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     −−−洞窟にて−−−

 <ええっ、誰だ? 俺に話しかけるのは>
 <私よ、私...あなたの目の前にいるでしょ>
 <俺の目の前だと? 俺の目の前にはひ弱な勇者が一人、腰抜かしてるだけだよ>
 <そうよ、それが私ミリンダ...本当は女なの>
 <えええ!?>
 <あなたも知ってるでしょ、ペプシ王国のミリンダ王女が見あたらないって、私がその王女なのよ。王様の目を盗んで手に入れた通行符で国を抜け出したのよ>
 <そりゃあ結構なことだが...ずいぶんとおてんばだな>
 <ふん、今は門番の目を騙すためこうして勇者に変装してるんだけど...自分で言うのも何だけど、本当はわたし結構かわいいのよ>
 <ホントかよ? でもどうだかな...自分をバカだと言うバカはいないってね...それじゃあ素顔を見せてみろよ>
 <今はだめよ、正体を明かすのは「ミルミルの鏡」を手に入れてからと決まっているの。それより早く行きましょ>
 <何だ? その「ミルミルの鏡」って>
 <「ミルミルの鏡」は「ミルミルの鏡」よ、病気のお妃様を救うために必要なのよ...メイドが話しているのを聞かなかったの?>
 <えーと、そう言われればそんな気がしないでもないような...あるような...>
 <ちょっとあなた、何にも聞いて来なかったのね。町で出会う人の話はちゃんと聞いておかなきゃいけないのよ、何も知らないでこの先何処へ行く気だったの>
 <何処って、俺にもわからないよ。だいたいここへ来たのも俺の意志じゃなくって誰かに操られるようにして...>
 <もう、呑気ね...いいこと、私達はこれから魔法の国にある「ミルミルの鏡」を手に入れてペプシ王国に潜入した魔物を見つけなければならないのよ、さあ、行動開始!>
 聞けば聞くほどオノくんには知らないことばかりだった。

 洞窟の行き止まりへは以外とスムーズに辿り着いた。オノくん達はついに洞窟を制覇することが出来た。
 途中何度も強力なモンスター達と出会ったが二人難無く切り抜けることができた。
 町で買える最高の防具と武器を揃えたのと、やはり一人よりは二人だと戦闘が楽になった。幾分非力なファンタではあったが一人で戦うよりはずっとましだった。
 ところが魔法の国への入り口が見つからなかった。隠し扉らしきものも抜け穴も見あたらなかった。

 <魔法の国への入り口はこのあたりよ...さっさとあれ出して>
 <...あれってなんだよ>
 <あれよあれ、あなた持ってるでしょ、ペンダント>
 <ペンダント? ああ、店のオヤジが引き取れねえって言った奴だな、それならあるよ>
 <引き取れないって?...もしかしてあなた、それを売る気だったの!?>
 <ああ、でも買ってくれなかったんだよ、そういやあ通行符もだめだったな>
 <通行符も!...もう!信じられないっ!>
 <何怒ってるんだよ、そんなに大事なものなのか、これ...>
 オノくんは懐から形見のペンダントを取り出した。

 そのペンダントからは不思議な光が発せられ、洞窟の片隅を照らし出した。
 その照らし出された場所の岩壁がまるで溶けるように無くなり、奥へ続く長い通路が現れた。
 <ほらここよ、ここが魔法の国への入り口よ>
 <おまえ何でも知ってるな>
 <そうよ、だって2回目だもの>
 <2回目? 何、その2回目って>
 <私がバツイチじゃあお嫌? 勇者殿...ああ、同じ勇者でも「ジョージア」は紳士だったわ、あなたと違ってね!>
 <??? 誰だそいつ>


     −−−魔法の国の女王−−−

 魔法の国は、女王の「ジョア」が治めていた。
 オノくん達が魔法の国へ入るのを導いたペンダントにはある秘密が隠されていた。その秘密とはそのペンダントの元々の持ち主が「ジョア」であったことだった。

 「ジョア」は若い頃、オノくんの父「スプライト」に魔物から助けられた事があった。魔力を身につけようとしたモンスター達が魔法の国への侵略を画策し、それを勇者スプライトが救ったのだ。
 オノくんの持っていたペンダントは「ジョア」が勇者「スプライト」にお礼として贈ったものだった。

 オノくんの父「スプライト」は勇者であった。その勇者が戦いの中で死に、オノくんの持つペンダントは今では亡き父の唯一の形見となっていた。

 「そうですか、スプライト様はもうこの世には...いつの日かまた会える日をずっと楽しみにしておりましたのに残念なことです。オノくん様はその息子さんなのでいらっしゃいますね、本当にあの方とそっくり...その瞳の奥にはあなたのお父様と同じ正義感が見えます、そして誰にも負けない勇気と愛と...ああ、ごめんなさい、私の国の者は人の心の中を見ることが出来るのです」
 「私はこの世界を救うために立ちました。それにはこの国にある魔法の鏡が必要なのです、どうか私に『ミルミルの鏡』を貸してもらえないでしょうか」
 「オノくん様のお力になれるのでしたら...このようなものがお役に立つのでしょうか、どうぞお持ちになっていって下さい」
 オノくんは「ミルミルの鏡」を手に入れた!

 魔法の国の女王との謁見も済み「ミルミルの鏡」も手に入れた。
 魔法の国の人々は人の心を読むことが出来る、その国で使われる鏡は真実だけを映し出すという不思議な力があった。

 魔法の国を後にしてオノくんとファンタはペプシ王国への帰路に就いた。
 その帰路の途中、オノくんはいきなり「ミルミルの鏡」を懐中から取り出した。
 「ちょっと君で試させてもらうよ」
 そう言ってオノくんは「ミルミルの鏡」にファンタを映し出そうとした。
 「何するんだ、やめろ!」
 ファンタは自分を鏡に映し出そうとするオノくんの手を払いのけた。

 「ジョア」に会ってから今まで、ファンタはずっとその挙動が変だった。ずっとオノくんと離れて歩き、決して近づこうとしない。それに気づいたオノくんがファンタの隙を見て打った手だった。
 「おや、何故拒む? それにおまえはこの鏡を手に入れてから決して近寄ろうとはしない。さては何か隠し事があるのだな」
 「いや、そのような事はない...ただその鏡は困る!」
 「ほほう、隠し事は無いが鏡は困る?...実は魔法の国の女王『ジョア』が最後につぶやいたのを私は聞き漏らさなかった、『この鏡、ファンタ殿が持ち歩いていいのかしら』とな、それは一体何を意味するのか...自分の口で言えぬなら代わりに私が言ってやろう、おまえは...」
 「まて!」
 ファンタはオノくんの言葉を止めた。
「すまぬ、オノくん殿。確かに私は今まで隠していたことがある、それは、私は真の勇者ではないということだ、今まで黙っていてそれを暴かれるのが辛かったのだ...すまぬ!」
 そこには肩を落とし、オノくんに頭を垂れるファンタの姿があった。
 「勇者ではないとな...勇者ではないことは既に分かっていた事さ。ペプシ王は私が3年ぶりの勇者だと言った、しかし門番は1年ぶりだと言う...門番は騙せても私には通用しない。勇者でない者がこの鏡を求め歩く理由があるとしたら...それは自分の正体を明かす恐れがあるこの鏡を、先手を打って奪うためだ」
 「違う! その鏡は我がペプシ王国を救うために必要なものなのだ!」
 「いいや、おまえはまだ隠していることがある。それは貴様が魔物の化身だということだ!」
 「何を言う! 断じて魔物などではない! ただ私にはまだ正体を明かせない事情があるのだ」
 「魔物であること以外に隠す正体などあるものか!」
 そう言ってオノくんは嫌がるファンタを無理矢理「ミルミルの鏡」に映しだした。
 「やめてー」
 「...え? 『やめて』とは?」


     −−−正体判明−−−

 ミルミルの鏡が映し出したファンタの真の姿は、醜い魔物ではなく、若く美しい一人の女性であった。
 その美しさはその姿を映しだした鏡自体が光を放つかのようであった。
 「おまえ...女だったのか! しかも見覚えがあるぞ...君は、ミリンダ王女ではないか!」
 正体を見破られ、ファンタは、いやミリンダ王女は力を失い地面に座り込んでいた。
 「...そう、私はペプシ王国のミリンダ王女です、魔物の正体を暴くための鏡で自分の正体を明かす羽目になるとは皮肉なものですね...でもこの際、真実を打ち明けましょう、私は城内に忍び込んだ魔物を突き止めるため『ミルミルの鏡』がどうしても必要だったのです。城内の誰に化けているやも知れず...誰にも相談出来ずに、勇者のフリをしてここまでやって参りました」
 「...しかし『ミルミルの鏡』を手に入れた今、もうその正体を隠す必要は無くなったと思いますが」
 「はい、私も最初はそのつもりでした、しかし私はオノくん殿と行動を共にする内、世界を救う旅を続けたくなったのです。そのためには女であることが知られてしまうと...足手まといに思われたくなかったのです。ジョア様も私のこの気持ちまで読み取っていらしたからついあんな言葉が出たのでしょう」
 「そうでしたか...しかし知ってしまった以上あなたを危険な旅に連れていくわけにはいかない。城へ帰ったらいつものお姫様に戻るべきです」
 「いいえ、勇者オノくん様、どうぞ私も連れていって下さい、あなたのそばを離れたくないのです!きっとお役に立ちます!」
 そう言うミリンダ王女の頬に一筋流れるものがあった。夕闇に輝く月に照らされてキラキラと星のように光っていた。

 <男でも女でも、どっちにしたって足手まといなんだよ、変な話だな>
 <...>
 <どうした、おい...もしかして泣いているのか? ははは、こんな三文ラブストーリーで泣いちゃったのか?>
 <...そうよ、泣きたくもなるわよ、だって私が恋あこがれる勇者が、こんな唐変木で!>
 <唐...! そりゃあひどい言い方だな! この俺が唐...おまえホントは魔物じゃないのか? もう一遍鏡に映してやろうか?>

 そうこうしているうちにミリンダはオノくんの説得に成功した。
 王女「ミリンダ」はオノくんの仲間になった!


     −−−宿敵−−−

 帰り道でのモンスター達をなぎ倒し、オノくんとミリンダはペプシ王国へ戻った。
 「おお、これはミリンダ王女様!」
 「勇者『オノくん』様が王女を連れ帰してくれた!」
 そういった門番や町民達の歓喜の声には耳も貸さず、二人は城の地下室へ直行した。
 <おい、町で出会う人の話はちゃんと聞いておかなきゃいけないのと違うか>
 <いいじゃない、どうせ同じ事しか言わないんだし>

 二人の目指す地下室には「ガラナ」という、お妃かかりつけの医者がいた。
 <いたっけなあ、こんな奴>
 <ホントになんにも見て来なかったのね、こいつの正体が魔物なのよ。こいつが医者に化けてお妃様を病気にさせたのよ>

 二人は研究室らしき地下の部屋へ入りガラナへ近づいていった。ガラナもそれに気づいて二人へ話しかけてきた。
 「これはこれはお姫様、1年もの間一体どちらへ、こちらは確かオノくん殿とおっしゃっいましたかの? またお二人とも随分とおやつれになって...どれ私が見てあげましょう」
 <優しい人じゃないか、見てもらえば?>
 <何ふざけてるのよ、さあ、鏡を出して!>
 ミリンダとオノくんはガラナに向けて「ミルミルの鏡」をかざした。
 「おや、そんな古めかしい鏡を持ち出して一体何のつもりですかな? はて、その鏡はどこかで...ああっそれはもしや!」
 「ミルミルの鏡」はその中に魔物を、ガラナの正体を映し出していた。
 「しまったあ、せっかく順調にいっていたのに、ちきしょう、こうなったら仕方がない」
 そう言ってガラナはその醜い魔物の正体を現した。

 ...ガラナを倒すには今までで最も手こずった。スラムイで換算すると40匹分は戦い続けたであろうと思われる。
 二人は薬草も体力もほとんどを使い切っていた。精根尽きた二人は、後もう一撃食らっていたら死ぬところであった。
 ガラナはその断末魔に「おぼえてろよ」と一言残して敗れ去った。

 <ふーっ、九死に一生だな>
 <これでお妃様の病気も治るわ>
 <...でもその鏡はおもしろいぞ、その辺の誰かにも試してみようぜ>
 <もう、あなたには付き合いきれないわね、自分で自分を映してみたら? きっと変わった木が一本映るはずよ>

 「さあペプシ王に報告だ」
 オノくん達は意気揚々と階段を駆け上がった。


     −−−記録−−−

 ところが王室へ行くはずが、二人はそのまま城を出て町へ来ていた。
 相変わらず町民が「おお、これはミリンダ王女様!」「勇者『オノくん』様が王女を連れ帰してくれた!」などと騒ぎ立てていたがやはり耳を貸さない。

 <おい、何処へ行くんだ俺達>
 <きっと教会よ>
 <教会って、ずいぶん気が早いんじゃないか、もう結婚式か?>
 <バカ、良くそんな呑気でいられるわね、これはひょっとしたら大変なことになるかもよ>
 <大丈夫、俺、大分要領を得たぞ...死んだってすぐ生き返るんだし>
 <何言ってるのよ、それよりもっと恐ろしい事よ>
 <もっと...と言うと?>
 <教会でこのままセーブされるのよ>
 <セーブ?!>
 <そうよセーブ、今まであったイベントや経験値などを記録するの>
 <イベント?..経験値?...でも記録するだけなら何にも怖いことないじゃないか>
 <あのね、普通は旅館に行って体力を回復したり新しい武器や防具を揃えてからセーブされるものなのよ、こう脈絡も無くいきなりってことは尋常じゃあないわ...きっと飽きられたのよ>
 <飽きられた?>
 <そう、前にも言ったけど私これが2回目なの。1回目のお相手はあなたじゃなく「ジョージア」だったわ。ジョージアと私は既に一度この世界を救っているの、だからこの先何がどう起こってどうなるか知ってるのよ>
 <...(唖然)>
 <...それでね、ジョージアの時もセーブされたっきり音沙汰無しのことがあって、その時は1ヶ月間待ち続けたわよ、あれは「マミーの滝」への入り方が分からずに悩んでいたときだったわ。でも今度はちょっと違う、イベントの対応が雑なのよ、変にはしょっているのよ。どうもあなたの行動が投げやりなのでおかしいとは思っていたのだけれど...>
 <おい、俺のせいかよ>
 <だって、そもそも「オノくん」って名がふざけてるし...>

 そんな会話を続けているうちにミリンダの予想通り、二人は教会へ入っていった。
 結婚式のイベントの用意などは当然なく、いつもと変わらない教会だった。そのいつもと変わらない様子にオノくんは入った時点でびくついていた。

 「この教会に何のご用かな?」
 <いえね、ちょっと道に迷ったもんで...>
 「冒険を記録する」
 <ああ、勝手に答えてやがる、俺のバカバカ!>
 「汝の今までの行動をこの冒険の書に記録するが良いか?」
 <ひえーっ、ミリンダの言う通りだよ...いや実はそこの旅館へ湯治に行きたいんで、ちょっと出直して...>
 「はい」
 <ああっ、また勝手に返事しやがる、勘弁してくれよ>
 「このまま冒険を続けますか?」
 <はいはいはいはい!>
 「いいえ」

 せっかくやる気が出てきたオノくんだったが冒険は未だ半ばである。
 セーブされた自分を再び呼び出してもらえる日は来るのだろうか、はたまた永久に待ち続けることになるのだろうか。

 これが彼に課せられた人生最大にして難題、生き残りへの登竜門であった。

                        「クエスト・フォー・アライヴ」完

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