第4章 シニアダイバーのための情報バンク

著者 中田 誠
編集 村上 清
発行人 落合美紗
発行所 株式会社太田出版
代表 Tel.03-3359-6262 
http://www.ohtabooks.com/

ISBN978-4-7783-1115-5
(c)Nakada Makoto,2008
本書の無断転載・複製を禁じます。

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若者ダイバーも必見、シニア世代のメリットとリスク

増えるリスク
 シニア(中高年?)になると、避け得ない、加齢によるリスクが生じてきます。特にダイビングに影響するものとして考えられることは、例えばとっさの判断力や集中力が衰えてくることのリスク、血管に柔軟性がなくなっていくことでのリスク、筋力が落ちてくることでのリスク、体脂肪が増えてくることでのリスクなどです。
 水中では体に強い圧力がかかります。わずか10mの潜水で、体にかかってくる圧力は陸上の2倍となります。これは特に高血圧の方には高いリスクとなる可能性があります。
 筆者がダイバーを対象に行った、ダイビング中の血圧の変化の調査では、年齢層が高いグループほど大きな変化がありました。これはつまり、不意に血管に急に強い圧力がかかる状態が見られたということです。これは説明するまでもなく、高いリスクとなり得ます そしてこの変化が大きかったのは、水面時、つまり水に入るとき、そして浮上して水面に出たときでした。大きな圧力が継続的にかかってきている水中ではなかったのです。実は一定の水深の水中での活動では安定していたのです。
 つまり、急激に圧力が変化する、環境の激変域である水面付近において高いリスクが見られたのです。
 シニアダイバーの事故内容を見ると、確かに水面で高いリスクがある傾向が見られました。この体にかかる強い圧力の変化について考えると、水中でのヨーヨー潜水(のこぎり
型の潜水)などのリスクもより強いことが示唆されます。
 シニア層のダイバーは、自分は大丈夫と思っていても、体が言うことを聞いてくれない時代に入っていることを謙虚に受け止めて、緩やかなダイビングを行うように心がけることをお勧めします。そして、シニアの講習生やダイバーに対して、若者と同じような講習やガイドを行うインストラクターは、シニアダイバーのリスクを知らないか、あるいはそれを無視しているとも考えられることから、少なくとも安全に関わる能力に未熟な、あるいは欠陥があると見たほうがいいと思います。
 筋力が落ちてくることのリスクは、器材の重量の受け止めやコントロールに支障が出てくることにつながります。それはエントリーやエキジット時のケガのリスクを高めます。つまり波に翻弄されてバランスを崩して転んで骨折を含む怪我をしたり(実際に事例が見
られます)、あるいは腰痛の原因などとなります。そして筋力不足は、ダイバーの疲労を
蓄積します。それはその後のダイビングでの減圧症を含めたリスクを高めます。
 シニアになると体脂肪が蓄積していくという状況は、いわゆるメタポリックシンドロームを代表とする諸問題が語られているという状況からも多くの人々にとって身近な問題と言えるでしょう。体脂肪の蓄積は窒素が蓄積しやすくなる事態をもたらし、それは減圧症のリスクを高めていきます。
 以上から、シニア層のダイバーは、講習で習うリスクは、自分たちにとってより深刻なものだという認識を持って、安全のマージンを高くとってダイビングを行いましょう。

シニアダイバーに必要なこと
 シニアダイバーに必要なことは、まず体力を整え、精神を安定させることです。つまり自分自身のメンテナンスです。そして人を見る目という人生の経験値を整理しておくことです。またさまざまな事情によって感情、気分の起伏の激しい傾向が見られる方は、まずそれを安定させることを優先して、そうなるまでダイビングを行わないという選択肢を真剣に考えてください。
 そして多くの場合、ダイビングは体力もいらず、誰でも簡単にできるという宣伝がなされていますが、それをあまり鵜呑みにしないように注意しましょう。
 例えばシニアのダイバーが水面で波に翻弄された場合、サポートなしで、自力でダイビングボートなり浜辺に戻らねばならない時があります。その時は、重い器材を装着した状況で、波に翻弄されながらボートまで引き返して船上によじ登らねばなりません。ダイビング専用ボートでプラットフォームがあっても、ポートにサポートメンバーがいなかったり、あるいは彼らが別な方向を見ながら音楽でも聴いて気がつかなかったら、結局自分1人でしか対処できません。その他には、自力でビーチまで泳がなければならないこともあります。最低でも、これだけのことで自分をコントロールできる程度の体力は必要なのです。なければ確実なサポートをお願いしたり(プラチナダイビングの実行)、信頼できるダイバー同士との協力体制が必要です。これはつまり、安全計画が充実した、シニアダイバー向けの潜水計画の立案と実行の必要性を物語っているのです。
 次に必要なのは精神力です。それは精神の安定性のことです。
 水中ではすぐに不安で心がいっぱいにもなります。そうするとささいなことが引き金となってパニックになります。パニックは、溺死・心筋梗塞・脳梗塞・肺の破裂、そして重度のH型減圧症などへのリスクを、若い時より高いレベルで呼び込みます。
 ダイビング中は、陸上では何ともないことでパニックになることをあらかじめ予想して覚悟し、そうなった時に自分はどう行動すべきかを、陸上にいるときから十分に思考訓練(頭の中でそのシーンを予想して、どうすれば助かるかをイメージで練習しておくこと)を常に行い、そしていざパニックになった時に、その練ったイメージを体が自動的に行うことができるように、回避や退避行動の仕方を身に染み込ませておきましょう。それと、体調や海況などが悪いときには、踏躇なくダイビングを中止する勇気を準備しましょう。その時にダイビングをする機会や多少のお金を失っても、命と健康さえ失わなければ、次の機会はきっとまた訪れます。もし周りから意気地なしなどというような嘲笑を浴びせられても、死んでしまったり、一生続く後遺障害に苦しむよりはずっと勇気ある行為です。
 次に、相手の人物を見る目を自分の人生経験の中から呼び起こしましょう。
 これは自分にダイビングを教えるインストラクターの技術のレベルを見るだけでなく、その人間がそれを行ううえで十分な経験と知識、そして意識を持っているかを見る必要があるからです。

人が管理するリスクと人を育てる度量
 遊びのプロ、バイトのプロ、プロと思っているだけのプロに対したシニア側のリスクとは、彼らによるシニア層の身体の生理への無理解や、人命を預かる仕事への覚悟不足、あるいは潜水技量そのものの欠陥です。
 その"プロ"が明るく親切で楽しく良い人でも、ダイビングの客となる場合には、プロの条件を満たしていない人とは極力関わらなくすべきです。ダイビングのプロにおける評価では、明るく親切で楽しい良い人という評価は、客の安全を確保できた後に位置する、二次的条件にすぎません。このような良い人に振り回されてリスクを背負いこむ危険は無視できません。
 シニアの方々が人生の先輩として、若く見込みがありそうな人をリスクを承知で贔屓して育てようと考えた場合には、その若い人が、何よりまず安全のために準備や勉強をかかさない人、そして常に慎重な行動を忘れない人、さらにトラブル発生時に客を扱える体力と冷静沈着な行動ができる人、そして安全のためには、嫌われたり軽蔑されたりすることを受け入れる器量を持つ人であるかどうかを見ましょう。こうして発掘した若者が、やがて一人前になってみなさんのガイドをするとき、それは至福の時となることでしょう。
 ダイビングのプロの素質は、決して"人気者"の素質と同一ではありません。
 ダイビングは、準備や対応を誤ると、そして混乱や思考停止によって踏躇してしまうと、直ちに死に直面する危険なスポーツに豹変するものだということを、シニアダイバーの方々は骨の髄まで自覚したうえで楽しんでください。そしてそのためにこそ優秀なプロを選ぶのだ、あるいはリスクを承知で有望な若者を育てるのだ、と考えてください。その慎重さの向こう側にこそ、水中世界の楽しい体験が待っていることでしょう。

シニア世代ダイバーの世界、アラカルト
 シニア層のダイバーの方々に高い信頼を得ているプロインストラクターの方々とお話から、シニアダイバーに実情について少しまとめてみます。
@シニアダイバーにはどういう人が多いか
 年齢的に中心となるのは50歳代後半(55歳から)からが多いとのことです。上は70から78歳までだそうです。シニアダイバーグルーブでは、若い人と言えるのは40歳代のダイバーとなります。
 シニアダイバーの男女比は、お話を伺ったプロの方々によると、3対10だそうです。これは地域特性やショップの性格などによって異なることもあると思いますので、あくまでも今回の原稿を書くにあたって得た限られた事例の範囲からの平均だと思ってください。 どうして男性が少ないのかを考えると、50歳から60歳の年代の男性は、働いているかゴルフをやっているからだろうということです。
 また男性は年齢を重ねると、新しいことをしなくなっていく方が少なくないのではないかとも考えられます。つまり加齢と共に、これまで培ってきた得意分野でしか活動をしなくなっていくのではと考えられるのです。この、新しいことに挑戦しないという傾向の背景には、今更新しいことをして、年下に頭を下げることをよしとしない方々も少なくないからではないかとも考えられています。
Aシニア男性ダイバー
 シニアの男性ダイバーは、少ないとはいえ一定数確実にいます。その彼らを観察するといくつかの傾向が見られます。
 シニア男性が入るところはショップ内のクラブだったり、独自で自分たちがプロデュースするクラブだったりします。10人程度の規模が多いようです。これはクラブの規模が10人を超えていくと、同好の士の集まりというより、小社会の傾向が出てくることから、それを好まない人もいるからだとも考えられます。
 またシニア男性ダイバーには、カメラとビデオに夢中になる人が少なくありません。以下の内容はカメラについてですが、ビデオについても同じと考えてください。
 ダイビングでは、若い人たちは、体力があってある程度無理も利き、楽しさも若い人なりの爆発的なものもあるようですが、一般に若いダイバーは経済的にダイビング器材を揃えるのに精一杯の傾向にあります。そしてシニアになって初めて経済的な余裕が出来てくるとも言えます。すると体力的な楽しみはそうは望めないシニアダイバーは、カメラをやらないと手持ち無沙汰に感じてしまう時があるそうです。それが水中カメラ道が始まっていく一つの要因であるようです。
 水中カメラに凝る男性は、そのこだわりを深く探求していく傾向があります。特に最近はネットで調べられるので、まずカメラ機材の知識が先行するきらいがあるようです。そしてそれを受け入れるショップ側は、良心的なところほど、その方の潜水と撮影の技術力に応じたカメラを説明するように心がけているようです。
 水中カメラの場合には、そのハウジングの手入れが大変だと言われています。さらに一眼レフのデジカメを水中で使おうとする場合にはハウジングが高額かつ非常に重くなってきます。そうなると体力を使います。ただしそれは時に体を鍛えるという動機になるようです。
 一般のコンパクトデジカメですが、これもまたいろいろあります。しかしデジカメは技術の進歩が早いので、この本が出る頃は随分と状況が違っているかもしれません。したがって次の話はそれを踏まえたうえで読んでください。
 O社で、以前Tという人気者がCMをしていた潜水モードの付いているカメラですが、これはプロやハイアマチュアダイバーの間では、液晶が痛みやすいという評価がありました。
カメラを保護する良いハウジングを作っているメーカーはと言うと、本書執筆時点では、C&Cのハウジングが強くて水没しないという評判です。良いと言われているハウジングのOEM元はほとんどC&Cのものだということです。0社はC&Cに比較すればハウジングが弱いという話でした。もっとも私はここ2年ほど海水浴をする時のカメラとしてO社のデジカメを使っていました。それは水も漏れず、それなりにしっかりと写るので、そういったスナップ的な使い方で問題なく愛用できました。
 この0社のデジカメを持ってワイキキビーチで海にプカプカ浮かんだ後、ビーチのシャワーで体と一緒にこれを洗っていると(塩分を落とさなければならない)、白人のおっちゃんが驚いたような顔で「OH! Is it a waterproof?」(おお、それって防水なの?)と話しかけてきました。私が「Yes!」と笑顔で言うと感心したような顔をしていましたが、今度は別の白人の男性が私と同じようにカメラを洗い出し、それを見た件の男性はまたもや「Is yours a waterproof?」(あなたのは防水?)と聞いていました。こう聞かれた白人男性は得意げにそのカメラを示して説明していましたが、それも0社のコンパクトデジカメでした。
 このエピソードを見ても、ダイビングに使うのでなければ0社のコンパクトデジカメは良い製品だと思います。少なくともビーチで少し良い気分になるにはいいと思います。
 このように、デジカメはそれぞれの製品特徴で、何を求めるかを割り切って考える必要があるようです。しかもデジカメは本体だけ良いものにしても、写す対象と写したい作品との兼ね合わせを考えて割り切る部分も必要となります。そうすると、レンズもカメラ本体との組み合わせも考える必要があります。またカメラだけ良いのを求めても、プリントがいいものではなければせっかくの写真も台無しです。ならば写真屋さんに出してプリントしてもらうことも考えましょう。こういったことも踏まえてカメラの機種を選択することが必要だと思います。
 最近は一般のカメラ雑誌でも、水中写真の投稿がコンテストで入選することも多く、さらにダイビング雑誌やダイビング器材の大会などでのコンテストも多くなっているようです。水中写真には大きな可能性や楽しみがあります。しかしこれだけは忘れないでください。自分が水中での写真撮影に気を取られて事故に遭ったり、バディを見失ったり、プロの側は客のダイバーを見失ったりして事故に遭うのを防げなかったという事例があことを。
 写真で捉えられるものは、感動と楽しみと満足感ですが、それらは自分やバディや客の命や安全よりは少し下に置いてください。
 最後に、撮影に夢中になって忘れてしまいがちなことを列記します。参考にしてください。
(A)カメラの取扱いに集中してしまい、空気の残圧を調べてない。
(B)コンピューターの警告音がなっても聞こえないか、聞こえてもすぐ忘れる。
(C)バディに対する目を忘れる。
Bカメラ以外のシニアのダイビングの楽しみ方
 次に"つんつん棒"(指示棒)を紹介しましょう。この棒を使うと、海底のどこにどんな生物が隠れているのかをバディなどに教えることが容易になります。そのため結構これを気に入っている方々がいるようです。
C水を嫌いな人が行っているダイビング
 水を嫌いな人は、どんな理由でダイビングをするのでしょうか。そしてそういった人たちにはどんなリスクが考えられるのでしょうか。
 以前、孫に「おばあちゃん泳げるの?」と聞かれて、孫に自慢したいがために、「泳げなくてもできる」という宣伝に乗ってショップにやって来て講習を申し込む方がいたとのことです。しかしやはりもともとが水嫌いなので、実際の講習はできなかったとのことです。
 年齢層が上がるほど永中環境への順応性に時間がかかるのはやむをえないことです。シニアになってダイビングを始めようと思ったら、泳げない方は安易に広告に左右されず、まずはプールに行ってウォーキングから始めるというようなところから始めると良いのではないでしょうか。
 ところでシニア層は(若い層にもありますが)、オーバーウェイトになりがちな傾向があるようです。もがきながら潜水を行って、時には水深2m程度のところでジタバタすることにもなり得ます。
 またプールで泳げる人でも海は怖いという気持ちを持つ方がいます。このような方は、まず磯遊びから始めるようにするのがいいのではないでしょうか。
 あるシニアダイバーは、潜水歴が100本になっても、Cカードを取らずに体験ダイバーとして楽しんでいます。この方は、手取り足取り手伝ってもらえる体験ダイビングの方がいいからだとして、深い水深を望まず、多少の金銭が余分にかかっても楽しむことを優先したいとしていました。このスタイルが自分の目的に合うのであれば良い考えではないでしょうか。
Dシニアダイバーのちょっとした安全の確保と、環境保護のために一流のプロダイバーが心がけていること。
(A)つんつん棒(指示棒)の使い方の指示nこれをむやみに使うと珊瑚を傷めることがあります。またダイビング中に体からつるしておくと何かに引っかかるときがあるので、ガイドや場所によってはそれを使わせないときがあります。シニアにかかわらずすべてのダイバーは、事前につんつん棒をどう使ったらいいか、あるいは使ってもいのかを確認しておきましょう。
(B)生物を手で触らせない"「かわいい」と思って思わず触ってしまうことがありますが、決してそれはしないでください。テレビ番組などでダイバーが海洋生物などを触っているシーンがありますが、あれは経験豊かなプロが海洋生物への負荷が少なくなるような知識を背景に行っている(そうしていないプロダイバーは環境の敵です)のです。
(C)水中で人を呼ぶ時にタンクをたたかせる"なんとか伝えたい人に追いついていこうと無理をするとトラブルの元になることもあるからだそうです。
(D)器材の携帯に伴う危険の回避を手伝う"カメラやビデオなどを携帯する場所(体のどこに携帯するのか、あるいは手に持つのかなど)に気をつけないと、例えば転んだときに器材の一部が体に刺さってしまったりします。ダイビングの時に手に物を持っている場合、これはストレスの原因になります。そしてこれはその人の感覚や精神状態を変える場合があります。例えばそれが高価な器材だったら、「これを落としたらどうしよう」などと考えてもしまいます。これは小さなストレスを大きくしてしまう原因ともなり得ます。
安全に配慮が行き届いたプロダイバーがこのような不安な状況を感じた場合には、客のダイバーが潜るときには自分が水中まで運んで、そのダイバーが水中で安定してからそれを手渡し、上がるときには預かって浮上する、ということまで気遣ってくれます。プロ側にとってもこれで事故が予防できるのであれば、感謝もされますので一石二鳥のサービスとなっています。
Eダイビングがうまくなる"魔法召とは
 このやり方がいいかどうかは言い切れませんが、ダイバーの成長を早めるためには、体力的な問題の解決と、ダイビングの楽しみ方という課題があります。
 ダイビングの経験は"本数"というものがーつの尺度となりますが、50本という本数を「区切り」として、100本というのを「希望」とすると、それが一種の魔法として使えることがわかってきています(平均的な場合です)。「さあ50本です」、「100本です」という時になると、それを機会にマスククリアがうまくなってきたりするようです。
Fシニアダイバーの傾向
 まず潜行しにくくなります。オーバーウェイトの状況にならないように気をつけましょう。潜水技量の習得には、ある程度泳げる人でも若い人の倍の時間がかかるようです。
 ちゃんと必要なことを理解して実行できるようになるにも時間がかかるようです。更年期障害に入った方(女性ばかりではなく男性も)は精神的な状態が変わりやすいので困る時があるそうです。自分のコントロールができるかどうかがダイビングをするかどうかを決めるきっかけとなりそうですね。
 体力は見た目より衰えているのに、若者の時と同じように体を動かそうとする方も困るそうです。そのような方が実際にダイビングをしてみると基礎体力の低下が影響します。 他に脚力や背筋力の衰えからエキジットの時にうまく立てなかったり、フィンを脱げなかったり、履けなかったりすることがあるようです。
 ダイビングを教わる側の問題として、シニアになると多くの場合、精神的に柔軟性がなくなり、そのため習得が遅くなる傾向があるようです。そしてダイビングの終了後の疲れ方がひどくなり、これが自分はダイビング向いていないのでないかと考えてしまう原因となります。最初から体力が落ちていることを自覚しておくことが必要でしょう。
G障害者向けのダイビングについて改普が求められる、マスコミが書かない部分
 まず一般的に、障害者向けの環境が整っていない現状があります(このことは改善されなければなりません)。具体的には、Aというポイントでは、ビーチから車椅子のままスロープに入れるようになっていますが、しかし本書執筆時点では、トイレのドアが狭くて車椅子のままでは入れないという状況にあるようです。
 一方では、車椅子用のクレーンなどを用意しているポイントもあるようですが。
 そしてこれは時折聞くことにすぎませんが、障害者ダイビングでサポートにあたるインストラクターの品質が、必ずしも全員が良い訳ではない、という話があります。本当は、このような情報はしっかりと開示して、リスクがあれば改善に努めるべきと考えるのですが、いかがでしょうか。
Hシニア層への講習のツボ
 シニア層の講習生の中には、過去の何らかの成功体験を根拠に自信過剰となる人がおり、プロの方は、そういった方の場合にはまずやりたいようにやらせて、やがて思ったようにいかないことがわかってからちゃんと講習を行うようにしているとのことです。この方法ができるには、プロの側にしっかりとしたサポート能力がある場合に限られますが。
 こういったことを踏まえて現在の講習のやり方を考えるプロは、今のやり方ではしっかりとコミュニケーションがとれないだろうと言っていました。
 まず、ショップが教材を渡してから、講習生に「自宅でやってきて」と言うのはダメだそうです。
 講習生が事前学習(予習)や復習をしてくることは大切なのですが、本来の意味の学科講習を自宅でやってくるようにという意味合いのことは相当にまずいようです。事前学習は対面式の学科講習の理解のスピードを加速しますが、それは決して対面式の学科講習に替わるものではありません。
 特に今後の高年齢社会を考えると、学科の講習にあたっても、シニア層向けのプログラムや実施マニュアルの開発が必要でしょう。
J海外で認定を受けたダイバーに関して
 海外でのダイビング講習の受講は、良いものを受ける機会もあるでしょうが、その反面、安くて早く、楽しみながらダイバーなれる、という誘い文句のビジネスによって基礎的な技量の習得を省略され、それがダイビング技量の習得の度合いを阻害することにもなりかねない事態も招いています。
 海外でCカードを得る時のリスクを考えてみましょう。まず基本的にアフターサポートはありません。これが手抜き講習が横行する原因となる場合が少なくありません。
 あるプロダイバーは、「3年前にハワイでCカードを取ったという人が「残圧って何ですかつ.どこを見るのですか?」と聞いてきたことがあり、それは恐ろしかった」と語っていました。
 海外でダイバーになった人たちに向けて必要なことは何でしょうか。
 それはスキルチェックとスキルアップのための「駆け込み寺みたいなところ」というのが、そのようなダイバーのサポートをした経験が多いプロの意見でした。
 なおこのプロの方によると、その方のスキルアップコースを受ける方の約m%が海外で講習を受けた方だったそうです。そういった方々の不足部分は次のようなものだそうです。
「エア切れのとき、自力で浮上するための緊急浮上のスキルがない。またはそれを一応はやったかもしれないが形だけだったと思われる。そう見た理由は、緊急浮上のときに彼らはウェイトを外さないから」
 そのプロの方は、「その程度でCカードを持っているんです」と語っていました。これは、このような重要なスキルを習得もさせることを手抜きしていても、無差別にCカードが発行されている実態を示しています。

困ったシニアダイバーとは
 シニアダイバーは、体力は若いダイバーに劣っていても、精神的により成熟していると言える傾向にはありますが、そこは同じ人間なのでいろいろな方がいます。
 シニアダイバーに多い、プロの方々の経験による困った傾向のパターンを紹介します。
@困った傾向一覧
●自信過剰の人:ダイビングはそんなに甘くはありません。
●自分の世界に入りすぎる人:バディシステムに崩壊をもたらしたり、ガイドダイビングでのガイドの指示に従えないことでリスクをパーティ全体にばらまく可能性がある。
●バディシステムそのものへの不適応(バディの質以前の問題):このような方は1対1のガイドダイビングをリクエストしてください。講習を受ける際も同じです。
●陸上では強いことをいくらでも言う:内弁慶ならぬ陸弁慶ですね。
●自分の強い言葉や態度で他の人を萎縮させる人:実はこれがその人のストレスの解消法だったりするので、ただただ迷惑です。
●自分がリーダーになりたくてしようがない人:このような人が結局は周りに一番迷惑をかけます。一般社会で自分が適切に評価されていないと感じる人や自信過剰となっている人に、一般社会と別個のダイビングの社会で、リーダーとしての自分探しをしたりされると困ります。同じく、どこでも中心になりたい人には注意が必要です。
●空回りする人:陸上での対応や漫才のような言動は周りも面白いかもしれませんが、ダイビングではこれはリスク要因です。陸上で面白くて話題の中心になったりする人でも、ダイビング中に潜水時の適性に合った人になるように自己コントロールができない人は、時に危険です。
●何でも自分のいいように理解して周りのリスクを全然見ない人:これは大変です。"何でも前向き病"の人に多い傾向が見られます。ダイビングではこのようなことは危険です。
●「どこどこで俺はアドバンスコースを3万円で受けてきた。俺はアドバンスなんだ」など聞こえよがしに言いふらす人"自分は別のショップのコースでお得な安いコースを見つけてきたんだからすごいんだと語って、そのショップに対して心理的に優位に立とうとしたり、それによって得た資格の名称を自慢して、それなりの尊敬をもって接してほしいという欲求が強すぎる人です。ファンダイビングには他のオープンウォーターの人も来るので迷惑千万です。
●責任を持てないにもかかわらず、勝手なことを平気で言う人日こういうタイプには、いざとなれば誰かに尻拭いさせることを意識的に、あるいは無意識的に行う人がいます。ダイビングではこれは二重遭難の可能性もまき散らすことになるので非常に危険です。
●器材について十分ではない知識でもそれを振りかざして、何とか他の人より優位に立ちたいという欲望に勝てない人。
●プロとアマチュアのレベルの違いがわからない人:実際にそれまで低レベルのインストラクターしか見ていないと(これは良いショップや良いインストラクターを探すことの重要さを軽視しているタイプのダイバーに多い)、現在のダイビングビジネスの状況では、そう思われても仕方がない部分があることだけは事実です。これの典型例が、上級プロやハイアマチュアダイバーがダイビングポイントでよく見かける「チャランポランのインストラクター」や「くわえタバコで講習を行うインストラクター」です。
●何の責任も持たない人:ダイビングでは、何でも関係なくはないです。
●器材はバーゲンでも平気だよとか言う人:そう言うわりには、器材や潜水医学に関する知見のレベルが低すぎる人は困ります。バーゲン品のメリットとそれによって生じるリスクのバランスをどう取るのかがわからないで言う人もいます。結局これも何らかの尊敬を勝ち取りたいがための自己満足追求型が多いようです。
●何でも最初から友達感覚が強すぎる人:消費者側も立場はわきまえましょう。度が過ぎないように。度が過ぎるとしらけます。
A感惰・気分が落ち込みやすい方へのアドバイス
 最近、特にシニア層の方々に、気分が落ち込みがちな方が多くなっていると聞きます。またそれに本人が気づかない時もあると聞きます。
 自分でこういった状況に思い当たったら、ダイビングをする前に一度専門家に相談してみることをお勧めします。
 また、落ち込んだままの方だけでなく、気分が高揚したり落ち込んだりと、その振幅が普段の時よりも大きくなっている方もいますので、慎重に自分自身の状態を観察してください。
 例えばそういった方は、ダイビングショップに来ても、あるいは講習中でも、周りになじめなかったりする時があるようです。しかしただ単に、自分にとって過剰と思われるコミュニケーションを取ることを好んでいなかったり、あるいは無口なだけの人、まじめにしている時は怖い顔に見えるだけの人もいるので、周りの方々は安易な偏見を持たないようにしてください。
 また気分の振幅の大きな方には、講習やファンダイビングの申し込み手続はしても、その後来なくなってしまう方がいるようです。これは調子がいい時にやる気満々でも、いざダイビング当日になると気分がひどく落ち込み、それをやる気がなくなっているという場合があるようなのです。例えば気分の上下が1日で変化する方の場合には、ショップに来た時は気分上々ですが、やがてその楽しいリズムが時間の経過と共に変化し、海に行く頃には落ち込んだ状態となる場合もあります。万が一の事故の確率を少しでも減らすためにも、自分の気分の変化のパターンをよく知っておきましょう。
 一流のプロは、お客さんが気分の変化の大きい方だと気づくと、自然にその方にあった対処をします。
 また一流のプロは、そのような人には決して無理に潜らせません。無理に一般のダイバーと同じような、つまり通常のストレスがかかるダイビングをさせると、その方の気持ちを迫いこむことにもなりかねないからです。こういう時は、他のダイバーに対して「ちょっと待ってて」などと言って、ストレスが少ない浅い所での1対1のガイドダイビングを行ったりします。もし今後、自分たちがツアーに行ってこういった光景を見ることになった方々は、それはその人への過剰なサービスなどとは思わずに受け入れてください。それにガイド側がその方のダイビングの技量を事前に確認しておこうと、チェック目的でのダイビングを行っているのかもしれませんので。このようなチェックダイビングは、本番のダイビングが可能か無理か、あるいは本番中にその方のどこをカバーするべきなのか、その準備をするために必要なことだからです。
 気分の変化の大きい方はパニックになりやすかったり、その前段階として呼吸が速くなることもあるそうです。そしてストレスを感じた時その対処がうまくできないようにも見られるとのことです。
 気分の変化の問題は肉体の問題と共に大きいものなので、まず自分を冷静に観察してからダイビングを楽しむようにすることをお勧めします。ストレス環境の変化の大きいダイビングでは、気分の上下が大きいままだと、何よりその本人のリスクが高まるので、注意しましょう。
 以上、シニア層のダイバーの方々には大きなお世話かもしれませんが、あくまでご参考までにしていただき、ご不快の部分はどうかお許しください。

ベテランダイバーへの質問と回答
 ベテランダイバーの方にいくつかの質問を行いました。貴重な体験からいただいた回答は、きっと皆さんの安全のために役立つと思います。東京久栄の長谷山さんのお話と合わせ、ぜひ参考にしてください。質問内容は共通です。

マーク(mark)さんの場合
 ダイビング歴:JUDFとCMASのAOWで、ダイバー歴15年、質問時点で578本の経験。
●質問1:自分の事故やヒヤリとしたりハッとした体験で忘れられないことと、そこから得た教訓は?
回答:
事例1=現地サービスを利用したダイビング(6人、ガイド+サポート付き)で、一緒に潜っていた仲間Yさんのバディがエキジット時の水面集合でいなかった。
海中ではいたのに。ロストしたと思い、私と仲間Yさんとで青くなってしまいました。
結果=先にエキジットして器材を干しているのを水面から発見。ガイドさんにだけ、エアが少ないので先に上がると言ったそうです。
教訓11本人かガイドさんはその事をバディに伝えてバディも一緒にエキジットさせるべきだと思う。
事例2=仲間4人でハワイでのボートダイビングの時です。我々のグループにはガイドとサポートが付き、他にツアー会社から送り込まれた、ファンダイビングの女の子が3人でした。エアープレーン(海に墜落した軍用機が沈んでいるところ)という、いきなりどん深のポイントでのエントリー後です。バディと私は順調に潜行して、沈んでいるエアープレーンにたどり着きました。同じ船の他のグループ(先にエントリーした)が写真を撮っていました。私のバディも写真を撮りまくりだしました。でも私はもう1組の仲間が途中でトラブっているのを下から見つけました。その時ガイドとサポートは女の子3人にかかり切り。なので様子を見に戻ってみたら耳抜きが出来ない1人をバディが見守っていました。下に残したバディに合図をしようと振り返るとエアープレーンがない。ちょっとの間に我々は流されていたのです。少し泳いでみた後に3人で水面に浮上。船からは結構離れていました。シグナルフロートを掲げたところ見つけてくれました。先にエントリーしたグループがエキジットして船に引き上げているのが遠目でわかりました。
結果=「ここに留まって船を待とう」と言うのを聞かずに仲間2人が泳ぎ始めました。
我々の位置は船と陸との間でした。くたくたになって船までたどり着きました。
教訓=何が起こるかわからないので、留まって体力を温存するべきだった。経験の少ない女の子達3人でガイドは手一杯になるのはわかっていた。
そこを指摘して断るべきだったと思うが、なかなか断れない。
1人残ったバディが心配だったが、逆に彼(DM)はガイドを手伝っていた。
事例3:神子元でのボートダイビングにて。
通常(神子元以外Vは入らないだろうというくらいの流れでも中止にしない。「流れてるよ」と言われてもそれ程すごいのかどうかがわからない。根が近づくにつれてすごく流れているのがわかる。私はちゃんと根に取り付けたが、他の数名がやばいところだった。
結果=なんとか取り付いたので大丈夫だったが、その時の事を仲間は「駄目かと思った」と話していた。
教訓=なんともなくて良かったが、その時パニクったらと思うと……。よって我々は今後神子元には行かないことに決めました。
●質問2:自分や仲間同士でダイビングをする時、安全のために気をつけていることは?
(人選、バディシステム、タンク業者、保険、その他)
回答:
現地サービスを初めて利用する時には、次の点を事前に質問しています。ガイドさんやサポートさんの資格と経験年数。ガイドされるファンダイバーの限度人数。認定団体で入らされている以外の保険加入の有無。最寄りのチャンバーまでの移動方法と移動時間。酸素の用意。潜る予定のダイビングポイントと移動時間と方法。
●質問3:自分たちの潜水前のブリーフィングで重視していることは?
回答:
バディ確認。方位確認。
●質問4"安全のために役立つと感じている器材があれば紹介してください。
回答:
必ず次の物を所持して入ります。レーダーシグナルフロート(レーダーに反応するフロート)。水中ライト(昼間でも夜間での漂流を考えて)。カガミ代わりに使う不要なCD。ホイッスル。水中ナイフ2本(大小)。カレントフックとロープ。
●質問5:水中で楽しめるちょっとした道具などがあれば教えてください。
回答:
自作の30pほどの差し棒(先がフックになっている〈カレントフック兼用〉)。100円シヨップの虫眼鏡。100円ショップのカガミ。
●質問6"国内・海外で良かったショップがあれば教えてください。
回答":
八丈島の「ビエントス(http://bientos.ne.jp/)」他数箇所。

岩井さんの場合
 ダイビング歴:約380本
●質問1への回答:
(A)ダイビングを始めた頃、ファンファイブで技術の無さから、ひとりはぐれてしまったことがあります。死ぬかと思いましたが、いつの間にか海面に浮き上がり、「上には空気がある」と実感して、案外死なないかもと思ったものでした。
(B)(通算)50本ぐらいの頃でした。八丈島で1本目のダイブの終わる頃、海底付近から上昇しかけて気づくと、視覚が揺れているではありませんか。身体がうねり等で揺れているわけではないとすぐわかりました。三半規管の異常だと思いました。この視覚失調はどんどんひどくなり、ぐるぐる回りだしたのです。周囲の連中は気づかず、自分はこのまま海底付近で死ぬな、と思いましたよ。海面への急浮上の誘惑に負けず、中世浮力を保ってじっとしておりました。しばらくすると揺れがとまりだしたのです。何事も急激な動きは危険であります。
●質問2と3を合わせて回答:
(A)人選=当然として経験本数の少ない人は避けております。
(B)潜水前の話し合い闘バディシステムもさることながら、人数も少ないし気心も知れた人達と潜るので、行きがけからからかいながら危険なことをさせないよう意識して会話しています。
●質問4への回答:
何でも役立つと思いますが、やはり「人間力」と申しましょうか……他人を気遣う気持ちでありましょう。そういう意味では最近危ない人たちが多くなってきていると感じます。
●質問5への回答:
水中虫眼鏡。中高年には超便利なお道具です。
●質問6と7を合わせて回答:
このところ潜っておりませんので、ショップをドウコウ言う立場にございません。
●質問8への回答:
いろいろなダイバーの集まりに顔を出したことがありますが、残念ながらご一緒に潜りたいと強く思えることも少なくなりました。
最近思うのですが、基本的にダイバーは1人で行動する人が多く、考えようによっては一般的社会と折り合いができにくい人たちが多いのかもしれません。

ベテランシニアダイバー、物申す
 ここではベテランのシニアダイバーからの、その体験に基づくアドバイスをまとめたものを紹介します。本書の他の部分と重複する部分もあるかもしれませんがご了承ください。アドバイスを下さったダイバーたちは現在50歳以上で、かつ200本から600本程度の経験を有する方々です。なおここで紹介する意見は、あくまで私にお話をしてくださった範囲の方々の意見です。もちろんこれが絶対的な最終結論ではありませんし、特定の個人を誹諺中傷するものでもありません。あくまで一部の人々の個人的意見の傾向であるとして、参考に留めておいてください。
@ダイビングをやめた方がいいと思う人
 まず頑固者で絶対人の言うことを聞かない人。また水に入るのが怖い人は困ります。
 そして体調の良くない時はダイビングを止めることが必要です。そして厳密に自分の病歴を知っていることが必要です。
 例えばーつのトラブル例として、7年ほど前に、A氏の泳げない従弟が体験ダイビングをした時のことです。ダイビングという状況がその人には異常な体験として感じられたようです。しかも水中で息をすることに慣れていなかったせいか、レギュレーターをくわえていたにもかかわらずうまく息を吸えないでいたそうです。それでも周りはその人が空気を吐いていたのを見て大丈夫と思っていましたが、実際は空気を吐くまねだけをしていたということでした。後で、「怖くて吸えなかった」と話していました。結局この人は酸欠になり、その体験ダイビング中に海で吐きました。
Aダイバーになりにくい人の特徽
 ダイバーになるには泳げることが必要ですが、実はダイビングと(主に競技目的の)水泳とは違うもので、かえって競技用の水泳が得意な人には難しい場合があります。例えば水泳選手だったような人は、水の中では空気を吐くということが、体にとって習慣的になっています。しかしダイビングでは水中で空気を吸うのです。これで理性ではわかっていても体が理解できないという状態になり相当なストレスとなってしまいます。猛訓練で体に覚えこませたことに反することをやるのですから大変です。
 結局は水泳ができても息継ぎに一生懸命だった人ほどスムーズに水中で息をすることに順応する場合があるのです。
 最近、スノーケリングの事故が激増しています。スノーケリングは顔を水中につけて息をするので、慣れない人には相当なストレスとなっています。スノーケリングは手軽にできることからかえって訓練をしないままでこれを行い、そのため少し水が入ってきただけでパニックになって溺水して事故になることが多いようです。
Bマスククリアの技術がなぜそこまで必要なのか
 それはシニアダイバーになればなるほど、マスクに水が入ってくる可能性が高くなり、ストレスを高める要因となるからです。
 例えば歳を取ってくれば、いやでも若い時よりシワが増えてきます。実はこれが水のマスクへの侵入を容易にしてくるのです。また髭があるとそこから水が入ってきます。そのため人によっては髭にワセリンを塗ってからマスクをする人がいますが、一度水中でマスククリアをするとその髭が上を向いてしまうので、また水が入りやすくなります。
 シニアダイバーはこういったことがあるので、マスクに水が入ることには慣れる必要があるのと、マスククリアをしっかりと、ストレスなしでできるようにしておく必要があります。
C保険にしっかり入っておく
 皆さん保険にはしっかりと入っていますか? 海外では現地の状況を調査しています
か?
 例えば事故で治療が必要となった場合の移送費用ですが、ベテランのダイバーが危機管理の一環として事前に調べたところ、某国ではチャータージェット機で800万円程度、シンガポールでは同じくチャータージェットを使うと500〜600万円かかるということだったそうです。
 そのため彼らベテランが初めての場所に行く時は、国内外を問わず、ここなら輸送費用はいくらかかるか、チェンバーはどこにあるのか? あってもイザというときに操作する人員が常時そこに詰めているのか、いなかったら放置されてしまうのか? ダイビングポイントから治療施設がある所までの移動はどうなるのか? 移動手段は車? 小型飛行機? ヘリ? そしてそれらの必要経費はどれくらいなのか? こういったことを調べてから自分のクレジットカードの保険+旅行保険を決めるそうです。
 シニアダイバーの皆さんは人生経験や仕事での経験が豊富ですから、こういったことを自分や仲間で手分けすれば、比較的容易に調べられるでしょう。ぜひやっでください。
D初めてのダイビングポイントでの業者チェック
 初めてガイドをしてもらうインストラクターには、失礼を承知で(一流のインストラクターなら失礼とは思わずに、かえってその慎重さとリスク管理のできるところを評価するでしょう)、要求される免責同意書の内容を聞くそうです。その答えが納得できない場合
には、そこでダイビングをするかどうかの判断材料にするそうです。
 またそのインストラクターの経験が何年で、どのくらいの経歴があるのかを聞きます。そして引率するダイバーの数が多いときは、どのような経験と経歴のプロがサポートにつくのかを聞きます。
 次にイザというときの賠償能力を測るために、その所属する「指導団体」のダイビング保険(対人賠償保険)に入っているのか、などの保険の内容を聞きます。
 こういったことを調べてから、多少問題があっても、それでもダイビングをしたい場合には、この現状に合わせて対策を考えるということです。
 保険の場合は、自分で適切な保険(特約条項はよくチェックしましょう)を探して入っておくようにするということです。
 カードの保険だけに頼るのは、その詳細が不明瞭な場合にはお勧めはできません。なお
保険会社にはいい加減な会社もあるので、その評判を調べておくことも必要でしょう。
Eシニアの水中における問題の対処の妙について
 シニアは日常から体力をつけておくことも必要です。それでも足をつってしまうこともあるので、足がつることは当たり前のこととして計算(予定)に入れておきましょう。
 つる部分は、若いときはふくらはぎの部分が多いようですが、シニアになるにつれ、太もものウラや、脛がつってくるときが増えてきます。しかしベテランのダイバーはこんなことでへこたれません。水中でつってしまって、一応の対処をしてもだめだったときには、つったまま、できるだけ痛くないように、安全な態勢を取ってゆっくりとダイビングをしていくそうです。そしてそれはそれで何とかなってしまうようで、これぞ大人の対応と言うべきなのでしょう。焦ってパニックになって急浮上したりするリスクはこれで避けられます。それにつっても楽な姿勢で潜っていると、いつのまにかつりも治ってしまうそうです。
 次にタンクのバルブを開け忘れていたときの話です。あるベテランダイバーは、水深20m程度のところで空気の供給が渋くなってきたのでタンクのバルブがどうだったかなあと思い出してみると、「そういえば、もう1巡り分、バルブ開け閉めしてたなあ。そうか、もうーひねりしていなかったんだ」と気づいて自分でバルブを回して解決したそうです。このダイバーによると、「そんなもんです」とのことでした。
Fベテランになってかえって困ったこと
 それは、彼らがベテランであることを知っているショップが、業務のキャパシティを超えて多めに取った客のうち、そのベテランに初心者のサポートを押し付けてくるようになるということです。
 海外のMというダイビングサービスでは、行く度にそこのオーナーがそのベテランに甘えてきて、ファンダイビングを主催する時にサポートダイバーをつけずに初心者を彼に押し付けてしまうそうです。以前も、2年ぶりかつ通算でも8本しか経験のない男性ダイバー2人を預けられたそうです。水中での彼らは水深30mの海底にカメラを持ち込み、2人とも揺れながら魚の写真を撮っていたそうです。そのうえファイダイビング中にガイド(サービスのオーナー)が他の客を連れてどこかに行ってしまって、そのベテランともども放置されてしまったと語っていました。
 客で行ったにもかかわらず、これで事故が起きれば責任を問われることもあります。しかも、責任を回避できたとしても裁判で相当な費用と時間を費やすことになるリスクを負わされていることになります。ツアーに参加するためにお金を払っているにもかかわらずです。
 ある、500本以上の経験があるベテランダイバーは、こういったショップが多すぎて困ることから、最近はダイビングに申し込むときに経験が50本であると、わざと1桁少なく言っているそうです。まあ、オーバースペック(50本を500本などと称する)ではないので、問題はないと思いますが。
B最近の某ダイビング地域の特徴
 ここ2〜3年は、某有名ポイントに来るダイバーのシニアの中には、"見栄"を張る人
が少なからずいるそうで、これを経験豊富なベテランから見ると、彼らの言っていることが薄っぺらであることが比較的簡単にわかるそうです。私に話をしてくれたベテランダイバーたちはそれがわかっても無視しているそうです。ということは、もしかしたら、多くの自慢好きのシニアダイバーは、バレバレの中その乏しい知識を披露しているのかもしれません。
 このような"見栄"が披露されている現場を何度か見た経験がある方に言わせると、10〜20本程度の経験の人が、実は50本以上の経験があるがごとく語る傾向があるそうです。
そしてこういったことは聞いていると感覚としてわかるそうです。本当に50本以上のダイバーが語っていることとはやはり違いがあるそうです。また"見栄"を張るダイバーには経済的に余裕がある人が多いようだとのことです。こういった人は、どこかでファンダイビングをやってきて、その体験をもとに、本当に行ったら危険なことをわざと言って"見栄"を張る傾向が見られるようです。そしてこういった人はダイビングの技術より人間的問題が多い傾向が見られるそうです。

 シニアになってからダイビングを始めた人たちを見ると、何かの人生の転機があったからという傾向があるように見えるそうです。
 どうせ人生の転機にダイバーになるのなら、安全と自己管理ができるような素敵なダイバーになるようにしましょう。


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