とよたま愛読会62回(山河草木:68巻2章〜9章)  記望月 幹巳


日 時  平成13年11月25(日) 午後1時から午後4時30分まで
場 所  愛善苑 豊玉分苑 (京王線下高井戸駅下車 徒歩8分 川崎方)
電 話  03-3321-3896、03-3321-8644
物 語  山河草木 未の巻 第68巻 2章〜
9章 

★ 報告
 寒冷のみぎり、みなさまにはますますご清祥のことと思います。さて、去る11月25日(日)、愛善苑豊玉分苑におきまして行われました、第62回愛読会のご報告をいたします。  前回よりのスダルマン太子とスバール姫の恋愛物語の続きから、一転してタラハン城下に民衆蜂起が起こり、物語は騒乱の巷へと進んで行きます。 それとともに、腐敗したタラハン国の現状が明らかになります。 自由主義、開明主義の思潮が上流の若者の心を捉える一方で、民衆の実情は悲惨な生活を強いられていたようです。物語が進んでいくにつれて、両者の対比がますます明確になっていきますが、それと共に、このような状態に陥ったタラハン国を救うのは誰なのか、どのように救われるのか、といった点が物語の焦点になって来ているように思われます。

★ 拝読箇所で気のついたこと
第一篇 名花移植
 第二章 恋盗詞(一七二六)

* スダルマン太子は、城に帰ってより、スバール姫への激しい恋の思いに囚われていた。
* アリナは太子の命を奉じ、密かにスバール姫を都へ迎えようと、再びタニグク山へとやってきた。
* 明け方、谷川の下流の森でシャカンナのかつての部下、山賊のハンナとタンヤが恋愛論を語り合っているのを立ち聞きする。

- ハンナ:恋愛至上主義者。
「恋愛なるものはあまりに神聖すぎて、かれこれと論議する事さえも出来ない」恋愛は「一種の感激」「人間乃至人生に対する、大きな自然に対する溜息」
- タンヤ:倫理道徳主義者。「倫理の点を考慮して初めて神聖な恋愛とも言える」

* タンヤとハンナは盗賊の相談を始める。二人はスバール姫をかどわかそうと決意し、シャカンナの隠れ家のほうへ進んでゆく。
* アリナは親娘の危難を救おうと密かに二人の後をつけるが、追いつけずに見失ってしまう。 第三篇 山出女 (一七二七)
* 馬鹿論:普通一般の定規で律することの出来ない馬鹿者にこそ、無限の妙味がある。小利口な人間の方が、日々目先の利を争い、自らの身を削り、かえって苦しんでいる。大才大智の者ほど、普段はその才を出さず「馬鹿者」と思われていても、いざというときに本能をあらわし、世間を驚かすものである。
* さて、ハンナとタンヤはアリナが追跡していることも知らず、シャカンナの隠れ家にやってきた。シャカンナはすぐにハンナとタンヤの意図を見抜いて啖呵を切るが、多勢に無勢、タンヤとハンナに気絶させられてしまう。スバール姫も抵抗するが、ねじ伏せられてしまう。
* 後からやってきたアリナはスバールの悲鳴を聞いて走り来、二人の山賊を川へ放り投げてしまう。
* アリナは、二人に都へ出ることを申し出る。シャカンナは辞退し、しばらく山にとどまることになるが、スバール姫はアリナに伴われて都へ上っていく。

第四章 茶湯の艶(一七二八)
* スバールは、タラハン市の町外れにある、茶湯の宗匠タルチンの館にかくまわれることになった。タルチンは、茶湯の道をかなり悟ってはいるが、流行らない宗匠。その女房は若い色黒の大女で、五斗俵を軽々と持ち運び、ヒステリ性を尊ぶ当世流の才子連には、見向きもされないようなタイプである。
* タルチンがスバール姫に茶湯を教えているところへ、スダルマン太子がやってくる。二人は互いの逢瀬に恋の歌を交換し合う。

第二篇 恋火狼火
 第五章 変装太子(一七二九)

* 太子は、スバール姫との逢瀬のため、アリナを自分の身代わりにする。太子は労働服を着て城を抜け出し、アリナは太子の錦衣を着て太子の部屋に座り込んだ。アリナは、太子が平民生活を希望するなら、自分が代わりに王位に上ろうか、と独語している。
* ところへ、アリナの父、左守が太子に会いにやってくる。妻の命日に、息子を帰宅させようと頼みにやってきたのであった。アリナははっとするが、「アリナは先に帰った」と嘘を言って、その場を切り抜ける。
* アリナが、自分の父親さえも騙せた自分の手並みに一人悦にいっているうちに、夜はふけていった。 第六章 信夫恋(一七三〇)
* そこへ、奥女中のシノブが、太子の話し相手になろうとやってくる。アリナは断るが、シノブは引き下がらない。
* シノブは太子とアリナの話を聞いており、アリナの変装を見破っていた。シノブはアリナに思いを寄せていたのだが、秘密を知ったのを幸い、アリナに恋の強談判に来たのであった。
* アリナはとっさに決心して、シノブを受け入れることにする。シノブはあろうことか、アリナが太子と成り代わり、シノブを王妃としてタラハン国を乗っ取ろうと持ちかける。アリナはシノブの大胆不敵さにかえって意気投合する。
* シノブは一度女中部屋へ帰るが、深夜になって、アリナのところへ忍んでくる。アリナとシノブがいちゃついている最中、警鐘が乱打され、二人は左守の館方面に、大火災が起こっているのを認める。

第七章 茶火酌(一七三一)
* 茶湯の宗匠タルチンは、太子とスバールの逢引の場を提供することで、アリナからたくさんの心づけをもらっていた。
* タルチンは幸運を喜び、女房の「袋」に自慢するが、袋は秘密の逢引のことが城のお偉方にばれたときの危険を心配して逆にタルチンをなじる。また、タルチンの酒癖の悪さを非難する。タルチンも女房に対して不満を並べ立てるが、袋は逆上してタルチンから一千両の金を奪い取り、家を飛び出してしまう。
* そこへ城下に大火事が発生し、警鐘の音が響いてくる。タルチンは得意先の火事見舞いに回るため、太子とスバールに留守を頼み、城下に出て行く。
* 最初は火事の壮観さに見とれていた太子だが、火が城にまで回り始めたのを見て、自分に化けているアリナのところへ人がやってきて変装がばれるのがにわかに心配になってくる。スバールは太子の弱気をなじり、太子も気を強く持っている振りをするが、警鐘乱打の声、人々の叫びはますます強くなって来る。

第八章 帰鬼逸迫(一七三二)
* 大火災はタラハン市の過半を焼き払い、城内にまで飛び火、茶寮一棟を全焼した。市内には不逞首陀団、主義者団が横行し、目も当てられぬ惨状を呈した。全消防隊、目付け侍を繰り出し、ようやく消化、暴徒の鎮撫を見た。
* 左守は邸宅を焼かれ、部下を指揮して騒動の収集にあたっていたが、騒動が収まったのを見て、大王の間に伺候した。するとすでに王は、この騒ぎに驚きのあまり発熱し、人事不省に陥っていた。
* 左守はこの事態に際して太子に指揮を仰ごうと、太子殿にやってきた。左守は自分の辞任と息子アリナの行く末を頼み込む。
* 太子(アリナの変装)は、自分は父王の危篤に際して自分が動くことはできないと説く。そして王に代わって左守の職を解き、他の重臣と協議の上、復興に力を尽くすように諭す。
* 左守が帰った後、シノブがやってきて、化けの皮がはがれるのを心配するアリナに気合を入れる。シノブが下がると、入れ違いに右守がやってくる。
* 右守は、臨終の床の王から太子を呼ぶように言われて、太子を王の床に連れて行こうとやってきたのであった。太子は後からすぐに行くと言って先に右守を返すが、ここで途方にくれてしまう。
* そこへシノブがやってきて、太子が帰ってきたことを伝える。太子は父王が臨終であることを聞くと、狼狽のあまり、労働服を着替えるのを忘れてしまう。部屋に戻ってからそれに気づくが、右守が再び父王の臨終を告げに来ると、我を忘れて汚れた労働服のまま、病床に駆けつけてしまう。極度の近眼の右守も、太子の身なりに気がつかなかった。

第三篇 民声魔声
  第九章 衡平運動(一七三三)

* 上に王はあっても、時代を解し、王を助けて政治を行うべき臣なく、結果として虚偽、罪悪、権謀術数を事とし、重税を課して民の血を絞っていた。 * 一方ブルジョワ階級は贅を尽くし、文明、教育、病院等の公共の施設は上流階級のみに供され、貧民はそれらの益に預かることなく、飢えと寒さに凍え、生存難の声は日に日に大きくなり、自殺するものは後を絶たない惨状となっていた。
* 各地に大名、小名撲滅の声があがり、決起大会、争闘が絶え間なく起こり、タラハン国は修羅の巷となっているのが現状であった。
* このような世情を背景に、不逞団、過激団その他の団体が都大路に集まり、タラハン国創立記念日の五月五日を期して一斉に放火し、蜂起したのが先の騒ぎであった。
* 騒ぎが収まった後、有志各団体が罹災民救護のため走り回っていたが、到底すべてを満たすに至らず、流言飛語が盛んに起こり、人心恟々としていた。
* そこへ、大兵肥満の女が一人現れ、札ビラを路上に撒き散らし、声高々と歌いながら街中を駆け巡っていた。

 その歌に曰く、
- 今は、優勝劣敗の世の中と成り果てている。
- この世は神様が万民平等、天国浄土の神政を敷こうとの思し召しにも関わらず、富裕・長者連は国民を苦しめている。
- その報いは忽ちにして現れた。今こそ正しき神が神軍を引率し、悪を滅ぼす時が来た。
- 民衆よ、勇んで悪人を踏みにじり、血潮を持って世を洗え。
- 自分は、富裕連に出入りする茶湯の宗匠の後妻と化け入り、富裕連の事情を調べていたが、もはや時節が満ちたのを知った。そこで部下に命令してこの大火を起こさせたのだ。
- 自分こそは民衆団の頭目、バランスである。世界の改造を命の綱と神事、今こそ振るい立ち上がれ。

* 数百の目付隊は、有無を言わせずバランスを縛り付け、取締所へ連行した。バランスの部下は頭を取り戻そうと目付隊と闘争を始めたが、二千人の侍が押し寄せ、民衆団は退却せざるをえなくなった。
* バランスは目付け頭の前に引き出され、尋問を受ける。
* バランスは、あまり平等を欠いた世の中なので、平衡をもたらそうと、バランス(balance=均衡、平衡)と命名したと答える。自分の部下は国内に数十万おり、万が一自分を処刑したならば、彼らが一斉に蜂起するだろう、と嘯く。また、太子とスバール姫の情事をすっぱ抜き、王家を非難する。
* バランスが明かす王家のスキャンダルに、目付け頭も目付けも色を失い、互いに顔を見合すのみであった。外からは、またしても民衆と目付隊の戦う声が聞こえてくる。

 

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