浅草の天丼

浅草は大好きな街です。用もないのにフラフラと仲見世通りを歩いて浅草寺でお線香のケムを浴びて何をお願いするでなくお参り。さて、その帰り道に、さあ何を食べましょう・・・という時、なぜか真っ先に思い浮かぶのが「天丼」です。

浅草には、ほかにも多くの有名な食べ物屋さんがあります。洋食しかりお寿司しかり蕎麦しかり、いずれ劣らぬ名店ぞろいです。同じ店に2回と行ったことがないくらい、行ってみたいお店がいっぱいできりがありません。

それなのに、いつも真っ先に「天丼にしようかな・・・」と脳裏に浮かぶのは全く不思議としか言いようがありません。

浅草で一番有名な天丼の店と言えば、伝法院通りの「大黒屋」でしょう。まだ元号が昭和だったころ、故花村安治さんが雑誌「暮らしの手帳」で紹介したこの店は、花村さんの素晴らしい文章と有無を言わせぬインパクトのある写真満載の記事で一躍有名店になりました。子どもの頃この記事を読んだ私は「大人になったらこの天丼を食べるんだ」と固い決意を胸に抱いたものです。以来、今日までこの店は行列のできる店として有名です。

ほかにもデッカイ海老が目を引く「大橋屋」もよくマスコミに登場します。(この2店の味については、あえてノーコメントです)

そして、浅草で天丼と言えば「まさる」を忘れることはできません。テレビのグルメ番組でおなじみのこの店は、こんがりカリッと揚がった穴子が丼の上で輪を描く豪快な天丼を出す店です。

いつも行列ができているという噂でしたが、私が行った日は平日でしかも雨降りだったせいか、客はまばらでした。カウンターが3席と小さなテーブルが4つの小ぢんまりしたお店で、天麩羅を揚げる陽気な音が席まで聞こえてきました。

カリッと揚がった穴子・海老・白身魚・野菜の乗った大江戸天丼は2800円(味噌汁別)、しっかり揚がっているので海老の尻尾まで香ばしく食べられます。穴子も香りよく揚がっており、芯にほっこりとした甘味を感じました。

ただし、出てくるのは遅いほうです。許せないほどではないですし、しっかりと揚げるために時間がかかるのも仕方ないとは言え、行列ができる理由の一つには違いありません。あと、店員さんの応対が気になりました。下町っぽいなれなれしさと言うか飾らない気安さと言うか、私は単に「失礼」だと思うのですが、そういう応対が気にならない人には浅草らしさを味わえる良い店かもしれません。

おしんこはきれいに盛り付けられていて美味しかったのですが、残念なのは、天麩羅にかかるタレが辛くてご飯を食べ過ぎてしまい、おしんこ単独で食べることになってしまったこと。私はどちらかというとしつこいくらいに濃い目の味付けが好きなのですが、それでも天麩羅とご飯のバランスを考えるとタレが多すぎるように感じました。

味噌汁は別料金を払って頼むほどの価値を見出せない味なので、「ご飯には味噌汁がなければならない」と思っている人はこの店での昼食は「お高い食事」になるということを覚悟でいらっしゃったほうがいいでしょう。

場所は東武浅草駅から新仲見世通りを入って仲見世通りと交わるところの手前の小さな小さな路地を入った奥です。行列がなければ、浅草慣れしていない人にはちょっと入りにくいかもしれません。それだけに、「浅草の天丼を食べた」という満足感を味わえる天丼とも言えます。


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