とよたま愛読会54回(山河草木:65巻序文 〜 9章)  記塩津晴彦


日時:平成13年 3月28(日)午後1時から午後4時30分まで
場所:愛善苑豊玉分苑(京王線下高井戸駅下車 徒歩八分 川崎方)

★ 報告
   厳冬の後に駆け足で春がやってきました。三多摩では梅が終わったと感じるまもなく、桜の開花が始まっています。そんな曇り空の半日、愛読会は西日本(広島・愛媛)での地震の知らせを聞きながら、七名で第六五巻の拝読に入り、序文から第九章までの拝読を終わりました。  四月の愛読会は、愛善苑行事の都合で、 四月二一日(土)に変更させて頂きますので、悪しからず御承知下さい。

★ 拝読箇所で気のついたこと
 ○序文
 『実に物騒千万な世の中の状態である』と聖師様は述べられています。大正一二年六月九日に後で述べる有島武郎の心中自殺がありました。『ヨ氏との談判』とは当時戦時状態にあった日ソ関係の改善のために特使として来日したヨッフェ氏との事です。また『アゝ世の中はかくして滅び行く道程に向かつて進行しつつあるのではなからう乎。実に心もとなき次第である』といった悲観的な論調になっていますが、それを裏付けるように、この年九月一日、あの「関東大震災」が来ました。ちなみにこの『序文』は大正一二年七月十七日に口述されています。
 ☆世の峠来らむ時にそなふべく 身をあしらへと宣らしし祖神

○総説  (宗教と芸術)
 この両者の関係は、常に一つの問題を含んでいるようです。人間の精神が神の身許に近づけるように思えるものが芸術ですね。自然を賛美するという点からすると、神の世界の入口までは行けるように思えます。しかし聖師様は『芸術の極致は、……恍として吾を忘るるの一境にあるのである。……その悠遊の世界は、想像の世界に止まつて、現実の活動世界でなく、一切の労力と奮闘とを放れたる夢幻界の悦楽に没入して、陶然として酔へるが如きは、即ちこれ審美的状態の真相である。  もしそれ宗教の極致に至つては、はるかにこれとは超越せるものがある。……瑞月はかつて芸術は宗教の母なりと謂つたことがある。しかし其の芸術とは、今日の社会に行はるる如きものを謂つたのではない。……即ち造物主の内面的真態に触れ、神と共に悦楽し、神と共に生き、神と共に動かむとするのが、真の宗教でなければならぬ。』(五〜七頁)とお示しです。

 芸術家が夢幻の世界を味わい、かつ神の世界に向かわざるを得なくなったとき、「はるかに超越せる」宗教の世界との間の深淵を覗くことになります。こに深淵を前にして、神と共に生きることと審美的なものをあくまでも求めるときに起きる矛盾を前にして、たとえば著名な日本の小説家の幾人かは「自殺」を選んでいます。芥川竜之介(浅野和三郎さんの後任教官・大本幹部だった平松福三郎さんの娘さんと東京で自殺未遂)、有島武郎(キリスト教)、太宰治、川端康成そして三島由起夫(友清の天行教)達です。かっこ内は多少によらず宗教的なものとの関わり合いを示しています。  一見すると微妙でかすかな触れあいがあるように錯覚する「神と芸術」の差異の内容を聖師さまははっきりと示されています。しかし人はこのことを無視し、あるいは惑う事になるのです。そこに悪神が跳梁する部分が横たわっているのではないでしょうか。「芸術に携わることが即ち御神業である」というように。

○第一章 感謝組
 さて場面はハルセイ湖のほとり、バラモン軍の解散によって身の置き所の無くなったヤクとエールが交わすトランス(泥棒・強盗)論議は傑作です。 今の時代にも通用する拝金主義やそれの対極にある『天与の富源を開拓する』(一六頁)人間生命の根本に根ざした生活の必要性が述べられていますね。これらは更に今後も取組みが必要な問題として捉える必要があると思います。  バラモン軍の中将だった鬼春別が治道居士と改まり、以前の部下達を救っていくことにもなる旅を続けてきますが、ここで二人を救い、セールが頭領となって悪事を働いて居る「虎熊山」に向かいます。

○第二章 古峡の山
 この古峡は「故郷」に通じるようです。日本の敗戦後多くの旧軍人が故郷に復員してきました。彼等が見た故郷が何だったかを述べられているように感じます。『アゝ荒れ果てし山野の景色』と虎熊山の山頂でエムが詠います。治道居士一行はエムとタールを加えて進みます。

○第三章 岩侠
 一方この山の岩窟にはデビス・ヴラバーダの二人が閉じこめられており、お互いに歌いながら励まし合います。そこへ強盗団の副親分で元少尉のハールが、元大尉の親分セールが酔いつぶれて寝ている隙に岩窟牢屋のヴラバーダを口説きに来ます。  彼女は自分の夫伊太彦への愛を貫く覚悟を披瀝し、頑強に抵抗します。そんな時、眼をさました親分のセールが薄暗い岩窟牢屋にやってきてハールとぶつかり、ハールは頭を打ってひっくり返ります。

○第四章 不聞銃
 翌朝、ハールを始末しようとセールは抜き身を下げて牢獄の前に行きますが、ハールはすでに岩窟から逃げ出していました。  そこでセールは二人の姫を掌中のものにせんと二人を牢獄からいったんは出して掛け合うが、『最新式の伊太彦砲、エッパッパ銃、肘鉄砲』などで撃退すると二人にはねつけられ、怒ったセールは二人を再び牢獄にぶち込んでしいます。  そこへタールが、治道居士一行を甘く誘い込んだと報告します。セールは治道居士、ベル、バット、カークス、ベースの五人を第一牢獄にぶち込みます。 『治道居士は何か心に期するものに如く、さも愉快気に四人をつれて牢獄へ、何の抵抗もせずもぐり込んだ』(本書六二頁)との部分も気になるところです。聖師さまが第二次大本事件の勃発に際してとられた態度と似ています。

○第五章 独許貧
 一方虎熊山のすそ野ハルセイ沼に伊太彦がやって来る。彼の宣伝歌、 『ハルセイ沼の辺まで 来たりて見れば虎熊の  山雲表に聳え立ち 雲に被はれをる中ゆ  音に名高き噴火口 天を焦せる凄じさ  吾が師の君は今いづこ ヴラバーダ姫は嘸や さぞ……』  路傍では改心したエムとバラモン軍兵だったタツとの落語風の問答がなされます。伊太彦は彼等から姫達と治道居士一行が岩窟に向かって行ったことを聞き出します。

○第六章 噴火口
 伊太彦は詠う。 『火の神の朝な夕なに荒ぶなる この高山ぞ曲津見の宿』
           『夜光る玉の力を現はして 曲の頭を照らさむとぞ思ふ』

○第七章 反鱗
 伊太彦はじめ三人が急坂にさしかかると、男のうめき声が聞こえ、岩窟から逃げ出したハールが苦しんでいた。伊太彦は鎮魂を施し、彼が泥棒団の幹部だと分かると帰順をさせようとします。

 余白歌
   ☆瑞御霊その神業を思ひ見れば 痛み悩みも消え失せるなり
   ☆如何ならむ涙の中に沈むとも 夢な忘れそ神の恵みを

第二篇 地 異 転 変
○第八章 異心泥信

 一方岩窟牢屋の治道居士をはじめ四人はセールの命令で食料責めにされていたが、牢番のヤク・エールは治道に帰順しているので何くれとなく食料や便宜を図っていた。親分のセールは牢番二人を信任していた。  ベルは少しずつ帰順の気持がグラつき始める。 治道『ハヽヽヽ猪口才な、蚯蚓のやうな魂で咬龍の身辺を窺ふとは、実に身の程知らずだなア。……わしの首でもかいて、セールの親分に身の潔白を示し、ふたたび泥坊の親分に使つてもらふがよからう。……』と彼の心の内を見透かす。  そこへヤクとエールが牢番仲間とやってくる。ベルの本心を聞くとヤクはベルを一緒にしておくと都合が悪いので、彼を別の牢屋にぶち込んでしまう。治道はエールからヴラバーダ姫のことを聞き、連絡を取るために伝言を書いて渡す。  エールは姫達の牢屋の前で親分のセールが姫を口説きに来ているところに出くわすが、巧く姫に治道の居ることを知らせる。  それと分かると、 デビス姫『何とかして彼奴を此処へ放り込んでいただき、二人によつて両方から嬲り殺しにさして下されば嬉しいですがな。さうすりや親分さまの御注文くらゐには喜んで応じますけれどなア』と巧みにセールを焚きつけ治道を呼び寄せようとする。姫のセリフを聞いたセールは、チャンス到来とばかりにすぐにこの提案に応じます。

○第九章 劇流
 エールから姫達とセールのやりとりを聞いた治道居士は疑うことなく、姫達の作戦を読みとり他の従者達に作戦を説明します。 治道『……いづれ明日の晩の仕事だ。バットが俺の身代わりとなり、カークス、ベースの両人が、二人の女と化り、女の声色を使つて暗がりを幸ひ、牢獄に入つて一芝居やるのだな。そしてこの治道と二人の姫を外に出すのだ。そしたら言霊をもつて、セールを初めその他の奴を一度に帰順させる計画だ』そこで各自は自分の割り当ての人物の声色を練習し始めます。

○さてここまでの拝読では、あまりはっきりとは分かりませんが、例えば本巻一七九頁のデビス姫のお歌を拝読しますと、この巻の口述内容が日本の戦後が暗示されているように強く感じます。

 ☆エトナ山震ひ出して地の上は 大水あふれ風吹きまくる
 ☆救ひをば叫び悲しむ民の声も この爆音に聞こえずなりぬ
 ☆盗人のたて籠もりたる高山を 破らせにけむ神は怒りて
 ☆虎熊の生血をしぼる岩窟も 火の洗礼を受けて清まる

 それと一一八頁の治道居士の経文もどきの台詞は、全文の読み下しはできませんが、瑞霊真如たる聖師さまの御神業の様をお示しと拝察しました。

以上

次回:第55回 ご案内
   日時 平成13年 4月21(土)午後1時〜午後4時30分
   場所 愛善苑 豊玉分苑(京王線下高井戸駅下車 徒歩8分 川崎方)
      連絡先(川崎方)03(3321)3896、03(3321)8644
   物語 山河草木 卯の巻 第65巻 第10章より通読いたします。
         (物語をおもちでない方もどうぞ、参加費は不要)


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