とよたま愛読会143回
「霊主体従 12巻
08章 〜 27章」
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記:望月幹巳 メール:motomi@moon.nifty.jp
日 時 平成20年 8月24(日) 午後1時から午後4時30分まで
場 所 愛善苑 豊玉分苑 (京王線下高井戸駅下車 徒歩8分 川崎方)
連絡先 03-3321-3896、 03-3321-8644
参加費は無料です。事前のお申し込みも不要です。
霊界物語をお持ちでない方もご参加できます。
物 語 霊主体従 12巻(亥の巻)8章:思出の歌 〜 27章:航空船
★ 報告:
初秋の候、皆様にはお変わりなくお過ごしのことと思います、拝読後は、恒例の暑気払いを行いました。
さて、物語はイホの都での話から続いています。
万寿山の三兄弟・高光彦、玉光彦、国光彦らは蚊取別宣伝使、初公(行平別)と出会います。
蚊取別は自分の妻・祝姫を離縁し、イホの酋長・夏山彦とめあわせます。
蚊取別は実は高貴な神の命で宣伝使を育成する任務を遂行する神の化身であったことが判明します。
また、ハザマの国の春山彦の三人の娘・秋月姫、深雪姫、橘姫は、実は瑞霊の分霊であったことが判明します。
橘姫は、呉の海の立花嶋で稲穂と橙を撒き、豊葦原の瑞穂の国の植物を豊かに実らせます。
これは天岩戸開きの神業の一部であったということです。
橘姫は高光彦と夫婦となり、神業に従事します。
天教山の撞の御柱大神(=天照大御神)は、弟・素盞嗚命の意思を疑い、瑞霊の分霊である深雪姫が治めるサルジニヤ島と、秋月姫が治める琵琶の湖の竹島に大軍を送って攻撃しました。
しかしいずれの島でも、姫神たちは素盞嗚命の御意思を明かし、身の潔白を証明したため、攻撃軍は天教山に帰って行きました。
一方、コーカス山を奪われたウラル彦・ウラル姫は、黄泉島に渡って計略を練っていましたが、祝部神によって黄泉島の邪神は黄泉比良坂に追い立てられ、黄泉島は海中に完全に沈没させられてしまいました。
★ 拝読箇所で気のついたこと
第二篇 天岩戸開(二)
第八章 思出の歌(504)
- 二十五年前の今日・二月九日の日に、松岡神使に伴われて高熊山の岩窟にいざなわれて、神の教えの花を手折ることになった。
- いよいよ十二の物語を松雲閣にて述べている。
- 辛酉の年の八日に神懸りして二つの巻を述べ終えた。
高熊山の祭礼のあと、故郷で産土神に参拝し、さらに三つの巻を半ばまで述べ終えた。
- 黄金閣の教主館で四巻、五巻と取り掛かり、岩井温泉で六巻まで完成した。
師走の三十日に七巻を述べ終えた。
- 明けて高熊山に詣で、十巻の半ばまで述べ終える。
教主殿に帰って十一巻まで完成し、そしてこの如月に入って十二巻に取り掛かっている。
- 尊き神代の万分の一に過ぎないが、ここに筆に書きとめて、今日の生日を祝いつつ、世人のために記すものである。
第九章 正夢(505)
- 高光彦、玉光彦、国光彦の三兄弟は、イホの都にほどちかい森の祠で、三五教の酋長の夏山彦や春彦と、人民たちの争いを目にした。
- そこに現れた蚊取別が、暴れる初公を帰順させ、一行は大蛇の滝へと進むうち、睡魔に襲われて寝込んでしまっていたのであった。
- 蚊取別は起き上がり、日の出神の諭しを受けて、大蛇の背から振り落とされそうになった恐ろしい夢を語り、自らの慢心を戒めた。
不思議にも、三兄弟や初公も同じ夢を見ていた。
- そこへ酋長の夏山彦の一隊がやってきて、宣伝使たちを認めると、丁重に館に迎え入れた。
- 初公は、自分の全身は聖地エルサレムの行成彦の従神・行平別命であると明かして、大音声で酋長の館に進み入る。
- 宣伝使一行も館に迎え入れられるが、そこへ一弦琴の音が響いてくる。
第十章 深夜の琴(506)
- 初公は一弦琴の音を聞いて、酋長の館に若い女性がいるのではないかと勘ぐる。
蚊取別は夜も更けたことで、休もうと一同に提案し、皆眠りに就くことになった。
- 蚊取別は一弦琴の主が気にかかり、ふすまの外で歌う女の声にそっと聞き入っている。
果たしてそれは、蚊取別の妻・祝姫であった。
-
祝姫は、白瀬川の滝で邪神にさえぎられて行き悩んでいた自分を、酋長・夏山彦が助けてくれたのだが、夏山彦は自分に思いを架けており、そのために悩んでいることを歌に歌いこんでいた。
- 祝姫は、悩みを解くために早く夫・蚊取別に会いたい、と歌って歌を終えた。
- 蚊取別は祝姫の歌を聞き終わると、寝室に戻って宣伝使たちの間にごろりと横になった。
第十一章 十二支(507)
- 祝姫は、夫が夏山彦の館に宿泊して、次の間から自分の歌を聞いているとは知らずに、恋の悩みを歌に歌った。
- 一方夏山彦は、自分の道ならぬ恋の思いを吹き払おうと、起きて神前に参り、祝詞を唱えた。
夏山彦は、この恋のもつれを吹き払ってくれるように神に祈願していた。
- 蚊取別は夏山彦の声を聞き付けて、またも次の間に忍んで祈願の一部始終を聞いた。
夜が明けて宣伝使一同は、蚊取別の声に目を覚ました。
- すると宣伝使たちも初公も、蚊取別が昨晩、どこかに忍んで行って館の中の恋の問題を聞き取り、女性の仲人をして問題を解決する夢を見た、と告げた。
- そこへふすまを開けて祝姫が入ってきたが、蚊取別の姿を見ると、奥へ隠れてしまった。
しばらくして、夏山彦が祝姫を従えて、一行のもとを訪れた。そして、一同に朝食を勧めた。
- このとき、室内には芳しい香気がにわかに満ち、喨々たる糸竹管弦の音が響き渡った。
第十二章 化身(508)
- 祝姫は宣伝使一同に挨拶し、蚊取別にも夫に対する挨拶をした。
- 蚊取別は厳然と威儀を正し、祝姫に向かって突然、離縁を申し渡した。
そして、自分は実は女房を持てない因縁があるのだ、と明かした。
- 蚊取別は、自分は大自在天の部下・蚊取別の姿に化けているのだが、実はある尊い神様の命によって、宣伝使の養成に力を注ぐ使命を持った神である、と明かした。
- そして、蚊取別は夏山彦と祝姫の結婚を仲人した。
- その後宣伝使一行と祝姫は、白瀬川の滝の魔神を言向け和すために出発した。
第十三章 秋月滝(509)
- 一行は、ウラル彦の手先の曲津神によって、汚れを撒き散らしている滝の側まで、シナイ山の山中を分け入ってやってきた。
- ここには、秋月の滝、深雪の滝、橘の滝、高光の滝、玉光の滝、国光の滝という六つの大滝があるという。
- 一行はまずは秋月の滝へと進んで来た。
すると、滝の上の大岩石が音を立てて崩れ落ちてくる。
初公は慌てるが、蚊取別はこれは曲津神の幻術だと見破る。
- 初公は一生懸命神言を唱えていると、滝の中から火の玉が現れ、滝を昇っていく。
そしてすっと消えると、辺りは真っ暗闇になってしまった。
-
初公は必死になって宣伝歌を歌うと、辺りは明るく晴れ、空にはほのかに日の光が射し始めた。
初公は嬉しくなって、蚊取別を呼んだが、辺りには誰もいなくなっていた。
第十四章 大蛇ヶ原(510)
- 初公の前身は、聖地エルサレムで天使長を補佐する行成彦の従神・行平別であった。
それがイホの都の人民の中に、侠客と現れていたのであった。
- 初公は谷道を宣伝使たちを探して降ってくると、大蛇が宣伝使たちを口にくわえて飲み込んでしまったところに出くわした。
- 初公は怒り、大蛇に向かって宣伝歌を歌おうとしたが、体が動かなくなってしまった。
大蛇はやってきて、初公も飲み込んでしまった。
初公は真っ暗な大蛇の腹の中を宣伝歌を歌いながら進んで行くと、光るものに出会ったと思ったら、それは蚊取別の頭であった。
- 気がつくと、そこは大蛇の腹の中ではなく、秋月の滝のちょっと下手の谷道であった。
初公は、またしても大蛇に幻惑されたかと思うや、大岩石が一同めがけて降り注いだ。
- 一同は岩石をよけていたが、疲れ果ててついには谷底に落ち込んでしまった。
第十五章 宣直し(511)
- 一行は、次に深雪の滝を言向け和そうと進んで行くが、その途上、蚊取別は祝姫に、引き返して今後は夏山彦を補佐するように、と諭した。
- 祝姫は宣伝の旅に執着を示すが、蚊取別の説得を最後に承諾すると、どこからともなく大火光が現れて、蚊取別・祝姫の姿は消えてしまった。
- 夫婦、親子、主従となるべき身魂は、もとは一定不変である。
しかし世の中の事情で、不相応の身魂同士の婚姻や主従関係ができることがある。
それはうまくいかないものである。
- 蚊取別は、祝姫がそういう間違った相手との婚姻を成さないように、仮の夫婦になって守っていたのであった。
- 身魂不相応により、最初の相手と死別や離別しなければならなくなったとき、二回目の相手と結婚することができる。
しかし、三度目はもうしてはならないのが、神界の不文律である。
- 残された一同は、蚊取別の神慮・神力に感嘆し、これから大蛇の滝を征服しようとする自分たちの使命の重みに、自らの身を振り返った。
そして、実は悪魔は自分の心に潜んでいるのであり、これを追い出してこそ悪魔の征服ができるのだと悟るに到った。
- 一同は端座して天津祝詞を唱え、宣伝歌を高唱した。
言霊の剣を穏やかに使い、心の中の醜の霊を追い出すように、と歌った。
- すると暗黒に閉ざされていた天地は夜が明けたように日が輝き、騒然たる瀑布の音は止み、猛獣の叫び声も止まった。
第十六章 国武丸(512)
- 呉の海を、国武丸が進んで行く。
船中の客たちは四方山話にふけっている。
甲は世の中の混乱を嘆いて神の存在を疑うが、乙は神様と人間は持ちつ持たれつだから、人間も心をしっかり持たねばならない、と論じる。
- また、この呉の海は昔は玉の井の湖で、大自在天配下の鬼神と竜神の戦いの際に、二つに分かれて呉の海と琵琶の湖になったのだ、と語った。
人間の悪が栄えたので、竜神たちは海の底の竜宮に姿を隠してしまったのだ、と説く。
- そして、人間の鏡が曇っていると、神様が神力を映そうと思っても、映る道がないのだ、と戒める。
- 話しているうちに、ものすごい風が起こって、国武丸はあわや沈没という状態に陥ってしまった。
第三篇 天岩戸開(三)
第十七章 雲の戸開(513)
- 国武丸が突風と高波で沈没しようというところへ、船の一隅から涼やかな宣伝歌の声が聞こえてきた。
- 宣伝歌は、呉の海を鎮める橘姫に、嵐をおさめるように祈願をこらしたものであった。
宣伝歌が終わると、嵐はぴたりと止んだ。
- 船客は喜んだ。すると辺りに香気が満ち、喨々たる音楽が聞こえ、天女が船の上を舞って三五教の教えを賛美した。
そして、橘姫はハザマの国の春山彦の娘として生まれたが、実は厳の御魂の分霊であり、今は呉の海を守護している、と明かした。
- 橘姫は、船に同乗していた宣伝使たち一行に、世人を救う柱となれ、と諭した。
- 歌が終わると、天津乙女らの姿は消えて、皓皓と月が照らした。
第十八章 水牛(514)
- 嵐が晴れて、月が皓皓と橘島を照らした。船客一同は歓呼の声をあげた。
船の一隅から大男が立ち上がり、宣伝歌を歌い始めた。一同に、身も心も清めて誠の言霊で神に祈れ、と諭した。
- 船客の甲は、この奇瑞を目の当たりにして、改心の言を口にした。
乙は、今宣伝歌を歌った宣伝使は、以前に黒野ヶ原の孔雀姫の館で会ったと気づいた。
- この船客たちは、孔雀姫の館で時置師神によって三五教にいったんは改心したように見せかけて、コーカス山の中腹でウラル教に寝返ろうとした、牛、馬、鹿、虎の四人の捕り手たちであった。
- 四人は、時置師にあいさつしようかしまいか、思案している。牛公は躊躇していると、時置師の方から見つけて、声をかけられてしまった。
- * 時置師は牛公の身体中の悪魔を引き裂いてやろう、というと、牛公を掴んで海の中に投げ入れてしまった。
第十九章 呉の海原(515)
- 時置師は何事か海面に向かって祈祷すると、微笑んで元の席に戻ってしまった。残された三人が時置師の仕業を恐れて話し合っていると、時置師は三人を見つけて、話しかけてきた。
- 三人は、牛公のように海に投げ入れられるのではないかと恐れて、恐々応対している。そうするうちに、牛公は巨大な亀の背に乗せられて、海面に浮かんできた。
第二十章 救ひ舟(516)
- 時置師の祈りによって、海神が大亀となり、牛公を助けたのであった。牛公は助けられて改心の思いを吐露する。
- 時置師は、次は誰の番だ、と残った三人に問いかけると、馬、鹿、虎は泣き出したり、理屈をこねて逃げようとしたり、おかしな問答を繰り返している。
- 月が没して、黄金の朝日が海から昇ってきた。宣伝使を始めとする船中の人々は、朝日に向かって拍手再拝し、神恩を口々に感謝する。
第二十一章 立花嶋(517)
- 乗り合わせていた高光彦の宣伝使は、石凝姥宣伝使、時置師宣伝使に丁重に挨拶すると、宣伝歌を歌い始めた。
- 宣伝歌は橘姫の神徳を称え、四柱の牛、馬、鹿、虎に対して、神の道に誠を尽くすように諭していた。
- 舟は立花嶋に安着した。無事に上陸した牛、馬、鹿、虎ははしゃいで馬鹿話をしている。時置師は、ここは橘姫の鎮まる聖地なので、慎むようにと一同に注意した。
- この島は、世界一切の草木が繁茂し、穀物や果物が自然になる楽園の島であった。邪神の邪気によって地上は涸れて生気を失っていたが、この島の植物だけは繁茂していた。
- 玉光彦、国光彦は島を賛美する宣伝歌を歌った。行平別は、世界が凶作にあえいでいるのに、この島だけは反映している、橘姫よこの恵みを一人占めせずに人々の悩みを癒せよ、と歌った。
- 橘姫は姿を表し、右手に稲穂、左手に橙を携え、天の数歌を歌い、稲穂を天空高く放り上げた。稲穂は四方に散乱して、豊葦原の瑞穂の国を実現した。
- 左手の木の実を高く投げ上げると、豊葦原の瑞穂の国は、食物果物よく実る神代となった。これは、天の岩戸開きのご神業の一部である。
- 橘姫は、国光彦と夫婦となってこの島に鎮まり、国土鎮護の神となった。天の真奈井における誓約の際に現れた三女神の多岐都比売命は、橘姫の後身である。
第二十二章 一嶋攻撃(518)
- 尚武の気に富む深雪姫は、サルジニヤ島にあって、アルプス山より掘り出した鋼鉄で種々の武器を作り、国家鎮護の神業に奉仕するため、島に英雄豪傑を集めて悪魔征討の準備をしていた。
- 天照大御神はこの様子に、素盞嗚命が善言美詞をもって世の曲業を見直し聞き直し宣り直すべき惟神の大道を無視しているのは、高天原を占領しようという汚い心があるのではないか、と疑いを抱いた。
- サルジニヤ島では、兵士たちが日夜訓練をしている。新入り兵の御年村の虎公は、深雪姫が武を蓄えているのは、三五教の精神を忘れたからではない、悪魔を武の威徳によって帰順させるためであり、また、まさかの事態に備えているのだ、と語る。
- 兵士たちは、館が騒がしくなったのを見て、一目散に走って帰った。
第二十三章 短兵急(519)
- 深雪姫の館から海上を見下ろすと、幾百千もの戦船が島へ押し寄せてくるのが見えた。深雪姫は老臣・高杉別に、敵軍の見定めを命じた。
- 深雪姫は部下の大国別を呼ぶと、敵軍が何者にせよ、決して剣を抜いてはならぬ、善言美詞をもって対する素盞嗚命の御心を忘れるな、と申し付けた。
- 大国別は攻め寄せる大軍に対して今、日ごろたくわえ鍛えた武を用いるときではないのでしょうか、と深雪姫に反問する。深雪姫は再度、決して三五教の精神に則って、武に対して武を持って応えてはならぬ、ときつく宣示した。そして、今から御神前に祈願をして寄せ来る敵を言向け和す、といって奥殿に去ろうとする。
- 大国別は去っていこうとする深雪姫を留めて、なにとぞ今武勇を発揮することをお許しください、と懇願した。しかし深雪姫は悠々と宣伝歌を歌いながら奥殿に姿を隠してしまった。
- 数万の敵軍は上陸し、殺戮しながら城下に迫っている。深雪姫の将卒たちは、攻撃命令を今か今かと息を潜めて待っている。大国別は深雪姫の宣示にもろ手を組んでただ思案するのみであった。
- そこへ、高杉別が帰って来た。高杉別は大国別が防戦の準備をしないで手をこまねいている様をなじり、自ら敵軍に対そうと外へ行こうとする。大国別は声をかけ、至仁至愛の神様の御心を考慮するように、と諭すが、高杉別は聞かない。
- 高杉別が敵に対しようと外に出ると、御年村の虎公こと手力男神は、ゆうゆうと敵軍の有様を見物している。高杉別は防戦を命じるが、手力男は取り合わない。
- 高杉別は怒って手討ちにしようとするが、逆に手力男に抑えられてしまう。手力男が手を離すと高杉別はまた討ってかかるが、手力男がひらりとよけたはずみで、抜き身のまま倒れてしまった。
- 黒煙は館を包み、攻め寄せる人馬の物音は近づいてきた。
第二十四章 言霊の徳(520)
- 手力男神は、館の正門に厳然として現われ、敵軍の襲来を待っている。攻め寄せる軍は、天菩比命に率いられ、血染めの刀を引っさげて館に迫り来る有様は、地獄の光景のようであった。
- 天菩比命は手力男神を認めると、名乗りを上げた。曰く、撞の御柱神の命によって悪逆無道の素盞嗚命を征伐にやって来たのだ、という。
- 手力男命はにっこりとして門を左右に開け、天菩比命の軍を招きいれた。そして食事を取って休息するようにと促し、自分たちは善言美詞によって言向け和す素盞嗚命の大御心を奉戴するものである、と宣言した。そして、疑う天菩比命らに対して、用意した酒食を毒見して見せた。
- なおも罠を疑う天菩比命に対して、手力男は、七十五声の言霊、善言美詞によって天地清明、天下太平にこの世を収める言霊以外に何もないことを釈明した。
- そこへ高杉別がやってきて、奥殿で大神の御神慮を伺ったところ、言霊をもって荒ぶる神を言向け和すように戒めを受けた、という。そして手力男の神の先見を称えた。
- 天菩比命はこの有様を見てすっかり殺伐たる心を忘れてしまい、部下たちに武具を脱いで休息するようにと命じた。数多の将卒たちは武装を解いて酒食を食らい、歓喜に踊り舞った。
- このとき深雪姫は兵士たちが酒を酌み交わしている宴の場に現れて、声も涼しく宣伝歌を歌った。その歌は、素盞嗚命の真意を説き、天照大御神の誤解を解くように諭していた。
- 天菩比命はこの歌を聞いて懺悔の念に堪えず、涙に暮れていた。そのとき、両軍の間に巨大な火光が現れ、美しい男神となった。この神は伊弉諾命の御子・日の出神であった。正邪善悪の証明のために、天教山よりお降りになったのであった。
- 天菩比命の復命により、いよいよ須佐之男命の麗しき御心が判明した。
第二十五章 琴平丸(521)
- 高光彦、玉光彦は時置師神とともに橘島を出て呉の港に上陸し、宣伝歌を歌いながら琵琶の湖のほとりまでやってきた。浪が高く、船の出港待ちで七日七夜をすごすことになった。
- 船客たちは無駄話にふけっている。サルジニヤ島での戦いの様は、船客たちの話にも上っていた。
- この話を聞いていた石凝姥神は、厳霊と瑞霊の天の誓約が始まったことを悟り、岩戸隠れを防ぐためにアルプス山に登って八咫鏡を鍛えると言い、時置師神と行平別に別れを告げた。そして二神に、竹島へ渡って秋月姫の消息を探るようにと言い残した。
- 時置師神は行平別とともに船に乗り込んだ。船は凪いだ湖原を東北さして進んでゆく。
- 船の一方には、四五人の男たちが車座になって雑談をしている。時置師神と行平別は、その側で話に聞き入っている。
- その話によると、素盞嗚命が地上の暗黒を嘆いて高天原に昇ってからは、天変地妖が各地で起こって混乱が続いた。高天原の姉神・天照大御神は、素盞嗚命が悪い心を持ってやってきたのであろうと疑い、打ち滅ぼそうとした。
- 素盞嗚命は釈明したが、天照大御神の疑いは晴れなかった。そこで二神は、安の河原(太平洋)をはさんで、天の真奈井(日本海)で誓約(うけひ)という御魂改めを行うのだといって、大事になっている。
- また、サルジニヤ島では、武を蓄えていた素盞嗚命の娘神・深雪姫を征伐しようと、天照大御神は天菩比命に命じて進軍させたが、深雪姫は美しい瑞霊の神であることがわかって、当てがはずれて帰って行った。
- 琵琶の湖の竹島にも、秋月姫という瑞霊の女神が鎮まっているが、今度は天津彦根命という天菩比命の弟神が竹島征伐に出立したという。しかし、サルジニヤ島と同じように、案に相違して帰ってくるのではないか。
- そもそも、それぞれの神の管掌は、天の真奈井からこちら側が素盞嗚命、天教山のある自転倒島から常世国、黄泉国、高砂島は、天照大御神となっている。しかし、姉神は地教山、コーカス山、黄金山も自分のものにしようと画策していた。
- 素盞嗚命は姉神に敵対することもかなわず、進退窮まって月の国に退隠しようと、高天原に昇って誓約をしているのだ、という。
- 誓約によって姉神の玉の威徳によって生まれた五柱の男神は、表面は女のように優しいが、心は武勇絶倫で殺戮征伐といった荒いことをする、激しい我の強い性質であった。
- 一方弟神は、鋭利な十握の剣の霊から生まれたのは仁慈無限の瑞霊の女神だった、という。
- 時置師が噂話をしていた男に、どこからそのことを聞いたのか、と尋ねると、男はなんだかにわかに頭が重くなって、突然知らないことをしゃべったのだ、と答えた。
- 船がしだいに竹島に近づくと、竹島は戦場の阿鼻叫喚の声に満ち、地獄の惨状のごとき光景が展開されていた。
第二十六章 秋月皓々(522)
- 十握剣の分霊である秋月姫は、高倉別を高楼に登らせ、防戦の合図の鼓を打たせた。竜山別は敵の正体を認めようと馬に乗って偵察に出た。
- 合図の鼓で集まってきた館の人数は、わずかに四十八人であった。高倉別は到底敵の大軍を防ぐことができないことを悟り、一同に呉竹の宮の前で祝詞と宣伝歌を唱えさせた。
- 秋月姫は高殿に登り、寄せ来る敵に向かって祝詞を唱えると、宣伝歌を歌いかけた。高倉別は秋月姫に戦況を報告し、敵軍が撞の御柱大神の御子・天津彦根神に率いられていることを告げた。
- そして、敵軍による島人たちの殺戮と、見方の劣勢を報告すると、その場で自害をしようとした。そこへ竜山別が飛んできて、短刀を叩き落した。竜山別に諭されて、自分の不甲斐なさを悔いた高倉別は、秋月姫のいる高殿に登り、共に神に祈願をこらそうと登って行った。
- 天津彦根神が秋月姫の館に迫り来ると、奥殿の高殿から一弦琴の荘厳な音とさわやかな天津祝詞が聞こえてきた。天津彦根神は祝詞の声に茫然とし、にわかに武具を投げ捨てると、共に神言を奏上し始めた。
- 兵士たちは将軍のこの挙動を見て驚いたが、ともに武具を投げ捨て、端座して神言を奏上し始めた。
- 時置師神、行平別神は神軍の後方から、宣伝歌を歌い、面白おかしく舞った。秋月姫が高倉別、竜山別を従えて現われ、しとやかに歌い舞った。神々は敵味方なく、手拍子足拍子を揃えて踊り狂った。
- このとき天上の黒雲は晴れ、日がこうこうと輝き始めた。素盞嗚命の疑いはまったく晴れ、天津彦根神は天教山に凱旋して行った。
- 時置師神、行平別神は伊吹の狭霧を施し、殺された島人を再生させ、負傷者を治して回った。また天の数歌を歌って焼けた林を元の青々とした山に戻した。
- 高光彦の神も密かにこの島に上陸しており、森林の中に身を潜めて、天の数歌を歌ってこの惨状を平和に鎮めた。秋月姫は高光彦と夫婦となり、この島に留まって神業に従事した。
- また、弟の玉光彦は深雪姫を娶り、万寿山に帰って父・磐楠彦の後を継いで永遠に神業に奉仕した。
第二十七章 航空船(523)
- ウラル彦・ウラル姫はコーカス山を三五教のために追われた。後にコーカス山には神素盞嗚命が武勇を輝かせていたために、邪神も手を下すことができなかった。
- そのためウラル彦・ウラル姫は美山彦と国照姫にアーメニヤを守らせ、自らは黄泉島に渡って第二の計画をめぐらしつつあった。
- ウラル彦・ウラル姫は、元は善神であったが、邪神に憑依されて心にもない邪道をたどりつつ、誠の神に叛旗を翻すことになった。
- 美山彦・国照姫も、一度は月照彦命、足真彦命によって善道に立ち返ったが、またしても邪神に憑依されて、ウラル彦の配下となってしまった。
- 三五教の宣伝使・祝部神は、月照彦神の化身とともに、黄泉島の曲津神を掃討すべく、船に乗って進んでいった。筑紫丸というこの船は、竜宮島を経て黄泉島に沿い、常世国に到る航路である。
- 海中には種々の異変が起こり、島や岩石が突然現れたり、日は暗く風は生臭く、不快な航海を続けていた。
- 船中の客は、天変が続いて世の中が不安になってきたので、遠い海の向こうの常世の国に渡ろうとする者が多かった。また、黄泉島はこのごろ地震が頻発し、すでに六分ほど海に沈みつつある、という。
- たちまち暴風が吹きすさび、筑紫丸は沈没の危機に陥った。祝部神は立って宣伝歌を歌い始めた。すると暴風は止んでしまった。
- 船は黄泉島に近づいてきた。すると黄泉島は轟然たる音響をたてて海中に沈み始めた。祝部神は、船客たちに向かって、祈りの神力で黄泉島を引っ張り上げて見せよう、と言い、祈願をこらし始めた。
- しかし、島はますます急速に沈んでいく。船客たちは祝部神を馬鹿にしたが、祝部神は一向に意に介さず、海に飛び込んで黄泉島に泳いで行ってしまった。
- またしても暴風が筑紫丸を襲ったが、黄泉島に泳ぎ着いた祝部神が言霊をかけると、船は引き寄せられて島に着き、沈没の難を免れた。船客たちは喜び、祝部神に感謝の意を表した。祝部神がまたしても言霊をかけると、黄泉島は静々と浮かび始めた。
- 祝部神は、黄泉島は曲津神が棲んでいるので、どうしても沈めてしまわなければならないから、早く逃げるように、と筑紫丸を促した。筑紫丸は祝部神の送る風を受けて、船足早く常世の国へ去っていく。
- 後に残った祝部神の言霊に追いやられて、黄泉島の曲津神たちは、黄泉比良坂に向かって追い立てられていった。坂の上には日の出神が用いた千引き岩があった。
- 祝部神は岩の上に端座して神言を奏上すると、大音響とともに黄泉島は沈んでしまい、あとには千引き岩を残すのみとなった。
-
荒波が祝部神の体をさらおうとした刹那、天空から天の磐楠船がやってきた。日の出神が、正鹿山津見神を遣わしたのであった。祝部神は船に乗ると、天教山を指して帰って行った。
以上
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