業者の場合です。
 さらに無許可無届けで、日本では法的に使用が許可されていない平行輸入品を仕入れて充填してる業者があるとも言われています。このような業者が本当にあったら、そこからタンクを借りたり空気を充填してもらうことはやめるべきではないかと思います。
 なお、許可を得ていたり、届出をしている業者の場合は、許可番号と保安係員(1名)か作業主任者名あるいは作業責任者名が掲示されているはずです。この掲示がない業者の場合は、無許可、無届けの業者と見てもいいのではないでしょうか。
(※例えば日本で法的に使用できると偽ってタンクを販売し、某コンプレッサー会社の書類をコピーしてシリアルナンバーを変えて届出を行っている業者などもあるかもしれません。また平行輸入したタンクの広告を載せている雑誌などもあるかもしれません。しかし、このようなことがないことを祈ります)

一般ダイバーが自分たちだけでダイビングを行うとき、良いタンク業者を選ぶコツ
 ダイビングサービスで空気を充填している場合は、充填中に充填所のドアを開けている場合が多いようです。タンクは、ごくまれにですが破裂することもありえます。その時その破片が表に飛び出してしまうことを避けるために、飛び出さないような構造の充填所を設計しているところは安全に配慮している業者であると言えるでしょう(熊野酸素はそのような安全設計をしているそうです)。
タンクに充填する空気の取入口が、車の通行量の多い道路に面している場合には、CO2の濃度がそうでないところと比べて高い可能性があると見るべきでしょう。

タンク内の空気の良い空気、悪い空気の定義
 まずなにより・その空気に何らかの「臭い」を感じたらタンクを替えてもらいましょう。
 変な臭いのする空気の原因はいくつか考えられますが、その可能性を3つ挙げると、まず充填所の空気取入口から自動車の排気ガスなどが入ったことで、そもそもの空気が汚染されていた場合です。タンクには、通常の大気中での空気の圧力を1としたものを、150倍から180倍程度に圧縮して入れています。そして水中では、水深10mなら、大気圧の2倍に圧縮された空気を吸います。このような状況での汚染空気が体や精神に良いわけはありません。
 次にタンク内にサビがある場合です。これは異臭によって起こるストレスの問題のみならず、サビがタンク内で剥離してそれが呼吸を通じて体内に入る可能性があります。この場合、健康被害の可能性が無視できません。また、レギュレーターの空気取入口に取り付けられているフィルターにサビが目詰まりして空気の出が渋くなって(呼吸抵抗が大きくなる、つまり呼吸しにくくなる。水中では相当のストレスとなります)、苦し紛れでレギュレーターを口から外してしまい、窒息や溺死してしまう可能性があります。
 実際にこれが背景にあるように見られる事故もありますが、その実態はまだ解明されていません。そもそもこのようなことを含めた検視が毎回は行われていない可能性が高いと思えるのです。当局による今後の検視や捜査の際の手順の改善が望まれます。
 なお、サビが呼吸によって肺に入らないようにするフィルターがもしあればと考えてみると、そのフィルター自身がサビによって目詰まりしてしまえば、空気がきれいでも、その空気の供給が悪くなるという現象は避けられないでしょう。このためフィルタi式の場
合は、その使い方をよく考えることが必要です。なお、タンク内のサビの問題は表立っては公表されてはいません。
 3つ目は、空気清浄機に問題があると、空気をきれいにするための活性炭の粉塵が何らかの理由によってタンク内に入ってしまう可能性です。これはサビの粉塵と同じような問題を起こし得ます。つまり、タンクそのものに起因しない問題で、サビと同じような健康被害を生じる可能性があるということです。
 ダイバーが命を預けるタンクへの興味は尽きませんが、この続きは、また別の機会にご紹介したいと思います。

タンク内の空気の質の判別方法
 タンクの使用前に、バルブを少し開けて空気が無味無臭であるかどうかを確認しましょう。前述のように、このとき何か臭う場合は使用を中止してください。
 なぜなら、陸上で大いしたことがない臭いだと思っても、潜水してこの空気を吸いすぎると気分が悪くなることがあるからです。例えば香水の臭いがほのかであれば芳しくても、原液の臭いをドッとかぐと気分が悪くなることがありますね。そのようなことが水中で起きると強いストレスになることがあります。水中でのストレスの排除は、事故を防ぐための第1の手段ですから、どうかこのことを忘れないでください。
 臭いだけでなくタンク内の空気をチェックする方法として、ティッシュペーパーなどを何回か折りたたんでバルブの空気の出口に当てて、バルブを少し開けて数分間空気を通して、ティッシュペーパーに何かの色が付かないかをチェックできます。少しでも着色したら使用を中止します。ちなみに、赤茶色の色が付いたら、それは内部にサビが発生しており、黒い炭素系の色が付いたら、活性炭の粉塵が混入していると考えていいでしょう。
 また力があれば、あるいは手伝ってもらえるなら、ケガをしないようにしっかりと注意したうえで、タンクを逆さにしてから空気の出口にティッシュをあてて空気を出すと色が付くときもあります。
 こうして何かの異常を発見したら、そのタンクは交換してもらいましょう。

良いタンクが見つからない場合の対処法
 タンクのレンタル業者を替えましょう。あるいは良くないタンクのレンタル業者と密接な関係があるダイビングサービスの場合は、そのサービスを替えるという手段もあります。

良いタンクが借りられない場合や、タンクを交換するという状況が許されない場合に、リスク覚悟でやや難ありのタンクをなんとか使うための方法(非常手段です。決してお勧めするものではありません)
 外面にサビが発生しているタンクを使わざるを得ないときは、それを乱暴に扱うことは避けましょう。内部にサビがあったらその衝撃でそれが剥離して呼吸の障害となったり、後に健康を害するおそれがあります。さらにそのタンクを使用中に空気が渋いと感じたら、すくに潜降を中止して浮上しましょう。空気に臭いがある場合も、気分が悪くなったら直ちに潜水を中止しましょう。

ナイトロックスガスを使ううえでの注意と、良いナイトロックスガス販売業者の判別法
 ナイトロックスガスを使うときの最大活動可能深度(MOD=Maximum Operating Depth)の計算式を覚えるのが最も良いとも言われています。
 いくつかの「指導団体」では、この計算式を教えずにテーブルの使用方法のみを教える
そうですが、そうなると、このテーブルがないときにはMODがわからなくなります。その場合はこの式で計算してみてください。
※この数式は、ご自分の判断で、あくまで参考としてください。また必ず専門家に相談してください。
・MOD(m)=(PO2/FO2-1)X10(m),33(F)
※以下略

国内及び海外でのガス供給システム(空気をタンクに充填して供給するシステム)
 国内でのガス供給システムには3つの形態があります。
 1つめは、ダイビングサービスが自家充填する方法。2つめはダイビングサービスの同業者が充填してレンタルする方法。3つめは、エアーサプライ業者が充填してレンタルする方法。
 海外でも空気の供給システムは日本とほぼ同じと考えられています。ただ海外では空気の供給を規制する法律がないところが多く、ほとんどがダイビングサービスの自家充填と言われています。
 国内での供給体制などについては、また別の機会にご紹介したいと思います。
海外のタンク事惰
 一般に、日本的な意味で信頼できるような業者はまずないだろうという考えや意見もあります。
 海外ではほぼすべてがアルミタンクということなので、新しいタンクで、ネックから空気漏れのないものを選ぶことが必要です。例えば現地ガイドが先にBCとレギュレーターを装備している場合でおかしいタンクだった場合は、自分で新しいタンクに取り付け直すことが必要です。バルブのネックの空気漏れ(エア漏れ)は、単なる0リングの劣化か(これならOリングの交換ですむ〉、ネジ部のクラック(ひび割れ)か判別ができないためです。

榎本さんがファンダイバーや請習生を預かるインストラクターやガイドに対して、安全確保のために訴えたいこと
 それは「ダイバーは潜水を中止する勇気を持ってほしい」「国内はもちろん海外では特に、海況とかポイントの状況が自分の技量に合っていない場合には、他のダイバーが潜っていたとしてもダイビングを中止すべき」ということだそうです。
 榎本さんは、インストラクターが講習を行う場合で1度に2人以上を相手にする場合には必ずサポートをつけるべきと考えています。これは「たとえその費用を生徒に負担してもらってでもすべきこと」というお考えです。私もまったくそのとおりだと思います。
 また初めての講習生に使わせるマスクは、必ず本人の顔にブイットしたものを選び、マスクバンドは少しきつめに締める(鼻から水を吸い込ませないため)よう指導すべきとのことです(実際、きちんと教えられるインストラクターはあまりいないようです)。
 私が知るレベルでも、マスクの扱い技量の不足を起因として複数の死亡事故が起きています。「見簡単とも言える初歩的な技術がマスクに関するものですが、これを甘く見た場合に生じる危険性を忘れてはなりません。
 ガイドが取るべき態度としては、ゲストはできるだけ少人数にし、各自の技量を同じにして行うこと。そして潜水中にゲストを見失ったときに発見する可能性の高い方法として、周囲を探すことも大切だが、上方向(かなり高い割合で上にいることが多いとのことです。
しかし同時に下の海底も見てみましょう)を探すことも必要。それでも見つからない場合には、ゲストを全員浮上させてボートに戻してから、水面から泡を捜して不明ダイバーを捜索するのがいいのではないか。
 見失ったダイバーを探すためゲストを}緒に連れ回すと息が上がって浮上してしまうこともあり、二重遭難の原因ともなります。実際にこれが原因と思われる事故例もあり、かつて某所で2対2のマンツーマンシステムでダイビングを行っていたときに起きた死亡事故は、インストラクターが上にいたゲストを見失ってしまったことが原因ではないかとも
言われています。
 またどんな状況でも、ポイントに着いてダイビングを行う際には、ボートが無人となるような事態は避けたほうがいいでしょう。
 私は、ボートが無人のために起きた事故をいくつも知っています。また某県警では無人ボートでの事故が多いことからこういったことはやめるようにと何年にもわたって指導していますが、それでもそれに従わない業者が多く、結果的にそこで事故が起こることが多くなっているようです。

タンクの重さからの負担軽減はどうしたらなされるの
 現在のダイビングシステムにおいて、タンクの改善について語られることはあまり多くありません。タンクが話題になる時は、例えばかつて沖縄県で、無許可のタンク業者が摘発された事例であったり、裁判の判例集にも載っているように、タンクが破裂して死傷者が出た事件、数年前に沖縄県でタンクが破裂して充填所が破損した事故などの場合です。 その実用性について語るには、豊富な現場での経験が要求されると思います。
 ダイビング用の器材のモニターもしている、東京アクアラングサービスの島田誠一氏からのご意見を紹介します。皆さんのご意見はいかがでしょうか。

タンク軽量化の提案(本項文―東京アクアラングサービス 島田誠一
 何十年も前から変化しない現在のダイビングシステムについて、改善できるところを考えてみました。器材そのものは、今の空気タンクから変化がない場合、BCのエア調整部分とすべての器材の素材を耐久性とコスト、重さの観点からより適した新素材の適用が期待されますが、根本的な部分は大きく変化しないと思います。今の機械作成技術、ダイビングの市場、コストを考え、単純にダイビングがより安全に、より親しみやすくなるために必要なことは、私はタンクの小型軽量化、言い換えれば個人の状況に適したタンクを提供する体制を整えることだと思います。

その理由
●現在のタンクは10リットル、200気圧が主流であるが、タンクの自重が約12〜14キロと大変重く、波打ち際や水辺のスロープ、ボート上、平坦な場所でさえも歩行困難な状態が日常的に発生する。
●10リットル、200気圧のタンクを通常のダイビングに使用した場合、個人差は発生するが、小柄な女性、経験豊富なダイバーにおいては100気圧前後の残圧が残る。
●低年齢の体の小さいダイバー、小柄な女性が体験ダイビングを行なうことについて考えた場合、必要以上のタンク容積、重量は、体力の消耗、疲労、精神的ストレス、熱射病の原因になる可能性が考えられる。
 このような要素を考えた場合、ダイビングサービスのタンクに対する減価償却、運搬の手間、保管等においてのリスクを考えたうえでも、すべてのダイバーに同じサイズのタンクしか用意されていないことは、ダイビング全体に対するマイナス面と感じます。
 そこで通常10リットル、200気圧のタンク岡空気総量1気圧換算で2000リットルのタンクと小型タンクの総量を比較して、以下のタンクが用意されることに対してのメリットを考えてみます。

@8リットル200気圧:空気総量=1気圧換算で1600リットル=10リットル200気圧の0.8倍のタンク
A6リットル220気圧:空気総量=1気圧換算で1320リットル=10リットル200気圧の0.66倍のタンク

 小柄で空気消費の少ない女性ダイバーが、通常のダイビングで10リットル200気圧のタンク使用時に100気圧残るダイビング環境で@のタンクを使用した場合の残圧は75気圧、Aのタンクを使用した場合の残圧は53気圧となり、空気残量に問題がないことがわかります。
 このような小型タンクを身につけることによるメリットを考えてみましょう。
●身につけるタンクを含む器材すべての重量を軽くできる。
 タンクが小型になるほどダイバーは身軽になります。例えばタンクの重量がゼロになったとしたら、ダイバーはスーツの浮力を打ち消す程度のウェイトを付ければすむようにな
ります。つまりタンクの小型化は、結果的に全体の重量を減らすことになります。
 器材装着やエントリーポイントまでの道のり、ボートダイビングの揺れる船上での器材準備、エキジットや波打ち際で足場の悪い場所を歩くことを考えたとき、このメリットはケガの確率を減らし、体力の消耗を確実に減らすことができます。
●緊急時の安全率が高くなる。
 ダイビングにおけるリスクは、エア切れの時の緊急浮上、漂流等が最たるものだと思いますが、タンクが小型化されると、エア切れが起きた時にダイバーが自力でウェイトベルトを外して、緊急浮上するときにタンクの重さがダイバーの浮力を邪魔しないので、より浮上しやすくなります。長年使って浮力の減ったスーツで潜ると、スーツ自体の浮力が少ないために、ウェイトをかなり少なくできますが、それは言い換えればタンクの重さを自分のウェイトの代わりにしているのであって、深めの水深で周囲圧の高い環境で緊急浮上を試みた場合、スーツの生地にある無数の気泡がつぶれて浮力が足らないと、ウェイトを外しても体が浮かない可能性も出てきます。タンクを小型化し、足りない浮力をウェイトに加算すれば、緊急時の浮力は十分になるでしょう。浮上スピードが速くなり、今度は減圧症のリスクが増えてきますが、緊急浮上できなくて命がなくなるよりはいいと思います。
 救助する側のレスキューダイバーも遭難者に対処しやすくなり、負担が減ります。
 また、タンク小型化によりウェイトが増えると腰痛等の問題も出てきますが、背中のタンクとウェイトの総量自体は軽くなるので、体の負担は減ると思います。
 漂流についても、タンクが小さくなれば水の抵抗が減り、潮流に対するダイバーの身軽さはメリットになると思います。水面での行動力も増すでしょう。
 それではここで、タンク小型化のメリットを総合的に考えてみます。
・ダイバーの負担が減る(エアー消費の少ないダイバー)。
・ダイバーの安全率が上がる。
・ダイビングサービスの集客率が上がる(ダイバー人口の女性の比率を考えれば当然)。
・コンプレッサーを持つダイビングサービス側のエアーチャージの負担が減る。
・体験ダイビング、子供のダイバーに対応でき、インストラクター負担も減る。
・体験ダイビングからオープンウォーター講習への切り替えがスムーズになる。
・高齢者、小人への市場拡大につながる。
・エア消費の少ないダイバーがより楽になることにより、エア消費の多いダイバーへのスキルアップ提唱につながる。

 現在のダイビングサービスが100本のうち20本を小型タンクとした場合、減価償却はそう困難なこととは思われないのは間違いでしょうか? 現在の多数の女性やベテランダイバーが必要以上の負担を抱えたまま潜っていると考えるのは不自然でしょうか? 指導団体が低年齢のダイビングを認めているのに、対応を考えないのはなぜでしょう?
 小型タンクを導入し、世間にアピールすれば、ダイビングの活性化につながると私は考えているのです。

女性ダイバーが初めて語る、女性ダイバー専用情報
 女性ダイバーが増えています。しかしインストラクターの数はまだまだ男性が圧倒的に多いのが現状です。このような状況で女性がダイビングをする際にぜひ知っておきたい、あるいは知っておかなければならない、女性特有の問題があります。
 それらは男性インストラクターやスタッフには質問しにくいし、男性側も質問されても答えにくい問題です。女性の方も質問しにくいでしょう。特にインストラクターやスタッフが若い方の場合にはその傾向が強いように思えます。
 ここではそういった課題について、東京アクアラングサービスの女性スタッフのトモコさんが女性ダイバーの立場から、ご本人と、同ショップのゲストダイバーの美紀子さんからの情報も加えて、彼女たちの実体験に基づいたアドバイスをいただきます。この内容が女性ダイバーの方々の不安やストレスを少しでも和らげるための役に立つことを祈ります。

「女性ダイバーのために」(本項文:トモコ)
 海に目覚めて早8年、不器用な私は上手に潜れるようになるまでに、人一倍苦労しました。潜るたびにストレスからパニックになりかけた時期もあったし、バディに迷惑をかけたことも数知れず……。様々な失敗をしたし、怖い思いもしてきました。もちろん、今だって学ぶことだらけですが、数少ない経験からでも、何か参考になることがあればと思い、女性ダイバーとしての意見をまとめてみました。ただし、あくまで一個人ダイバーとしての体験ですから、参考程度にしていただきたいと思います。

生理前・生理中の注意
 女性ダイバーとして、まず配慮せざるをえないのは、やはり生理だと思います。
 別に病気というわけではないけれど、生理前や生理中は、肉体的にも精神的にも不調になりやすいし、運動能力も集中力も低下してしまいます。スポーツ医学的には、この時期、運動には向かないとされています。
 私自身この時期になると、何をやっても不調になります。大好きなダイビングさえ、億劫になることもあります。
「月経前緊張症」が重い人は、注意力の散漫や精神的不安定により思わぬトラブルを招き、事故へとつながってしまう可能性があると、自身もダイバーである女医さんも言っておられます。思い当たる人は、この時期はダイビングの計画を外すなど 安全に配慮して予定を立てたいですね・また、この時期は体がむくむ(血行障害)ので減圧症にかかりやすくなるとも言われています。深度や浮上スピードに、普段以上に配慮すると良いと思います。
 もっとも、生理自体は、ダイビングをしてはいけない理由ではありません。それほど精神体調の変化がなく、腹痛も問題ない人でしたら、いつもと同じように潜ることができます。と言っても・出るものは止まってはくれないので、きちんとした対応は必要になります。
 昨今、その便利さから、タンポンを使用する人は多いと思います。ところが、不適切な使用により、子宮内膜脳症などの病気が増加しているとも言えます。私の経験では、ウェットスーツでタンポンを使用し、ダイビングを終えてそれを処理するときに、海水でふやけてしまったようで、なかなか出てこない!ということがありました。これはかなり焦った出来事でした(なんとか出せましたが)。また、ダイバーである看護師の美紀子さんの情報によると、このように海水がしみ込んだタンポンは、結果、肝心の経血が吸収されず、体内に残るということもありえるとのこと。出るべきものが体内に居残ってしまうというのは、やはりあまり良くないことだと思うので、生理中はドライスーツを着用して、しっかりナプキンを当てるというのがいいのかなと思います。実際、仕事で潜る女性ダイバーは、体を冷やさないこともあり、季節を問わず、ドライスーツを愛用している方が多いようです。
 また、生理中の入浴時、湯に浸かっている時は経血が出ず、浴槽から出た途端に大量に……ということは経験したことがあると思いますが、水中にいるときは、水圧で密封(?)
されるため、経血は体内に留まっており、圧力がなくなると、一気に体内から出てきます。ダイビング中でも同じで、恥ずかしい思いをしないためにも、エキジットしたら(こっそり)すぐにトイレに行き、迅速に処理をしたほうが良いかもしれません。
 インストラクターには男性が多いので、こういったことはなかなか言えないし相談もできないことです。それに、無理解から、強引に潜らされたり、安易にタンポンの使用を薦められることもありえます。生理の周期や状態など、自分の体のことをきちんと知り、大事な体を傷つけることなく、ダイビングを楽しんでいきたいですね。

冷え対策
 女性で「冷え性です」という人は多いと思います。私も非常に冷え体質で、冬になると、手足が暖かくなることがほとんどないくらい氷のように冷え切った女となってしまいます。
 冷え性は、減圧症にかかりやすいと言います。冷えの原因は血行不良にあるので、言われてみれば、なるほどそうかもと思いますね(ところで、私は看護師が青ざめるほどの低血圧でもあります。血液循環が悪いわけだから、やはり減圧症にかかりやすいそうです。私の体は、なんとダイビングに向いていないのでしょう!)。
 ダイビングでの冷えの対策は、自分がいかに水中で暖かく快適に過ごせるか!という状態を作ることです。まずはスーツにこだわる、これですね。昨今のスーツの生地は、保温性、援水性を備えたものや、裏地が起毛保温素材など、驚くほど機能が充実したものがあります。自分のサイズに合ったものを着用し(これはとっても重要)、専用のインナーを着れば、快適さアップ!それでも寒い時には、やはりババシャツなる暖かい下着が重宝します。最近は薄い素材でおしゃれなものも出ているので、上下ともに愛用しています。
ウェイトがプラスになることもないので快適です。
 そして、さらに装備すると便利なものが、グローブやフードなどの小物アイテム。ウインターグローブなどの厚手のものを使うと、その保温性の良さには心底驚きます。薄い3シーズン用でがんばっている人、ぜひ試してみてください。手が凍えてしまっていると、BCなどのとっさの操作ができなくなり安全性にも影響がでてきます。ところでエキジット後に器材を洗うときは、身につけている器材から逃げる気化熱を考えて、スーツを脱いでボートコートを着用するなどすれば、北風の寒さに凍えることもありません。
 ところで私は、日常生活にも影響が出るほどの冷え性なので、いっそのこと体質から改善しようと、最近、食事にも気を配るようにしています。肉、魚、野菜、そして果物などをバランス良くとれるように献立を考え、良い食材を選び、外食や惣菜の購入を避けてなるべく手作りをし、体を冷やす緑茶ではなく暖めるという紅茶を飲み、砂糖を大量に使う甘いものを控えるなどしています。とはいえ、仕事などで時間がとれず食事を作ることができなかったり、疲れたときにはやはりチョコレートに手が伸びたり……ということも。それでも、体が疲れにくくなったというのは感じています。強力な冷え体質の改善は、まだ時間がかかりそうですが、基本である体が元気になることによって、寒さには強くなっているようです。
 もうーつ、冷え性の改善に、筋肉をつけようと、ウォーキングやジョギング、それにストレッチもしています。
 ええ?ここまでする必要があるの?と思われるかもしれませんが、私にとっては、ここまでするほどに、海が大好きなのです。ちょっと気分が滅入っていても、水中世界に入り、一生懸命生きている生物たちを見て来ると、何もなかったように元気になります。潜るたびに違う顔を見せてくれる水中世界は、人間には極めるということはとてもできない世界。広大な地球の海の、ほんの少しの表層しかダイビングでは潜ることができませんが、その世界は、圧倒される神秘に満ちています。けれども、厳しい環境でもある世界なので、訪れる以上、自分自身をきちんとしておこうと思うのです。
 以上、「冷え」について述べてきましたが、「寒さ」対策も同様ですね。
 楽しいはずのダイビング。我慢や辛い思いをしても意味がないですし、快適さから離れた場合は安全性も低下してしまうかもしれません。様々な海を知っているプロのダイバーに、きちんとアドバイスを受けるのが得策だと思います。

日焼けについて
 海や湖など、地球の自然と付き合うスポーツであるダイビングに日焼けはつきもの。
 ダイビングの合間に、日向で焼いている人を見かけますが、特に一生懸命焼かなくても、ダイビングツアーから帰って来ると、顔が赤く火照っています。
 海に行くと、気持ち的に日焼けしたくなりますが、仕事で毎日潜るプロダイバーと違い、時々潜りに行くダイバーは、やはり油断は禁物です。
 日焼けは、「日光性皮膚炎」という皮膚疾患。紫外線を無防備に浴びることは、シワやシミのトラブルを招くだけでなく、「光線過敏症皮膚炎」や「日光じんましん」などのアレルギー性の皮膚炎にかかりやすくなるそうです。
 私は、ちょっとそこまで買い物に出ても、外で洗濯物を干すという短時間でもほんのり色づいてしまうほど、紫外線に弱い皮膚をしています。
 けれども、広い海、それも南国の海に潜りに行くと、開放的な気分からつい油断をしてしまう懲りない私。先日もフィリピンに行き、クルーズでダイビング三昧な数日を過ごしたのですが、曇りがちだった天気もあって、つい油断し、無防備なまま船のデッキでのんびり。やばいと思った時には遅く、ツアー2日目にして別人のように顔が赤くパンパンに腫れ上がり、マスクが合わず、つけているのも痛い状態に。一緒に行った人たちは、遠慮して何も言わないでいてくれましたが、化け物のようになった私のことを、きっと、笑いたかったと思います……(自分でも鏡を見るのが怖かったくらいでしたから)。旅行の間じゅう、ビニールに氷を入れて顔に当てて冷やし続けましたが、腫れが引くのに1週間以上かかり、その後皮膚の皮がボロボロに剥け、赤みが治まるまでにはさらに3週間。そしてシミ、ソバカスが驚くほど増殖……。もし、天気が良く太陽が燦燦と輝いていたら、どうなっていたかと恐ろしくなります。
 特に日焼けがひどくてスーツの脱ぎ着が辛かった両腕は、赤くまだらになり、湿疹が発生。数ヶ月経つ今でも、皮膚の色が元どおりにならず、シミ、ホクロが驚くほど増えました。顔のように、冷やさなかった影響もあるのでしょうか。
 紫外線対策としては、直射日光に長時間当たらない環境を作りだすのが一番です。
 器材のセッティングを日陰でする、南の海でも帽子や長袖の上着を着用する、器材の準備を完壁にしてエントリーはすばやく行う等、簡単な工夫で肌へのダメージは少なくなります。
 だけど、ダイビングはアウトドアスポーツですから、日常生活程度の紫外線はどうしても浴びてしまうもの。ほんのり赤く色づく程度の日焼けはアフターケアで乗り切りましょう。安全性の向上と同じく、日焼けについては少しの配慮と気遣いで大きな違いが出てきます。
 熱帯魚や珊瑚がカラフルな色をしているのは、色素によって紫外線から身を守るためだといいますが、私たちも、ビタミンを多く含む緑黄色野菜などを普段からたくさんとり、紫外線に負けない体を内側から作るように心がけるのも良いかもしれませんね。


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